「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・信揺伝 5
神様たちの話、第196話。
狂言と風説。
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5.
強襲騒ぎから半月も経とうかと言う頃になり、ハンに関する悪いうわさも、ノルド王国に届き始めていた。
「(なんと、あの隊長殿が……?)」
「(隣国はそのうわさで持ち切りのようです。既に巷では、反シモンの声も上がってきているとか)」
家臣の報告に、ノルド王は腕を組んでうなる。
「(ううむ……。祭りや会議の時には廉潔な男と思っておったが、もしうわさが事実だとすれば、手放しで信用できるような相手では無いな。
いや、とは言え友好条約に関しては、結んで間違いは無かったであろう。仮に隊長殿が悪漢であったとしても、エリザ女史は到底、そうは思えぬからな。万が一隊長殿が暴走したとて、きっとエリザ女史が収めるであろう)」
「(であればよいのですが)」
と――そこへ突然、ミェーチ将軍がずかずかと、荒い靴音を立てて現れた。
「(殿! お尋ね申したい件がございます!)」
「(なんだ、エリコ? 唐突に……)」
いぶかしげな顔をするノルド王に、ミェーチ将軍は大声で、こんなことを言い出した。
「(先の帝国兵強襲の一件、殿のご指示であったと言うのは本当ですか!?)」
「(……は?)」
ノルド王も、周りの家臣たちも、一様にきょとんとしているが、ミェーチ将軍は構う様子も無くまくし立てる。
「(なんでも、『殿は友好条約の内容に不満を感じ、帝国との復縁を図ろうとしている』と言うではございませぬか! 既に市井では騒ぎになっておりますぞ! 曰く、殿は『卑劣にも両方と手を組まんとする日和見者』と評されておりまする!
ここではっきりお答えいただきたい! 一体、殿はどちらの味方に付くおつもりですか!?)」
「(な……、え……? いや、わし、そんなこと、知りもせんぞ?)」
目を白黒させているノルド王に、ミェーチ将軍はなおも詰め寄る。
「(ごまかすおつもりか!? ここで殿が事実を詳(つまび)らかにできぬとあらば、吾輩は世にその信を問いますぞ!)」
「(そ、それは、……どう言う意味だ?)」
「(市井に呼びかけ、殿に付き従う者がいるか広く問うのです! 此度の一件に正義があるのならば、人民は殿を選ぶでしょう! しかし万一、従えぬと言う者が多数現れるのならば……)」
そこまで畳み掛けたところで、武装した兵士たちがわらわらと、ミェーチ将軍の後に続く形で現れる。
場の空気が物々しいものになり、家臣団が一様に戦慄した表情を浮かべたところで、ミェーチ将軍はこう言い捨てた。
「(吾輩は必ずや、真の正義を世に、そして殿ご自身に知らしめて見せますぞ!)」
「(まっ、待て、エリコ! お主まさか、わしに楯突くと言うのか!?)」
ノルド王は顔を真っ赤にして立ち上がり、怒鳴りつけるが――瞬時に兵士たちが武器を構え、牽制する。
「(う……ぐ)」
ノルド王は今の今まで安穏と玉座に座っており、武装などしていない。また、王の御前であるため、家臣たちもまともな武器を携帯していない。対抗できる者が数名の近衛兵しかおらず、王も家臣たちも、ミェーチ将軍の振る舞いを黙って見ていることしかできないでいた。
「(吾輩が必ずや、正義がどこにあるのかを明らかにしてみせますぞ! では失敬いたす!)」
硬直したままの王と家臣に背を向け、ミェーチ将軍と兵士たちは悠々と、その場から立ち去った。
宣言した通り、ミェーチ将軍は街中で同様のことを声高に語り、王を非難した。「帝国と決別したはずの王が密かに通じていた」と言うこの怪情報を聞くなり、人々は騒然となる。
「(……であるからして、吾輩は正義を糺すべく、行動を起こすものである! 来たれ、人民! 吾輩の軍門に集うのだ!)」
ざわめく民衆にくるっと背を向け、ミェーチ将軍とその部下たちはぞろぞろと、彼の屋敷へと戻って行く。
と、その途中で、ミェーチ将軍の側にそっと、シェロがやって来た。
「(名演説でしたよ、閣下)」
「(うむ)」
他の者に聞かれないよう、二人は小声で話す。
「(しかしシェロ、本当にこれで良かったものか。吾輩は主君と民衆をだましているような気になってしまうのだが)」
「(結果的には本当のコトになります。うわさになれば、嘘が真実を駆逐するものですから)」
「(確かにそうだ。今や、あの隊長殿は唾棄すべき悪漢と化したわけだからな。
であればいずれ、王も民衆の非難を受けることになるのだろうな。いわれなき非難を)」
