「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・虎交伝 1
神様たちの話、第185話。
焦燥するシェロ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
ハンたちが友好条約を結ぶべく会議していた、その最中――。
「はっ……はっ……」
この時もシェロは、自主訓練に没頭していた。
「……はあっ……」
既にこの時点で素振り100回を6セット、腕立て伏せとジャンプアップ100回を3セット、走り込みを300周、重りを背負ってのスクワット100回を5セット、その他諸々の――ビートならば最初の数セットで気絶して倒れそうな、壮絶な量の――鍛錬を朝早くから夕暮れ近くになるまでこなしていたが、それでもシェロは、切り上げる機を見付けられないでいた。
(全然だ。全っ然足りねえ。どんだけトレーニングしても十分って気がしねえ。……なんでこんなにイライライライラしてんだろうな、俺)
7セット目の素振りを始めようと、地面に刺していた剣を手に取るが、シェロはその剣が刃こぼれしていることに気付く。
(あ……? なんで素振りでこんなボロボロになんだよ?)
思い返してみるが、剣を傷付けるようなことをした記憶が浮かばない。
(……チッ)
怒りに任せ、剣を投げるようにして、地面に突き刺す。地中に石が埋まっているのか、がちっ、と硬く鈍い音が辺りに響くが、苛立ちで頭が一杯になっているシェロの耳には入っていない。
(まあ、アレだよな。俺がこんなにイラついてんのは、こないだのアレのせいだ)
シェロの脳裏に、ハンとミェーチ将軍が戦った光景が蘇る。
(あんなあっさり決着が付けられるのか、俺に?
もし俺が尉官の代わりに、あの三番勝負に出てたとして、結果はどうなった? 弓からして、取れないかも知れない。走力勝負だってきつい。あんな装備で、あそこまで走り回れるかどうか……。
何より最後の勝負――真っ向からの、ガチの叩き合いだ。尉官だってそう背が低い方じゃない。だけど相手は2メートルはあろうかって巨体だぞ?
そう、あれくらいの……)
と、そこでシェロは我に返った。
(……何してんだ、アレ?)
シェロの目に、その2メートルほどの巨漢が、茂みから茂みへとこそこそ移動している様子が映る。
その仕草に不穏なものを感じたシェロは、地面に刺していた剣を抜き、相手に近付く。
「あんた、何してんだ?」
声をかけられた相手――ミェーチ将軍はビクッと虎の尾を跳ね上げさせ、がばっと振り向く。
「(な、何奴!?)」
「あ? ……あー、と」
北方の言葉で話しかけられ、シェロは戸惑いつつ、たどたどしく応じる。
「(ミェーチ将軍、ですよね?)」
「(い、いや、拙者、人違いでござる)」
否定されるが、シェロは再度同じ問いをぶつける。
「(将軍ですよね?)」
「(……む、む)」
観念したらしく、ミェーチ将軍は首を縦に振る。
「(い、いかにも)」
「(どうしたんですか、こんなところで)」
「(さ、散策をだな)」
「(ココはクラム王国内ですよ。散策にしては、遠すぎるのでは)」
「(いやその、何と言うか、此度の友好条約締結の交渉へ、その、殿が向かったと知ってな、遅ればせながら馳せ参じたのである)」
相手の態度に妙な気配を感じ、シェロは突っ込んでみる。
「(どうしてココに? 交渉なら王宮の中でするはずでしょう? ココは王宮は王宮でも、裏手の方ですよ)」
「(あ、いや)」
「(あと、さっきから気になってたんですが)」
シェロは剣を持ち直し、語気を強くして指摘する。
「(ただ散策や、王様の随行をすると言うだけなら、鎧だとか具足だとか兜だとか、そんな装備はいらないと思います。何か別の目的で来たんじゃないですか?)」
「(う……ぐ)」
ミェーチ将軍は顔をしかめ、いきなり抜刀した。
「(ばれてしまってはやむを得ん! ここで口封じさせて……)」
が、言い切らない内に、シェロが剣を抜いた右手を蹴り飛ばす。
「(うぐぉう!?)」
「ふざけんなッ!」
ミェーチ将軍の剣は簡単に手から弾かれ、どこかへ飛んで行く。空手になったミェーチ将軍に、反対にシェロが剣を突き付けた。
「バカか!? 友好条約締結っつってる相手のところに武装して乗り込んでくるなんて、アンタ何考えてんだ!?」
「(な、何? 何と?)」
自国語でまくし立てたものの、ミェーチ将軍がぽかんとした顔をしたため、シェロは苛立ちつつも言い直した。
「(あなたのところの王様が平和を表して来訪されたのに、何故部下のあなたが、その王様の体面をけがすようなコトをするんですか)、っつってんだよ!」
「(し、しかしだな)」
右手をさすりつつ、ミェーチ将軍は言い訳を始める。
「(此度の殿の決定は、強制的なものであったのだ。『この判断を呑めぬとあらば、我が城を去れ』とおどされ、家臣団一同は渋々同意した次第なのだ。向こうが強硬手段に出たならば、こちらが出てはいかぬと言う道理はあるまい!?)」
「(……? ではあなたは、ココを襲いに来たのでは無いと?)」
「(正直に言えばそれも無くはない。が、本懐は殿を諌めに参った次第だ。この身を賭けてな)」
「(その手段が、武装しての殴り込みですか)」
「(こうでもせねば殿も分かってはくれまい)」
話を聞くにつれて、シェロはうっすらと頭痛を覚えた。
(コイツ、マジで脳みそまで筋肉なのか? いくら話し合いで折り合いつかなかったからって、こんな乱暴な手段に出るのかよ……)
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焦燥するシェロ。
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ハンたちが友好条約を結ぶべく会議していた、その最中――。
「はっ……はっ……」
この時もシェロは、自主訓練に没頭していた。
「……はあっ……」
既にこの時点で素振り100回を6セット、腕立て伏せとジャンプアップ100回を3セット、走り込みを300周、重りを背負ってのスクワット100回を5セット、その他諸々の――ビートならば最初の数セットで気絶して倒れそうな、壮絶な量の――鍛錬を朝早くから夕暮れ近くになるまでこなしていたが、それでもシェロは、切り上げる機を見付けられないでいた。
(全然だ。全っ然足りねえ。どんだけトレーニングしても十分って気がしねえ。……なんでこんなにイライライライラしてんだろうな、俺)
7セット目の素振りを始めようと、地面に刺していた剣を手に取るが、シェロはその剣が刃こぼれしていることに気付く。
(あ……? なんで素振りでこんなボロボロになんだよ?)
