「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・歓虎伝 1
神様たちの話、第174話。
表敬訪問。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「ノルド王国とは?」
尋ねたハンに、王国兵の一人が答える。
「沿岸部北部の国です。ユーグ王国、……もとい、クラム王国とは、沿岸部を二分する関係です」
「彼らの目的は?」
今度は遠征隊の者が答える。
「彼らの言では『表敬訪問』とのことですが、王をはじめとして、いずれも弓などの武器を携行しております」
「単なる訪問では無さそうだな。……と言って、まさか真正面からノコノコ攻め込むわけも無い。半分程度には、本当に表敬訪問のつもりなんだろう。返答やこちらの出方次第では……、と言うところか。
彼らは今、どこに?」
この問いには、別の王国兵が答えた。
「テプロイモア、……いえ、グリーンプール北門前におります」
「ふむ」
ハンはエリザに向き直り、相談する。
「どうします? 招き入れるか、追い返すかの二択と思いますが」
「追い返すのんはアカンやろ」
エリザはぺらぺらと左手を振り、こう返す。
「表面上でも表敬訪問、『アンタらに尊敬の意を持った上で平和的にお話しに来たでー』言うて来とる人らに『うっさい帰れ』って返したら、今後の外交で平和的手段は採りにくうなるで。あっちこっちで『こっちが下手に出たら門前払いしよったヤツらや』ちゅうて言いふらされるやろしな」
「確かに。しかし武装した人間を内部まで招き入れると言うのは、不安ではありますね」
「こっちも武装して相手したらええ。実際に剣を抜かんまでも、『下手なコトしたら抜くで』って見せつけたら、ソレで十分やろ。こっちには帝国さんらを撃退した実績もあるんやし、コトが起こったら多少なりとも痛い目見るでっちゅうコトくらい分かるやろしな。
ソレにな、こっちは今、お祭りの最中や。ソレやったら皆に『お隣さんがお祝いに来てくれたでー』ってお出迎えさしたって、ご馳走出して持て成したったらええねん。向こうかてメシも食わずにいきなり襲いかかるかいな」
「状況的には考えにくいと思いますが。敵の出す飯を前に剣を下ろすような、そんな緊張感の無い相手だとは……」
言いかけて、ハンは「ふむ」とうなる。
「……こっちであれば、案外いそうではありますね」
「沿岸部は基本的にみんな飢えとるっちゅう話やしな。ご飯もんは一番のおもてなしやろ」
エリザの目論見通り、祭りの最中であることを説明し、自由に会食して欲しいと伝えたところ、彼らは大喜びで応じた。
「(大いに感動した。これほど馳走になるとは思ってもみなかった)」
感謝の意を伝えつつ、満面の笑みをエリザに向けてきたノルド王に対し、エリザもニコニコと笑みをたたえて応じている。
「(喜んでいただけて何よりですわ。どうぞ仰山食べてって下さい)」
「(うむ)」
「(ほんでノルド陛下、今日はどないなご用事で? や、表敬訪問やっちゅうのんは聞きましたけども、そんな弓やら槍やら担いでゾロゾロ来はったら、アタシらビックリしますやんか)」
「(おう、これは失礼いたした。いや何、わしらはこの近くまで鳥獣を狩りに来たまでのこと。それで折角近くまで寄ったことであるし、この機会に貴君らの顔でも見られればと思うてな)」
「(さよでっか。何を狩ってきはったんです?)」
「(所期の目的は鹿であったが、残念ながら兎が7、8羽と言った程度だった。……いやはや、情けない)」
ノルド王は照れ笑いを浮かべつつ、魚の塩焼きを片手にこう続ける。
「(腹も幾分減っておったからな、誠に貴君らの持て成し、身にしみるわい)」
「(喜んでいただけて何よりですわ)」
にこにこと笑みを浮かべつつ、エリザは隣にいたハンに自国語で話す。
「この王様、純朴っちゅうか素直っちゅうか、マジで裏は無さそうやで。ホンマにハラ減って無心しに来ただけやな」
「演技や口実、……では無いでしょうね。家臣団の方も、こちらに敵意を向けるどころか、食べることに没頭しているようですし」
「言うたら悪いけど単純やな」
「却って安心ですがね。戦わずに済むのであれば」
と、二人の様子をいぶかしんだらしく、ノルド王が尋ねてくる。
「(如何なされた?)」
「(いえいえ。ただ、陛下御自らの表敬訪問っちゅうコトで、何や大事なお話でもあるんかいなと思うてましたから)」
エリザが水を向けた途端、ノルド王はしまったと言いたげな顔になった。
「(あっ、……いや、その、まあ、……あ、そうそう、表敬訪問であったな、オホン)」
ノルド王はばつが悪そうに空咳を立てつつ、顔を赤くしていた。
