「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・交誼伝 5
神様たちの話、第184話。
友好条約締結交渉。
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5.
王宮に戻って間も無く、クーたちはハンに出迎えられた。
「予定より随分帰りが早いと思ったが、なるほど、来客か」
「ええ。大切なお話があるとのことですので、こちらまでお連れいたしました。適当なお部屋をご用意して下さるかしら」
「ああ、手配しておく。エリザさんも呼ぼうか?」
「陛下のご希望でもございますし、お願いいたします。あなたも参加されるよう、お願いいたしますわね」
「分かった。トロコフ尉官は?」
「恐らく必要ではございませんわね。軍事防衛に関するお話ならともかく、今回は政治上のお話のようですし」
「分かった」
ハンがうなずき、離れようとしたところで、くる、とノルド王の方へと振り返る。
「(今日は彼の姿が見えないようですが、何か別の用事が?)」
「(彼? 誰のことだ?)」
首を傾げるノルド王に、ハンが付け加える。
「(ミェーチ将軍です。クラム殿下より政治上の話があると伺ったところですが、彼は今回、同席しないと?)」
「(ああ、あやつなら『体調が優れぬ』やら『風邪を引いた』やらと言って寝込んでおると、あやつの家の者から聞いておる。とは言え今回の話し合いはわし一人で不足はあるまいし、問題も無かろう)」
「(さようですか)」
場所を王宮の応接間に移したところで、ノルド王が話を切り出してきた。
「(かねてよりわしは貴君らと手を組もうと言うておったが、昨日ようやく、家臣団の皆からの同意を得るに至った。即ち正式に、貴君らとの友好条約を締結するものである)」
「(わたくしたちにとっては吉報ですわね)」
表情を変えずにそう返しつつ、クーは続けて尋ねる。
「(それでは、今後の帝国との関係は如何されるおつもりかしら)」
「(無論、決別するつもりである。どちらとも仲良く……、などと調子のいいことは言わんし、不器用なわしがそんな態度を執り続けるのは、無理なことだ)」
「(報復が予想されますけれど、そちらについては? まさかわたくしたちの力をたのみにして対抗する、と言うようなことは仰らないことと存じますが)」
「(え?)」
クーの言葉は全くの予想外だったらしく、ノルド王は間の抜けた声を漏らした。
「(なっ、いや、その)」
「(勿論、相手が襲撃して来る場合には反撃するのがわたくしたちの姿勢ですけれど、あなた方が独自に行動した、その結果として帝国からの襲撃を受けた場合には、わたくしたちが動く義理はございません。
あくまでわたくしたちは、この地へ戦争を行うために参ったわけではございませんから、こちらから積極的に帝国へ攻撃を加えるつもりもございませんもの。向こうが適切かつ適当な条件で和平を結ぼうと申し出た場合には、応じる姿勢を見せるつもりですから)」
クーの冷ややかな態度に、ノルド王は明らかに狼狽した様子を見せる。
「(い、いや、しかし、友好条約と言うものはだな)」「(友好条約と言うものは)」
反論しようとするノルド王をさえぎり、クーが続ける。
「(『わたくしたちの間に友好関係が存在すること』を、即ちわたくしたちが友人同士であると言う事実のみを文言によって確立し、広く表明することですわ。
わたくしたちは確かに、陛下たちノルド王国の皆様を友人であると公言いたせますけれど、友人だからと言って、いえ、友人だからこそ、その相手をみだりに危険な目に遭わせるものでしょうか?
それとも陛下は、友人を酔った勢いで殴り倒しても、自分の借金を押し付けても、友人であるならばすべて無条件で許してくれるはずだし、そうでなければ友人とは呼べない、とでも仰るのでしょうか?)」
「(い、いや、それは……)」
ノルド王が口ごもり、困り果てた表情をしたところで、クーの横に座っていたエリザが「(ま、ま)」と割り込んだ。
「(ビシバシ突っ込むんはソコら辺にしとくとして――友好条約を結ぶに当たって、その点についてはキッチリさせとかなあきませんわ。ざっくりした取り決めや口約束で話まとめた気ぃになっとって、いざコトが起こった時に『言うたやろ』『いや言うてへん』て揉めたないですしな。
勿論、陛下が積極的に手を貸して欲しい、自分たちが帝国を打倒する時には助太刀して欲しいっちゅうコトを条約に盛り込みたいっちゅうんであれば、ちゃんとその点もお話させてもろた上で、細かい取り決めさせてもらいますさかい。
約束しますけども、決して陛下を困らせるようなコトは言うたり提案したりしませんし、お互いの利益を確保、維持、そして拡大でけるように、公平なお話をさせてもらうつもりです)」
「(さ、さようであるか、うむ)」
横でこのやり取りを眺めていたハンは、表情には出さないでいたものの、内心では苦々しく思っていた。
(エリザさんもクーも、とんだ二枚舌だな。俺には積極的に打って出ろ、やられる前にやれって言ってたくせに。それに、この釘の刺し方も卑怯だ。つまり『助けて欲しいならカネやモノを出せ』ってことだろう?
いや、それよりもっとひどい腹積もりだ。彼らにとって現状は、『助けて欲しい』どころじゃない。彼らは何としてでも、助けてもらわなければならない状況にあるんだ。俺たちの力が得られなければ、元通り帝国に隷属するしか無いんだからな)
このやり取りの後、話し合いが進められたが――クーによる「鞭」とエリザによる「飴」の、硬軟織り交ぜた交渉術にすっかり翻弄されたノルド王は、ほとんどエリザたちの言いなりになるような形で、友好条約を締結した。
琥珀暁・交誼伝 終
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友好条約締結交渉。
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5.
