「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・交誼伝 3
神様たちの話、第182話。
シェロの評判と謎。
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3.
ビートはどこかためらいがちに、言葉を選ぶようにして話す。
「あいつ、誰かと仲良くするって言うのが苦手なんですよ。いえ、苦手と言うよりも、正確には人付き合いを、軒並み拒絶してるようなものですけど」
「拒絶?」
「基本的に誰ともまともに話さないですし、僕とマリアさん以外には、仕事以外でつるむ人間もいないみたいですし。あいつが一度、尉官のことを『人間嫌い』と言っていたことがありますが、僕からすれば、あいつの方がよほど、人を遠ざけてるように感じます」
「まあ」
クーは目を丸くし、マリアに顔を向ける。
「あなたとビートだけ?」
「そうですねぇ」
「ハンとは如何なのかしら」
「尉官とも、全然ですねー。尉官の方も人をあんまり誘いませんし」
「ああ、左様でしたわね。……でも、それなら何故、シェロはハンの下に?」
「さあ……?」
問われて、ビートも首を傾げる。
「測量班結成の際、僕が招集された時にはもう、シェロがいたんですよね。その時、僕の方からは自己紹介したんですけど、シェロは階級と歳だけしか言わなくって。その後来たマリアさんにも、同じことしか言いませんでしたね」
「気になりますわね」
そう返したクーに、ビートが釘を刺す。
「班の掟と言うか約束事と言うか、尉官からは『相手が言いたくないことは聞くな』と厳命されています。殿下も覚えがあるでしょう?」
「そうでしたわね。では、わたくしが尋ねたとしても」
「まず答えないでしょうし、その前に尉官が止めに入ると思います」
「どちらにしても、さほど興味はございませんわね」
一転、クーは表情を変え、ビートに笑いかけた。
「ではビート、あなたは経緯を教えて下さるわね?」
「え?」
「マリアが測量班に配属された経緯は以前に伺いましたけれど、あなたについてはまだ伺っておりませんもの。教えていただけるかしら」
「あー、はい。大したことは特にありませんが、それで良ければ」
そう前置きし、ビートは自分のことを話す。
「15歳の時に訓練学校の魔術科を卒業して、そのまま尉官の班に配属になったってだけです。
班の編成が――僕たちの軍では、一般的には『班長(リーダー)』『補佐(サブ)』『前衛(ポイントマン)』『後衛(テールマン)』の4人になるんですけど――招集された時、既に補佐としてマリアさんが決定してたらしいんです。で、僕が後衛、シェロが前衛ってことで」
「そうですの? 印象としては、マリアが前衛、あなたが補佐と感じておりましたけれど」
「年齢順の序列ってやつです。それに、厳密に『常にこのポジションでなければならない』と定めてるわけじゃないですし、状況とかその場の流れとかで、配置が変わることはよくあります。あくまで編成した当時の話ですから」
「なんかバカにされてる気がするんですけどー……?」
ぼやくマリアに、クーは「いいえ」と返す。
「あなたの腕前はかねがね伺っておりましたから、むしろ前衛の方が適任なのではと言う意味で申しました。他意はございませんわ。
では、マリアが補佐と言うことであれば、シェロの経緯については何かご存知なのかしら?」
「あー……、と」
マリアのふくれっ面が、一転してばつの悪そうなものに変わる。
「あたしもそれは分かんないです、すみません」
「いえ、お気になさらず。きっとハンの方からも、知られないように配慮してらっしゃるでしょうから。あの方、ルールと申すものに関しては――それが人の決めたものであれ、自分が定めたものであれ――縛られてしまう性分ですし、『聞くな』と定めた事柄は、本人から申し上げない限りは、誰にも明かされないのでしょう」
「あ、それで思い出しましたけど」
と、ビートが手を挙げる。
「殿下。ホープ島で測量してた時に、尉官とエリザさんのことで何か、言ってませんでした?」
「ぅえ?」
尋ねられ、クーはうろたえた声を漏らす。
「な、何のことかしら?」
「僕は記憶力いいですから、ごまかせないですよ。確かに殿下は、僕に『ハンとエリザさんとのご関係をご存知なのかしら』って言ってました」
「あわゎ……」
泡を食うクーに、ビートが畳み掛ける。
「勿論、掟のこともありますから、殿下の口から漏らせないと言うことであれば、無理に言わせたりするような、乱暴なことはしません。
ですので『はい』か『いいえ』で。うなずくか振るかして下さい」
そう前置きし、ビートは質問し始めた。
