「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・交誼伝 2
神様たちの話、第181話。
クーのおでかけ。
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2.
ハンたちが報告を行っていた丁度その頃、クーはビートとマリアを伴って、街の視察に出向いていた。
「通りの顔ぶれが、随分変わりましたわね」
そうつぶやいたクーに、ビートが反応する。
「ノルド王国から来た虎獣人の人たちが、結構いるみたいですよ。こちらは『熊』の割合が多いみたいですが、向こうは国王をはじめとして、『虎』が多いらしいですし。
元々、移動に馬で3日かかる距離でしたし、僕たちの来訪だとか帝国軍の襲撃だとか色々ありましたから、クラム王国に改称した直後くらいまでは、あまり来る人がいなかったみたいですけど、最近はノルド王自ら来られたせいか、交流も増えてきてるみたいですし」
「その件については十分よく存じておりますわ。交流を勧める立場でございますもの。それよりも……」
ビートには顔を合わせずに、クーはくるんとマリアの方へと振り向く。
「以前より気になっていたのですけれど、こちらでは猫獣人や、わたくしのように長い裸耳の方をお見かけいたしませんわね。お二人は、お見かけした記憶はございますかしら」
「え? んー……、そう言えばこっちの『猫』さんは全然見てないですねー。長耳さんもあんまり。……や、無いかもです」
「同じく、ですね。どうやら、この大陸では猫獣人の方はいないみたいですよ」
「狼獣人や狐獣人の方もお見かけいたしませんし、どうやら耳に毛を召した方は『熊』と『虎』のみのようですわね。文化だけでなく、人種も大分異なるようですし、本格的にわたくしたちとの交流が深まれば、何かしらの摩擦や軋轢が生じそうな気がいたしますわね。
ビート、あなたはどうお思いかしら?」
尋ねられ、ビートは――彼の方でも同様のことを考えていたらしく――淀み無く答える。
「その可能性は高いだろうと、僕も思います。
僕たちとエリザ先生たちのように、それぞれの生活圏が地続きであり、この20年交流が続いている同士であっても、多少の行き違いや思い違いはありますからね。こうしてまったく互いが隔絶されていた関係であれば、その差異はより大きくなるでしょう。殿下や陛下、エリザ先生などのご尽力があってようやく意思疎通ができたくらいですから、もし翻訳術『トランスレーション』が無ければ、いえ、そもそも魔術そのものが無ければ、事情と結果は大きく異なったものになっていたでしょう」
「ええ、その点は同意いたせますわね。もしわたくしたちが彼らのように魔術を持たない人間であったなら、こうして自由に異邦の地を巡るどころか、今以てノースポートは占拠されたまま。腕力や体格で大きく勝る彼らに為す術も無く、敗走を続けていたかも知れません。
それを考えれば、今こうしてわたくしたちがこの国を統治し、ノルド王国に対し有利な条件で交渉・交流を進められる立場にあることは、つくづくお父様に感謝すべきことですわ」
「ええ、まあ、はい、そう言えますね」
微妙な顔でうなずくビートをよそに、クーは続いてマリアにも尋ねる。
「マリア、あなたは現状について、どうお考えかしら」
「へっ? あたしですか?」
一方のマリアは、しどろもどろに応じた。
「え、えー、そうですねー、あの、何て言うか、文化が違うってことは感じますね。例えばご飯も、あたしたちのトコじゃ小麦が主食でしたけどー、こっちだとお芋さんが多いなーって。だからそのー、交換? あ、貿易? みたいなことする時にー、どうなんだろうなーって」
「グダグダですね……。何も考えてなかったでしょ?」
呆れるビートに対し、クーは丁寧に答える。
「その点も確かに、考慮すべき問題ですわね。わたくしたちの嗜好と、彼らのそれが同じとは限りませんもの。貿易品の輸送にも費用と手間がかかりますから、折角海を越えて運んだ品が受け入れられなければ、大きな損害になってしまいます。
その件については、エリザさんと十分に協議した方がよろしいですわね」
「あっ、はい、そーですね」
ほっとした表情を浮かべたマリアに微笑みつつ、クーはビートに再度尋ねる。
「ところで、シェロはどうなさっていらっしゃるのかしら? お声がけした際、お見かけいたしませんでしたけれど」
「あいつならいつもの自主訓練です」
「あら、また?」
クーは首を傾げ、こう返す。
「こうしてお声がけする度、いつも訓練なさっている印象がございますわね」
「口実ですよ。視察に同行したくないんです」
「あら。わたくし、シェロに好かれていないのかしら」
「いえ、そうじゃないんです」
ビートは肩をすくめながら、シェロのことを話した。
