「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・交差録 1
晴奈の話、第231話。
気になるアイツ?
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「うーむ」
その日も晴奈の座禅ははかどらなかった。じっと腰を落ち着け瞑想に入ろうとしても、どうしてもあの男の顔が頭に浮かんでくるからだ。
「うーむ」
「どうされたのです、セイナ?」
「うーむ」
フォルナが尋ねてきたが、晴奈は応えない。
「あの、セイナ」
「うーむ」
「うんうんうなってんじゃないよ、呪いの人形かアンタはっ」
見かねた朱海が、晴奈の頭をはたいた。
「あいたっ」
「どうしたんだよ、晴奈。ここんとこずっと、そんな調子じゃないか」
朱海もフォルナも、心配そうな顔で晴奈を見ている。
「あ、いえ。大したことではないのですが」
晴奈は先日、闘技場で見た狼獣人、ロウのことを説明した。
「ふーん……。昔のライバルに似た『狼』ねぇ」
「前に言っていた、ウィルバーと言う方にそっくりなのですか?」
晴奈は短くうなずき、またうなりだす。
「うーむ」
「うなるな」
「あ、失敬。……どうしても気になってしまって」
「気になる、ねぇ」
朱海は煙草に火を点けながら提案してみる。
「んじゃ会ってみたら? もっかい、確認してみりゃいーじゃん」
「……ふむ」
「それでは、わたくしもご一緒してみてよろしいかしら?」
フォルナが手を挙げる。
「うん?」
「そのウィルバーと言う方は何度か、セイナの話に上がってらしたので。一度、お顔を拝見してみたいと」
「まあ、その。本当にウィルなのか、確証はないのだが。それでもいいなら、一緒に来い」
「はいっ」
フォルナは嬉しそうに、晴奈の腕を取った。
ロウが住んでいると言う教会の住所を朱海から聞き(情報料10クラム)、晴奈とフォルナは連れ添って街を歩く。
「あ、セイナ。あの服、可愛いと思いませんこと?」
通りに並んだ服飾店を指差し、フォルナが晴奈の手を引く。
「ふむ。ヒラヒラしていて、少し動きにくいかも知れないな」
晴奈の反応に、フォルナはぷくっと頬を膨らませる。
「もう、そんな話ばっかり。たまには女の子を楽しめばよろしいのに」
「いやいや、これでも故郷にいた頃はそれなりに装っていたぞ。まあ、『刀が使いやすいこと』が前提ではあったが」
「そこは外せませんのね、クスクス……」
今度は一転、笑い出す。
「まあ、実を言ってしまうと」
「うん?」
「ウィルバーさんに会ってみたい、と言うのは口実ですの。本当はセイナと、久々にお散歩したいと思っておりまして」
「はは、そうか。ま、悪くは無い」
「……ねえ、セイナ。ひとつ、聞いておきたいのですけれど」
また表情を変えて尋ねてくるフォルナに、晴奈は足を止めて聞き返す。
「何だ、改まって」
「その、ウィルバーさんのこと、セイナはどう思ってらっしゃるの?」
「それは……、どう言う意味でだ?」
「ご友人と思っているのか、それとも相容れない敵なのか、もしくは……、想い人、とか」
「はは、想い人とは面白いな」
晴奈は笑って、それを否定する。
「それは、無いな。長い付き合いだったし、何だかんだ言って憎からず思っていたのは確かだ。それにあいつも二度、私に想いを告げてきたことがある。
が、私はあいつのことを好敵手と思ったことはあっても、相棒だ、伴侶だと思ったことは無い。どんな境遇だったとしても、どこまで行ったとしても、恐らくは友人どまりだろうな」
「あら、そうなのですか」
「不満そうだな。間に何かあって欲しかったのか?」
フォルナの言い方が引っかかり、晴奈は突っかかる。
「いいえ、別に。満足も不満もございませんわ」
「本当か? 何か、他意があるんじゃ……」「ございませんわ」
本当に他意はなかったらしく、フォルナは不機嫌な顔になった。
「そうか。まあ、変なことを言ったな」
「いいえ、別に気にしておりませんわ」
口ではそう言うものの、目はまだ多少不機嫌そうな色が見える。
「……そうか」「そうですわ」
少し気まずくなったので、二人はこれ以上この話を続けることは避けた。
余談になるが、晴奈はとりあえずフォルナの機嫌を直すため、可愛い帽子を買ってあげた。丸く、モコモコした白い毛並みの帽子で、帽子好きなフォルナの機嫌はすぐに直った。
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「うーむ」
その日も晴奈の座禅ははかどらなかった。じっと腰を落ち着け瞑想に入ろうとしても、どうしてもあの男の顔が頭に浮かんでくるからだ。
「うーむ」
「どうされたのです、セイナ?」
「うーむ」
フォルナが尋ねてきたが、晴奈は応えない。
