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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第4部

    琥珀暁・歓虎伝 4

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    神様たちの話、第177話。
    第二種目;徒競走。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    《(さーて、次の種目の準備が整いましたので、ボチボチ開始しますでー)》
     エリザのアナウンスと同時に、広場の外れから街路に沿ってぼっ、ぼっと篝火(かがりび)が灯される。
    《(お次はガチの体力勝負! この広場から灯りに沿って街を一周し、より早くここに戻ってきた方が勝ちです! ただし、ソレやと単なるかけっこになってしまいますので、ここはお互い戦場を活躍の場とする武人らしく、フル装備で臨んでもらいます!)》
     エリザの言う通り、二人とも鎧や兜、具足など、がっちりと武装した状態で並び立つ。
    (流石に重いな……。総量15、いや、20キロはあるか?)
     少なからず鍛えているとは言え、元の体重がさほど多くないハンにとっては、かなりの負荷となっている。
     一方のミェーチ将軍も、顔を真っ赤にしつつ、肩で息をしている。
    「(どうした? 辛そうにしとるな、若いの)」
    「(お互い様だろう。あんた、走る前から汗だくじゃないか)」
    「(何のこれしき)」
     両者ともガチャガチャと装備を鳴らしながら、開始位置に着く。
    《(さあ、いよいよスタートです! 位置に付いて、……用意!)》
     エリザの合図を受けてハンは身構えるが、ミェーチ将軍はそれを見て、ぽかんとした顔をしている。
    「(何をしている?)」
     尋ねられるが、ハンは応えず正面を見据えている。
    《(スタート!)》
     と、エリザが開始を告げ、すぐさまハンが駆け出す。
    「(あっ、……ま、待て!)」
     一方、虚を突かれたらしいミェーチ将軍は慌てて脚を上げ、ハンを追いかけた。
    (なんだあいつ……? ぼんやり突っ立って)
     一足早く駆け出し、ハンは距離を稼ぐ。
    (ああ、そうか。号令かけてから構えて走るってやり方は、俺たちだけか。しまったな、公平さを欠いたか。
     ちゃんと説明……)
     が、一瞬振り返り、その配慮が不要であるらしいことを悟る。
    (……マジか)
     開始直後は10メートル近く距離が開いていたが、広場から続く大通りを端から端へ渡り切る頃には、既にミェーチ将軍はハンのすぐ後ろに迫っていた。
    「(卑怯だぞ、面妖な、振る舞いで、吾輩を翻弄、するとは!)」
    「(そう言う、わけじゃない。あれはこちらの……)」
    「(言い訳無用! 勝てば良いのだ! ぬうぅぉおおおおおおぉぅ!)」
     全力疾走しつつ咆哮を上げ、ミェーチ将軍はさらに距離を詰めていく。
    (あれだけ差を付けた上に、この装備だぞ? それでこの速さか……)
     細い路地をジグザグに抜け、折り返し地点となる港まで出てきたところで、ついにミェーチ将軍がハンを追い抜く。
    「(ふはっ、……げっほ、げほ、……ふは、ふははははははっ!)」
     ふたたび路地に入り、ついにミェーチ将軍の背中はハンの視界から消えてしまった。
    (あのデカい図体全部、見た目通りに筋肉モリモリってわけか)
     だが、ハンは脚を止めず、かと言って慌てたりもせず、淡々と走り続ける。
    (ま、ここまでは想定内だ。しょっちゅうマリアにもいじられるが、俺も見た目通り、肉が付いてないからな)
     ペースを維持したまま路地を抜け、大通りに戻ってきたところで、ハンの視界に再度、ミェーチ将軍の姿が映る。
    「(ふっ……ふうっ……はあっ……ふっ)」
     先程はハンを軽々と抜き去るほどの走力を見せたミェーチ将軍だったが、この時点ではとぼとぼと言った様子の足取りになっていた。
    (俺とあんたじゃ、ざっと見ても60キロ以上は体重差があるだろう。
     軽い方が、持久力が続くからな。本当に有利なのは俺の方だ)
     やがて両者とも、ほぼ同時に広場に戻って来る。
    「(ほとんど差が無いぞ!)」
    「(どっちが勝つ!?)」
    「(頑張れ、頑張れ!)」
     二人とも皆の声援を浴びつつ、ゴールへと向かって行く。
     が――。
    (このまま追い抜くことはできるが、それで2連勝したんじゃ流石に、相手のメンツが丸潰れだ。表敬訪問に来てくれた相手を完膚無く打ち倒すのは、配慮が無い)
     ハンは依然ペースを維持したまま、じわじわと、しかし追い抜いてしまわないよう、巧妙に差を詰める。
     そしてミェーチ将軍のすぐ後ろにまで迫ったところで――。
    《(ゴール! 勝ったのはミェーチ将軍です!)》



    「(よくやった、将軍! 名誉挽回であるな!)」
    「(お褒めに預かり、幸甚の至りにございます)」
     心底嬉しそうに騒いでいるノルド陣営を横目で眺めつつ、ハンは黙々と装備を脱いでいた。
     と、マリアが着替えを渡しつつ、こそっと耳打ちしてくる。
    「尉官。最後、手抜いてたでしょ」
    「分かるか?」
    「そりゃもう」
     マリアは唇を尖らせ、残念そうに続ける。
    「接待も大変ですねー」
    「仕方無いさ」
    「次はすっきり、勝って下さいよー?」
    「ああ、善処するよ」
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