「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・改国伝 4
神様たちの話、第172話。
慕われる遠征隊。
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4.
街の名前が変わって数日が過ぎた頃、ハンとマリアは街中をぶらついていた。
いや――。
「あくまでこれは巡回だからな」
「はーい」
ハンは言葉通りの行動を執っているのだが、マリアは串焼きを片手にしており、傍から見れば遊びに来ているようにしか見えない。
「尉官もどーです? 3本あるから1本食べていいですよー」
「職務中だ。食べるわけに行くか」
「そんなこと言っても尉官、職務じゃない時間、全然作らないじゃないですかー。
毎日仕事、仕事で、ノースポート出発してからずっと、お休みの日一度も作ってないし」
「必要無いからな」
それを聞いて、マリアが頭を抱える。
「尉官、そんなこと言ってたら、エリザさんに怒られちゃいますよ?」
「なんでエリザさんなんだ」
「エリザさん、副隊長じゃないですか。もし尉官が働きすぎで倒れちゃったりなんかしたら……」
「……む」
そこでハンは立ち止まり、顔をしかめさせる。
「なるほど、確かに『アタシの仕事増やすな』と言ってきそうではあるな」
「や、そう言うことじゃなくてですねー」
「だが一方で、あの人が副隊長らしいことをしないから、俺の仕事が増えるってことでもある」
「いや、……んー、そーですかねぇ。あの人もあの人で、リーダーらしいと思うんですけどねー……」
「その点は一部認める。だが」
ハンは依然として渋い表情のまま、かぶりを振った。
「リーダーらしからぬ点も過分にあるからな。それを発揮された後の始末を、俺が付けなきゃならん」
「いります、それ?」
ハンのぼやきに、マリアが反論する。
「エリザさんがやったことなら、エリザさんに始末付けさせればいいじゃないですか。むしろいつも尉官が始末付けちゃうから、エリザさん甘えちゃうんじゃ?」
「……ふむ。それも確かに、考えられないことでは無いな」
「いっぺん、放ってみたらどうです? エリザさんのせいで面倒事が起きたら、ちゃんとエリザさんに責任取らせれば」
「そうだな。お前の言う通り、一度最後までエリザさんに……」
と――二人の側に、街の者らしき熊獣人が近付いてきた。
「なんだ?」
警戒するハンに対し、その女性は恐る恐ると言った様子で話しかけてきた。
「こん、……ばん、は?」
「うん?」
ハンがきょとんとする一方、マリアはにこっと笑みを返す。
「こんばんはー。(でもまだ明るいから『こんにちは』、かもです)」
「(あら、間違えちゃったかしら?)」
「(でもありがとうございます。どしたんですか?)」
「(隣の方、隊長さんよね?)」
「(そですよー)」
「(あの、これ……)」
女性は抱えていたかごから芋の入った袋を取り出し、マリアに渡した。
「(遠征隊の方には街を守ってもらったり荷物運び手伝ってもらったり、色々お世話になってるから、お礼しなきゃって)」
「(ありがとうございますー)」
女性とにこやかに会話を交わすマリアに、ハンが口を挟もうとする。
「おい、マリア。勝手に……」「えいっ」
が、女性に見えないよう、マリアはハンの脇腹に肘鉄を突き込む。
「うぐっ……」
「(あら? どうかされたの、隊長さん)」
「(いえいえ全然なんでもー。それじゃどーも)」
芋を片手にしたまま、マリアはハンを引っ張り、その場から立ち去った。
女性の姿が見えなくなった辺りまで移動したところで、マリアがくるっと振り返り、ハンをたしなめる。
「折角ご厚意でくれるって言ってるんですから、『勝手に受け取るな』なんてナシですよ」
「いや、そうは言うが、安易に受け取るのは……」
「逆にですよ、あげるって言われて『いらん』って断ったら、すごく感じ悪いでしょ? それこそ街の人の印象、悪くしちゃいますよ」
「……そうだな。わざわざ気を悪くさせることもないか」
「で、で」
ハンの許しを得た途端に、マリアは楽しそうな顔で芋を撫で始めた。
「何作りましょ? お魚と一緒に煮ます? あ、こないだエリザさんのお店でベーコン出てたんで買ったんですけど、一緒に炒めても美味しいですよねきっと! や、ふかしてコロッケって手も……」
「……お前、食い物が絡むと楽しそうだな、本当に」
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4.
