「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・奸智伝 1
神様たちの話、第199話。
ミェーチ軍団。
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1.
グリーンプールでは冷たい扱いを受けたものの、ミェーチ将軍とシェロは、それ以外の沿岸部各地で着々と兵と装備、そして資金を集めることに成功し、巷では既に「ミェーチ軍団」と称されるほどの勢力となっており、両国のほぼ中間に位置するなだらかな湾岸地に、それなりの規模の砦を築くまでに、沿岸部におけるその存在感を強めていた。
「(それでシェロよ、これからどうする?)」
「(兵法に曰く、『攻め易きを攻めよ』です)」
「(ひょうほう、……とは?)」
「(簡単に言えば、戦い方の指南です)」
シェロは本を片手に、とうとうと語る。
「(まず自分たちで倒せる程度の弱い相手から消していき、強者に対しては真っ向から戦わず、分散させて別個に叩くか、あるいは多方向から引っ張り回して疲労させる。ソレを繰り返せば、いずれ我々が勝ち残る。……と言うワケです)」
「(ふーむ、なるほど……。ところでシェロ、それは何だ?)」
本を指差され、シェロはきょとんとする。
「(ソレ? ……本のコトですか?)」
「(ほん?)」
「(人の話を紙に写してまとめたものです。まさかと思いますが、こちらには書物の類が無いんですか?)」
「(初めて見る。かみと言うのが何なのかも分からん。それは何かの革なのか?)」
しげしげと本を眺めるミェーチ将軍に、シェロは説明する。
「(木や草で作られてます。細かい製法は俺も知りませんが)」
「(人の話と言っていたが、それを開ければ話が聞こえると言うことか?)」
「(文字に起こしてあるので、それを自分で読むんです)」
「(これは随分ボロボロであるが、貴重な品では無いのか?)」
「(俺たちの邦じゃ、ソコらの店先で売ってます。まあ、安いものでは無いですけど)」
「(ふむ)」
ミェーチ将軍は本を手に取り、目を細めて表紙を眺める。
「(……さっぱり読めん)」
「(こっちの言葉じゃないですからね)」
「(何と書いてあるのだ?)」
「(『戦闘対策論基礎編 ゼロ・タイムズ』です)」
「(ゼロ・タイムズと言うのは確か、シェロの邦の王であったな。……ふむ)」
神妙な顔をするミェーチ将軍に、シェロは首をかしげる。
「(何か?)」
「(いや、そちらの邦の王は変わっておるなと思うてな)」
「(変わってる? ドコがですか?)」
「(王と言うものは、自分の絶対的優位を保たねばならぬものだ。それは富によってであったり、力によってであったりするのだが、知識、知恵と言うものもそれに並ぶものであろう。他人が知り得ぬ知識を持っていれば、いかなる時でも優位に立てるのだからな。しからば知識を秘匿し、己のみのものとしておくのが常道であろう。
しかるにタイムズ王がやっていることは、まるで己の金庫から巨万の富をバラ撒いているようだと思ってな)」
「(はあ……? そんなもんですかね)」
と、そこへリディアが、スープの入ったカップを3つ、盆に乗せて持って来た。
「(二人とも、お話は一旦休憩にしませんか?)」
「(うん? ……そうだな、ちと休むか)」
ミェーチ将軍はカップを取り、ぐび、と飲む。シェロも同じように飲もうと口を付けるが――。
「……っぢゃ、あぢちちっ!?」
「(あっ、……あの、熱いので気を付けて、……って、言おうとしたんですが)」
「(ちと遅かったな。我らは慣れておるが、お主にはちと熱かろう)」
「あちち、……はは、へへへ」
何故か気恥ずかしくなり、シェロは笑ってごまかした。
シェロの進言に沿う形で、ミェーチ将軍は軍団をノルド王の住まう王国首都、ネザメルレスへと向けることにした。
「(吾輩を信じ集まってきてくれた諸君らよ、いよいよ戦いの時は来た! かつて我が君であったノルド王を討ち、我らが正義を示す覇業の第一歩とするのだ!)
