「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・奸智伝 3
神様たちの話、第201話。
「狐」につままれるシェロ。
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3.
リディアに手を引かれるまま、急ごしらえの応接室にやって来たシェロに、彼女が「元気そやな」と声をかけてきた。
「……エリザ先生!?」
驚くシェロを見て、エリザはニヤニヤ笑っている。
「何や、えらい仲良しさんやないの。もしかしてもう結婚したんか?」
そう言われて、シェロは慌ててリディアから手を離す。
「い、いや、まだそんなんじゃ」
「『まだ』かー。ほんなら近いうちやな。……いや、そんな話は今するコトとちゃうな。急ぎの話をせなアカンねん」
エリザは立ち上がり、シェロのすぐ側に寄って耳打ちする。
「アンタ、今めちゃめちゃ困っとるやろ」
「うっ、……な、何でそう思うんスか?」
「そら分かるで、アタシの予想通りってヤツやからな。せやからロウくんとマリアちゃんお供に付けて、こっちまでわざわざ足運んだったんやからな」
ここでようやく、シェロはエリザの後ろに立っていたマリアが、自分をにらみつけていたことに気付く。
「あ……ども」
「ども、じゃないでしょ」
会釈するも、マリアは依然として冷たく当たってくる。
「尉官やあたしたちにあんだけ迷惑かけといて、よくもあんた、そんな風に女の子とイチャついてられるね?」
「あ、……その、ソレは」
弁解しかけたところで、エリザがぐに、とシェロの鼻をつまむ。
「ふぎゃ!?」
「せやから今はそんな話しとる場合とちゃうやろ? 先にアタシの話聞きよし」
「は、はひ」
「確認するで。アンタら、ノルド王国に攻め込む直前やったか? もう誰か、けしかけた後か? あーっと、『やるつもり無い』とか『そんな気ありまへん』とか、しょうもないごまかしはいらんで。やろうとしとるコトはよお把握しとるからな」
「ひょ、ひょふへんへふ」
「あ、ゴメンな」
エリザがそこでようやく、シェロの鼻から手を離す。
「あいててて……」
「やった後か?」
「まだっス」
「ほんならええ。第二、アンタら帝国軍と接触したか?」
「し、……しました」
「どう言う対応した? 協力する感じか? 敵対するて言うてしもたか?」
「言ってはいないんスけど、その……」
「ボッコボコにしたか? 殺したとかか?」
「……は、はい」
「はっきり答え」
「こっ、……殺しました。いや、殺すつもり無かったんスけど、その、部下って言うか、仲間って言うか、ソイツらが勝手に……」
「アホやなアンタ。まあええわ、やってしもたもんはしゃあない。ほんなら授ける策はこうなるな」
そう前置きし、エリザはテーブルの上に地図を置く。
「まだノルド王国とやり合う前で良かったな。もしソコまでしてしもてたら、見捨てるしか無かったしな。なんぼなんでも、友好国を攻撃するようなヤツらは助けられへんし」
「えっ……」
「まだ多少は助けてやれへんコトも無い、っちゅうコトや」
エリザは地図上の、砦のある位置を右人差し指で示しつつ、左手を東から西方向へ動かす。
「ええか、アンタらはこのままこの砦で待機し、西進してくる帝国兵を迎え撃つ態勢でいとき。ソレからな、この作戦行動時だけでも、ノルド王国とクラム王国は友軍っちゅうコトにするんや」
「ゆ、友軍ですって?」
「そう言う約束やないと、助けようが無いからな。ソレともアンタ、あくまでアタシらと事を構えようっちゅうつもりか? どんだけアタシらが救いの手を伸べても全部いらんっちゅうて跳ね除けるつもりか?」
「い、いや、そんなコトは」
「せ・や・ろ?」
エリザが一瞬語気を荒げたが、すぐにいつものやんわりした口調に戻り、続いて砦の周囲をちょん、ちょんと指し示す。
「ほんならこの後、アンタらを助けに両国から『友軍』が来るさかいな、皆で協力して帝国軍を迎撃するんやで。そん時やけど、絶対、ノルド王国軍にも、クラム王国軍にも、勿論遠征隊にも、一切攻撃なんかしたらアカンで」
「は、はいっ」
「絶対やで? 絶対に、沿岸部両国のどっちに対しても、攻撃さすなよ。ソレだけはアンタが体張ってでも、絶対止めるんやで。もしうっかりでもついでも魔が差してでも個人的な恨みがうんぬんかんぬんとかやれそれとかなんやかんやとかアレやコレやとかどんな理由があったとしても、絶対、攻撃すなよ? 絶対の絶対に絶対やからな?」
「りょ、了解っス!」
「もし破ったら、その時はホンマに命が無いもんと思うときや。アンタとミェーチ将軍の命もやし、ソコにおるリディアちゃんの命もやで」
再びエリザに凄まれ、シェロは思わず、自分を心配そうに見つめるリディアに顔を向ける。
「シェロ……」
「……だ、大丈夫。マジで、お前の命は守る。俺の命に代えても。約束する。
分かりました、エリザ先生。今から厳命して、徹底させます」
「任したで。ほなな」
