「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・衝北伝 4
神様たちの話、第165話。
この策は最良か、最低か?
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
ハンたちが王宮に到着した頃には既に、騒ぎは沈静化しつつあった。
「(あっ、『狐』の女将さん!)」
「(ん? アタシか?)」
街の人間がエリザに気付き、嬉しそうに声をかけてくる。
「(ちょうど良かった、皆でどうしようかって話してたんだよ)」
「(どないしたん?)」
「(いやさ、王様があんたたちを殺せなんて言い出すもんだから、俺たち全員抗議したんだよ)」「(そしたらあのアホ王、『従わないならお前らも殺すぞ』って)」
「(ふざけんなっつって俺たち、王宮に乗り込んだらさ、王国軍にいた奴らも同じ気持ちだったみたいで、俺たちじゃなく、王様に襲いかかってたんだ)」
「(王様はどないやのん? まだ生きとる?)」
そう尋ねたエリザに、彼らは一様に首を横に振った。
「(メッタ刺しにされて死んだみたいだぜ)」
「(今までのうっぷんとかあったもんなぁ)」
「(うんうん、分かる分かる)」
「(いっつも『御上が』『帝国が』って威張り散らして、うっとおしかったもんな)」
街の者たちと話しつつ王宮内を回り、ハンたちは状況を確認する。
「国王一人が一方的に追い回されただけ、って感じだな。壁や床に目立った傷は無いし、調度品なんかも壊れてない。
人一人死んだのは確かだが、それを除けば平和的に収まったらしい」
「しかし、これからどうすれば?」
尋ねたイサコに、ハンが「うん?」と返す。
「曲がりなりにもこの国を治めていた国王が殺されたことで、この地の統治が崩壊してしまったことは明白。このまま放っておけば、国は瓦解してしまうだろう。これから来るであろう帝国軍への対応も、それを凌いだ後の統治も、誰が指揮を執ればいいのか……」
「んー」
と、街の者たちと話しつつ、左の狐耳だけをピコピコとハンたちに傾けていたエリザが、二人に向き直る。
「ほな公布しよか」
「はい?」
エリザの提案に、ハンもイサコも同時に首をかしげる。
「何をです?」
「この国は暫定的に、アタシらが指揮を執る。ソレで納得するやろし、騒ぎも収まるやろ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
当然、ハンは目を白黒させながら、それに抗弁する。
「それではまるで、我々が街の者に国王を襲わせ、その混乱に乗じて占領したようなものじゃないですか!」
「『まるで』? そのまんまやん」
「俺たちは平和的に交渉することを目的に、ここへやって来たんですよ!? それを『占領した』などと認めれば、我々は単なる野蛮人になってしまいます!」
「ほなコレからどないするん? 国王さんも死んで、今にも帝国さんが来はるっちゅう切羽詰まった状況でみんなを放っといて、アタシらだけ帰るんか?
そっちの方がよっぽど人でなしやろ」
「結果論じゃないですか! そもそもそうなったのは……!」
「アタシのせいやっちゅうんか? けどもな、元々帝国さんがえばっとったコト、国王さんがソレを笠に着とったコト、どっちも街の人にえらい迷惑かけとって、ソレでみんなが『誰か何とかして』と思うてたんは別のコトやで。
アタシはみんなを助けたに過ぎひん。アンタ、『助けて』言われて『嫌や』って言うか?」
「そんなのは詭弁だ!」
ハンは怒鳴り、エリザの胸ぐらをつかんでいた。
「どうしてあなたは、平和的に事を収めようとしないんですかッ!? あなたの頭脳なら、できたはずでしょう!?」
「コレがアタシの考える、最良かつ最速の方法や。めっちゃ平和的やんか」
ハンの手を取り、エリザはこう返した。
「今までに出た被害は何や? 皆からごっつ嫌われとった、いけ好かん王様一人だけや。他の方法執っとったら、もっと被害が出とったやろな。ソレが街の人らかアタシらか、ソレは断言でけんけども」
「……~っ」
ハンはそれ以上何も言わず、エリザから手を放して、背を向けてしまった。
一方、エリザは何事も無かったかのように、クーに手招きする。
「公布する役はアンタが適任やろ。お姫様やし。ちょと公布の内容、考えよか」
「はっ、はい」
「ソレからイサコくん、アンタもこっち来。アンタにもやってもらうコトあるから」
「私ですか?」
「ほなな、……で、……っちゅう感じでな、……や」
その後、エリザたちは10分ほど話し込んでいたが、その間ずっと、ハンは背を向けたままだった。
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この策は最良か、最低か?