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表敬訪問。
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「ノルド王国とは?」
尋ねたハンに、王国兵の一人が答える。
「沿岸部北部の国です。ユーグ王国、……もとい、クラム王国とは、沿岸部を二分する関係です」
「彼らの目的は?」
今度は遠征隊の者が答える。
「彼らの言では『表敬訪問』とのことですが、王をはじめとして、いずれも弓などの武器を携行しております」
「単なる訪問では無さそうだな。……と言って、まさか真正面からノコノコ攻め込むわけも無い。半分程度には、本当に表敬訪問のつもりなんだろう。返答やこちらの出方次第では……、と言うところか。
彼らは今、どこに?」
この問いには、別の王国兵が答えた。
「テプロイモア、……いえ、グリーンプール北門前におります」
「ふむ」
ハンはエリザに向き直り、相談する。
「どうします? 招き入れるか、追い返すかの二択と思いますが」
「追い返すのんはアカンやろ」
エリザはぺらぺらと左手を振り、こう返す。
「表面上でも表敬訪問、『アンタらに尊敬の意を持った上で平和的にお話しに来たでー』言うて来とる人らに『うっさい帰れ』って返したら、今後の外交で平和的手段は採りにくうなるで。あっちこっちで『こっちが下手に出たら門前払いしよったヤツらや』ちゅうて言いふらされるやろしな」
「確かに。しかし武装した人間を内部まで招き入れると言うのは、不安ではありますね」
「こっちも武装して相手したらええ。実際に剣を抜かんまでも、『下手なコトしたら抜くで』って見せつけたら、ソレで十分やろ。こっちには帝国さんらを撃退した実績もあるんやし、コトが起こったら多少なりとも痛い目見るでっちゅうコトくらい分かるやろしな。
ソレにな、こっちは今、お祭りの最中や。ソレやったら皆に『お隣さんがお祝いに来てくれたでー』ってお出迎えさしたって、ご馳走出して持て成したったらええねん。向こうかてメシも食わずにいきなり襲いかかるかいな」
「状況的には考えにくいと思いますが。敵の出す飯を前に剣を下ろすような、そんな緊張感の無い相手だとは……」
言いかけて、ハンは「ふむ」とうなる。
「……こっちであれば、案外いそうではありますね」
「沿岸部は基本的にみんな飢えとるっちゅう話やしな。ご飯もんは一番のおもてなしやろ」
エリザの目論見通り、祭りの最中であることを説明し、自由に会食して欲しいと伝えたところ、彼らは大喜びで応じた。
「(大いに感動した。これほど馳走になるとは思ってもみなかった)」
感謝の意を伝えつつ、満面の笑みをエリザに向けてきたノルド王に対し、エリザもニコニコと笑みをたたえて応じている。
「(喜んでいただけて何よりですわ。どうぞ仰山食べてって下さい)」
「(うむ)」
「(ほんでノルド陛下、今日はどないなご用事で? や、表敬訪問やっちゅうのんは聞きましたけども、そんな弓やら槍やら担いでゾロゾロ来はったら、アタシらビックリしますやんか)」
「(おう、これは失礼いたした。いや何、わしらはこの近くまで鳥獣を狩りに来たまでのこと。それで折角近くまで寄ったことであるし、この機会に貴君らの顔でも見られればと思うてな)」
「(さよでっか。何を狩ってきはったんです?)」
「(所期の目的は鹿であったが、残念ながら兎が7、8羽と言った程度だった。……いやはや、情けない)」
ノルド王は照れ笑いを浮かべつつ、魚の塩焼きを片手にこう続ける。
「(腹も幾分減っておったからな、誠に貴君らの持て成し、身にしみるわい)」
「(喜んでいただけて何よりですわ)」
にこにこと笑みを浮かべつつ、エリザは隣にいたハンに自国語で話す。
「この王様、純朴っちゅうか素直っちゅうか、マジで裏は無さそうやで。ホンマにハラ減って無心しに来ただけやな」
「演技や口実、……では無いでしょうね。家臣団の方も、こちらに敵意を向けるどころか、食べることに没頭しているようですし」
「言うたら悪いけど単純やな」
「却って安心ですがね。戦わずに済むのであれば」
と、二人の様子をいぶかしんだらしく、ノルド王が尋ねてくる。
「(如何なされた?)」
「(いえいえ。ただ、陛下御自らの表敬訪問っちゅうコトで、何や大事なお話でもあるんかいなと思うてましたから)」
エリザが水を向けた途端、ノルド王はしまったと言いたげな顔になった。
「(あっ、……いや、その、まあ、……あ、そうそう、表敬訪問であったな、オホン)」
ノルド王はばつが悪そうに空咳を立てつつ、顔を赤くしていた。
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