王宮に戻って間も無く、クーたちはハンに出迎えられた。
「予定より随分帰りが早いと思ったが、なるほど、来客か」
「ええ。大切なお話があるとのことですので、こちらまでお連れいたしました。適当なお部屋をご用意して下さるかしら」
「ああ、手配しておく。エリザさんも呼ぼうか?」
「陛下のご希望でもございますし、お願いいたします。あなたも参加されるよう、お願いいたしますわね」
「分かった。トロコフ尉官は?」
「恐らく必要ではございませんわね。軍事防衛に関するお話ならともかく、今回は政治上のお話のようですし」
「分かった」
ハンがうなずき、離れようとしたところで、くる、とノルド王の方へと振り返る。
「(今日は彼の姿が見えないようですが、何か別の用事が?)」
「(彼? 誰のことだ?)」
首を傾げるノルド王に、ハンが付け加える。
「(ミェーチ将軍です。クラム殿下より政治上の話があると伺ったところですが、彼は今回、同席しないと?)」
「(ああ、あやつなら『体調が優れぬ』やら『風邪を引いた』やらと言って寝込んでおると、あやつの家の者から聞いておる。とは言え今回の話し合いはわし一人で不足はあるまいし、問題も無かろう)」
「(さようですか)」
場所を王宮の応接間に移したところで、ノルド王が話を切り出してきた。
「(かねてよりわしは貴君らと手を組もうと言うておったが、昨日ようやく、家臣団の皆からの同意を得るに至った。即ち正式に、貴君らとの友好条約を締結するものである)」
「(わたくしたちにとっては吉報ですわね)」
表情を変えずにそう返しつつ、クーは続けて尋ねる。
「(それでは、今後の帝国との関係は如何されるおつもりかしら)」
「(無論、決別するつもりである。どちらとも仲良く……、などと調子のいいことは言わんし、不器用なわしがそんな態度を執り続けるのは、無理なことだ)」
「(報復が予想されますけれど、そちらについては? まさかわたくしたちの力をたのみにして対抗する、と言うようなことは仰らないことと存じますが)」
「(え?)」
クーの言葉は全くの予想外だったらしく、ノルド王は間の抜けた声を漏らした。
「(なっ、いや、その)」
「(勿論、相手が襲撃して来る場合には反撃するのがわたくしたちの姿勢ですけれど、あなた方が独自に行動した、その結果として帝国からの襲撃を受けた場合には、わたくしたちが動く義理はございません。
あくまでわたくしたちは、この地へ戦争を行うために参ったわけではございませんから、こちらから積極的に帝国へ攻撃を加えるつもりもございませんもの。向こうが適切かつ適当な条件で和平を結ぼうと申し出た場合には、応じる姿勢を見せるつもりですから)」
クーの冷ややかな態度に、ノルド王は明らかに狼狽した様子を見せる。
「(い、いや、しかし、友好条約と言うものはだな)」「(友好条約と言うものは)」
反論しようとするノルド王をさえぎり、クーが続ける。
「(『わたくしたちの間に友好関係が存在すること』を、即ちわたくしたちが友人同士であると言う事実のみを文言によって確立し、広く表明することですわ。
わたくしたちは確かに、陛下たちノルド王国の皆様を友人であると公言いたせますけれど、友人だからと言って、いえ、友人だからこそ、その相手をみだりに危険な目に遭わせるものでしょうか?
それとも陛下は、友人を酔った勢いで殴り倒しても、自分の借金を押し付けても、友人であるならばすべて無条件で許してくれるはずだし、そうでなければ友人とは呼べない、とでも仰るのでしょうか?)」
「(い、いや、それは……)」
ノルド王が口ごもり、困り果てた表情をしたところで、クーの横に座っていたエリザが「(ま、ま)」と割り込んだ。
「(ビシバシ突っ込むんはソコら辺にしとくとして――友好条約を結ぶに当たって、その点についてはキッチリさせとかなあきませんわ。ざっくりした取り決めや口約束で話まとめた気ぃになっとって、いざコトが起こった時に『言うたやろ』『いや言うてへん』て揉めたないですしな。
勿論、陛下が積極的に手を貸して欲しい、自分たちが帝国を打倒する時には助太刀して欲しいっちゅうコトを条約に盛り込みたいっちゅうんであれば、ちゃんとその点もお話させてもろた上で、細かい取り決めさせてもらいますさかい。
約束しますけども、決して陛下を困らせるようなコトは言うたり提案したりしませんし、お互いの利益を確保、維持、そして拡大でけるように、公平なお話をさせてもらうつもりです)」
「(さ、さようであるか、うむ)」
横でこのやり取りを眺めていたハンは、表情には出さないでいたものの、内心では苦々しく思っていた。
(エリザさんもクーも、とんだ二枚舌だな。俺には積極的に打って出ろ、やられる前にやれって言ってたくせに。それに、この釘の刺し方も卑怯だ。つまり『助けて欲しいならカネやモノを出せ』ってことだろう?
いや、それよりもっとひどい腹積もりだ。彼らにとって現状は、『助けて欲しい』どころじゃない。彼らは何としてでも、助けてもらわなければならない状況にあるんだ。俺たちの力が得られなければ、元通り帝国に隷属するしか無いんだからな)
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今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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なんだかA首相とプーチンの会談見てるみたいだ(^^;)
どちらがどちらとはいわない(^^;)
どちらがどちらとはいわない(^^;)
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なりたくない職業の一つですね。
既に巨魁じみたオーラを漂わせる10代のお姫様。
将来が怖いです。
素敵な笑顔とたっぷりの飴で操る、邪仙のようなお姐さん。
今まさに怖いです。
相手も半端なバケモノに出くわすより怖い目に遭ったのではないだろうか、と。