「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・信揺伝 7
神様たちの話、第198話。
沿岸部の情報戦。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
戸惑うシェロを、遠征隊の者たちが口々に糾弾する。
「俺たち、エリザ先生から聞いてんだよ」
「『強襲騒ぎん時おらへんかったシェロくんが、隊長帰ってきた途端にいきなり騒ぎ出したん、なんぼなんでもタイミング良すぎやん』ってな」
「あと、『もしこの流れでシェロくんがシモン隊長倒そうとか言い出したら、強襲騒ぎは絶対シェロくんの狂言やで』とも仰ってたし」
「ミェーチ将軍はこっちの名士だからな。協力してもらえば大抵のことはできるよな」
「それにお前、ミェーチ将軍の娘さんと付き合ってんだって?」
「隊長を悪者に仕立てて退治して、『お義父さん』にいいトコ見せてやるぜってか? よくやるな、全く」
「しかもどさくさに紛れてノルド王国まで襲う気なのか?」
「強欲っつーかさー、ゲスだよな、お前」
彼らの冷たい視線に気付いたのか、街の者もひそひそと内輪で話し始める。
「(なんか変だよね……)」
「(女将さんが言ってた通りに将軍やって来たし)」
「(じゃ、女将さんが『強襲騒ぎもノルド王のうわさも全部、ミェーチ将軍の自作自演』って言ってたのって、やっぱり本当なのかな?)」
「(っぽいよねー)」
その空気を感じ、シェロとミェーチ将軍は顔を見合わせる。
「(しぇ、シェロよ。何かまずいな?)」
「(……退散しましょう。ヤバいです)」
人集めもそこそこに、二人はその場から逃げ出した。
エリザはシェロの基本戦略が「風説の流布」と「扇動」にあるとにらみ、対抗策を講じていた。
彼女も自分の人脈を使い、シェロに関する否定的なうわさを、クラム王国に撒いていたのである。
「ちゅうワケで事実上、追い返した感じやね」
「助かりました」
素直に頭を下げるハンに、エリザは「気にせんでええよ」とにこやかに笑って返す。
「コレでとりあえず、クラム王国は影響されにくくなるやろ。ちゅうてもシェロくんの誘惑には一理あるから、なびいてまう子は多少おるやろけども」
「と言うと?」
「あの子の主張しとった通り、アンタの更迭やクーちゃんの逐電やらがあったら、確かに帰郷のチャンスやからな。もし本気で帰りたいと思とる子がおったら、ついフラッと口車に乗せられてまうかも分からん。
ちゅうてもや、ソレは追ったり、責めたりしんときや。『ついフラッと』っちゅう子は迷いやすい子やからな、『一時の気の迷いやった』と思い返して戻ってくるかも分からん。ソレをこっちが責め立てて退路断ってしもたら、絶対戻って来おへん。いや、戻って来られへんからな」
「しかし、そんな不実な人間を置いておくのは規律に……」
反論しかけたハンに、エリザが首を振る。
「寛容やで、ハンくん。
何でもかんでも厳しくしとったらええ組織になるっちゅうもんや無い。ドコかに逃げ道作ったらな、誰も残らへんで。人間、『楽したい』『嫌な思いしたない』が基本姿勢やん? ソレを真っ向から否定するようなルール作ったところで、誰も従わへんし、反発も大きい。ソレは良く身に染みとるやろ?」
「ええ……まあ」
「人間の本質を否定するルール作るようなヤツは、人間を、他人を見とらん。自分のコトしか見てへんねん。自分のコトしか考えへんヤツに手ぇ貸したないし、言うコトなんか聞く気にならへんやろ? ソレが今回の失敗の原因や。
せやからな、ちょっとした気の迷いくらい、大らかな心で許したり。戻って来たいっちゅう子は何も責めたらんと、温かく迎えてやるんやで」
「銘肝しておきます」
「ん」
エリザはにこっと微笑みつつ、「あ、そうそう」と話題を切り替えた。
「ちょとお願いしたいコトあるねんけどええかな? もうボチボチみんな、ハンくんの言うコト聞いてくれるやろし」
「なんです?」
「言うたら、今まで『防戦』やったやん? 今から『攻撃』しよかっちゅう話やねん」
「攻撃? 一体何をすると?」
尋ねたハンに、エリザはニヤニヤ笑いながら、ある驚くべき「予測」を伝えた。
「……ちゅうワケで狙いは、ミェーチ将軍とシェロくんらの方になるやろな」
「本当に……?」
「アタシの見通しが信じられへんか?」
いたずらっぽい目つきでそう尋ね返すエリザに、ハンは苦笑する。
「無論、信じますよ。それで俺たちは、何をすれば?」
「1個目は南側からやな。ノルド王国からも出せるだけ出してもろて、両側から潰すんや。ほんで2個目は本陣に向かわし。お留守のうちに叩いてしまうんや。
コレで沿岸部のゴタゴタ、全部解決や」
琥珀暁・信揺伝 終
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沿岸部の情報戦。
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7.
