「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・黒幻録 4
晴奈の話、第229話。
強豪二人の戦い。
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4.
話は現在――双月暦519年の春、晴奈がシリンの試合を観戦しに訪れた日に戻る。
(間違いない……! あれはウィルだ!)
観客席でロウの姿を見た晴奈は、思わず立ち上がる。
「おい、見えねーぞ! 座れ、そこの三毛猫!」
後ろから野次が飛び、晴奈は慌てて座り直した。
「失敬、少々狼狽したもので」
「あれ? アンタもしかして、コウ先生じゃねーか?」
「え、本当?」
「あ、コウ先生だ!」
振り返り、謝った途端、晴奈はキラキラと目を輝かせる観客たちに詰め寄られた。この期待に満ちた目つきは、以前も見たことがある。
「……サイン、か?」
「え、お願いしちゃっていいんですか? 参ったなー、もう」
押し寄せた観客たちは嬉しそうに、筆と色紙を出してきた。
(し、試合が見られぬ)
晴奈はやや困り顔で色紙を捌く。
だが、ここであることを思いつき、観客たちに尋ねてみる。
「お主たちは、闘技場の選手に詳しいのか?」
「ええ、人気選手のことなら何でも知ってます!」
「なるほど。では、今対戦している者たちのことは知っているか?」
晴奈の問いに、観客たちは一瞬固まる。
「うっ。……えーと、ミーシャちゃんは知ってるんだけど、ウィアードはさっぱり」
異口同音に返ってきたこの答えに、晴奈は少しがっかりした。
それでも観客たちは代わる代わる、自分たちの知っていることを教えてくれた。
「ウィアードが登場したのは確か、8ヶ月か、9ヶ月くらい前だったな」
「初めは素手だったんだけど、途中で武器も使えるって知って、色々使うようになった」
「でも、いまだに手になじむ武器が無いって言ってて、何度か変えてますね」
「いつもは南西部の教会に住んでて、そこのシスターや子供たちとは仲いいみたいよ」
「そうそう。で、最近は何か、恋人みたいな関係になってるらしいのよ」
「うんうん、仲睦まじいって言うか、ほほえましいって言うか」
「こないだのエリザリーグで手に入れた賞金も、全額その子にあげちゃったって話っスよ」
「エリザリーグと言えばさー、キングも災難だったよな」
「あーあー、確かにな。開始から10秒くらいで秒殺だろ? ありゃ、面目丸潰れだったよなぁ」
「本当、本当。あの後のキング、すっげー荒れてたもんなぁ」
「結局シリンちゃんにも負けて、全部で2勝2敗だもんなぁ。もうあの人もおしまいかねぇ」
「今回の2人同時代打でも、声かかんなかったんだろ?」
「マジ、引退説も流れてるっぽいっスよ」
途中からクラウンの話になり、晴奈は慌ててさえぎる。
「待て、待て。私はウィアードのことを……」
「あ、そうだった。すみません、コウ先生。……ああっ!」
観客たちが一斉にどよめき、リングの方を向いた。
「アッハッハ……、どや、ウィアード! 降参するか!?」
シリンが槍の残骸を握りつぶし、勝ち誇ったように笑う。彼女は自慢の馬鹿力で、ロウの槍を真っ二つに折ったのだ。
「ざけんな、ミーシャ! これしきのことで、オレが参ると思うのかよ!」
ロウは先端が折り取られ、ただの棒と化した槍を構えた。それを見たシリンは首をかしげる。
「何してんのん、ウィアード? そんな棒切れ、使い物にならへんやん」
「ヘッ、甘えな!」
ロウは棒をくるくると回し始めた。
ロウの体の周りを縦横無尽に回転し、まるで生き物のように動く様子を見たシリンは、ゴクリと生唾を飲む。
「……それ、演舞か何かのつもりなんか? ココは闘技場やで」
「分かってら、んなことは。……ほれ、行くぜ!」
一通り演舞を披露したロウは棒を構え直し、シリンとの間合いを詰め始めた。
「せいッ!」
シリンも間合いを詰め、彼女の正拳突きが先に繰り出される。ロウはそれを紙一重でかわし、棒をシリンの鳩尾目がけて突き入れる。
「うりゃあッ!」
だが鳩尾の直前で、シリンが正拳突きを出していた右腕で棒を払い、その勢いのまま右脚を上げる。棒を絡め取られたロウの両手と肩、そして頭が前へと引き寄せられ、ロウの後頭部にシリンの脚が命中した。
「う、お……」
ロウの視界が、グニャグニャと揺れる。どうやら今の一撃で、脳震盪(のうしんとう)を起こしたらしい。たまらず膝を着き、棒を落とす。
「勝負あったな、ろ……」
勝利を確信したシリンの言葉が、途中でさえぎられる。
ロウが膝を着いたところで、自分の体勢が崩れたことを逆に利用し、脳が揺れるのをものともせずに水面蹴りを放っていたのだ。足を取られ、体勢を崩したシリンの鳩尾に、ロウの肩がめり込んでいた。
「ウソやろ、こんなん……」
シリンは驚いたようにつぶやき、そのまま気絶した。ロウも数秒後に気を失い、二人は折り重なるように倒れた。
判定は引き分け。賞金は二人で折半となった。
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強豪二人の戦い。
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話は現在――双月暦519年の春、晴奈がシリンの試合を観戦しに訪れた日に戻る。
(間違いない……! あれはウィルだ!)
