「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・交差録 2
晴奈の話、第232話。
再会、と言えるのか……?
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2.
晴奈とフォルナは商店街を抜け、遠目に港を眺められる南西区の教会に到着した。わずかに潮の香りが漂い、周りの建物は潮風によって壁が腐食されている。
その中で一軒、その教会だけは真新しい壁が全面に貼られていた。
(観客からの話で聞いてはいたが、あいつがエリザリーグで得た賞金を全額寄付し、改修したと言う話はどうやら本当らしいな)
「アケミさんの情報によれば、こちらとのことですけれど、……どうされたの、セイナ?」
「ん? ……ああ、うむ」
「……あの?」
晴奈が教会に入るどころか、扉を叩こうともせずじっとしているため、フォルナも動けずにいる。
そのまま二人で教会を見上げているところに、「猫」の男の子がやってきた。と、男の子は晴奈を見るなり、驚いたような声を上げた。
「えっ」「うん? ……確かお主、闘技場で?」
「はっ、はい! トレノです! ありがとうございました、サインをもらいました! こっ、こんにちは、コウ先生!」
その男の子はがばっと頭を下げ、たどたどしく挨拶した。
「ああ、こんにちは。そうかお主、ここに住んでいるのか」
「はい! あのっ、ここに先生はなんで?」
晴奈に会ってあがっているのか、トレノの言葉遣いがひどくおかしい。
「ロウ・ウィアードと言う男を訪ねに来たのだが、こちらで相違ないか?」
「はい、ここにロウさんはいます! よっ、呼んできます! ちょっと待っててください!」
あまりにトレノの様子がカチコチとしていたので、晴奈はたまらず笑いだした。
「ふふ……、そんなに慌てずとも良い。では、ここで待っている」
「はいっ」
トレノはもう一度頭を下げ、バタバタと教会の中へ入っていった。
「ろ、ロウさーん、いるー!?」
中に入るなり、トレノがロウを大声で呼ぶ。少し間を置いて、間延びしたような声が、教会の奥から返ってきた。
「おう、どうしたトレノ?」
「ロウさんに、お客さーん! コウ先生だよー!」
「こーせんせい? 誰? 俺に? 何の用で?」
「分かんなーい! 会いたいってー!」
「分かった、ちっと待ってろ」
1分ほど経って、ロウがズボンをはきながら玄関にやって来た。
「待たせたな。その、鋼線製ってのはドコだ?」
「あ、前。教会の」
「ん、分かった」
コキコキと首を鳴らしながらロウが外に出たところで、すぐに晴奈と目が合う。
「あっ、てめえ!?」
「うぃ……、ロウ」
目が合うなり、ロウは晴奈をにらみつける。晴奈も反射的に、ロウをにらみ返す。
そのまま互いに相手をにらみつける形となったが――晴奈の横にいたフォルナと、ロウの横に戻って来たトレノが揃って心配そうな表情を浮かべていたので――二人はすぐに表情を作り、ぎこちなく会釈した。
「……失礼するぞ」
「……おう」
晴奈たちは礼拝堂に通され、そこで話をすることになった。
ところが晴奈もロウも、ふたたびにらみ合ったまま、動かない。
「……」「……」
見かねたシルビアとフォルナが、代わりに話をし始めた。
「え、っと。あ、わたし、シルビア・ケインズと言います。この教会のシスターで、あの、代表です」
「恐れ入ります。わたくし、フォルナ・ファイアテイルと申します。現在は中央区の『赤虎亭』に勤めております。こちらの『猫』の方は……」
そこで晴奈が手を振ってさえぎり、自己紹介した。
「私の名はセイナ・コウ。央南の剣術一派、焔流の剣士だ。訳あってゴールドコーストに滞在している」
「あ、おうわさはかねがね……。最近、闘技場でご活躍なさっているとか」
「ええ。そちらの、えと、トレノ君と言いましたか、彼にサインをあげたことも」
「拝見しました。なかなか達筆でしたね」
「はは、恐縮です。
……あ、その、シルビア殿はこちらの出身なのですか? 央中ではあまり見慣れない服装をしていらっしゃいますが」
「あ、わたしは央北の、ノースポートの出身なんです。伝統ある港町で、色々と面白い神話もありますよ」
