「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・虎交伝 7
神様たちの話、第191話。
大混乱の端緒。
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7.
エリザはいつになく真剣な目でハンを見据えつつ、こう尋ねてくる。
「その軍務を蹴る気になるくらいムカついとったら、アンタどないすんねんや」
「蹴る? 隊を抜けて、野に下ると言う意味ですか? それこそ有り得ないでしょう。異邦の地でそんなことをして、どこに行くんです」
「重ね重ねアホなコトを……。
ええか、シェロくんはリディアちゃん……、こっちの子と親しくなっとる。ちゅうコトは、こっちで十分馴染めるっちゅうコトや。もしアンタの下でやってられるかボケっちゅう気ぃになったら、そのままその娘のトコに転がり込んで生活でけてしまうんやで」
「まさか……」
「有り得へんと思うんか? ソレはどんな理屈や? 『自分が世話してやった義理を忘れて逃げるワケない』言うんか? 昨日、アンタが言うコト聞かずにブン殴りよったのにか? ソレで恩情残っとったら、大したお人好しやで」
「それで、ハン」
クーも立ち上がり、ハンの手を取る。
「シェロに、謝罪はされたのかしら?」
「いや……。昨夜はそのまま寝てしまったし、今日はあいつが非番で会う機会が無いから」
「では今すぐ、謝りなさい。探し出してでも、シェロに頭を下げるべきです」
「……考えとくよ」
「三度もアホや言わせる気か?」
エリザもハンの耳をつかみ、ぎゅうっとつねる。
「悪いコトしたらさっさと謝るんが正しいコトとちゃうんか? ソレとも無かったコトにしてごまかすんがアンタの正義か?」
「う……」
二人に責められ、ようやくハンも折れた。
「分かりましたよ。今から探して謝りに行きます。それでいいでしょう?」
「よっしゃ。ほな今から行くで」
「え? エリザさんも来るんですか?」
「アンタとシェロくんの二人きりやと、また話こじれるやろ」
「……否定できないのが非常に心苦しいですね」
クーも交え、3人は宿舎や修練場、街など、あちこちを回ってシェロを探したが――。
「おらへんね」
「いらっしゃいそうなところは全て、確認したはずですけれど」
「まさか本当に、離隊したと……?」
つぶやいたハンに、エリザが神妙な顔をしつつこう返す。
「コレはひょっとしたら、まずいコトになっとるかも分からんで」
「まずい?」
「アタシもシェロくんのコトは聞いとるし、人となりもソレなりに知っとるからな。あの子は元々、『機あらばデカいコトやったるで』ってタイプやし、そうせなアカンと思い込んどる。アンタも分かるやろ?」
「あいつの経歴に関しては、俺も親父たちから聞いた情報しかありませんが、本人を見る限りでは確かに、そうした野心があるように思えますね」
「せやろ?」
「あの」
二人の会話を聞いていたクーが手を挙げる。
「シェロには何か、込み入った事情があるように伺えるのですけれど、お二人はご存知なのですか?」
「ん? ああ、まあな」
ハンがうなずき、エリザが話を継ぐ。
「シェロくんのお父さんが、生前あんまりええ目を見いひんかってな。ほんでシェロくんが、『俺が名を挙げたる』っちゅうて、軍に入らはったんよ。で、シェロくんのお父さんと仲良かったゲートがハンくんのトコに『面倒見たり』って寄越さはってな」
「そう言うことだ。
しかしエリザさん、あいつが離隊したとして、どう名を挙げると? 確かにここでの生活が不可能では無さそうだと言うことは理解できます。ですが名を挙げる、立身出世していくとなれば、現地の権力者と何かしらのつながりを持つか、もしくは自分が権力を奪取するしかありません。そんな知り合いがいるとは思えませんし、ましてやシェロ一人でそんなことができるとは……」
「アンタはシェロくんのコトを一から十、何から何まで全部知っとるんか? こうして非番の日、ドコにおるかも分からん体たらくでか?」
「む……」
「アタシらの知らんトコで、そう言う権力者に接触しとるかも分からんやないの。ともかく不穏な事態っちゅうヤツやで、コレは。早いトコ、シェロくんを探し出して……」
と――通りの向こうから、慌てた様子の兵士たちがバタバタと走り寄ってくる。
「どうした?」
尋ねたハンに、兵士たちが息せき切って答える。
「(て、帝国です! 帝国兵が近隣の街道で破壊工作を……!)」
「何だって!?」
強襲を報告され、ハンの顔色は普段より一際、青く染まった。
琥珀暁・虎交伝 終
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大混乱の端緒。
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エリザはいつになく真剣な目でハンを見据えつつ、こう尋ねてくる。
