「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・信揺伝 4
神様たちの話、第195話。
もうひとりの、おふくろの味。
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4.
食堂に着いたところで、エリザがエプロン姿で厨房から姿を現した。
「もうでけとるで。早よ座り」
「え? エリザさん、もしかして料理作ってたんですか?」
ハンは思わずそう尋ね、エリザがニヤニヤと笑って返す。
「久しぶりやろ。アンタが学校卒業した時以来か?」
「そう言えばそうですね。航海中もこっちに来てからも、料理してるところは見てませんし」
「鈍ってへんとええんやけどな」
そう言って、エリザは厨房へ引き返す。
「さあ、ハン。早く着席なさい」
「あ、ああ」
クーに手を引かれるまま、ハンは席に着く。間も無く、エリザが料理を盆に乗せてやって来る。
「どないやろ」
ハンの前に盆を置いて、エリザが尋ねる。
「色々、驚いてます」
食堂に来るまで鬱屈していた気分がすっと晴れていくのを感じながら、ハンは笑みを返す。
「あの時のメニュー、よく覚えてましたね」
「アハハハ」
「こっちの食材で、よくこんなに再現できましたね」
「せやろ」
「……あの、……それで」
「ええから早よ食べ。冷めてまうで」
「あ、……はい、いただきます」
急かされるまま、ハンは料理を口に運ぶ。
「……」
そこから最後の一口に至るまで、ハンは何もしゃべらなかった。
すべて平らげたところで、エプロン姿のまま対面に座っていたエリザが尋ねてくる。
「落ち着いたか?」
「……ええ。とても」
「アンタ、ここ数日死にそうな顔しとったもんな。相当参っとったやろ」
「そうですね。思い返してみれば正直、参ってました」
「そう言う時はご飯やで。美味いもん食べへんでカツカツ働いとると、人間すぐ参ってまうからな。
……で、ちょと真面目な話するけども」
そう前置きし、エリザはこんなことを言い出した。
「色々アタシの方でも調べたけどもな、どうもシェロくん、ノルド王国におるみたいやわ」
「え?」
「アタシの先生が『火の無いところに煙は立たぬ』っちゅうコトを言うてたけども――人間が生きて動いとる限りは、必ずドコかに痕跡が残るもんや。
店におる丁稚さんらに、こっちやら向こうやらで露店商売させがてら偵察してもろてたらな、すぐ見つかったわ。多分、巡回しとる兵隊さんやら遠征隊の斥候さんやらにはめっちゃ気ぃ使うとるんやろけども、街中でちょこっと顔合わせる程度の丁稚さんまでは、流石に気ぃ回らんのやろな」
「あいつは今、どうしてるんです?」
尋ねたハンに、エリザは笑いながら答える。
「コレが傑作なんやけどもな、ちょくちょく露店に来て冷やかししたり細々(こまごま)したん買うたりしとるんよ。シェロくんと同いくらいの、可愛い女の子と一緒にな」
「女の子……。以前に言っていた、リディアとか言う娘のことですか」
「さっ、ソコや。この娘のコトも調べてみたら、まあコレが驚きの事実っちゅうヤツや。本名はリディア・ミェーチ言うてな、あのエリコ・ミェーチ将軍の一人娘やねん」
「なっ……!?」
この情報を聞き、ハンも、そして隣で一緒に食事していたクーも、揃って声を上げた。
「では、シェロは今、ミェーチ将軍のところで生活なさっていると?」
「今んトコ、ヒモみたいなもんやけどな。せやけども、ちょと不穏なコト言うてたって丁稚さんから聞いてな」
「不穏?」
「そのリディアちゃんと買い物しとる時にな、『あと一ヶ月もすれば、俺は英雄になってるから』って言うてたらしいねん」
「それは確かに不穏ですね」
ハンがうなずく一方で、クーが尋ねる。
「でも『英雄になる』とはどう言う意味でしょうか? そんなことを仰るからには、何か業績を挙げる必要がございますでしょう?」
「ハンくんの評判下げるうわさ流したんは、間違い無くシェロくんや。となれば、ハンくんをどうにかして打ち倒し、その座に取って代わろうくらいのコトは思てておかしない。実際、今のハンくんの評判はごっつ悪い。ココで何かしら、シェロくんの株が上がるような事件が起きたら、そら英雄扱いされるやろな。
……っちゅうトコまでは推理でけたし、今、その筋で何や仕掛けてへんか、探りを入れてるトコや」
「その筋?」
「シェロくんは自分が殴られた話を大げさに言うて回って、ハンくんを貶(おとし)めよった。もしかしたら帝国兵が来て妨害工作っぽいのしとったっちゅうアレも、シェロくんが将軍のツテ使て仕掛けたコトかも分からん。タイミング良すぎるからな。
ちゅうコトは、相手の基本戦略、基本戦法は『風説の流布』――あるコトないコトわーわー叫び回って、世論や皆の関心を、自分に都合のええようにいじっとるんや。せやから近いうち、またとんでもないうわさが流れるはずや。
そう、例えば『うわ、もうハンニバル・シモンの下になんかいとうないわ』と思わせるに足るような、えげつないうわさがな」
「なるほど……」
エリザの予想は、ある程度までは的中した。
だが一点、外れていたのは――支持を決定的に落とさせる相手が、ハンだけでは無かったことだった。
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もうひとりの、おふくろの味。
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4.