思い返してみるが、剣を傷付けるようなことをした記憶が浮かばない。
(……チッ)
怒りに任せ、剣を投げるようにして、地面に突き刺す。地中に石が埋まっているのか、がちっ、と硬く鈍い音が辺りに響くが、苛立ちで頭が一杯になっているシェロの耳には入っていない。
(まあ、アレだよな。俺がこんなにイラついてんのは、こないだのアレのせいだ)
シェロの脳裏に、ハンとミェーチ将軍が戦った光景が蘇る。
(あんなあっさり決着が付けられるのか、俺に?
もし俺が尉官の代わりに、あの三番勝負に出てたとして、結果はどうなった? 弓からして、取れないかも知れない。走力勝負だってきつい。あんな装備で、あそこまで走り回れるかどうか……。
何より最後の勝負――真っ向からの、ガチの叩き合いだ。尉官だってそう背が低い方じゃない。だけど相手は2メートルはあろうかって巨体だぞ?
そう、あれくらいの……)
と、そこでシェロは我に返った。
(……何してんだ、アレ?)
シェロの目に、その2メートルほどの巨漢が、茂みから茂みへとこそこそ移動している様子が映る。
その仕草に不穏なものを感じたシェロは、地面に刺していた剣を抜き、相手に近付く。
「あんた、何してんだ?」
声をかけられた相手――ミェーチ将軍はビクッと虎の尾を跳ね上げさせ、がばっと振り向く。
「(な、何奴!?)」
「あ? ……あー、と」
北方の言葉で話しかけられ、シェロは戸惑いつつ、たどたどしく応じる。
「(ミェーチ将軍、ですよね?)」
「(い、いや、拙者、人違いでござる)」
否定されるが、シェロは再度同じ問いをぶつける。
「(将軍ですよね?)」
「(……む、む)」
観念したらしく、ミェーチ将軍は首を縦に振る。
「(い、いかにも)」
「(どうしたんですか、こんなところで)」
「(さ、散策をだな)」
「(ココはクラム王国内ですよ。散策にしては、遠すぎるのでは)」
「(いやその、何と言うか、此度の友好条約締結の交渉へ、その、殿が向かったと知ってな、遅ればせながら馳せ参じたのである)」
相手の態度に妙な気配を感じ、シェロは突っ込んでみる。
「(どうしてココに? 交渉なら王宮の中でするはずでしょう? ココは王宮は王宮でも、裏手の方ですよ)」
「(あ、いや)」
「(あと、さっきから気になってたんですが)」
シェロは剣を持ち直し、語気を強くして指摘する。
「(ただ散策や、王様の随行をすると言うだけなら、鎧だとか具足だとか兜だとか、そんな装備はいらないと思います。何か別の目的で来たんじゃないですか?)」
「(う……ぐ)」
ミェーチ将軍は顔をしかめ、いきなり抜刀した。
「(ばれてしまってはやむを得ん! ここで口封じさせて……)」
が、言い切らない内に、シェロが剣を抜いた右手を蹴り飛ばす。
「(うぐぉう!?)」
「ふざけんなッ!」
ミェーチ将軍の剣は簡単に手から弾かれ、どこかへ飛んで行く。空手になったミェーチ将軍に、反対にシェロが剣を突き付けた。
「バカか!? 友好条約締結っつってる相手のところに武装して乗り込んでくるなんて、アンタ何考えてんだ!?」
「(な、何? 何と?)」
自国語でまくし立てたものの、ミェーチ将軍がぽかんとした顔をしたため、シェロは苛立ちつつも言い直した。
「(あなたのところの王様が平和を表して来訪されたのに、何故部下のあなたが、その王様の体面をけがすようなコトをするんですか)、っつってんだよ!」
「(し、しかしだな)」
右手をさすりつつ、ミェーチ将軍は言い訳を始める。
「(此度の殿の決定は、強制的なものであったのだ。『この判断を呑めぬとあらば、我が城を去れ』とおどされ、家臣団一同は渋々同意した次第なのだ。向こうが強硬手段に出たならば、こちらが出てはいかぬと言う道理はあるまい!?)」
「(……? ではあなたは、ココを襲いに来たのでは無いと?)」
「(正直に言えばそれも無くはない。が、本懐は殿を諌めに参った次第だ。この身を賭けてな)」
「(その手段が、武装しての殴り込みですか)」
「(こうでもせねば殿も分かってはくれまい)」
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