「あの、セイナ」
「うーむ」
「うんうんうなってんじゃないよ、呪いの人形かアンタはっ」
見かねた朱海が、晴奈の頭をはたいた。
「あいたっ」
「どうしたんだよ、晴奈。ここんとこずっと、そんな調子じゃないか」
朱海もフォルナも、心配そうな顔で晴奈を見ている。
「あ、いえ。大したことではないのですが」
晴奈は先日、闘技場で見た狼獣人、ロウのことを説明した。
「ふーん……。昔のライバルに似た『狼』ねぇ」
「前に言っていた、ウィルバーと言う方にそっくりなのですか?」
晴奈は短くうなずき、またうなりだす。
「うーむ」
「うなるな」
「あ、失敬。……どうしても気になってしまって」
「気になる、ねぇ」
朱海は煙草に火を点けながら提案してみる。
「んじゃ会ってみたら? もっかい、確認してみりゃいーじゃん」
「……ふむ」
「それでは、わたくしもご一緒してみてよろしいかしら?」
フォルナが手を挙げる。
「うん?」
「そのウィルバーと言う方は何度か、セイナの話に上がってらしたので。一度、お顔を拝見してみたいと」
「まあ、その。本当にウィルなのか、確証はないのだが。それでもいいなら、一緒に来い」
「はいっ」
フォルナは嬉しそうに、晴奈の腕を取った。
ロウが住んでいると言う教会の住所を朱海から聞き(情報料10クラム)、晴奈とフォルナは連れ添って街を歩く。
「あ、セイナ。あの服、可愛いと思いませんこと?」
通りに並んだ服飾店を指差し、フォルナが晴奈の手を引く。
「ふむ。ヒラヒラしていて、少し動きにくいかも知れないな」
晴奈の反応に、フォルナはぷくっと頬を膨らませる。
「もう、そんな話ばっかり。たまには女の子を楽しめばよろしいのに」
「いやいや、これでも故郷にいた頃はそれなりに装っていたぞ。まあ、『刀が使いやすいこと』が前提ではあったが」
「そこは外せませんのね、クスクス……」
今度は一転、笑い出す。
「まあ、実を言ってしまうと」
「うん?」
「ウィルバーさんに会ってみたい、と言うのは口実ですの。本当はセイナと、久々にお散歩したいと思っておりまして」
「はは、そうか。ま、悪くは無い」
「……ねえ、セイナ。ひとつ、聞いておきたいのですけれど」
また表情を変えて尋ねてくるフォルナに、晴奈は足を止めて聞き返す。
「何だ、改まって」
「その、ウィルバーさんのこと、セイナはどう思ってらっしゃるの?」
「それは……、どう言う意味でだ?」
「ご友人と思っているのか、それとも相容れない敵なのか、もしくは……、想い人、とか」
「はは、想い人とは面白いな」
晴奈は笑って、それを否定する。
「それは、無いな。長い付き合いだったし、何だかんだ言って憎からず思っていたのは確かだ。それにあいつも二度、私に想いを告げてきたことがある。
が、私はあいつのことを好敵手と思ったことはあっても、相棒だ、伴侶だと思ったことは無い。どんな境遇だったとしても、どこまで行ったとしても、恐らくは友人どまりだろうな」
「あら、そうなのですか」
「不満そうだな。間に何かあって欲しかったのか?」
フォルナの言い方が引っかかり、晴奈は突っかかる。
「いいえ、別に。満足も不満もございませんわ」
「本当か? 何か、他意があるんじゃ……」「ございませんわ」
本当に他意はなかったらしく、フォルナは不機嫌な顔になった。
「そうか。まあ、変なことを言ったな」
「いいえ、別に気にしておりませんわ」
口ではそう言うものの、目はまだ多少不機嫌そうな色が見える。
「……そうか」「そうですわ」
少し気まずくなったので、二人はこれ以上この話を続けることは避けた。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
そう言えば、セイナとかも洋服を着ようとはするんですね。
ユキノも何か洋服を着せてあげようとは思っているんですけどね。まあ、何かあったものがあれば検討している最中ですね。もっとも、プレイベート用なので戦闘では着ませんけどね。
地域によって服の特色があったりするんでしょうかね。
ユキノも何か洋服を着せてあげようとは思っているんですけどね。まあ、何かあったものがあれば検討している最中ですね。もっとも、プレイベート用なので戦闘では着ませんけどね。
地域によって服の特色があったりするんでしょうかね。
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NoTitle
央南が和+中華文化の土地なので、晴奈たちが着るのもそういったものになってきます。
他にも、地域によって文化が違うので、着る服もそれによって変わります。
中央大陸で言えば、央北はアングロサクソン的、央中はラテン的な雰囲気で捉えています。
ちなみに。
「蒼天剣」中、晴奈が洋服を着るのは一回だけですね。