観客席でロウの姿を見た晴奈は、思わず立ち上がる。
「おい、見えねーぞ! 座れ、そこの三毛猫!」
後ろから野次が飛び、晴奈は慌てて座り直した。
「失敬、少々狼狽したもので」
「あれ? アンタもしかして、コウ先生じゃねーか?」
「え、本当?」
「あ、コウ先生だ!」
振り返り、謝った途端、晴奈はキラキラと目を輝かせる観客たちに詰め寄られた。この期待に満ちた目つきは、以前も見たことがある。
「……サイン、か?」
「え、お願いしちゃっていいんですか? 参ったなー、もう」
押し寄せた観客たちは嬉しそうに、筆と色紙を出してきた。
(し、試合が見られぬ)
晴奈はやや困り顔で色紙を捌く。
だが、ここであることを思いつき、観客たちに尋ねてみる。
「お主たちは、闘技場の選手に詳しいのか?」
「ええ、人気選手のことなら何でも知ってます!」
「なるほど。では、今対戦している者たちのことは知っているか?」
晴奈の問いに、観客たちは一瞬固まる。
「うっ。……えーと、ミーシャちゃんは知ってるんだけど、ウィアードはさっぱり」
異口同音に返ってきたこの答えに、晴奈は少しがっかりした。
それでも観客たちは代わる代わる、自分たちの知っていることを教えてくれた。
「ウィアードが登場したのは確か、8ヶ月か、9ヶ月くらい前だったな」
「初めは素手だったんだけど、途中で武器も使えるって知って、色々使うようになった」
「でも、いまだに手になじむ武器が無いって言ってて、何度か変えてますね」
「いつもは南西部の教会に住んでて、そこのシスターや子供たちとは仲いいみたいよ」
「そうそう。で、最近は何か、恋人みたいな関係になってるらしいのよ」
「うんうん、仲睦まじいって言うか、ほほえましいって言うか」
「こないだのエリザリーグで手に入れた賞金も、全額その子にあげちゃったって話っスよ」
「エリザリーグと言えばさー、キングも災難だったよな」
「あーあー、確かにな。開始から10秒くらいで秒殺だろ? ありゃ、面目丸潰れだったよなぁ」
「本当、本当。あの後のキング、すっげー荒れてたもんなぁ」
「結局シリンちゃんにも負けて、全部で2勝2敗だもんなぁ。もうあの人もおしまいかねぇ」
「今回の2人同時代打でも、声かかんなかったんだろ?」
「マジ、引退説も流れてるっぽいっスよ」
途中からクラウンの話になり、晴奈は慌ててさえぎる。
「待て、待て。私はウィアードのことを……」
「あ、そうだった。すみません、コウ先生。……ああっ!」
観客たちが一斉にどよめき、リングの方を向いた。
「アッハッハ……、どや、ウィアード! 降参するか!?」
シリンが槍の残骸を握りつぶし、勝ち誇ったように笑う。彼女は自慢の馬鹿力で、ロウの槍を真っ二つに折ったのだ。
「ざけんな、ミーシャ! これしきのことで、オレが参ると思うのかよ!」
ロウは先端が折り取られ、ただの棒と化した槍を構えた。それを見たシリンは首をかしげる。
「何してんのん、ウィアード? そんな棒切れ、使い物にならへんやん」
「ヘッ、甘えな!」
ロウは棒をくるくると回し始めた。
ロウの体の周りを縦横無尽に回転し、まるで生き物のように動く様子を見たシリンは、ゴクリと生唾を飲む。
「……それ、演舞か何かのつもりなんか? ココは闘技場やで」
「分かってら、んなことは。……ほれ、行くぜ!」
一通り演舞を披露したロウは棒を構え直し、シリンとの間合いを詰め始めた。
「せいッ!」
シリンも間合いを詰め、彼女の正拳突きが先に繰り出される。ロウはそれを紙一重でかわし、棒をシリンの鳩尾目がけて突き入れる。
「うりゃあッ!」
だが鳩尾の直前で、シリンが正拳突きを出していた右腕で棒を払い、その勢いのまま右脚を上げる。棒を絡め取られたロウの両手と肩、そして頭が前へと引き寄せられ、ロウの後頭部にシリンの脚が命中した。
「う、お……」
ロウの視界が、グニャグニャと揺れる。どうやら今の一撃で、脳震盪(のうしんとう)を起こしたらしい。たまらず膝を着き、棒を落とす。
「勝負あったな、ろ……」
勝利を確信したシリンの言葉が、途中でさえぎられる。
ロウが膝を着いたところで、自分の体勢が崩れたことを逆に利用し、脳が揺れるのをものともせずに水面蹴りを放っていたのだ。足を取られ、体勢を崩したシリンの鳩尾に、ロウの肩がめり込んでいた。
「ウソやろ、こんなん……」
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