「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・改国伝 3
神様たちの話、第171話。
国家改編。
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3.
エリザを引っ張るようにして連れ出し、ハンは王の間へと急いだ。
「あら、ごきげんよう」
玉座にはエリザが言った通り、イサコではなく、クーの姿があった。
「エリザさんから聞いたが、君がこの国の王を僭称(せんしょう)したそうだな?」
「僭称ではございませんわ。わたくし、きちんと皆様のご理解とご同意を得ておりますもの」
「俺が理解してない」
「では今からでもご理解なされば」
そう返したクーを、ハンは力一杯にらみつける。
「ふざけるな! 君までエリザさんみたいに、勝手なことをするのか!?」
ハンに怒鳴りつけられ、クーは身をすくめる。
「え、えっと、その、……た、確かに多少、専横が過ぎたことは、あの、否めませんわね。
で、ですけれど、ハン。仮に今、それをわたくしが認め、改めて王を募ったとして、誰が推挙されるでしょう」
「それは、……トロコフ尉官か、エリザさんか、……確かに、君辺りか」
「あなたご自身もでしょう? 先の作戦で戦果を挙げていらっしゃるのですから。
とは言え、消去法的に考えれば、わたくし以外に王の座に就こうと言う方はいらっしゃらないでしょう。そのご様子では既にご存知のようですけれど、トロコフ尉官は王を辞されましたし、エリザさんも『めんどい』とのことでした。言うまでもなく、こんな流れで王になることなど、堅物のあなたは良しとされませんでしょうし。
推挙と、それに誰が応じるか、その結果は明らかです。であれば無用に時間を費やすことも無いのでは?」
「それが勝手な言い草だと言ってるんだ」
ハンはエリザから手を放し、クーに詰め寄る。
「俺たちが知らないだけで、民衆の中に推挙されるような人物がいるかも知れないだろ?」
「そんな傑物がもしいらっしゃるのであれば、これまでの流れで既に頭角を現していておかしくないでしょう。ですが現実に、そんな方は現れませんでした。であれば、いない、と断じてしまえるのではないかしら」
「確かにいないかも知れない。だけど、確実じゃない。それを『確実にいない』なんて断言、誰にする権利がある?」
「強情ですわね」
クーは玉座から立ち上がり、彼女の方からもハンに詰め寄る。
「ですが、わたくしにも強情な面があることは否めませんわね。
ですのでこういたしましょう――現状は暫定的処置としてわたくしが女王として君臨いたしますが、もしも今後、わたくしより適任と思える方が現れれば、わたくしは即座に、王位をその方に禅譲(ぜんじょう)いたしますわ。それでいかがかしら?」
「その『ふさわしい方』は、例えば俺や、他の人間が推挙してもいいんだな?」
「ええ、どうぞ」
「いいだろう」
ハンは一歩引き、ようやく怒りを収めた。
「エリザさんにも散々言ったが、君にも忠告しておく。今後、何か行動を起こす時には、必ず俺に報告してくれ」
「あら」
一方、クーはまた詰め寄ってくる。
「それはすべてにおいてかしら? 食事や就寝の際も、一々あなたにご報告差し上げなくてはいけないのかしら」
「そこまで言ってない。この街やこの国、この世界の政治・経済・軍事に関わるようなことをする時だけだ」
「であれば、承知いたしますわ。流石にこれ以上、隊長のあなたを軽んじては、父上に叱られますもの」
そう言って、クーはいたずらっぽく笑いつつ、玉座に座り直した。
「では確認いたしますけれど、まず、わたくしが現在、暫定的にこの座に就くことについては、異論ございませんわね?」
「ああ。その点は君の言う通り、現状で他に適任はいないだろう。勝手なことをしたのは腹立たしいが、仕方無い」
「ご容認いただけて何よりですわ。では早速、相談いたしたい件がございますけれど、よろしいかしら」
「なんだ?」
尋ねたハンに、クーはにこっと微笑んで返す。
「国名と街の名前を変更したいと考えております。いい案は無いかしら」
「何故だ?」
尋ねたハンに、エリザが答えた。
「理由は3つあるねん。
1つ目、『ユーグ王国』も他の街も、帝国が付けた名前や。何やかやでアタシらのものになったんやし、変えたろ思てな。ほんで2つ目、ココの情勢が安定したらボチボチ、ノースポートと取引でけるようにしときたいんよ。ほんなら少なからず、アタシらの言葉を使える人がこっちにおらなアカンやろ? その言語教育の第一歩にしよか、て言うてたんよ」
「では3つ目は?」
「国民意識の刷新とでも申せばよろしいかしら」
今度はクーが答える。
「帝国の支配と従属から逃れ、わたくしたちの庇護(ひご)下にある、と言うことを認識していただくには最も効果的な方法ではないかと、エリザさんと話し合いました」
「どれもこれもそれらしく聞こえますが」
ハンは懐疑的な姿勢を崩さず、エリザをにらみつけた。
「何となく思い付きでやってみようと言うのを、理由を後付けしてごまかしたようにも思えますね」
「ま、ま。ソコら辺はどうあれ、意義はあるコトはあるから」
こうしてユーグ王国は――最後までハンの抵抗があったものの――「クラム王国」と改称された。
