「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・衝北伝 3
神様たちの話、第164話。
隔岸観火。
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3.
エリザは甲板を歩き回りながら、自分が仕掛けた策略について説明し始めた。
「ま、ハンくんだけやなく、クーちゃんとイサコくんも見てたから分かると思うけども、あの王様、頼りないにも程があったやろ?」
「仰る通りですわね」
いつの間にかハンの側に来ていたクーの返答にうんうんとうなずきつつ、エリザはこう続ける。
「あーゆーのんは大抵、権力に媚びてへつらいおもねる系の奴や。ほぼ間違い無く、アタシらが何言うたかて、『帝国がー』『ジーン陛下がー』言うて、協力なんかせえへん。ソレどころか陰に日向に帝国側へ協力し、アタシらにちょっかいかけよるやろな。折角の『見せ場』なワケやし」
「見せ場?」
クーに助けてもらいつつ、どうにか立ち上がったハンに、エリザがこう返す。
「帝国本拠地から遠く離れた辺境の土地を押し付けられて、シケた日々を送っとった奴んトコに、突然異邦人が現れたんやで? 敵とみなして攻撃するには丁度ええやん。まさか街の人らを理由も無くしばくワケにも行かんしな。しかもソイツら揉め事起こして、帝国に反旗を翻す輩やってうわさや。
ソレをボッコボコにしたったら、自分を売り込むええ宣伝になるやろ?」
「なるほど」
「そう言う奴を説得して協力させる約束取り付けたところで、ドコかで裏切るんがオチや。そーゆーコトを考えたら、王様の説得なんかやる意味あらへん。
ただ、王様はそんなんでも、街のみんなはそんな思てへんはずや。むしろ帝国さんらのコトは、うっとおしゅうて敵わんやろ」
「以前に『街の人間は帝国に反感を持っている』と言っていましたからね」
「ソレや。元から評判悪い上に、アタシら目がけて攻めてきよるんも目に見えとる。いざ攻めてきたら、どんなとばっちり食うか分からんっちゅう話やん。その上、ココ数日仲良うしとったアタシや遠征隊のみんなと敵対するっちゅうんやったら、どっちの側に付きたくなるやろな」
「まさか、それを見込んで規制を緩めさせたんですか?」
「ちょっとはな。ま、ホンマに『ずーっと船ん中はしんどいやろ』っちゅう図らいはあったで。
そう言うワケやから、いわゆる民意はアタシら側に傾いとる。その上で、ただ威張ってるだけで能無しのパチモン王が『遠征隊と戦う』なんて命令してきよったら、みんな『やってられるかボケ』と思うわな」
「なるほど。しかし……」
ハンは港に目を向けつつ、首をかしげる。
「情況が押し迫っている現在、民意を獲得したとしても、あまり意味が無いのでは? 平時であれば民意を汲み、政治方針を変えると言うようなこともあるでしょうが、明日にでも帝国が来ると言うような現状で、国王がそう簡単に、帝国と敵対するよう方針を変えるとは思えませんが」
「あんな王様がなんやっちゅうのん?」
エリザはニヤニヤ笑いながら、肩をすくめて返す。
「何か偉業を成したワケでもなく、その偉人の血を引いとるワケでもない、ただジーンの命令で居座っとるだけのヤツが『俺は王様やー、みんな平伏せー』ちゅうたかて、何で素直に平伏さなアカンねんや。街の人らにしても、普段からみんなそう思とるみたいやしな。そら言うコト聞いとかへんと帝国軍から報復されるかも知れへんから、いつもやったら素直に従うやろけども。
ただ、今はその『いつも』やない。アタシらがいとる。公衆の面前で帝国兵をブッ飛ばしたったアタシらがな」
エリザの説明に、ハンは顔を青ざめさせた。
「つまりエリザさん、あなたは街の人間によって、反乱を起こさせようとしてるんですか!? 我々を実質的な後ろ楯にさせて!」
「ま、そう言うコトやな。明日には帝国軍が来るやろなってトコやから、事態が動くなら今やろ」
そう言って、エリザが口角を上げ、ニヤリと悪辣な笑みを浮かべると同時に――港から戻ってきた小舟から、遠征隊の兵士たちが大慌てで駆け上がってきた。
「たっ、隊長! 大変です! 街が……」
「どうした!?」
尋ねたハンに、兵士らは目を白黒させながら、しどろもどろに説明する。
「あの、ユーグ国王から、その、つい先程、公布が、その、我々を排除すべしと、でも、街の人間は、何と言うか、反発と言いますか」
「落ち着き」
エリザは彼に近付き、ぽんぽんと頭を撫でる。
「まず、国王さんがアタシらを追い出そうとしたんやね?」
「は、はい」
「でも街の人たち、『そんなんムチャクチャやー』言うて反対しとるんやね?」
「そ、そうです」
「ほな今、街では大騒ぎなんやね」
「仰る通りです。ただ、王国の大多数、その、王国軍も含めた、大多数が……」「うんうん、よお分かった」
説明しかけた兵士をさえぎり、エリザが先読みする。
「国王さんの側に付いとるはずの王国軍も『やってられるかー』言うて反発して、国王さんを襲っとるんか?」
「はい」
「なっ……」
報告を聞き、ハンは再度青ざめる。対照的に、エリザはニコニコと笑っていた。
「ほないっぺん、街の方に行ってみよか。こないだ行ったアタシら4人で」
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隔岸観火。
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3.
