「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・歓虎伝 5
神様たちの話、第178話。
第三種目;組手。
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5.
最後の種目が準備されている最中、休んでいたハンのところに、エリザがニヤニヤしながら近付いてきた。
「で、どないや?」
「どないや、とは?」
尋ね返したハンに、エリザがノルド陣営を横目に眺めつつ、こう続ける。
「アンタのコトや、今回もクソ真面目に相手さんの力量やら練度やら、見極めようとしとるんやろ?」
「お互い様でしょう」
そう返しつつ、ハンはため息をつく。
「第一種目が弓なのはともかく、重装備で長距離走らせた後に組手なんて種目設定には、俺は悪意を感じるんですがね」
「言い方にもよるな。『戦略性が求められる組み合わせ』、っちゅうヤツやね。
二番目で考え無しに体力使い切ったら、最後のんでへばってもうて動けへんなる。けども二番目である程度気張らんかったら落としてまうし。人を率いる将軍ともあろう者なら、自分の体力の配分くらい計算して動くはずやろ、もしソレもでけへんっちゅうようなアホなら、軍全体の多寡(たか)も知れる、……と」
「そこも計算ずくですか」
「ついでに言うたら一番目も計算の上や。アンタの力量はよお知っとるし、あっさり勝つであろうコトは予想でけた。ま、もし負けたとしても、二番目で挽回するやろからな」
「どう転んでも、この時点で俺が1勝1敗に持ち込むだろう、と」
「せや。勝敗を自由に操作でけるんやったら、アンタならその上で、相手を推し量ろうとするやろな、……っちゅうトコまでがアタシの目論見やね」
もう一度チラ、とノルド陣営に目をやり、依然ニヤニヤしながら尋ねる。
「で、どないや?」
「俺の評価ですか」
「せや」
ハンもノルド陣営に目をやりつつ、所見を述べた。
「正直に言えば、もしこうした交流も催事も無く、前情報無しにいきなり戦闘状態に入ったとしても、楽に勝てた可能性は十分にありますね。
戦闘技術に関して言えば――現状、弓に限ってしか言えませんが――十分に訓練されていると言えるでしょう。動揺があったとは言え、当ててましたからね。体力配分に関しては、エリザさんが言った通りですね。最後の種目のことを全く考えていない、目先にこだわった走り方でした。
恐らく次は、楽に取れるでしょうね」
「あのミェーチっちゅう将軍さん、ノルド王のお気に入りやろ? 名実共に、家臣団で一番の将のはずや。
ソレがアレやっちゅうたら……」
「彼が戦闘を指揮すれば、恐らく初手から全軍突撃、個々の腕力と勢いに任せた、おおよそ戦術とも呼べない戦術でけしかけてくるのが精々でしょう。
俺たちならそんなもの、軽々と蹴散らして見せます」
「流石やね。……っと、準備終わったみたいやな。ほな最後、頑張ってやー」
エリザはくるっと踵を返し、その場から離れていった。
先程よりは幾分軽めの武装を身にまとい、両者は広場の中央で対峙する。
《さあいよいよ最後の種目となりました! 皆さんお待ちかね、ガチとガチがぶつかり合う、組手勝負です!
お互い、音に聞こえし武人! 当然、力量もそこいらの雑兵とは比べ物にならへんはずです! 例え前の2戦を落としたとて、誇り高い武人としてココだけは、ココだけは、コ・コ・だ・け・はっ! 何が何でも落とすワケには行きまへんでっ!
ソレでは両者、構えっ!》
号令に伴い、ハンもミェーチ将軍も、互いの得物を相手に向ける。
「(『これは殺し合いではない。だからお互い、刃には被せ物をしておく』などと甘っちょろいことを抜かしおったが……)」
ミェーチ将軍は槍の穂先を振りつつ、ハンを挑発する。
「(吾輩の膂力(りょりょく)をなめてもらっては困るぞ? こんな被せ物をしたところで、全力で打ち付ければ同じこと。肉は潰れ、骨は砕け、貴様の魂ごと世界の果てまで弾き飛ばしてしまうぞ)」
「(当てられればの話だろう)」
「(当たらんと抜かすか)」
にらむミェーチ将軍にそれ以上答えず、ハンは黙り込んだ。
《(ソレでは……、開始!)》
エリザの号令と共に、ミェーチ将軍が距離を詰める。
「(ぐるるるりゃああああッ!)」
本物の虎を思わせる咆哮を轟かせ、槍がハンの頭部へ打ち下ろされる。
が、ハンは剣をすっと上段に構え、事も無く左へといなす。
「(ぬっ!?)」
全力で振るった攻撃が呆気無く逸らされ、ミェーチ将軍は体勢を崩し、無防備な左側面をハンに晒す。
そして、その隙を見逃すハンではない。
「はッ!」
右手を剣から放し、それをミェーチ将軍の左脇腹に叩き込む。
「(おふ……っ!?)」
ハンの右拳が脇腹にめり込み、ミェーチ将軍の顔色が一瞬で真っ青に染まる。
ミェーチ将軍の巨体がぐらっと揺れるのをしっかりと目に捉えつつ、ハンは剣を捨て、左手も空けた。
「(ま、まだま……)」
口からぼとぼとと胃液を吐き、何か言おうとしたミェーチ将軍の顔に、ハンは左拳を叩き込んだ。
「(ふごあッ!?)」
今度は鼻から真っ赤な液体を噴き出し、ミェーチ将軍の動きが止まる。
一瞬、間を置いて――ミェーチ将軍はどさりと重たい音を立てて仰向けに倒れ、そのまま気絶した。
《……あっ、えっ、……(け、決着! 決着です! 勝ったのはハンく、……あ、や、シモン隊長です!)》
流石のエリザも、ここまで早々と勝負が決まることは予想していなかったのだろう――噛み気味に、決着を宣言した。
