「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・衝北伝 6
神様たちの話、第167話。
積極的防衛策。
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6.
エリザの評価に、ハンはまた、目を吊り上がらせる。
「どこが問題です?」
「攻めの姿勢に問題有りや。アンタ『ある程度は』ちゅうたけどソレ、相手が手ぇ出した分だけこっちも手ぇ出す、っちゅう感じやろ?」
「それはそうでしょう」
「ズレとるわ。『まだそんなコト言うてるんか』っちゅう感じやで」
エリザはハンの鼻先に、ぴんと人差し指を向ける。
「アンタがこの作戦で大事にしたいんは何や?」
「街の防衛です」
「ソレだけか?」
「と言うと?」
「遠征隊の皆はどないやねん」
「無論、それも無事に済むなら」
「せやろ? ほんならもっと、積極的に行かんと」
そう言われ、ハンはいぶかしげな表情を浮かべる。
「積極的に? つまりこちらから攻めろと?」
「そうや。先に相手から一撃かまされて、ソレが致命傷やったらどないすんねん? ソレよりもまずこっちから、相手に致命的な一撃をかましたって、攻撃そのものをでけへんようにして、撤退させる。その方がよっぽど被害は出えへんはずや。
コレだけは今、はっきり言うとくで。『こっちが手ぇ出さへんかったら相手も手ぇ出さへんはずやろ』と、まだそんな悠長なコトを、アンタは頭のどっかでぼんやり考えとる。アンタの言動聞いとったら、ソレがよお分かるわ。せやから攻め方も消極的やし、小出し、様子見、先延ばしっちゅうような、一見危険も手間も無いように見えて、後々とんでもない被害としょうもない苦労がダラダラ出てまうような策を採ろうとしよる。
ボーッと見とるだけやったら、何の解決策にもならんのやで。ホンマにどうにかしたいんやったら、覚悟決めてガツンと手ぇ出さんとアカンのんや」
「ぐっ……」
顔をしかめたハンに、イサコも申し訳なさそうに告げる。
「シモン尉官、済まないが私も先生に同意見だ。彼奴らはやると決めたら徹底的にやる。そんな奴らが初太刀で致命傷を与えてくることは、十分に考えられるだろう。
我々は生まれてからずっと、この地と帝国に苦しめられてきたのだ。先生が仰るまでもなく、奴らが非道であることは承知している」
「……分かった。作戦を変えよう」
ハンは苦い顔をしつつも、二人に同意した。
話し合っている内にユーグ王国の斥候が戻り、相手の陣容が明らかになった。
「敵の数はおよそ150名。ですが、どうやら王国軍が我々の側に付いたことには気付いていないようです」
斥候からの話を伝えたハンに、エリザが首をかしげる。
「ホンマに?」
「お粗末な話ですが、斥候はすぐ、帝国軍に見付かったそうです。ところが捕まるどころか、相手から色々情報を与えられて、『王に伝えろ』と言付かって帰らされたと。どうも伝令か何かだと思われたようですね」
「ちゅうコトは、敵の斥候は反乱以降には来てへんっちゅうコトか。そらお粗末やな」
エリザは胸元から煙管を出し、口にくわえかけて、ハンに尋ねる。
「吸うてええ?」
「構いません」
「ありがとな。……んー」
煙草を一息吸い込み、エリザはこう続ける。
「敵さんらの本陣は?」
ハンは机に街付近の地図を広げ――ハンが測量・作成したものではなく、街の者から伝え聞いた情報をもとに作られた、彼からすれば「いい加減な」ものである――一点を指差した。
「街から北東にある街道のど真ん中だそうです」
「なんや、ここからモロ見えやないか。なめられとるな」
「同感です」
「ま、そう言うコトやったら簡単に攻撃でけるな」
もう一息吸い、エリザはコン、と煙管の先を地図に置く。
「見通しがええ分、さえぎるモノもあらへんから、守りはスカスカ。さらに言うたら、その見通しの良さも夜間の今、まったく利かへん。灯りについては何か言うてたか?」
「特には、何も。どうやら使っていないようですね。一晩過ごし、翌日に襲撃するつもりなんでしょう」
「完璧、アタシらからの攻撃を考えてへん態勢やね。ちゅうコトは今から速攻かけたったら、一瞬で終わるやろ。となると……」
三度煙草を吸い、エリザはニッとハンに微笑みかける。
「魔術兵はウチ、50人はおったな」
「ええ」
「ほんなら魔術兵中心に5部隊組み。ソレを3方向から5方向で前方および側方からけしかけて、一気に魔術攻撃や。勿論、距離は取ってな」
「相手が無警戒なら、四方を囲むこともできるのでは?」
尋ねたイサコに、エリザは首を振る。
「ええけど、みんなガタイええんやろ? こっちの人ら、『熊』とか『虎』とかばっかりやし」
「ええ」
「囲んで攻撃しても、生き残っとる可能性はある。ソコで死ぬ気で反撃されたら、こっちも被害出るかも分からんしな。
ソレより逃げ道与えてさっさと逃げてもろた方が、こっちも楽やん」
「ふむ……」
「あ、後な。ハンくん、魁(さきがけ)したってな」
「念を押されるまでもなく、そうするつもりです」
ハンは口を曲げ、言い返す。
「誰かみたいに、荒事を他人任せにして自分一人、安全な場所でのうのうと過ごすようなつもりはありませんからね」
「誰やねんな? けったいなヤツやね。
ま、ソレだけやなくてな。さっき言うた『逃げ道』に向かわせなアカンからな。前から誰か迫って来たら、ビビって後ろへ逃げるやろ? アンタが適任や。思いっきり怖がらしたり」
