「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・歓虎伝 6
神様たちの話、第179話。
宴の後で。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「(いやぁ、参った参った! まさかあれほど一方的な決着となろうとはな)」
三番勝負が終わり、最前列でかじりついて観戦していたノルド王は、げらげらと笑ってハンをほめちぎっていた。
「(運が良かっただけです)」
謙遜するハンの肩を、ノルド王はばしばしと叩く。
「(とんでもござらん! いやまったく、我が軍が如何にたるんでおったかを思い知らされたわい。将同士の戦いでこの有様では、もし全軍挙げての合戦が先に起こっていたとしたら、一体どれほどの憂き目を我々が見る羽目になったやら。
うむ、わしは決心したぞ! まだ家臣団の中には異を唱える者もあろうが、貴君らとは和平を結ぶことにする)」
「(それは性急なご判断でしょう。まずは家臣の方々と協議を……)」
ハンが止めようとしたものの、ノルド王は首を横にぶるんと振る。
「(いやいや、誰がどう言おうとも、わしの決心は揺るがん。そもそも貴君らと正面切って戦おうとは、当初より思っておらなんだし、ならばはっきり手を結ぶと宣言し、実行する方が良かろう。城に戻り次第、正式に表明・通達することとする。
本日はまこと、良い出会いであった。では失敬!)」
ほとんど一方的にまくし立て、ノルド王はその場から去――ろうとして、ぐるんと振り返った。
「(な、なんでしょう?)」
落ち着きの無い振る舞いに圧倒されつつも尋ねたハンに、ノルド王は顔を赤らめつつ、ハンに耳打ちした。
「(あー、その、話は変わるのだがな、ほれ、あの、『狐』のご婦人がおられたであろう?)」
「(エリザ・ゴールドマン女史のことですか?)」
「(おお、そのようなお名前であったか。美しい名だ。しっかと覚えておくぞ。いや、その、なんだ。……またお会いしたいと、そう伝えてくれんか?)」
「(え? ええ、伝えておきます)」
「(うむ、よろしく頼んだぞ! では改めて失敬!)」
そう言い残して、今度こそノルド王は虎の尾をぴょこぴょこと揺らしつつ、去って行った。
と、そこに今話に上った本人がやって来る。
「あら? ノルド王さん、もう帰らはったん?」
「ええ。和平を結ぶとまくし立てられて、そのままそそくさと」
「そらええこっちゃ」
「それともう一つ。エリザさんにまた会いたいと」
「アタシに?」
そう言われ、エリザが辺りを見回すが、既にノルド王は、家臣団ごと広場から姿を消してしまっている。
「せっかちなおっさんやね。アタシと話したいんやったら、もうちょい待ってはったら良かったのに」
「まさかとは思いますが、もしかして惚れられたのでは? ほめちぎってましたからね」
ハンの言葉に、エリザはケラケラと笑って返す。
「アハハ……、そらおもろいな」
「笑い事じゃないでしょう。子供も2人いるのに」
「せやなぁ。求婚されたかて、そら受けられへんな。アタシはゲート一筋やし」
そう言ってウインクしたエリザに、ハンは苦い顔をするしかなかった。
「……返答に困ります」
帰路に就いたノルド王は、馬上で心底愉快そうに笑いながら、家臣団の面々と話していた。
「(誠に此度の訪問、意義のあるものであったわい)」
「(さようにございますか)」
一方、家臣団の面々は、いずれもどこか不満そうな顔色を浮かべている。
「(殿、先程仰られていたお話でございますが、本当に彼らと友好関係を結ぶのですか?)」
「(うむ。対立すべき理由は帝国からの命令、それだけだ。我々自体には、対立する必要性は無い。むしろ関係を結べば、彼らから食糧を得ることができる。
我が国の問題は何をおいても、飢餓にある。安定して食糧を国民に分け与えることができれば、荒んだ現状も大きく改善できよう)」
「(殿! それではまるで、彼奴らに食糧を恵んでもらうようなものではないですか!?)」
「(それの何が悪いと言うのだ)」
ノルド王の顔から先程まで浮かべていた笑みが消え、真面目な表情を家臣たちに向ける。
「(民を満足に養いもせず、ただ君臨し威張り散らすだけの王が迷惑極まりない存在であること、我々こそがよくよく思い知っていることではないか。
例え乞食と誹られようと、わしは民を食わせることを優先する)」
「(むう……)」
主君の強い意志を感じたらしく、家臣たちは黙り込んだ。
一方――家臣団の後方では、ミェーチ将軍が馬の背を虚ろな目でにらみながら、ハンへの呪詛を吐いていた。
「(……許さんぞ……シモン……! 公衆の面前で、この俺に恥をかかせおって……!