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第三種目;組手。
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最後の種目が準備されている最中、休んでいたハンのところに、エリザがニヤニヤしながら近付いてきた。
「で、どないや?」
「どないや、とは?」
尋ね返したハンに、エリザがノルド陣営を横目に眺めつつ、こう続ける。
「アンタのコトや、今回もクソ真面目に相手さんの力量やら練度やら、見極めようとしとるんやろ?」
「お互い様でしょう」
そう返しつつ、ハンはため息をつく。
「第一種目が弓なのはともかく、重装備で長距離走らせた後に組手なんて種目設定には、俺は悪意を感じるんですがね」
「言い方にもよるな。『戦略性が求められる組み合わせ』、っちゅうヤツやね。
二番目で考え無しに体力使い切ったら、最後のんでへばってもうて動けへんなる。けども二番目である程度気張らんかったら落としてまうし。人を率いる将軍ともあろう者なら、自分の体力の配分くらい計算して動くはずやろ、もしソレもでけへんっちゅうようなアホなら、軍全体の多寡(たか)も知れる、……と」
「そこも計算ずくですか」
「ついでに言うたら一番目も計算の上や。アンタの力量はよお知っとるし、あっさり勝つであろうコトは予想でけた。ま、もし負けたとしても、二番目で挽回するやろからな」
「どう転んでも、この時点で俺が1勝1敗に持ち込むだろう、と」
「せや。勝敗を自由に操作でけるんやったら、アンタならその上で、相手を推し量ろうとするやろな、……っちゅうトコまでがアタシの目論見やね」
もう一度チラ、とノルド陣営に目をやり、依然ニヤニヤしながら尋ねる。
「で、どないや?」
「俺の評価ですか」
「せや」
ハンもノルド陣営に目をやりつつ、所見を述べた。
「正直に言えば、もしこうした交流も催事も無く、前情報無しにいきなり戦闘状態に入ったとしても、楽に勝てた可能性は十分にありますね。
戦闘技術に関して言えば――現状、弓に限ってしか言えませんが――十分に訓練されていると言えるでしょう。動揺があったとは言え、当ててましたからね。体力配分に関しては、エリザさんが言った通りですね。最後の種目のことを全く考えていない、目先にこだわった走り方でした。
恐らく次は、楽に取れるでしょうね」
「あのミェーチっちゅう将軍さん、ノルド王のお気に入りやろ? 名実共に、家臣団で一番の将のはずや。
ソレがアレやっちゅうたら……」
「彼が戦闘を指揮すれば、恐らく初手から全軍突撃、個々の腕力と勢いに任せた、おおよそ戦術とも呼べない戦術でけしかけてくるのが精々でしょう。
俺たちならそんなもの、軽々と蹴散らして見せます」
「流石やね。……っと、準備終わったみたいやな。ほな最後、頑張ってやー」
エリザはくるっと踵を返し、その場から離れていった。
先程よりは幾分軽めの武装を身にまとい、両者は広場の中央で対峙する。
《さあいよいよ最後の種目となりました! 皆さんお待ちかね、ガチとガチがぶつかり合う、組手勝負です!
お互い、音に聞こえし武人! 当然、力量もそこいらの雑兵とは比べ物にならへんはずです! 例え前の2戦を落としたとて、誇り高い武人としてココだけは、ココだけは、コ・コ・だ・け・はっ! 何が何でも落とすワケには行きまへんでっ!
ソレでは両者、構えっ!》
号令に伴い、ハンもミェーチ将軍も、互いの得物を相手に向ける。
「(『これは殺し合いではない。だからお互い、刃には被せ物をしておく』などと甘っちょろいことを抜かしおったが……)」
ミェーチ将軍は槍の穂先を振りつつ、ハンを挑発する。
「(吾輩の膂力(りょりょく)をなめてもらっては困るぞ? こんな被せ物をしたところで、全力で打ち付ければ同じこと。肉は潰れ、骨は砕け、貴様の魂ごと世界の果てまで弾き飛ばしてしまうぞ)」
「(当てられればの話だろう)」
「(当たらんと抜かすか)」
にらむミェーチ将軍にそれ以上答えず、ハンは黙り込んだ。
《(ソレでは……、開始!)》
エリザの号令と共に、ミェーチ将軍が距離を詰める。
「(ぐるるるりゃああああッ!)」
本物の虎を思わせる咆哮を轟かせ、槍がハンの頭部へ打ち下ろされる。
が、ハンは剣をすっと上段に構え、事も無く左へといなす。
「(ぬっ!?)」
全力で振るった攻撃が呆気無く逸らされ、ミェーチ将軍は体勢を崩し、無防備な左側面をハンに晒す。
そして、その隙を見逃すハンではない。
「はッ!」
右手を剣から放し、それをミェーチ将軍の左脇腹に叩き込む。
「(おふ……っ!?)」
ハンの右拳が脇腹にめり込み、ミェーチ将軍の顔色が一瞬で真っ青に染まる。
ミェーチ将軍の巨体がぐらっと揺れるのをしっかりと目に捉えつつ、ハンは剣を捨て、左手も空けた。
「(ま、まだま……)」
口からぼとぼとと胃液を吐き、何か言おうとしたミェーチ将軍の顔に、ハンは左拳を叩き込んだ。
「(ふごあッ!?)」
今度は鼻から真っ赤な液体を噴き出し、ミェーチ将軍の動きが止まる。
一瞬、間を置いて――ミェーチ将軍はどさりと重たい音を立てて仰向けに倒れ、そのまま気絶した。
《……あっ、えっ、……(け、決着! 決着です! 勝ったのはハンく、……あ、や、シモン隊長です!)》
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