食堂に着いたところで、エリザがエプロン姿で厨房から姿を現した。
「もうでけとるで。早よ座り」
「え? エリザさん、もしかして料理作ってたんですか?」
ハンは思わずそう尋ね、エリザがニヤニヤと笑って返す。
「久しぶりやろ。アンタが学校卒業した時以来か?」
「そう言えばそうですね。航海中もこっちに来てからも、料理してるところは見てませんし」
「鈍ってへんとええんやけどな」
そう言って、エリザは厨房へ引き返す。
「さあ、ハン。早く着席なさい」
「あ、ああ」
クーに手を引かれるまま、ハンは席に着く。間も無く、エリザが料理を盆に乗せてやって来る。
「どないやろ」
ハンの前に盆を置いて、エリザが尋ねる。
「色々、驚いてます」
食堂に来るまで鬱屈していた気分がすっと晴れていくのを感じながら、ハンは笑みを返す。
「あの時のメニュー、よく覚えてましたね」
「アハハハ」
「こっちの食材で、よくこんなに再現できましたね」
「せやろ」
「……あの、……それで」
「ええから早よ食べ。冷めてまうで」
「あ、……はい、いただきます」
急かされるまま、ハンは料理を口に運ぶ。
「……」
そこから最後の一口に至るまで、ハンは何もしゃべらなかった。
すべて平らげたところで、エプロン姿のまま対面に座っていたエリザが尋ねてくる。
「落ち着いたか?」
「……ええ。とても」
「アンタ、ここ数日死にそうな顔しとったもんな。相当参っとったやろ」
「そうですね。思い返してみれば正直、参ってました」
「そう言う時はご飯やで。美味いもん食べへんでカツカツ働いとると、人間すぐ参ってまうからな。
……で、ちょと真面目な話するけども」
そう前置きし、エリザはこんなことを言い出した。
「色々アタシの方でも調べたけどもな、どうもシェロくん、ノルド王国におるみたいやわ」
「え?」
「アタシの先生が『火の無いところに煙は立たぬ』っちゅうコトを言うてたけども――人間が生きて動いとる限りは、必ずドコかに痕跡が残るもんや。
店におる丁稚さんらに、こっちやら向こうやらで露店商売させがてら偵察してもろてたらな、すぐ見つかったわ。多分、巡回しとる兵隊さんやら遠征隊の斥候さんやらにはめっちゃ気ぃ使うとるんやろけども、街中でちょこっと顔合わせる程度の丁稚さんまでは、流石に気ぃ回らんのやろな」
「あいつは今、どうしてるんです?」
尋ねたハンに、エリザは笑いながら答える。
「コレが傑作なんやけどもな、ちょくちょく露店に来て冷やかししたり細々(こまごま)したん買うたりしとるんよ。シェロくんと同いくらいの、可愛い女の子と一緒にな」
「女の子……。以前に言っていた、リディアとか言う娘のことですか」
「さっ、ソコや。この娘のコトも調べてみたら、まあコレが驚きの事実っちゅうヤツや。本名はリディア・ミェーチ言うてな、あのエリコ・ミェーチ将軍の一人娘やねん」
「なっ……!?」
この情報を聞き、ハンも、そして隣で一緒に食事していたクーも、揃って声を上げた。
「では、シェロは今、ミェーチ将軍のところで生活なさっていると?」
「今んトコ、ヒモみたいなもんやけどな。せやけども、ちょと不穏なコト言うてたって丁稚さんから聞いてな」
「不穏?」
「そのリディアちゃんと買い物しとる時にな、『あと一ヶ月もすれば、俺は英雄になってるから』って言うてたらしいねん」
「それは確かに不穏ですね」
ハンがうなずく一方で、クーが尋ねる。
「でも『英雄になる』とはどう言う意味でしょうか? そんなことを仰るからには、何か業績を挙げる必要がございますでしょう?」
「ハンくんの評判下げるうわさ流したんは、間違い無くシェロくんや。となれば、ハンくんをどうにかして打ち倒し、その座に取って代わろうくらいのコトは思てておかしない。実際、今のハンくんの評判はごっつ悪い。ココで何かしら、シェロくんの株が上がるような事件が起きたら、そら英雄扱いされるやろな。
……っちゅうトコまでは推理でけたし、今、その筋で何や仕掛けてへんか、探りを入れてるトコや」
「その筋?」
「シェロくんは自分が殴られた話を大げさに言うて回って、ハンくんを貶(おとし)めよった。もしかしたら帝国兵が来て妨害工作っぽいのしとったっちゅうアレも、シェロくんが将軍のツテ使て仕掛けたコトかも分からん。タイミング良すぎるからな。
ちゅうコトは、相手の基本戦略、基本戦法は『風説の流布』――あるコトないコトわーわー叫び回って、世論や皆の関心を、自分に都合のええようにいじっとるんや。せやから近いうち、またとんでもないうわさが流れるはずや。
そう、例えば『うわ、もうハンニバル・シモンの下になんかいとうないわ』と思わせるに足るような、えげつないうわさがな」
「なるほど……」
エリザの予想は、ある程度までは的中した。
だが一点、外れていたのは――支持を決定的に落とさせる相手が、ハンだけでは無かったことだった。
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自分はちょくちょくセルフオマージュしてます。
こっちの人名をあっちに出したり、あっちの話をこっちで引用したり。
自分はちょくちょくセルフオマージュしてます。
こっちの人名をあっちに出したり、あっちの話をこっちで引用したり。



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