エリザは甲板を歩き回りながら、自分が仕掛けた策略について説明し始めた。
「ま、ハンくんだけやなく、クーちゃんとイサコくんも見てたから分かると思うけども、あの王様、頼りないにも程があったやろ?」
「仰る通りですわね」
いつの間にかハンの側に来ていたクーの返答にうんうんとうなずきつつ、エリザはこう続ける。
「あーゆーのんは大抵、権力に媚びてへつらいおもねる系の奴や。ほぼ間違い無く、アタシらが何言うたかて、『帝国がー』『ジーン陛下がー』言うて、協力なんかせえへん。ソレどころか陰に日向に帝国側へ協力し、アタシらにちょっかいかけよるやろな。折角の『見せ場』なワケやし」
「見せ場?」
クーに助けてもらいつつ、どうにか立ち上がったハンに、エリザがこう返す。
「帝国本拠地から遠く離れた辺境の土地を押し付けられて、シケた日々を送っとった奴んトコに、突然異邦人が現れたんやで? 敵とみなして攻撃するには丁度ええやん。まさか街の人らを理由も無くしばくワケにも行かんしな。しかもソイツら揉め事起こして、帝国に反旗を翻す輩やってうわさや。
ソレをボッコボコにしたったら、自分を売り込むええ宣伝になるやろ?」
「なるほど」
「そう言う奴を説得して協力させる約束取り付けたところで、ドコかで裏切るんがオチや。そーゆーコトを考えたら、王様の説得なんかやる意味あらへん。
ただ、王様はそんなんでも、街のみんなはそんな思てへんはずや。むしろ帝国さんらのコトは、うっとおしゅうて敵わんやろ」
「以前に『街の人間は帝国に反感を持っている』と言っていましたからね」
「ソレや。元から評判悪い上に、アタシら目がけて攻めてきよるんも目に見えとる。いざ攻めてきたら、どんなとばっちり食うか分からんっちゅう話やん。その上、ココ数日仲良うしとったアタシや遠征隊のみんなと敵対するっちゅうんやったら、どっちの側に付きたくなるやろな」
「まさか、それを見込んで規制を緩めさせたんですか?」
「ちょっとはな。ま、ホンマに『ずーっと船ん中はしんどいやろ』っちゅう図らいはあったで。
そう言うワケやから、いわゆる民意はアタシら側に傾いとる。その上で、ただ威張ってるだけで能無しのパチモン王が『遠征隊と戦う』なんて命令してきよったら、みんな『やってられるかボケ』と思うわな」
「なるほど。しかし……」
ハンは港に目を向けつつ、首をかしげる。
「情況が押し迫っている現在、民意を獲得したとしても、あまり意味が無いのでは? 平時であれば民意を汲み、政治方針を変えると言うようなこともあるでしょうが、明日にでも帝国が来ると言うような現状で、国王がそう簡単に、帝国と敵対するよう方針を変えるとは思えませんが」
「あんな王様がなんやっちゅうのん?」
エリザはニヤニヤ笑いながら、肩をすくめて返す。
「何か偉業を成したワケでもなく、その偉人の血を引いとるワケでもない、ただジーンの命令で居座っとるだけのヤツが『俺は王様やー、みんな平伏せー』ちゅうたかて、何で素直に平伏さなアカンねんや。街の人らにしても、普段からみんなそう思とるみたいやしな。そら言うコト聞いとかへんと帝国軍から報復されるかも知れへんから、いつもやったら素直に従うやろけども。
ただ、今はその『いつも』やない。アタシらがいとる。公衆の面前で帝国兵をブッ飛ばしたったアタシらがな」
エリザの説明に、ハンは顔を青ざめさせた。
「つまりエリザさん、あなたは街の人間によって、反乱を起こさせようとしてるんですか!? 我々を実質的な後ろ楯にさせて!」
「ま、そう言うコトやな。明日には帝国軍が来るやろなってトコやから、事態が動くなら今やろ」
そう言って、エリザが口角を上げ、ニヤリと悪辣な笑みを浮かべると同時に――港から戻ってきた小舟から、遠征隊の兵士たちが大慌てで駆け上がってきた。
「たっ、隊長! 大変です! 街が……」
「どうした!?」
尋ねたハンに、兵士らは目を白黒させながら、しどろもどろに説明する。
「あの、ユーグ国王から、その、つい先程、公布が、その、我々を排除すべしと、でも、街の人間は、何と言うか、反発と言いますか」
「落ち着き」
エリザは彼に近付き、ぽんぽんと頭を撫でる。
「まず、国王さんがアタシらを追い出そうとしたんやね?」
「は、はい」
「でも街の人たち、『そんなんムチャクチャやー』言うて反対しとるんやね?」
「そ、そうです」
「ほな今、街では大騒ぎなんやね」
「仰る通りです。ただ、王国の大多数、その、王国軍も含めた、大多数が……」「うんうん、よお分かった」
説明しかけた兵士をさえぎり、エリザが先読みする。
「国王さんの側に付いとるはずの王国軍も『やってられるかー』言うて反発して、国王さんを襲っとるんか?」
「はい」
「なっ……」
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