また、王国の支配下にある町村もすべて名を変えられ、首都である「テプロイモア」についても、港周辺の海が綺麗なエメラルド色を呈していることから、「グリーンプール」となった。
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エリザを引っ張るようにして連れ出し、ハンは王の間へと急いだ。
「あら、ごきげんよう」
玉座にはエリザが言った通り、イサコではなく、クーの姿があった。
「エリザさんから聞いたが、君がこの国の王を僭称(せんしょう)したそうだな?」
「僭称ではございませんわ。わたくし、きちんと皆様のご理解とご同意を得ておりますもの」
「俺が理解してない」
「では今からでもご理解なされば」
そう返したクーを、ハンは力一杯にらみつける。
「ふざけるな! 君までエリザさんみたいに、勝手なことをするのか!?」
ハンに怒鳴りつけられ、クーは身をすくめる。
「え、えっと、その、……た、確かに多少、専横が過ぎたことは、あの、否めませんわね。
で、ですけれど、ハン。仮に今、それをわたくしが認め、改めて王を募ったとして、誰が推挙されるでしょう」
「それは、……トロコフ尉官か、エリザさんか、……確かに、君辺りか」
「あなたご自身もでしょう? 先の作戦で戦果を挙げていらっしゃるのですから。
とは言え、消去法的に考えれば、わたくし以外に王の座に就こうと言う方はいらっしゃらないでしょう。そのご様子では既にご存知のようですけれど、トロコフ尉官は王を辞されましたし、エリザさんも『めんどい』とのことでした。言うまでもなく、こんな流れで王になることなど、堅物のあなたは良しとされませんでしょうし。
推挙と、それに誰が応じるか、その結果は明らかです。であれば無用に時間を費やすことも無いのでは?」
「それが勝手な言い草だと言ってるんだ」
ハンはエリザから手を放し、クーに詰め寄る。
「俺たちが知らないだけで、民衆の中に推挙されるような人物がいるかも知れないだろ?」
「そんな傑物がもしいらっしゃるのであれば、これまでの流れで既に頭角を現していておかしくないでしょう。ですが現実に、そんな方は現れませんでした。であれば、いない、と断じてしまえるのではないかしら」
「確かにいないかも知れない。だけど、確実じゃない。それを『確実にいない』なんて断言、誰にする権利がある?」
「強情ですわね」
クーは玉座から立ち上がり、彼女の方からもハンに詰め寄る。
「ですが、わたくしにも強情な面があることは否めませんわね。
ですのでこういたしましょう――現状は暫定的処置としてわたくしが女王として君臨いたしますが、もしも今後、わたくしより適任と思える方が現れれば、わたくしは即座に、王位をその方に禅譲(ぜんじょう)いたしますわ。それでいかがかしら?」
「その『ふさわしい方』は、例えば俺や、他の人間が推挙してもいいんだな?」
「ええ、どうぞ」
「いいだろう」
ハンは一歩引き、ようやく怒りを収めた。
「エリザさんにも散々言ったが、君にも忠告しておく。今後、何か行動を起こす時には、必ず俺に報告してくれ」
「あら」
一方、クーはまた詰め寄ってくる。
「それはすべてにおいてかしら? 食事や就寝の際も、一々あなたにご報告差し上げなくてはいけないのかしら」
「そこまで言ってない。この街やこの国、この世界の政治・経済・軍事に関わるようなことをする時だけだ」
「であれば、承知いたしますわ。流石にこれ以上、隊長のあなたを軽んじては、父上に叱られますもの」
そう言って、クーはいたずらっぽく笑いつつ、玉座に座り直した。
「では確認いたしますけれど、まず、わたくしが現在、暫定的にこの座に就くことについては、異論ございませんわね?」
「ああ。その点は君の言う通り、現状で他に適任はいないだろう。勝手なことをしたのは腹立たしいが、仕方無い」
「ご容認いただけて何よりですわ。では早速、相談いたしたい件がございますけれど、よろしいかしら」
「なんだ?」
尋ねたハンに、クーはにこっと微笑んで返す。
「国名と街の名前を変更したいと考えております。いい案は無いかしら」
「何故だ?」
尋ねたハンに、エリザが答えた。
「理由は3つあるねん。
1つ目、『ユーグ王国』も他の街も、帝国が付けた名前や。何やかやでアタシらのものになったんやし、変えたろ思てな。ほんで2つ目、ココの情勢が安定したらボチボチ、ノースポートと取引でけるようにしときたいんよ。ほんなら少なからず、アタシらの言葉を使える人がこっちにおらなアカンやろ? その言語教育の第一歩にしよか、て言うてたんよ」
「では3つ目は?」
「国民意識の刷新とでも申せばよろしいかしら」
今度はクーが答える。
「帝国の支配と従属から逃れ、わたくしたちの庇護(ひご)下にある、と言うことを認識していただくには最も効果的な方法ではないかと、エリザさんと話し合いました」
「どれもこれもそれらしく聞こえますが」
ハンは懐疑的な姿勢を崩さず、エリザをにらみつけた。
「何となく思い付きでやってみようと言うのを、理由を後付けしてごまかしたようにも思えますね」
「ま、ま。ソコら辺はどうあれ、意義はあるコトはあるから」
こうしてユーグ王国は――最後までハンの抵抗があったものの――「クラム王国」と改称された。
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