「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・改国伝 2
神様たちの話、第170話。
エリザの独断専行。
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2.
テプロイモア防衛戦から半月が経ち、街の情勢は落ち着き始めていた。
ハンは当初、帝国からの報復を懸念していたのだが、大挙して押し寄せてくるどころか斥候の一人も現れず、また、使者が話し合いに訪れると言うようなことも無く、沈黙したままだった。
一方で、前述した通り、街中ではエリザが独断専行を繰り返してはいたが、結果的にこれは、街の者にとっても遠征隊にとっても、プラスとなる行動となっていた。
これまで帝国兵によって無理矢理に食糧を徴発されたり、危害を加えられたりと、商売の場が確立できるような状況に無かったのだが、エリザが街の者と連携して店を建てたり、商売における規則・規定を定めたりするなどして市場を整備し、現在では過不足なく街の経済が循環するようになっていた。
また、これによりこの世界で使われる通貨、デニーを真っ当な方法で獲得できたため、遠征隊は略奪や徴発を行うことなく、平和的に食糧や装備を整えることが可能になったのである。
「……その成果は確かに認めるところです。結果的にあなたのしていることは、最も平和的に、彼らと交流を持つ方法だったと言えるでしょう。ですが」
ハンはやはり、いつも彼女にそうしているように、エリザをにらみつけていた。
「いつもいつもいつも、何故俺に相談の一つもせずに、勝手に進めるんですか!?」
一方のエリザも、斜に構えて応じている。
「アンタに相談したら何でもかんでもダメや言うからやん。アタシの言うコト、アタマっからアカンてバッサリ却下するやろが。
船の上でも王様に会うた帰りでも、みんなそうやったやん? ほんでもアタシが勝手にやった結果、みんなええ感じに進んだやんか」
「ですからその成果は認めています。俺が言いたいのは、それだけ如実に成果が出るようなことを、勝手に、かつ強引に推し進めていることです。
確かに今まで、俺はあなたの意見に対し肯定するようなことをしてきませんでしたが、俺だっていい加減、あなたの行動に一定の正当性があることは認めてきてるんです。ですからまずはあなたからちゃんと、事前に話を聞かせてもらいたいんですよ。
でなきゃ何のために、俺とあなたは600人もの大勢を率いて、この地まで来てるんですか。あなた一人で何でもかんでも勝手に動いてたら、その意味がありません」
「……ん、んー」
ハンが語るにつれて、流石のエリザもばつの悪そうな顔をし始める。
「せやね……。ちょと、自分勝手しすぎやったね。ゴメン」
「分かってもらえればいいです。事前に言ってくれれば、隊を動かして色々できるでしょうし。今後は動く前にまず、俺に話して下さい」
「ん、分かった分かった。反省しとるわ」
ぺこっと頭を下げたところで――エリザがその姿勢のまま、ぼそっとつぶやいた。
「……もういっこだけ謝った方がええかな」
「なんです?」
その一言に、ハンは嫌な予感を覚える。
「何か、したんですか?」
「そのー……、イサコくんとな、ちょい、色々話してんけど」
そっと顔を上げつつ、エリザは済まなさそうな表情を浮かべた。
「や、ほら、今んトコ、イサコくんが暫定的に王様っちゅう話で来とるやん? せやけどイサコくん、『到底私には務まりません』て、辞めたいっちゅうてきたんよ。
ま、アタシにしてもな、確かにイサコくんの身の丈に合うてへんやろなとは思うてたし、ほんなら別の人間に役任せよかってな、そう言う話になってな。
ほんで誰にやってもらおうかって考えて、……ソコがまた、アタシが勝手にやってしもたトコなんやけどもー……」
「何を、したんですか?」
「……話しとったトコでな、クーちゃん来たんよ。や、アタシが呼んだんちゃうで? 何や野暮用っちゅうコトで、……や、ソレはええな、別に。
その場で、……そのー、ちょうどええやん思てな、……指名してん」
「クーを?」
「うん」
「王様に? この国の?」
「せやねん」
「まだ内々の話ですよね? それとも公布したんですか? まさかですよね!?」
「公布もしてん。ついさっき」
直後――ハンは部屋がびりびりと震えるほどの怒声を放っていた。