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4.
ハンたちが王宮に到着した頃には既に、騒ぎは沈静化しつつあった。
「(あっ、『狐』の女将さん!)」
「(ん? アタシか?)」
街の人間がエリザに気付き、嬉しそうに声をかけてくる。
「(ちょうど良かった、皆でどうしようかって話してたんだよ)」
「(どないしたん?)」
「(いやさ、王様があんたたちを殺せなんて言い出すもんだから、俺たち全員抗議したんだよ)」「(そしたらあのアホ王、『従わないならお前らも殺すぞ』って)」
「(ふざけんなっつって俺たち、王宮に乗り込んだらさ、王国軍にいた奴らも同じ気持ちだったみたいで、俺たちじゃなく、王様に襲いかかってたんだ)」
「(王様はどないやのん? まだ生きとる?)」
そう尋ねたエリザに、彼らは一様に首を横に振った。
「(メッタ刺しにされて死んだみたいだぜ)」
「(今までのうっぷんとかあったもんなぁ)」
「(うんうん、分かる分かる)」
「(いっつも『御上が』『帝国が』って威張り散らして、うっとおしかったもんな)」
街の者たちと話しつつ王宮内を回り、ハンたちは状況を確認する。
「国王一人が一方的に追い回されただけ、って感じだな。壁や床に目立った傷は無いし、調度品なんかも壊れてない。
人一人死んだのは確かだが、それを除けば平和的に収まったらしい」
「しかし、これからどうすれば?」
尋ねたイサコに、ハンが「うん?」と返す。
「曲がりなりにもこの国を治めていた国王が殺されたことで、この地の統治が崩壊してしまったことは明白。このまま放っておけば、国は瓦解してしまうだろう。これから来るであろう帝国軍への対応も、それを凌いだ後の統治も、誰が指揮を執ればいいのか……」
「んー」
と、街の者たちと話しつつ、左の狐耳だけをピコピコとハンたちに傾けていたエリザが、二人に向き直る。
「ほな公布しよか」
「はい?」
エリザの提案に、ハンもイサコも同時に首をかしげる。
「何をです?」
「この国は暫定的に、アタシらが指揮を執る。ソレで納得するやろし、騒ぎも収まるやろ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
当然、ハンは目を白黒させながら、それに抗弁する。
「それではまるで、我々が街の者に国王を襲わせ、その混乱に乗じて占領したようなものじゃないですか!」
「『まるで』? そのまんまやん」
「俺たちは平和的に交渉することを目的に、ここへやって来たんですよ!? それを『占領した』などと認めれば、我々は単なる野蛮人になってしまいます!」
「ほなコレからどないするん? 国王さんも死んで、今にも帝国さんが来はるっちゅう切羽詰まった状況でみんなを放っといて、アタシらだけ帰るんか?
そっちの方がよっぽど人でなしやろ」
「結果論じゃないですか! そもそもそうなったのは……!」
「アタシのせいやっちゅうんか? けどもな、元々帝国さんがえばっとったコト、国王さんがソレを笠に着とったコト、どっちも街の人にえらい迷惑かけとって、ソレでみんなが『誰か何とかして』と思うてたんは別のコトやで。
アタシはみんなを助けたに過ぎひん。アンタ、『助けて』言われて『嫌や』って言うか?」
「そんなのは詭弁だ!」
ハンは怒鳴り、エリザの胸ぐらをつかんでいた。
「どうしてあなたは、平和的に事を収めようとしないんですかッ!? あなたの頭脳なら、できたはずでしょう!?」
「コレがアタシの考える、最良かつ最速の方法や。めっちゃ平和的やんか」
ハンの手を取り、エリザはこう返した。
「今までに出た被害は何や? 皆からごっつ嫌われとった、いけ好かん王様一人だけや。他の方法執っとったら、もっと被害が出とったやろな。ソレが街の人らかアタシらか、ソレは断言でけんけども」
「……~っ」
ハンはそれ以上何も言わず、エリザから手を放して、背を向けてしまった。
一方、エリザは何事も無かったかのように、クーに手招きする。
「公布する役はアンタが適任やろ。お姫様やし。ちょと公布の内容、考えよか」
「はっ、はい」
「ソレからイサコくん、アンタもこっち来。アンタにもやってもらうコトあるから」
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