「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・虎交伝 6
神様たちの話、第190話。
くすぶる不満。
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6.
エリザになだめられたものの、シェロはこの件に対し、溜飲を下げることはできなかった。
「……って話だよ。ひどいだろ?」
「ええ、本当に」
ハンからの訓告があった翌日、シェロは街の食堂で、リディアに愚痴を吐いていた。
「その場でエリザ先生が治してくれたからもう、痛みとか無いんだけどさ、そんでもいきなりガツン、だぜ? やってらんねえよ」
「本当、ひどい人ですね。こちらの街の人、隊長さんを良く言う人も一杯いるけど、そんな話を聞いたら幻滅してしまいますね。わたしの父も、隊長さんには良い印象を抱いていないみたいですし」
「ああ……。公衆の面前でボッコボコにされてたしな。アレはマジでひどかった。アイツは『恥をかかさないよう最善を尽くした』っつってたけど、正直俺としちゃ、自慢にしか聞こえなかったよ。『本当は全部勝てたけど情けを見せて、いっこだけ勝たせてやった』みたいな感じでさ。恥をかかさないどころか、目一杯バカにしてるっつの。
本当にアイツ、嫌なヤツだよ。自分のコトを公明正大、正義の味方みたいに思ってるみたいだけど、周りにとっちゃ自分勝手な理屈を『絶対俺の方が正しい』って言い張って、ソレを無理矢理押し付けて回ってるような、うっとうしい勘違いバカなんだよ」
「まあ」
ハンをなじるシェロに、リディアはクスクスと笑って返す。
「思っていたほど、誠実な方でもないみたいですね」
「まったくだよ。もし俺がこのコトを……」
なおも愚痴を続けようとした、その瞬間――シェロの脳裏に、何かが瞬いた。
「……」
「どうしたんですか?」
「……いや、……ちょっと、思い付きがあって」
「なんですか?」
「例えばだけどさ、マジで俺が今回のコトを街や隊に広めたらさ、みんな尉官のコトを疑うよな。『こんなヤツに従って大丈夫か』って」
「有り得ますね」
「で、リディアちゃんの国の方でもまだ、尉官や遠征隊は信用され切ってないだろ?」
「そうみたいです」
「ってコトは、尉官に関して何か問題があるって知れたら、友好条約結んだっつっても反発するヤツが出てくるよな?」
「と言うより、現在もまだ揉めてますよ。賛成派と反対派、半々と言うところでしょうか。陛下も民意を得るのに苦労されてると、父が言ってましたし」
「そっか……」
シェロはテーブルから立ち上がり、リディアの手をつかむ。
「な、なんですか?」
「今から君の親父さんに会って話をしたいんだけど、行けるかな?」
「父なら家に帰れば会えるはずですけど、でも、遠いですよ」
「いいんだ。……いっこ、思い付いたコトがあるんだ。もしかしたら俺が天下取れるかも知れないって感じの」
この3時間ほど後――ハンは王宮の会議室で、エリザとクーに挟まれるような形で、席に座らされていた。
「それで、話とは?」
尋ねたハンに、エリザが肩をすくめつつ、やんわりとした口調で返す。
「昨日の今日やで。忘れたワケやないやろ?」
「規律を定めようと言う話ですか。会議を行うと言うのであれば参加することには吝かではありません。ですが……」「ま、その話する前にな」
ハンをさえぎり、エリザは椅子から立ち上がり、ハンの側に寄る。
「昨日言うたコトをもう一回繰り返すのんもめんどいから言わんとくけども、アンタはアレで、わだかまりやら滞りやら何も起こらんと思うんか?」
「と言うと?」
「言い分をいっこも聞かんで『俺の言うコト聞け』言うてブン殴って、ソレでシェロくんが恨まへんと思うんか?」
「確かに、無いとは言えません。ですがシェロは軍務に忠実な人間です。決して私心を持ち込んだりは……」「アホなコト言いなや」
ぴしゃりとさえぎり、エリザは真面目な顔になった。
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くすぶる不満。
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6.