戸惑うシェロを、遠征隊の者たちが口々に糾弾する。
「俺たち、エリザ先生から聞いてんだよ」
「『強襲騒ぎん時おらへんかったシェロくんが、隊長帰ってきた途端にいきなり騒ぎ出したん、なんぼなんでもタイミング良すぎやん』ってな」
「あと、『もしこの流れでシェロくんがシモン隊長倒そうとか言い出したら、強襲騒ぎは絶対シェロくんの狂言やで』とも仰ってたし」
「ミェーチ将軍はこっちの名士だからな。協力してもらえば大抵のことはできるよな」
「それにお前、ミェーチ将軍の娘さんと付き合ってんだって?」
「隊長を悪者に仕立てて退治して、『お義父さん』にいいトコ見せてやるぜってか? よくやるな、全く」
「しかもどさくさに紛れてノルド王国まで襲う気なのか?」
「強欲っつーかさー、ゲスだよな、お前」
彼らの冷たい視線に気付いたのか、街の者もひそひそと内輪で話し始める。
「(なんか変だよね……)」
「(女将さんが言ってた通りに将軍やって来たし)」
「(じゃ、女将さんが『強襲騒ぎもノルド王のうわさも全部、ミェーチ将軍の自作自演』って言ってたのって、やっぱり本当なのかな?)」
「(っぽいよねー)」
その空気を感じ、シェロとミェーチ将軍は顔を見合わせる。
「(しぇ、シェロよ。何かまずいな?)」
「(……退散しましょう。ヤバいです)」
人集めもそこそこに、二人はその場から逃げ出した。
エリザはシェロの基本戦略が「風説の流布」と「扇動」にあるとにらみ、対抗策を講じていた。
彼女も自分の人脈を使い、シェロに関する否定的なうわさを、クラム王国に撒いていたのである。
「ちゅうワケで事実上、追い返した感じやね」
「助かりました」
素直に頭を下げるハンに、エリザは「気にせんでええよ」とにこやかに笑って返す。
「コレでとりあえず、クラム王国は影響されにくくなるやろ。ちゅうてもシェロくんの誘惑には一理あるから、なびいてまう子は多少おるやろけども」
「と言うと?」
「あの子の主張しとった通り、アンタの更迭やクーちゃんの逐電やらがあったら、確かに帰郷のチャンスやからな。もし本気で帰りたいと思とる子がおったら、ついフラッと口車に乗せられてまうかも分からん。
ちゅうてもや、ソレは追ったり、責めたりしんときや。『ついフラッと』っちゅう子は迷いやすい子やからな、『一時の気の迷いやった』と思い返して戻ってくるかも分からん。ソレをこっちが責め立てて退路断ってしもたら、絶対戻って来おへん。いや、戻って来られへんからな」
「しかし、そんな不実な人間を置いておくのは規律に……」
反論しかけたハンに、エリザが首を振る。
「寛容やで、ハンくん。
何でもかんでも厳しくしとったらええ組織になるっちゅうもんや無い。ドコかに逃げ道作ったらな、誰も残らへんで。人間、『楽したい』『嫌な思いしたない』が基本姿勢やん? ソレを真っ向から否定するようなルール作ったところで、誰も従わへんし、反発も大きい。ソレは良く身に染みとるやろ?」
「ええ……まあ」
「人間の本質を否定するルール作るようなヤツは、人間を、他人を見とらん。自分のコトしか見てへんねん。自分のコトしか考えへんヤツに手ぇ貸したないし、言うコトなんか聞く気にならへんやろ? ソレが今回の失敗の原因や。
せやからな、ちょっとした気の迷いくらい、大らかな心で許したり。戻って来たいっちゅう子は何も責めたらんと、温かく迎えてやるんやで」
「銘肝しておきます」
「ん」
エリザはにこっと微笑みつつ、「あ、そうそう」と話題を切り替えた。
「ちょとお願いしたいコトあるねんけどええかな? もうボチボチみんな、ハンくんの言うコト聞いてくれるやろし」
「なんです?」
「言うたら、今まで『防戦』やったやん? 今から『攻撃』しよかっちゅう話やねん」
「攻撃? 一体何をすると?」
尋ねたハンに、エリザはニヤニヤ笑いながら、ある驚くべき「予測」を伝えた。
「……ちゅうワケで狙いは、ミェーチ将軍とシェロくんらの方になるやろな」
「本当に……?」
「アタシの見通しが信じられへんか?」
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今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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参謀本部の見解としては(だからなんやねん参謀本部って)
ミェーチ将軍とシェロの取るべき作戦は、動員可能な人数と装備や練度を勘案した結果、正面からの決戦を避け、王国内の親帝国派を組織して地下組織を作り、敵の防御の薄いところを攻撃しては本隊が来る前に逃げるというゲリラ戦を執拗に展開して可能な限り時間を稼ぎ、帝国軍の来援を待つ、ということで意見が一致しました。「勝利の見通しがなかったらまともな形で戦わず、時間を稼いで状況が変化するのを待て」と兵書にあります。
まあシェロとミェーチ、二人の態度を見ているとそんな気の利いたことができる可能性はまったくなさそうなので、とりあえずエリザ先生の無双ぶりを暖かく見守る所存であります。
ミェーチ将軍とシェロの取るべき作戦は、動員可能な人数と装備や練度を勘案した結果、正面からの決戦を避け、王国内の親帝国派を組織して地下組織を作り、敵の防御の薄いところを攻撃しては本隊が来る前に逃げるというゲリラ戦を執拗に展開して可能な限り時間を稼ぎ、帝国軍の来援を待つ、ということで意見が一致しました。「勝利の見通しがなかったらまともな形で戦わず、時間を稼いで状況が変化するのを待て」と兵書にあります。
まあシェロとミェーチ、二人の態度を見ているとそんな気の利いたことができる可能性はまったくなさそうなので、とりあえずエリザ先生の無双ぶりを暖かく見守る所存であります。
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