「ほう、港町の出身でしたか。実は私も、央南の黄海と言う港町の生まれなのです」
「まあ、奇遇ですね。あ、そう言えば昔、央南からの旅の方を見かけたことが……」
こんな風に当たり障りのない会話を続けていたところで、ロウがむすっとした顔のまま、席を立った。
「寝るわ」
「あ、ロウ!」
シルビアが慌ててロウの服を引っ張る。
「んだよ、シルビア?」
「あなたを訪ねていらしたお客様ですよ? なのにあなたが席を立っては、失礼でしょう?」
「話してたのはお前だろ。オレ、話すことねーし」
もめるロウとシルビアを見て、晴奈もここでようやく本題を切り出した。
「……コホン。まあ、訪ねた客を放っていた非礼はわびよう。少し、話す糸口がつかみづらかったのでな。
ロウと名乗っていたか。だがお前は、ウィルだな?」
晴奈の質問に対し、ロウはただ無言で晴奈をにらみつけた。
長い沈黙が礼拝堂に流れた後、ロウはようやく応えた。
「……違う。オレはロウ・ウィアードだ」
「違わぬ。私の目に狂いは無い。お前は間違いなく、ウィルバー・ウィルソンのはずだ」「違うって言ってんだろ!?」
ロウは顔を真っ赤にして怒鳴る。晴奈もそれに応戦し、声を荒げる。
「そんなはずは無い! その顔、その言葉遣い、そしてその、差し歯! そこまで特徴が揃っていて、別人だと言う道理があるかッ!」
「違うと言ったら、違う! ウィルだか何だかってヤツじゃ、断じてねえッ!
もう帰ってくれ、セイナ! これ以上話すコトなんざねえ!」
真っ赤だった顔が、今度は逆に青くなる。その剣幕と形相に、流石の晴奈も言葉を失った。
「……」
「と、とにかくッ! オレに構うなッ!」
ロウはガタガタと椅子にぶつかりながら、教会の奥へ消えた。
「あ、ロウ! 待ちなさい! ……もう、一体どうしたと言うのでしょう? あんなに怒鳴り散らして」
「……いや、すまぬ。どうやら私の、勘違いのようだ。神聖な場を騒がせてしまい、大変失礼いたした」
晴奈はこれ以上教会の者たちを困らせたくはなかったため、話を切り上げることにした。
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再会、と言えるのか……?
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晴奈とフォルナは商店街を抜け、遠目に港を眺められる南西区の教会に到着した。わずかに潮の香りが漂い、周りの建物は潮風によって壁が腐食されている。
その中で一軒、その教会だけは真新しい壁が全面に貼られていた。
(観客からの話で聞いてはいたが、あいつがエリザリーグで得た賞金を全額寄付し、改修したと言う話はどうやら本当らしいな)
「アケミさんの情報によれば、こちらとのことですけれど、……どうされたの、セイナ?」
「ん? ……ああ、うむ」
「……あの?」
晴奈が教会に入るどころか、扉を叩こうともせずじっとしているため、フォルナも動けずにいる。
そのまま二人で教会を見上げているところに、「猫」の男の子がやってきた。と、男の子は晴奈を見るなり、驚いたような声を上げた。
「えっ」「うん? ……確かお主、闘技場で?」
「はっ、はい! トレノです! ありがとうございました、サインをもらいました! こっ、こんにちは、コウ先生!」
その男の子はがばっと頭を下げ、たどたどしく挨拶した。
「ああ、こんにちは。そうかお主、ここに住んでいるのか」
「はい! あのっ、ここに先生はなんで?」
晴奈に会ってあがっているのか、トレノの言葉遣いがひどくおかしい。
「ロウ・ウィアードと言う男を訪ねに来たのだが、こちらで相違ないか?」
「はい、ここにロウさんはいます! よっ、呼んできます! ちょっと待っててください!」
あまりにトレノの様子がカチコチとしていたので、晴奈はたまらず笑いだした。
「ふふ……、そんなに慌てずとも良い。では、ここで待っている」
「はいっ」
トレノはもう一度頭を下げ、バタバタと教会の中へ入っていった。
「ろ、ロウさーん、いるー!?」
中に入るなり、トレノがロウを大声で呼ぶ。少し間を置いて、間延びしたような声が、教会の奥から返ってきた。
「おう、どうしたトレノ?」