エリザになだめられたものの、シェロはこの件に対し、溜飲を下げることはできなかった。
「……って話だよ。ひどいだろ?」
「ええ、本当に」
ハンからの訓告があった翌日、シェロは街の食堂で、リディアに愚痴を吐いていた。
「その場でエリザ先生が治してくれたからもう、痛みとか無いんだけどさ、そんでもいきなりガツン、だぜ? やってらんねえよ」
「本当、ひどい人ですね。こちらの街の人、隊長さんを良く言う人も一杯いるけど、そんな話を聞いたら幻滅してしまいますね。わたしの父も、隊長さんには良い印象を抱いていないみたいですし」
「ああ……。公衆の面前でボッコボコにされてたしな。アレはマジでひどかった。アイツは『恥をかかさないよう最善を尽くした』っつってたけど、正直俺としちゃ、自慢にしか聞こえなかったよ。『本当は全部勝てたけど情けを見せて、いっこだけ勝たせてやった』みたいな感じでさ。恥をかかさないどころか、目一杯バカにしてるっつの。
本当にアイツ、嫌なヤツだよ。自分のコトを公明正大、正義の味方みたいに思ってるみたいだけど、周りにとっちゃ自分勝手な理屈を『絶対俺の方が正しい』って言い張って、ソレを無理矢理押し付けて回ってるような、うっとうしい勘違いバカなんだよ」
「まあ」
ハンをなじるシェロに、リディアはクスクスと笑って返す。
「思っていたほど、誠実な方でもないみたいですね」
「まったくだよ。もし俺がこのコトを……」
なおも愚痴を続けようとした、その瞬間――シェロの脳裏に、何かが瞬いた。
「……」
「どうしたんですか?」
「……いや、……ちょっと、思い付きがあって」
「なんですか?」
「例えばだけどさ、マジで俺が今回のコトを街や隊に広めたらさ、みんな尉官のコトを疑うよな。『こんなヤツに従って大丈夫か』って」
「有り得ますね」
「で、リディアちゃんの国の方でもまだ、尉官や遠征隊は信用され切ってないだろ?」
「そうみたいです」
「ってコトは、尉官に関して何か問題があるって知れたら、友好条約結んだっつっても反発するヤツが出てくるよな?」
「と言うより、現在もまだ揉めてますよ。賛成派と反対派、半々と言うところでしょうか。陛下も民意を得るのに苦労されてると、父が言ってましたし」
「そっか……」
シェロはテーブルから立ち上がり、リディアの手をつかむ。
「な、なんですか?」
「今から君の親父さんに会って話をしたいんだけど、行けるかな?」
「父なら家に帰れば会えるはずですけど、でも、遠いですよ」
「いいんだ。……いっこ、思い付いたコトがあるんだ。もしかしたら俺が天下取れるかも知れないって感じの」
この3時間ほど後――ハンは王宮の会議室で、エリザとクーに挟まれるような形で、席に座らされていた。
「それで、話とは?」
尋ねたハンに、エリザが肩をすくめつつ、やんわりとした口調で返す。
「昨日の今日やで。忘れたワケやないやろ?」
「規律を定めようと言う話ですか。会議を行うと言うのであれば参加することには吝かではありません。ですが……」「ま、その話する前にな」
ハンをさえぎり、エリザは椅子から立ち上がり、ハンの側に寄る。
「昨日言うたコトをもう一回繰り返すのんもめんどいから言わんとくけども、アンタはアレで、わだかまりやら滞りやら何も起こらんと思うんか?」
「と言うと?」
「言い分をいっこも聞かんで『俺の言うコト聞け』言うてブン殴って、ソレでシェロくんが恨まへんと思うんか?」
「確かに、無いとは言えません。ですがシェロは軍務に忠実な人間です。決して私心を持ち込んだりは……」「アホなコト言いなや」
ぴしゃりとさえぎり、エリザは真面目な顔になった。
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