大仰な壮行演説に扇動された兵士たちは、一斉に鬨の声を挙げる。
「(では……、全軍、進めッ!)」
「(おうッ!)」
ミェーチ将軍に指揮され、兵士たちは荒々しい靴音を響かせ、進行を開始し――ようとした。
が、そこへ数名、ミェーチ軍団の者より明らかに上等な戦闘服を着た者たちが正面から現れ、先導していたミェーチ将軍の前で立ち止まった。
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ミェーチ軍団。
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グリーンプールでは冷たい扱いを受けたものの、ミェーチ将軍とシェロは、それ以外の沿岸部各地で着々と兵と装備、そして資金を集めることに成功し、巷では既に「ミェーチ軍団」と称されるほどの勢力となっており、両国のほぼ中間に位置するなだらかな湾岸地に、それなりの規模の砦を築くまでに、沿岸部におけるその存在感を強めていた。
「(それでシェロよ、これからどうする?)」
「(兵法に曰く、『攻め易きを攻めよ』です)」
「(ひょうほう、……とは?)」
「(簡単に言えば、戦い方の指南です)」
シェロは本を片手に、とうとうと語る。
「(まず自分たちで倒せる程度の弱い相手から消していき、強者に対しては真っ向から戦わず、分散させて別個に叩くか、あるいは多方向から引っ張り回して疲労させる。ソレを繰り返せば、いずれ我々が勝ち残る。……と言うワケです)」
「(ふーむ、なるほど……。ところでシェロ、それは何だ?)」
本を指差され、シェロはきょとんとする。
「(ソレ? ……本のコトですか?)」
「(ほん?)」
「(人の話を紙に写してまとめたものです。まさかと思いますが、こちらには書物の類が無いんですか?)」
「(初めて見る。かみと言うのが何なのかも分からん。それは何かの革なのか?)」
しげしげと本を眺めるミェーチ将軍に、シェロは説明する。
「(木や草で作られてます。細かい製法は俺も知りませんが)」
「(人の話と言っていたが、それを開ければ話が聞こえると言うことか?)」
「(文字に起こしてあるので、それを自分で読むんです)」
「(これは随分ボロボロであるが、貴重な品では無いのか?)」
「(俺たちの邦じゃ、ソコらの店先で売ってます。まあ、安いものでは無いですけど)」
「(ふむ)」
ミェーチ将軍は本を手に取り、目を細めて表紙を眺める。
「(……さっぱり読めん)」
「(こっちの言葉じゃないですからね)」
「(何と書いてあるのだ?)」
「(『戦闘対策論基礎編 ゼロ・タイムズ』です)」
「(ゼロ・タイムズと言うのは確か、シェロの邦の王であったな。……ふむ)」
神妙な顔をするミェーチ将軍に、シェロは首をかしげる。
「(何か?)」
「(いや、そちらの邦の王は変わっておるなと思うてな)」
「(変わってる? ドコがですか?)」
「(王と言うものは、自分の絶対的優位を保たねばならぬものだ。それは富によってであったり、力によってであったりするのだが、知識、知恵と言うものもそれに並ぶものであろう。他人が知り得ぬ知識を持っていれば、いかなる時でも優位に立てるのだからな。しからば知識を秘匿し、己のみのものとしておくのが常道であろう。
しかるにタイムズ王がやっていることは、まるで己の金庫から巨万の富をバラ撒いているようだと思ってな)」
「(はあ……? そんなもんですかね)」
と、そこへリディアが、スープの入ったカップを3つ、盆に乗せて持って来た。
「(二人とも、お話は一旦休憩にしませんか?)」
「(うん? ……そうだな、ちと休むか)」
ミェーチ将軍はカップを取り、ぐび、と飲む。シェロも同じように飲もうと口を付けるが――。
「……っぢゃ、あぢちちっ!?」
「(あっ、……あの、熱いので気を付けて、……って、言おうとしたんですが)」
「(ちと遅かったな。我らは慣れておるが、お主にはちと熱かろう)」
「あちち、……はは、へへへ」
何故か気恥ずかしくなり、シェロは笑ってごまかした。
シェロの進言に沿う形で、ミェーチ将軍は軍団をノルド王の住まう王国首都、ネザメルレスへと向けることにした。
「(吾輩を信じ集まってきてくれた諸君らよ、いよいよ戦いの時は来た! かつて我が君であったノルド王を討ち、我らが正義を示す覇業の第一歩とするのだ!)
大仰な壮行演説に扇動された兵士たちは、一斉に鬨の声を挙げる。
「(では……、全軍、進めッ!)」
「(おうッ!)」
ミェーチ将軍に指揮され、兵士たちは荒々しい靴音を響かせ、進行を開始し――ようとした。
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