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クーのおでかけ。
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ハンたちが報告を行っていた丁度その頃、クーはビートとマリアを伴って、街の視察に出向いていた。
「通りの顔ぶれが、随分変わりましたわね」
そうつぶやいたクーに、ビートが反応する。
「ノルド王国から来た虎獣人の人たちが、結構いるみたいですよ。こちらは『熊』の割合が多いみたいですが、向こうは国王をはじめとして、『虎』が多いらしいですし。
元々、移動に馬で3日かかる距離でしたし、僕たちの来訪だとか帝国軍の襲撃だとか色々ありましたから、クラム王国に改称した直後くらいまでは、あまり来る人がいなかったみたいですけど、最近はノルド王自ら来られたせいか、交流も増えてきてるみたいですし」
「その件については十分よく存じておりますわ。交流を勧める立場でございますもの。それよりも……」
ビートには顔を合わせずに、クーはくるんとマリアの方へと振り向く。
「以前より気になっていたのですけれど、こちらでは猫獣人や、わたくしのように長い裸耳の方をお見かけいたしませんわね。お二人は、お見かけした記憶はございますかしら」
「え? んー……、そう言えばこっちの『猫』さんは全然見てないですねー。長耳さんもあんまり。……や、無いかもです」
「同じく、ですね。どうやら、この大陸では猫獣人の方はいないみたいですよ」
「狼獣人や狐獣人の方もお見かけいたしませんし、どうやら耳に毛を召した方は『熊』と『虎』のみのようですわね。文化だけでなく、人種も大分異なるようですし、本格的にわたくしたちとの交流が深まれば、何かしらの摩擦や軋轢が生じそうな気がいたしますわね。
ビート、あなたはどうお思いかしら?」
尋ねられ、ビートは――彼の方でも同様のことを考えていたらしく――淀み無く答える。
「その可能性は高いだろうと、僕も思います。
僕たちとエリザ先生たちのように、それぞれの生活圏が地続きであり、この20年交流が続いている同士であっても、多少の行き違いや思い違いはありますからね。こうしてまったく互いが隔絶されていた関係であれば、その差異はより大きくなるでしょう。殿下や陛下、エリザ先生などのご尽力があってようやく意思疎通ができたくらいですから、もし翻訳術『トランスレーション』が無ければ、いえ、そもそも魔術そのものが無ければ、事情と結果は大きく異なったものになっていたでしょう」
「ええ、その点は同意いたせますわね。もしわたくしたちが彼らのように魔術を持たない人間であったなら、こうして自由に異邦の地を巡るどころか、今以てノースポートは占拠されたまま。腕力や体格で大きく勝る彼らに為す術も無く、敗走を続けていたかも知れません。
それを考えれば、今こうしてわたくしたちがこの国を統治し、ノルド王国に対し有利な条件で交渉・交流を進められる立場にあることは、つくづくお父様に感謝すべきことですわ」
「ええ、まあ、はい、そう言えますね」
微妙な顔でうなずくビートをよそに、クーは続いてマリアにも尋ねる。
「マリア、あなたは現状について、どうお考えかしら」
「へっ? あたしですか?」
一方のマリアは、しどろもどろに応じた。
「え、えー、そうですねー、あの、何て言うか、文化が違うってことは感じますね。例えばご飯も、あたしたちのトコじゃ小麦が主食でしたけどー、こっちだとお芋さんが多いなーって。だからそのー、交換? あ、貿易? みたいなことする時にー、どうなんだろうなーって」
「グダグダですね……。何も考えてなかったでしょ?」
呆れるビートに対し、クーは丁寧に答える。
「その点も確かに、考慮すべき問題ですわね。わたくしたちの嗜好と、彼らのそれが同じとは限りませんもの。貿易品の輸送にも費用と手間がかかりますから、折角海を越えて運んだ品が受け入れられなければ、大きな損害になってしまいます。
その件については、エリザさんと十分に協議した方がよろしいですわね」
「あっ、はい、そーですね」
ほっとした表情を浮かべたマリアに微笑みつつ、クーはビートに再度尋ねる。
「ところで、シェロはどうなさっていらっしゃるのかしら? お声がけした際、お見かけいたしませんでしたけれど」
「あいつならいつもの自主訓練です」
「あら、また?」
クーは首を傾げ、こう返す。
「こうしてお声がけする度、いつも訓練なさっている印象がございますわね」
「口実ですよ。視察に同行したくないんです」
「あら。わたくし、シェロに好かれていないのかしら」
「いえ、そうじゃないんです」
ビートは肩をすくめながら、シェロのことを話した。
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