「(そのコトは、公言なさらぬよう。バレれば悪者が我々になってしまいますから)」
「(承知しておる)」
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強襲騒ぎから半月も経とうかと言う頃になり、ハンに関する悪いうわさも、ノルド王国に届き始めていた。
「(なんと、あの隊長殿が……?)」
「(隣国はそのうわさで持ち切りのようです。既に巷では、反シモンの声も上がってきているとか)」
家臣の報告に、ノルド王は腕を組んでうなる。
「(ううむ……。祭りや会議の時には廉潔な男と思っておったが、もしうわさが事実だとすれば、手放しで信用できるような相手では無いな。
いや、とは言え友好条約に関しては、結んで間違いは無かったであろう。仮に隊長殿が悪漢であったとしても、エリザ女史は到底、そうは思えぬからな。万が一隊長殿が暴走したとて、きっとエリザ女史が収めるであろう)」
「(であればよいのですが)」
と――そこへ突然、ミェーチ将軍がずかずかと、荒い靴音を立てて現れた。
「(殿! お尋ね申したい件がございます!)」
「(なんだ、エリコ? 唐突に……)」
いぶかしげな顔をするノルド王に、ミェーチ将軍は大声で、こんなことを言い出した。
「(先の帝国兵強襲の一件、殿のご指示であったと言うのは本当ですか!?)」
「(……は?)」
ノルド王も、周りの家臣たちも、一様にきょとんとしているが、ミェーチ将軍は構う様子も無くまくし立てる。
「(なんでも、『殿は友好条約の内容に不満を感じ、帝国との復縁を図ろうとしている』と言うではございませぬか! 既に市井では騒ぎになっておりますぞ! 曰く、殿は『卑劣にも両方と手を組まんとする日和見者』と評されておりまする!
ここではっきりお答えいただきたい! 一体、殿はどちらの味方に付くおつもりですか!?)」
「(な……、え……? いや、わし、そんなこと、知りもせんぞ?)」
目を白黒させているノルド王に、ミェーチ将軍はなおも詰め寄る。
「(ごまかすおつもりか!? ここで殿が事実を詳(つまび)らかにできぬとあらば、吾輩は世にその信を問いますぞ!)」
「(そ、それは、……どう言う意味だ?)」
「(市井に呼びかけ、殿に付き従う者がいるか広く問うのです! 此度の一件に正義があるのならば、人民は殿を選ぶでしょう! しかし万一、従えぬと言う者が多数現れるのならば……)」
そこまで畳み掛けたところで、武装した兵士たちがわらわらと、ミェーチ将軍の後に続く形で現れる。
場の空気が物々しいものになり、家臣団が一様に戦慄した表情を浮かべたところで、ミェーチ将軍はこう言い捨てた。
「(吾輩は必ずや、真の正義を世に、そして殿ご自身に知らしめて見せますぞ!)」
「(まっ、待て、エリコ! お主まさか、わしに楯突くと言うのか!?)」
ノルド王は顔を真っ赤にして立ち上がり、怒鳴りつけるが――瞬時に兵士たちが武器を構え、牽制する。
「(う……ぐ)」
ノルド王は今の今まで安穏と玉座に座っており、武装などしていない。また、王の御前であるため、家臣たちもまともな武器を携帯していない。対抗できる者が数名の近衛兵しかおらず、王も家臣たちも、ミェーチ将軍の振る舞いを黙って見ていることしかできないでいた。
「(吾輩が必ずや、正義がどこにあるのかを明らかにしてみせますぞ! では失敬いたす!)」
硬直したままの王と家臣に背を向け、ミェーチ将軍と兵士たちは悠々と、その場から立ち去った。
宣言した通り、ミェーチ将軍は街中で同様のことを声高に語り、王を非難した。「帝国と決別したはずの王が密かに通じていた」と言うこの怪情報を聞くなり、人々は騒然となる。
「(……であるからして、吾輩は正義を糺すべく、行動を起こすものである! 来たれ、人民! 吾輩の軍門に集うのだ!)」
ざわめく民衆にくるっと背を向け、ミェーチ将軍とその部下たちはぞろぞろと、彼の屋敷へと戻って行く。
と、その途中で、ミェーチ将軍の側にそっと、シェロがやって来た。
「(名演説でしたよ、閣下)」
「(うむ)」
他の者に聞かれないよう、二人は小声で話す。
「(しかしシェロ、本当にこれで良かったものか。吾輩は主君と民衆をだましているような気になってしまうのだが)」
「(結果的には本当のコトになります。うわさになれば、嘘が真実を駆逐するものですから)」
「(確かにそうだ。今や、あの隊長殿は唾棄すべき悪漢と化したわけだからな。
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