そう返し、エリザはロウとマリアを伴って、そそくさとその場を出て行った。
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「狐」につままれるシェロ。
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リディアに手を引かれるまま、急ごしらえの応接室にやって来たシェロに、彼女が「元気そやな」と声をかけてきた。
「……エリザ先生!?」
驚くシェロを見て、エリザはニヤニヤ笑っている。
「何や、えらい仲良しさんやないの。もしかしてもう結婚したんか?」
そう言われて、シェロは慌ててリディアから手を離す。
「い、いや、まだそんなんじゃ」
「『まだ』かー。ほんなら近いうちやな。……いや、そんな話は今するコトとちゃうな。急ぎの話をせなアカンねん」
エリザは立ち上がり、シェロのすぐ側に寄って耳打ちする。
「アンタ、今めちゃめちゃ困っとるやろ」
「うっ、……な、何でそう思うんスか?」
「そら分かるで、アタシの予想通りってヤツやからな。せやからロウくんとマリアちゃんお供に付けて、こっちまでわざわざ足運んだったんやからな」
ここでようやく、シェロはエリザの後ろに立っていたマリアが、自分をにらみつけていたことに気付く。
「あ……ども」
「ども、じゃないでしょ」
会釈するも、マリアは依然として冷たく当たってくる。
「尉官やあたしたちにあんだけ迷惑かけといて、よくもあんた、そんな風に女の子とイチャついてられるね?」
「あ、……その、ソレは」
弁解しかけたところで、エリザがぐに、とシェロの鼻をつまむ。
「ふぎゃ!?」
「せやから今はそんな話しとる場合とちゃうやろ? 先にアタシの話聞きよし」
「は、はひ」
「確認するで。アンタら、ノルド王国に攻め込む直前やったか? もう誰か、けしかけた後か? あーっと、『やるつもり無い』とか『そんな気ありまへん』とか、しょうもないごまかしはいらんで。やろうとしとるコトはよお把握しとるからな」
「ひょ、ひょふへんへふ」
「あ、ゴメンな」
エリザがそこでようやく、シェロの鼻から手を離す。
「あいててて……」
「やった後か?」
「まだっス」
「ほんならええ。第二、アンタら帝国軍と接触したか?」
「し、……しました」
「どう言う対応した? 協力する感じか? 敵対するて言うてしもたか?」
「言ってはいないんスけど、その……」
「ボッコボコにしたか? 殺したとかか?」
「……は、はい」
「はっきり答え」
「こっ、……殺しました。いや、殺すつもり無かったんスけど、その、部下って言うか、仲間って言うか、ソイツらが勝手に……」
「アホやなアンタ。まあええわ、やってしもたもんはしゃあない。ほんなら授ける策はこうなるな」
そう前置きし、エリザはテーブルの上に地図を置く。
「まだノルド王国とやり合う前で良かったな。もしソコまでしてしもてたら、見捨てるしか無かったしな。なんぼなんでも、友好国を攻撃するようなヤツらは助けられへんし」
「えっ……」
「まだ多少は助けてやれへんコトも無い、っちゅうコトや」
エリザは地図上の、砦のある位置を右人差し指で示しつつ、左手を東から西方向へ動かす。
「ええか、アンタらはこのままこの砦で待機し、西進してくる帝国兵を迎え撃つ態勢でいとき。ソレからな、この作戦行動時だけでも、ノルド王国とクラム王国は友軍っちゅうコトにするんや」
「ゆ、友軍ですって?」
「そう言う約束やないと、助けようが無いからな。ソレともアンタ、あくまでアタシらと事を構えようっちゅうつもりか? どんだけアタシらが救いの手を伸べても全部いらんっちゅうて跳ね除けるつもりか?」
「い、いや、そんなコトは」
「せ・や・ろ?」
エリザが一瞬語気を荒げたが、すぐにいつものやんわりした口調に戻り、続いて砦の周囲をちょん、ちょんと指し示す。
「ほんならこの後、アンタらを助けに両国から『友軍』が来るさかいな、皆で協力して帝国軍を迎撃するんやで。そん時やけど、絶対、ノルド王国軍にも、クラム王国軍にも、勿論遠征隊にも、一切攻撃なんかしたらアカンで」
「は、はいっ」
「絶対やで? 絶対に、沿岸部両国のどっちに対しても、攻撃さすなよ。ソレだけはアンタが体張ってでも、絶対止めるんやで。もしうっかりでもついでも魔が差してでも個人的な恨みがうんぬんかんぬんとかやれそれとかなんやかんやとかアレやコレやとかどんな理由があったとしても、絶対、攻撃すなよ? 絶対の絶対に絶対やからな?」
「りょ、了解っス!」
「もし破ったら、その時はホンマに命が無いもんと思うときや。アンタとミェーチ将軍の命もやし、ソコにおるリディアちゃんの命もやで」
再びエリザに凄まれ、シェロは思わず、自分を心配そうに見つめるリディアに顔を向ける。
「シェロ……」
「……だ、大丈夫。マジで、お前の命は守る。俺の命に代えても。約束する。
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