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シェロの評判と謎。
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ビートはどこかためらいがちに、言葉を選ぶようにして話す。
「あいつ、誰かと仲良くするって言うのが苦手なんですよ。いえ、苦手と言うよりも、正確には人付き合いを、軒並み拒絶してるようなものですけど」
「拒絶?」
「基本的に誰ともまともに話さないですし、僕とマリアさん以外には、仕事以外でつるむ人間もいないみたいですし。あいつが一度、尉官のことを『人間嫌い』と言っていたことがありますが、僕からすれば、あいつの方がよほど、人を遠ざけてるように感じます」
「まあ」
クーは目を丸くし、マリアに顔を向ける。
「あなたとビートだけ?」
「そうですねぇ」
「ハンとは如何なのかしら」
「尉官とも、全然ですねー。尉官の方も人をあんまり誘いませんし」
「ああ、左様でしたわね。……でも、それなら何故、シェロはハンの下に?」
「さあ……?」
問われて、ビートも首を傾げる。
「測量班結成の際、僕が招集された時にはもう、シェロがいたんですよね。その時、僕の方からは自己紹介したんですけど、シェロは階級と歳だけしか言わなくって。その後来たマリアさんにも、同じことしか言いませんでしたね」
「気になりますわね」
そう返したクーに、ビートが釘を刺す。
「班の掟と言うか約束事と言うか、尉官からは『相手が言いたくないことは聞くな』と厳命されています。殿下も覚えがあるでしょう?」
「そうでしたわね。では、わたくしが尋ねたとしても」
「まず答えないでしょうし、その前に尉官が止めに入ると思います」
「どちらにしても、さほど興味はございませんわね」
一転、クーは表情を変え、ビートに笑いかけた。
「ではビート、あなたは経緯を教えて下さるわね?」
「え?」
「マリアが測量班に配属された経緯は以前に伺いましたけれど、あなたについてはまだ伺っておりませんもの。教えていただけるかしら」
「あー、はい。大したことは特にありませんが、それで良ければ」
そう前置きし、ビートは自分のことを話す。
「15歳の時に訓練学校の魔術科を卒業して、そのまま尉官の班に配属になったってだけです。
班の編成が――僕たちの軍では、一般的には『班長(リーダー)』『補佐(サブ)』『前衛(ポイントマン)』『後衛(テールマン)』の4人になるんですけど――招集された時、既に補佐としてマリアさんが決定してたらしいんです。で、僕が後衛、シェロが前衛ってことで」
「そうですの? 印象としては、マリアが前衛、あなたが補佐と感じておりましたけれど」
「年齢順の序列ってやつです。それに、厳密に『常にこのポジションでなければならない』と定めてるわけじゃないですし、状況とかその場の流れとかで、配置が変わることはよくあります。あくまで編成した当時の話ですから」
「なんかバカにされてる気がするんですけどー……?」
ぼやくマリアに、クーは「いいえ」と返す。
「あなたの腕前はかねがね伺っておりましたから、むしろ前衛の方が適任なのではと言う意味で申しました。他意はございませんわ。
では、マリアが補佐と言うことであれば、シェロの経緯については何かご存知なのかしら?」
「あー……、と」
マリアのふくれっ面が、一転してばつの悪そうなものに変わる。
「あたしもそれは分かんないです、すみません」
「いえ、お気になさらず。きっとハンの方からも、知られないように配慮してらっしゃるでしょうから。あの方、ルールと申すものに関しては――それが人の決めたものであれ、自分が定めたものであれ――縛られてしまう性分ですし、『聞くな』と定めた事柄は、本人から申し上げない限りは、誰にも明かされないのでしょう」
「あ、それで思い出しましたけど」
と、ビートが手を挙げる。
「殿下。ホープ島で測量してた時に、尉官とエリザさんのことで何か、言ってませんでした?」
「ぅえ?」
尋ねられ、クーはうろたえた声を漏らす。
「な、何のことかしら?」
「僕は記憶力いいですから、ごまかせないですよ。確かに殿下は、僕に『ハンとエリザさんとのご関係をご存知なのかしら』って言ってました」
「あわゎ……」
泡を食うクーに、ビートが畳み掛ける。
「勿論、掟のこともありますから、殿下の口から漏らせないと言うことであれば、無理に言わせたりするような、乱暴なことはしません。
ですので『はい』か『いいえ』で。うなずくか振るかして下さい」
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