「了解しました」
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エリザの評価に、ハンはまた、目を吊り上がらせる。
「どこが問題です?」
「攻めの姿勢に問題有りや。アンタ『ある程度は』ちゅうたけどソレ、相手が手ぇ出した分だけこっちも手ぇ出す、っちゅう感じやろ?」
「それはそうでしょう」
「ズレとるわ。『まだそんなコト言うてるんか』っちゅう感じやで」
エリザはハンの鼻先に、ぴんと人差し指を向ける。
「アンタがこの作戦で大事にしたいんは何や?」
「街の防衛です」
「ソレだけか?」
「と言うと?」
「遠征隊の皆はどないやねん」
「無論、それも無事に済むなら」
「せやろ? ほんならもっと、積極的に行かんと」
そう言われ、ハンはいぶかしげな表情を浮かべる。
「積極的に? つまりこちらから攻めろと?」
「そうや。先に相手から一撃かまされて、ソレが致命傷やったらどないすんねん? ソレよりもまずこっちから、相手に致命的な一撃をかましたって、攻撃そのものをでけへんようにして、撤退させる。その方がよっぽど被害は出えへんはずや。
コレだけは今、はっきり言うとくで。『こっちが手ぇ出さへんかったら相手も手ぇ出さへんはずやろ』と、まだそんな悠長なコトを、アンタは頭のどっかでぼんやり考えとる。アンタの言動聞いとったら、ソレがよお分かるわ。せやから攻め方も消極的やし、小出し、様子見、先延ばしっちゅうような、一見危険も手間も無いように見えて、後々とんでもない被害としょうもない苦労がダラダラ出てまうような策を採ろうとしよる。
ボーッと見とるだけやったら、何の解決策にもならんのやで。ホンマにどうにかしたいんやったら、覚悟決めてガツンと手ぇ出さんとアカンのんや」
「ぐっ……」
顔をしかめたハンに、イサコも申し訳なさそうに告げる。
「シモン尉官、済まないが私も先生に同意見だ。彼奴らはやると決めたら徹底的にやる。そんな奴らが初太刀で致命傷を与えてくることは、十分に考えられるだろう。
我々は生まれてからずっと、この地と帝国に苦しめられてきたのだ。先生が仰るまでもなく、奴らが非道であることは承知している」
「……分かった。作戦を変えよう」
ハンは苦い顔をしつつも、二人に同意した。
話し合っている内にユーグ王国の斥候が戻り、相手の陣容が明らかになった。
「敵の数はおよそ150名。ですが、どうやら王国軍が我々の側に付いたことには気付いていないようです」
斥候からの話を伝えたハンに、エリザが首をかしげる。
「ホンマに?」
「お粗末な話ですが、斥候はすぐ、帝国軍に見付かったそうです。ところが捕まるどころか、相手から色々情報を与えられて、『王に伝えろ』と言付かって帰らされたと。どうも伝令か何かだと思われたようですね」
「ちゅうコトは、敵の斥候は反乱以降には来てへんっちゅうコトか。そらお粗末やな」
エリザは胸元から煙管を出し、口にくわえかけて、ハンに尋ねる。
「吸うてええ?」
「構いません」
「ありがとな。……んー」
煙草を一息吸い込み、エリザはこう続ける。
「敵さんらの本陣は?」
ハンは机に街付近の地図を広げ――ハンが測量・作成したものではなく、街の者から伝え聞いた情報をもとに作られた、彼からすれば「いい加減な」ものである――一点を指差した。
「街から北東にある街道のど真ん中だそうです」
「なんや、ここからモロ見えやないか。なめられとるな」
「同感です」
「ま、そう言うコトやったら簡単に攻撃でけるな」
もう一息吸い、エリザはコン、と煙管の先を地図に置く。
「見通しがええ分、さえぎるモノもあらへんから、守りはスカスカ。さらに言うたら、その見通しの良さも夜間の今、まったく利かへん。灯りについては何か言うてたか?」
「特には、何も。どうやら使っていないようですね。一晩過ごし、翌日に襲撃するつもりなんでしょう」
「完璧、アタシらからの攻撃を考えてへん態勢やね。ちゅうコトは今から速攻かけたったら、一瞬で終わるやろ。となると……」
三度煙草を吸い、エリザはニッとハンに微笑みかける。
「魔術兵はウチ、50人はおったな」
「ええ」
「ほんなら魔術兵中心に5部隊組み。ソレを3方向から5方向で前方および側方からけしかけて、一気に魔術攻撃や。勿論、距離は取ってな」
「相手が無警戒なら、四方を囲むこともできるのでは?」
尋ねたイサコに、エリザは首を振る。
「ええけど、みんなガタイええんやろ? こっちの人ら、『熊』とか『虎』とかばっかりやし」
「ええ」
「囲んで攻撃しても、生き残っとる可能性はある。ソコで死ぬ気で反撃されたら、こっちも被害出るかも分からんしな。
ソレより逃げ道与えてさっさと逃げてもろた方が、こっちも楽やん」
「ふむ……」
「あ、後な。ハンくん、魁(さきがけ)したってな」
「念を押されるまでもなく、そうするつもりです」
ハンは口を曲げ、言い返す。
「誰かみたいに、荒事を他人任せにして自分一人、安全な場所でのうのうと過ごすようなつもりはありませんからね」
「誰やねんな? けったいなヤツやね。
ま、ソレだけやなくてな。さっき言うた『逃げ道』に向かわせなアカンからな。前から誰か迫って来たら、ビビって後ろへ逃げるやろ? アンタが適任や。思いっきり怖がらしたり」
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