「その軍務を蹴る気になるくらいムカついとったら、アンタどないすんねんや」
「蹴る? 隊を抜けて、野に下ると言う意味ですか? それこそ有り得ないでしょう。異邦の地でそんなことをして、どこに行くんです」
「重ね重ねアホなコトを……。
ええか、シェロくんはリディアちゃん……、こっちの子と親しくなっとる。ちゅうコトは、こっちで十分馴染めるっちゅうコトや。もしアンタの下でやってられるかボケっちゅう気ぃになったら、そのままその娘のトコに転がり込んで生活でけてしまうんやで」
「まさか……」
「有り得へんと思うんか? ソレはどんな理屈や? 『自分が世話してやった義理を忘れて逃げるワケない』言うんか? 昨日、アンタが言うコト聞かずにブン殴りよったのにか? ソレで恩情残っとったら、大したお人好しやで」
「それで、ハン」
クーも立ち上がり、ハンの手を取る。
「シェロに、謝罪はされたのかしら?」
「いや……。昨夜はそのまま寝てしまったし、今日はあいつが非番で会う機会が無いから」
「では今すぐ、謝りなさい。探し出してでも、シェロに頭を下げるべきです」
「……考えとくよ」
「三度もアホや言わせる気か?」
エリザもハンの耳をつかみ、ぎゅうっとつねる。
「悪いコトしたらさっさと謝るんが正しいコトとちゃうんか? ソレとも無かったコトにしてごまかすんがアンタの正義か?」
「う……」
二人に責められ、ようやくハンも折れた。
「分かりましたよ。今から探して謝りに行きます。それでいいでしょう?」
「よっしゃ。ほな今から行くで」
「え? エリザさんも来るんですか?」
「アンタとシェロくんの二人きりやと、また話こじれるやろ」
「……否定できないのが非常に心苦しいですね」
クーも交え、3人は宿舎や修練場、街など、あちこちを回ってシェロを探したが――。
「おらへんね」
「いらっしゃいそうなところは全て、確認したはずですけれど」
「まさか本当に、離隊したと……?」
つぶやいたハンに、エリザが神妙な顔をしつつこう返す。
「コレはひょっとしたら、まずいコトになっとるかも分からんで」
「まずい?」
「アタシもシェロくんのコトは聞いとるし、人となりもソレなりに知っとるからな。あの子は元々、『機あらばデカいコトやったるで』ってタイプやし、そうせなアカンと思い込んどる。アンタも分かるやろ?」
「あいつの経歴に関しては、俺も親父たちから聞いた情報しかありませんが、本人を見る限りでは確かに、そうした野心があるように思えますね」
「せやろ?」
「あの」
二人の会話を聞いていたクーが手を挙げる。
「シェロには何か、込み入った事情があるように伺えるのですけれど、お二人はご存知なのですか?」
「ん? ああ、まあな」
ハンがうなずき、エリザが話を継ぐ。
「シェロくんのお父さんが、生前あんまりええ目を見いひんかってな。ほんでシェロくんが、『俺が名を挙げたる』っちゅうて、軍に入らはったんよ。で、シェロくんのお父さんと仲良かったゲートがハンくんのトコに『面倒見たり』って寄越さはってな」
「そう言うことだ。
しかしエリザさん、あいつが離隊したとして、どう名を挙げると? 確かにここでの生活が不可能では無さそうだと言うことは理解できます。ですが名を挙げる、立身出世していくとなれば、現地の権力者と何かしらのつながりを持つか、もしくは自分が権力を奪取するしかありません。そんな知り合いがいるとは思えませんし、ましてやシェロ一人でそんなことができるとは……」
「アンタはシェロくんのコトを一から十、何から何まで全部知っとるんか? こうして非番の日、ドコにおるかも分からん体たらくでか?」
「む……」
「アタシらの知らんトコで、そう言う権力者に接触しとるかも分からんやないの。ともかく不穏な事態っちゅうヤツやで、コレは。早いトコ、シェロくんを探し出して……」
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「どうした?」
尋ねたハンに、兵士たちが息せき切って答える。
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おお、根性見せましたな。
敵の工作員のリディアちゃんがシェロ君をたきつけてこういう結果になる、ということは考えてましたが、
リディアちゃんが工作員でも何でもない普通の娘でありながらこういう結果になる、ということはさすがに考えてませんでした(笑)
さすが神様の時代だけあっておおらかです(^^)
敵の工作員のリディアちゃんがシェロ君をたきつけてこういう結果になる、ということは考えてましたが、
リディアちゃんが工作員でも何でもない普通の娘でありながらこういう結果になる、ということはさすがに考えてませんでした(笑)
さすが神様の時代だけあっておおらかです(^^)
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