「勝手に何てことをしてるんですかーッ!?」
「……てへっ★」
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エリザの独断専行。
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テプロイモア防衛戦から半月が経ち、街の情勢は落ち着き始めていた。
ハンは当初、帝国からの報復を懸念していたのだが、大挙して押し寄せてくるどころか斥候の一人も現れず、また、使者が話し合いに訪れると言うようなことも無く、沈黙したままだった。
一方で、前述した通り、街中ではエリザが独断専行を繰り返してはいたが、結果的にこれは、街の者にとっても遠征隊にとっても、プラスとなる行動となっていた。
これまで帝国兵によって無理矢理に食糧を徴発されたり、危害を加えられたりと、商売の場が確立できるような状況に無かったのだが、エリザが街の者と連携して店を建てたり、商売における規則・規定を定めたりするなどして市場を整備し、現在では過不足なく街の経済が循環するようになっていた。
また、これによりこの世界で使われる通貨、デニーを真っ当な方法で獲得できたため、遠征隊は略奪や徴発を行うことなく、平和的に食糧や装備を整えることが可能になったのである。
「……その成果は確かに認めるところです。結果的にあなたのしていることは、最も平和的に、彼らと交流を持つ方法だったと言えるでしょう。ですが」
ハンはやはり、いつも彼女にそうしているように、エリザをにらみつけていた。
「いつもいつもいつも、何故俺に相談の一つもせずに、勝手に進めるんですか!?」
一方のエリザも、斜に構えて応じている。
「アンタに相談したら何でもかんでもダメや言うからやん。アタシの言うコト、アタマっからアカンてバッサリ却下するやろが。
船の上でも王様に会うた帰りでも、みんなそうやったやん? ほんでもアタシが勝手にやった結果、みんなええ感じに進んだやんか」
「ですからその成果は認めています。俺が言いたいのは、それだけ如実に成果が出るようなことを、勝手に、かつ強引に推し進めていることです。
確かに今まで、俺はあなたの意見に対し肯定するようなことをしてきませんでしたが、俺だっていい加減、あなたの行動に一定の正当性があることは認めてきてるんです。ですからまずはあなたからちゃんと、事前に話を聞かせてもらいたいんですよ。
でなきゃ何のために、俺とあなたは600人もの大勢を率いて、この地まで来てるんですか。あなた一人で何でもかんでも勝手に動いてたら、その意味がありません」
「……ん、んー」
ハンが語るにつれて、流石のエリザもばつの悪そうな顔をし始める。
「せやね……。ちょと、自分勝手しすぎやったね。ゴメン」
「分かってもらえればいいです。事前に言ってくれれば、隊を動かして色々できるでしょうし。今後は動く前にまず、俺に話して下さい」
「ん、分かった分かった。反省しとるわ」
ぺこっと頭を下げたところで――エリザがその姿勢のまま、ぼそっとつぶやいた。
「……もういっこだけ謝った方がええかな」
「なんです?」
その一言に、ハンは嫌な予感を覚える。
「何か、したんですか?」
「そのー……、イサコくんとな、ちょい、色々話してんけど」
そっと顔を上げつつ、エリザは済まなさそうな表情を浮かべた。
「や、ほら、今んトコ、イサコくんが暫定的に王様っちゅう話で来とるやん? せやけどイサコくん、『到底私には務まりません』て、辞めたいっちゅうてきたんよ。
ま、アタシにしてもな、確かにイサコくんの身の丈に合うてへんやろなとは思うてたし、ほんなら別の人間に役任せよかってな、そう言う話になってな。
ほんで誰にやってもらおうかって考えて、……ソコがまた、アタシが勝手にやってしもたトコなんやけどもー……」
「何を、したんですか?」
「……話しとったトコでな、クーちゃん来たんよ。や、アタシが呼んだんちゃうで? 何や野暮用っちゅうコトで、……や、ソレはええな、別に。
その場で、……そのー、ちょうどええやん思てな、……指名してん」
「クーを?」
「うん」
「王様に? この国の?」
「せやねん」
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