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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第4部

    琥珀暁・信揺伝 1

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    神様たちの話、第192話。
    緊急出動。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     帝国兵強襲の報を受け、ハンは大慌てで部下を集め、迎撃準備を整えていた。
    「尉官、状況を教えて下さーい。あと、シェロどこでしょ? ビートは見かけましたけど」
     その途中で、自分の補佐であるマリアに状況を尋ねられるが、少なからず冷静さを失っていたハンは乱暴に答える。
    「後で説明する! シェロは放っておけ! 探さなくていい!」
    「えっ? や、そうじゃなくて! いないんですか!?」
    「知らん!」
     が、マリアが突っかかる。
    「尉官! 尉官って! ちょっと、尉官てばー!」
    「何だ!?」
    「いきなり襲って来たって聞かされてビックリしてるのはよぉーく分かりましたから、一回すーっと深呼吸して、ちゃんと落ち着いて下さい! いつものかっちりクールで冷静なハンニバル・シモン尉官はどうしたんですか!?」
    「……っと、……そうだな、……確かにそうだ」
     廊下を進む歩は緩めないまでも、ハンは呼吸を整え、答え直す。
    「シェロは見当たらない。事情があって探していたんだが、宿舎にも街にも、どこにもいなかったんだ。王国の兵士に頼んで招集はかけさせたが、非番と言うこともあるから、こっちに間に合わないかもな」
    「はーい、いつもの尉官で良かったです」
     マリアも歩調を合わせ、ハンに状況を確認する。
    「現場はどこです? 近くですか?」
    「ノルド王国とこちらを結ぶ街道の、丁度中間の辺りとのことだ。今から出撃しても、半日以上かかるだろう」
    「ノルド王国からは何か言ってきてます?」
    「友好条約を結んだとは言え、魔術通信兵は向こうに送ってないからな。即時連絡を取り合うことは不可能だ。伝令を送るにしても、街道の中間地点に敵が陣取っているとなれば、話を聞くのは難しい。仮に到着できたとしても、俺たちが現場に出動する前に返事が来ることは無いだろう。
     どちらにしても向こうとの連絡は、問題が解決し次第になる」
    「その友好条約のことなんですけどー、帝国が攻めてきた場合の取り決めって確か、『応援の要請があれば、適当な対価を支払うことを約束した上で助太刀する』ってゆーよーなこと言ってましたよね。向こうからの要請が確認できないまま、行っちゃっていいんでしょうか?」
    「街道となれば、クラム王国にも被害が出る可能性がある。となれば『自国防衛』のため動くことになるし、それは友好条約に抵触しない。だから自軍を動かしても、両国の政治関係に何ら影響は無い、……と言う見解だな。エリザさんも同意見だ。
     他に不明点はあるか?」
    「だいたい了解ですー。じゃ、あたしも準備整えてきますねー」
    「よろしく頼む」

     ハンと遠征隊、そしてクラム王国の兵士による混成軍は、限られた時間で最低限迎撃できるだけの装備と人員を揃え、大慌てで街道の破壊工作が行われているはずの現場に出動した。
     ところが――。
    「確認する。ここだな?」
    「はい。巡回していた兵士から、この付近で帝国兵らしき人間が、大量の岩を街道に運んでいるのを確認したと」
    「確かにその話なら、岩で街道を分断しようとしている、と予測はできる。巡回していた兵士は、実際にその状況を確認したのか?」
    「取り急ぎ、報告に戻ったとのことでしたので、もしかしたらその確認までは……」
    「だろうな」
     ハンは街道の上に乗った小石の帯をじゃりじゃりと踏みにじりつつ、ため息をついた。
    「確かに帝国兵だったのか?」
    「兵装や身なりから判断したものと思われます」
     困り顔で応答する兵士にうなずきつつ、ハンは腕を組んで思案に暮れる。
    「……そうだな。そこは疑う余地が無い。仮に帝国兵のふりをした者がいたとして、わざわざそうするような理由も思い当たらないしな。となると、帝国兵が俺たちをここにおびき寄せたと言うことか?
     ビート、グリーンプール本営からは何か言ってきてるか?」
     魔術通信を担当していたビートに尋ねるが、彼は首を横に振る。
    「いえ、何も」
    「確認してみてくれないか? 何か異常は無いかって」
    「分かりました。『トランスワード:HQ』、応答されたし、応答されたし。
     ……ええ、ハーベイ一等兵です。そちらで何か異常はありましたか? ……はあ、……ええ、……いや、こちらで何も目立ったことが無かったので、……ええ、……それで陽動じゃないかって、……あ、そうですか。
     尉官、向こうも異常無しだそうです」
    「そうか。……じゃあこれは一体、何なんだ?」
     誰に問うでも無くそうつぶやいたハンに、ビートも、マリアも、他の兵士たちも、何も答えられなかった。



     結局、この出動は完全な空振りに終わり、ハンをはじめとする兵士たちの誰もが、憮然とした心持ちでグリーンプールへと帰還した。
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