街の名前が変わって数日が過ぎた頃、ハンとマリアは街中をぶらついていた。
いや――。
「あくまでこれは巡回だからな」
「はーい」
ハンは言葉通りの行動を執っているのだが、マリアは串焼きを片手にしており、傍から見れば遊びに来ているようにしか見えない。
「尉官もどーです? 3本あるから1本食べていいですよー」
「職務中だ。食べるわけに行くか」
「そんなこと言っても尉官、職務じゃない時間、全然作らないじゃないですかー。
毎日仕事、仕事で、ノースポート出発してからずっと、お休みの日一度も作ってないし」
「必要無いからな」
それを聞いて、マリアが頭を抱える。
「尉官、そんなこと言ってたら、エリザさんに怒られちゃいますよ?」
「なんでエリザさんなんだ」
「エリザさん、副隊長じゃないですか。もし尉官が働きすぎで倒れちゃったりなんかしたら……」
「……む」
そこでハンは立ち止まり、顔をしかめさせる。
「なるほど、確かに『アタシの仕事増やすな』と言ってきそうではあるな」
「や、そう言うことじゃなくてですねー」
「だが一方で、あの人が副隊長らしいことをしないから、俺の仕事が増えるってことでもある」
「いや、……んー、そーですかねぇ。あの人もあの人で、リーダーらしいと思うんですけどねー……」
「その点は一部認める。だが」
ハンは依然として渋い表情のまま、かぶりを振った。
「リーダーらしからぬ点も過分にあるからな。それを発揮された後の始末を、俺が付けなきゃならん」
「いります、それ?」
ハンのぼやきに、マリアが反論する。
「エリザさんがやったことなら、エリザさんに始末付けさせればいいじゃないですか。むしろいつも尉官が始末付けちゃうから、エリザさん甘えちゃうんじゃ?」
「……ふむ。それも確かに、考えられないことでは無いな」
「いっぺん、放ってみたらどうです? エリザさんのせいで面倒事が起きたら、ちゃんとエリザさんに責任取らせれば」
「そうだな。お前の言う通り、一度最後までエリザさんに……」
と――二人の側に、街の者らしき熊獣人が近付いてきた。
「なんだ?」
警戒するハンに対し、その女性は恐る恐ると言った様子で話しかけてきた。
「こん、……ばん、は?」
「うん?」
ハンがきょとんとする一方、マリアはにこっと笑みを返す。
「こんばんはー。(でもまだ明るいから『こんにちは』、かもです)」
「(あら、間違えちゃったかしら?)」
「(でもありがとうございます。どしたんですか?)」
「(隣の方、隊長さんよね?)」
「(そですよー)」
「(あの、これ……)」
女性は抱えていたかごから芋の入った袋を取り出し、マリアに渡した。
「(遠征隊の方には街を守ってもらったり荷物運び手伝ってもらったり、色々お世話になってるから、お礼しなきゃって)」
「(ありがとうございますー)」
女性とにこやかに会話を交わすマリアに、ハンが口を挟もうとする。
「おい、マリア。勝手に……」「えいっ」
が、女性に見えないよう、マリアはハンの脇腹に肘鉄を突き込む。
「うぐっ……」
「(あら? どうかされたの、隊長さん)」
「(いえいえ全然なんでもー。それじゃどーも)」
芋を片手にしたまま、マリアはハンを引っ張り、その場から立ち去った。
女性の姿が見えなくなった辺りまで移動したところで、マリアがくるっと振り返り、ハンをたしなめる。
「折角ご厚意でくれるって言ってるんですから、『勝手に受け取るな』なんてナシですよ」
「いや、そうは言うが、安易に受け取るのは……」
「逆にですよ、あげるって言われて『いらん』って断ったら、すごく感じ悪いでしょ? それこそ街の人の印象、悪くしちゃいますよ」
「……そうだな。わざわざ気を悪くさせることもないか」
「で、で」
ハンの許しを得た途端に、マリアは楽しそうな顔で芋を撫で始めた。
「何作りましょ? お魚と一緒に煮ます? あ、こないだエリザさんのお店でベーコン出てたんで買ったんですけど、一緒に炒めても美味しいですよねきっと! や、ふかしてコロッケって手も……」
「……お前、食い物が絡むと楽しそうだな、本当に」
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