「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・虎交伝 4
神様たちの話、第188話。
異邦の出逢い。
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4.
まだ長々とぼやいているミェーチ将軍を尻目に、シェロはコップを手に取る。
「……っと」
が、空になっているのに気付き、新たに頼もうと手を挙げかけた。
「あ、飲み物ですね。注文します」
と、リディアが先に手を挙げる。
「(あ、ども。ありがとうござ、)……ん?」
そこでシェロは、リディアが自分たちの邦の言葉で話しかけてきたことに気付いた。
「今、あんた……」
「ええ。わたしたちの国に来られた商人の方から、少しだけ習いました。先程、(……ええと、興味があると言っていたでしょう? それで覚えたんです)」
「へぇ……」
「(まだ完璧ではありませんけどね)」
「(そんなコト無いですよ。普通に分かります)」
「(あら、そうですか? 嬉しいです)」
なおぐちぐちと語っているミェーチ将軍を放って、二人はこそこそと、シェロたちの国の言葉で話し始めた。
「今日は父がいるのであまり長居はできませんが、良ければ今度、二人で街へ行きませんか?」
「まあ、いいっスけど。でも俺、そっちまで行くのは時間的に無理っスよ」
「数日滞在する予定です。今週の末まで」
「あ、なら大丈夫スね」
「いつがよろしいかしら。明日はどうでしょう?」
「あー、明日も仕事ですけど、明後日なら非番なんで行けます」
「ひ……ばん?」
「休みってコトっス」
「では明後日に」
この日以来、リディアはしきりにシェロを訪ねるようになった。
シェロの方も、最初は会うこと自体面倒臭がっていたものの、何度も会ううち、それなりに親しく話し、共に街へ繰り出すようになっていった。
その光景が、あちこちで目撃されるにつれ――。
「見ました? シェロと……」
彼と親しい同僚のビートとマリアも、この無愛想な同僚をうわさするようになっていた。
「あー、見た見た。可愛い子連れてたよねー。リディアちゃんって言ったっけ」
「いや、名前までは……。どこで聞いたんです?」
「あたし、一回声掛けてみたんだよねー。二人が並んで歩いてるトコ見かけたから」
「そうなんですか?」
「なんかさ、見てたらリディアちゃんの方から追っかけてる感じだったけど、シェロもまんざらじゃないなって雰囲気だったんだよねー。って言うか、なんかもう付き合ってる感じなんじゃない?」
「有り得なくは無いと思いますが……、シェロが?」
「……ん、んー。言われてみたらちょっと無さそうな気もしてくるよねー。シェロだし」
「ですよねぇ……?」
本人たちをよそに、二人のうわさは周囲へ広まっていった。そして当然の成り行きとして、ハンもこの事実を知り――。
「シェロ。一つ、確認しておきたい件がある」
友好条約締結から1ヶ月が経とうかと言う頃、ハンはシェロを呼び出した。
「なんスか?」
「近頃、お前が現地の人間と交流を持っていると言ううわさが、俺の耳にも入っている。これは事実か?」
「ええ、まあ、そうなるっスね」
「ごく親しくしているとも聞いたが、どう言う関係だ?」
「関係って、……まあ、友達みたいなもんスね」
「何のつもりだ?」
いきなりそう返され、シェロは面食らう。
「何のつもりって、何ですか? まるで俺が悪いコトしてるみたいな言い方じゃないっスか」
「悪いに決まってるだろう」
その決め付けた言い方に、普段――少なくとも、面と向かっては――不平を言わないシェロも、語気を荒くする。
「何が悪いんです? まさかまだ、『異文化交流は望ましくない』とか言うんですか? その話、エリザ先生にこき下ろされたの、もう忘れてるんスか?」
「異文化交流を行うこと自体は、俺も否定はしない。その価値があることは確かだ。
だが今回の件は、明らかに行き過ぎている。異邦の軍人が、現地の人間とみだりに親しくするものじゃない。ましてや恋愛関係も仄めいていると言う話もある。これは隊の規律を著しく乱すものだ。即刻、関係を解消しろ」
「は?」
異様な苛立ちを覚え、シェロは思わず怒鳴る。
「無茶苦茶じゃないっスか!? さっきも言いましたが、俺と彼女はそんな関係じゃ無いです。ただの友達ですよ。ちょっと仲良くするのもダメってコトですよね? そんなので交流とか、できるワケないでしょう?