「ロウさんに、お客さーん! コウ先生だよー!」
「こーせんせい? 誰? 俺に? 何の用で?」
「分かんなーい! 会いたいってー!」
「分かった、ちっと待ってろ」
1分ほど経って、ロウがズボンをはきながら玄関にやって来た。
「待たせたな。その、鋼線製ってのはドコだ?」
「あ、前。教会の」
「ん、分かった」
コキコキと首を鳴らしながらロウが外に出たところで、すぐに晴奈と目が合う。
「あっ、てめえ!?」
「うぃ……、ロウ」
目が合うなり、ロウは晴奈をにらみつける。晴奈も反射的に、ロウをにらみ返す。
そのまま互いに相手をにらみつける形となったが――晴奈の横にいたフォルナと、ロウの横に戻って来たトレノが揃って心配そうな表情を浮かべていたので――二人はすぐに表情を作り、ぎこちなく会釈した。
「……失礼するぞ」
「……おう」
晴奈たちは礼拝堂に通され、そこで話をすることになった。
ところが晴奈もロウも、ふたたびにらみ合ったまま、動かない。
「……」「……」
見かねたシルビアとフォルナが、代わりに話をし始めた。
「え、っと。あ、わたし、シルビア・ケインズと言います。この教会のシスターで、あの、代表です」
「恐れ入ります。わたくし、フォルナ・ファイアテイルと申します。現在は中央区の『赤虎亭』に勤めております。こちらの『猫』の方は……」
そこで晴奈が手を振ってさえぎり、自己紹介した。
「私の名はセイナ・コウ。央南の剣術一派、焔流の剣士だ。訳あってゴールドコーストに滞在している」
「あ、おうわさはかねがね……。最近、闘技場でご活躍なさっているとか」
「ええ。そちらの、えと、トレノ君と言いましたか、彼にサインをあげたことも」
「拝見しました。なかなか達筆でしたね」
「はは、恐縮です。
……あ、その、シルビア殿はこちらの出身なのですか? 央中ではあまり見慣れない服装をしていらっしゃいますが」
「あ、わたしは央北の、ノースポートの出身なんです。伝統ある港町で、色々と面白い神話もありますよ」
「ほう、港町の出身でしたか。実は私も、央南の黄海と言う港町の生まれなのです」
「まあ、奇遇ですね。あ、そう言えば昔、央南からの旅の方を見かけたことが……」
こんな風に当たり障りのない会話を続けていたところで、ロウがむすっとした顔のまま、席を立った。
「寝るわ」
「あ、ロウ!」
シルビアが慌ててロウの服を引っ張る。
「んだよ、シルビア?」
「あなたを訪ねていらしたお客様ですよ? なのにあなたが席を立っては、失礼でしょう?」
「話してたのはお前だろ。オレ、話すことねーし」
もめるロウとシルビアを見て、晴奈もここでようやく本題を切り出した。
「……コホン。まあ、訪ねた客を放っていた非礼はわびよう。少し、話す糸口がつかみづらかったのでな。
ロウと名乗っていたか。だがお前は、ウィルだな?」
晴奈の質問に対し、ロウはただ無言で晴奈をにらみつけた。
長い沈黙が礼拝堂に流れた後、ロウはようやく応えた。
「……違う。オレはロウ・ウィアードだ」
「違わぬ。私の目に狂いは無い。お前は間違いなく、ウィルバー・ウィルソンのはずだ」「違うって言ってんだろ!?」
ロウは顔を真っ赤にして怒鳴る。晴奈もそれに応戦し、声を荒げる。
「そんなはずは無い! その顔、その言葉遣い、そしてその、差し歯! そこまで特徴が揃っていて、別人だと言う道理があるかッ!」
「違うと言ったら、違う! ウィルだか何だかってヤツじゃ、断じてねえッ!
もう帰ってくれ、セイナ! これ以上話すコトなんざねえ!」
真っ赤だった顔が、今度は逆に青くなる。その剣幕と形相に、流石の晴奈も言葉を失った。
「……」
「と、とにかくッ! オレに構うなッ!」
ロウはガタガタと椅子にぶつかりながら、教会の奥へ消えた。
「あ、ロウ! 待ちなさい! ……もう、一体どうしたと言うのでしょう? あんなに怒鳴り散らして」
「……いや、すまぬ。どうやら私の、勘違いのようだ。神聖な場を騒がせてしまい、大変失礼いたした」
晴奈はこれ以上教会の者たちを困らせたくはなかったため、話を切り上げることにした。



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