決して許すものか……!)」
遠征隊上陸に端を発する、北方沿岸部の一連の騒動は、ここへ来て大きな局面を迎えつつあった。
琥珀暁・歓虎伝 終
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宴の後で。
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「(いやぁ、参った参った! まさかあれほど一方的な決着となろうとはな)」
三番勝負が終わり、最前列でかじりついて観戦していたノルド王は、げらげらと笑ってハンをほめちぎっていた。
「(運が良かっただけです)」
謙遜するハンの肩を、ノルド王はばしばしと叩く。
「(とんでもござらん! いやまったく、我が軍が如何にたるんでおったかを思い知らされたわい。将同士の戦いでこの有様では、もし全軍挙げての合戦が先に起こっていたとしたら、一体どれほどの憂き目を我々が見る羽目になったやら。
うむ、わしは決心したぞ! まだ家臣団の中には異を唱える者もあろうが、貴君らとは和平を結ぶことにする)」
「(それは性急なご判断でしょう。まずは家臣の方々と協議を……)」
ハンが止めようとしたものの、ノルド王は首を横にぶるんと振る。
「(いやいや、誰がどう言おうとも、わしの決心は揺るがん。そもそも貴君らと正面切って戦おうとは、当初より思っておらなんだし、ならばはっきり手を結ぶと宣言し、実行する方が良かろう。城に戻り次第、正式に表明・通達することとする。
本日はまこと、良い出会いであった。では失敬!)」
ほとんど一方的にまくし立て、ノルド王はその場から去――ろうとして、ぐるんと振り返った。
「(な、なんでしょう?)」
落ち着きの無い振る舞いに圧倒されつつも尋ねたハンに、ノルド王は顔を赤らめつつ、ハンに耳打ちした。
「(あー、その、話は変わるのだがな、ほれ、あの、『狐』のご婦人がおられたであろう?)」
「(エリザ・ゴールドマン女史のことですか?)」
「(おお、そのようなお名前であったか。美しい名だ。しっかと覚えておくぞ。いや、その、なんだ。……またお会いしたいと、そう伝えてくれんか?)」
「(え? ええ、伝えておきます)」
「(うむ、よろしく頼んだぞ! では改めて失敬!)」
そう言い残して、今度こそノルド王は虎の尾をぴょこぴょこと揺らしつつ、去って行った。
と、そこに今話に上った本人がやって来る。
「あら? ノルド王さん、もう帰らはったん?」
「ええ。和平を結ぶとまくし立てられて、そのままそそくさと」
「そらええこっちゃ」
「それともう一つ。エリザさんにまた会いたいと」
「アタシに?」
そう言われ、エリザが辺りを見回すが、既にノルド王は、家臣団ごと広場から姿を消してしまっている。
「せっかちなおっさんやね。アタシと話したいんやったら、もうちょい待ってはったら良かったのに」
「まさかとは思いますが、もしかして惚れられたのでは? ほめちぎってましたからね」
ハンの言葉に、エリザはケラケラと笑って返す。
「アハハ……、そらおもろいな」
「笑い事じゃないでしょう。子供も2人いるのに」
「せやなぁ。求婚されたかて、そら受けられへんな。アタシはゲート一筋やし」
そう言ってウインクしたエリザに、ハンは苦い顔をするしかなかった。
「……返答に困ります」
帰路に就いたノルド王は、馬上で心底愉快そうに笑いながら、家臣団の面々と話していた。
「(誠に此度の訪問、意義のあるものであったわい)」
「(さようにございますか)」
一方、家臣団の面々は、いずれもどこか不満そうな顔色を浮かべている。
「(殿、先程仰られていたお話でございますが、本当に彼らと友好関係を結ぶのですか?)」
「(うむ。対立すべき理由は帝国からの命令、それだけだ。我々自体には、対立する必要性は無い。むしろ関係を結べば、彼らから食糧を得ることができる。
我が国の問題は何をおいても、飢餓にある。安定して食糧を国民に分け与えることができれば、荒んだ現状も大きく改善できよう)」
「(殿! それではまるで、彼奴らに食糧を恵んでもらうようなものではないですか!?)」
「(それの何が悪いと言うのだ)」
ノルド王の顔から先程まで浮かべていた笑みが消え、真面目な表情を家臣たちに向ける。
「(民を満足に養いもせず、ただ君臨し威張り散らすだけの王が迷惑極まりない存在であること、我々こそがよくよく思い知っていることではないか。
例え乞食と誹られようと、わしは民を食わせることを優先する)」
「(むう……)」
主君の強い意志を感じたらしく、家臣たちは黙り込んだ。
一方――家臣団の後方では、ミェーチ将軍が馬の背を虚ろな目でにらみながら、ハンへの呪詛を吐いていた。
「(……許さんぞ……シモン……! 公衆の面前で、この俺に恥をかかせおって……!
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