そもそも『上から命令されたからもう会わないコトにする』って、俺がアホみたいじゃないっスか」
「命令に従わないと?」
「話にならないような命令に従う気はありません」
「ふざけてるのか?」
「ふざけてんのはアンタでしょう!?」
そう返した途端――がつっ、と痛々しい音を立てて、ハンがシェロの顔を殴り付けた。
「うぐっ……!」
シェロは床に倒れ込むも、ハンの顔を見上げ、にらみつける。その様子を冷ややかな目で眺めながら、ハンは淡々と続けた。
「命令不服従に加え、上官への不遜な言動が目立つ。お前をこのまま放置すれば、隊の規律が大きく乱れることは明らかだ。
こんなことは言いたくなかったが、以前からお前は――どうやら俺や仲間たちに聞こえないと思って――放言・暴言を吐いていたな。その態度も大いに問題だったが、これまで問題ある行動をしてこなかったから、不問にしていた。だが今回の件もある。一度しっかり、罰を与える必要が……」
そこまで告げたところで、締め切っていたドアがドンドンと激しく叩かれた。
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異邦の出逢い。
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まだ長々とぼやいているミェーチ将軍を尻目に、シェロはコップを手に取る。
「……っと」
が、空になっているのに気付き、新たに頼もうと手を挙げかけた。
「あ、飲み物ですね。注文します」
と、リディアが先に手を挙げる。
「(あ、ども。ありがとうござ、)……ん?」
そこでシェロは、リディアが自分たちの邦の言葉で話しかけてきたことに気付いた。
「今、あんた……」
「ええ。わたしたちの国に来られた商人の方から、少しだけ習いました。先程、(……ええと、興味があると言っていたでしょう? それで覚えたんです)」
「へぇ……」
「(まだ完璧ではありませんけどね)」
「(そんなコト無いですよ。普通に分かります)」
「(あら、そうですか? 嬉しいです)」
なおぐちぐちと語っているミェーチ将軍を放って、二人はこそこそと、シェロたちの国の言葉で話し始めた。
「今日は父がいるのであまり長居はできませんが、良ければ今度、二人で街へ行きませんか?」
「まあ、いいっスけど。でも俺、そっちまで行くのは時間的に無理っスよ」
「数日滞在する予定です。今週の末まで」
「あ、なら大丈夫スね」
「いつがよろしいかしら。明日はどうでしょう?」
「あー、明日も仕事ですけど、明後日なら非番なんで行けます」
「ひ……ばん?」
「休みってコトっス」
「では明後日に」
この日以来、リディアはしきりにシェロを訪ねるようになった。
シェロの方も、最初は会うこと自体面倒臭がっていたものの、何度も会ううち、それなりに親しく話し、共に街へ繰り出すようになっていった。
その光景が、あちこちで目撃されるにつれ――。
「見ました? シェロと……」
彼と親しい同僚のビートとマリアも、この無愛想な同僚をうわさするようになっていた。
「あー、見た見た。可愛い子連れてたよねー。リディアちゃんって言ったっけ」
「いや、名前までは……。どこで聞いたんです?」
「あたし、一回声掛けてみたんだよねー。二人が並んで歩いてるトコ見かけたから」
「そうなんですか?」
「なんかさ、見てたらリディアちゃんの方から追っかけてる感じだったけど、シェロもまんざらじゃないなって雰囲気だったんだよねー。って言うか、なんかもう付き合ってる感じなんじゃない?」
「有り得なくは無いと思いますが……、シェロが?」
「……ん、んー。言われてみたらちょっと無さそうな気もしてくるよねー。シェロだし」
「ですよねぇ……?」
本人たちをよそに、二人のうわさは周囲へ広まっていった。そして当然の成り行きとして、ハンもこの事実を知り――。
「シェロ。一つ、確認しておきたい件がある」
友好条約締結から1ヶ月が経とうかと言う頃、ハンはシェロを呼び出した。
「なんスか?」
「近頃、お前が現地の人間と交流を持っていると言ううわさが、俺の耳にも入っている。これは事実か?」
「ええ、まあ、そうなるっスね」
「ごく親しくしているとも聞いたが、どう言う関係だ?」
「関係って、……まあ、友達みたいなもんスね」
「何のつもりだ?」
いきなりそう返され、シェロは面食らう。
「何のつもりって、何ですか? まるで俺が悪いコトしてるみたいな言い方じゃないっスか」
「悪いに決まってるだろう」
その決め付けた言い方に、普段――少なくとも、面と向かっては――不平を言わないシェロも、語気を荒くする。
「何が悪いんです? まさかまだ、『異文化交流は望ましくない』とか言うんですか? その話、エリザ先生にこき下ろされたの、もう忘れてるんスか?」
「異文化交流を行うこと自体は、俺も否定はしない。その価値があることは確かだ。
だが今回の件は、明らかに行き過ぎている。異邦の軍人が、現地の人間とみだりに親しくするものじゃない。ましてや恋愛関係も仄めいていると言う話もある。これは隊の規律を著しく乱すものだ。即刻、関係を解消しろ」
「は?」
異様な苛立ちを覚え、シェロは思わず怒鳴る。
「無茶苦茶じゃないっスか!? さっきも言いましたが、俺と彼女はそんな関係じゃ無いです。ただの友達ですよ。ちょっと仲良くするのもダメってコトですよね? そんなので交流とか、できるワケないでしょう?
そもそも『上から命令されたからもう会わないコトにする』って、俺がアホみたいじゃないっスか」
「命令に従わないと?」
「話にならないような命令に従う気はありません」
「ふざけてるのか?」
「ふざけてんのはアンタでしょう!?」
そう返した途端――がつっ、と痛々しい音を立てて、ハンがシェロの顔を殴り付けた。
「うぐっ……!」
シェロは床に倒れ込むも、ハンの顔を見上げ、にらみつける。その様子を冷ややかな目で眺めながら、ハンは淡々と続けた。
「命令不服従に加え、上官への不遜な言動が目立つ。お前をこのまま放置すれば、隊の規律が大きく乱れることは明らかだ。
こんなことは言いたくなかったが、以前からお前は――どうやら俺や仲間たちに聞こえないと思って――放言・暴言を吐いていたな。その態度も大いに問題だったが、これまで問題ある行動をしてこなかったから、不問にしていた。だが今回の件もある。一度しっかり、罰を与える必要が……」
そこまで告げたところで、締め切っていたドアがドンドンと激しく叩かれた。
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今日の旅岡さん

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- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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リディアちゃん、どう見てもハニートラップ仕掛けてきた敵の工作員だけど、「ミイラ取りをミイラに」して、二重スパイにできれば万々歳だから、別に交際させてもいいんじゃないかなー、と考える、スパイ天国日本の住人であった(^-^;)
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リディアも恐らく、単純に「海の向こうの人たちが広めた美味しいご飯を食べてみたいな♡」程度のことしか考えてません。
語学勉強も十中八九、メニュー読むためなんでしょう。「蒼天剣」に出てきた女レスラーみたく。