「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・奸智伝 5
神様たちの話、第203話。
軍団の開戦。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
エリザとの密約から2日が経ち、完全な迎撃態勢が整ったところで、ミェーチ将軍の元に連絡が入った。
「(帝国軍が接近しております! どうやら先刻の件が伝わっているらしく、大軍が向かっております!)」
伝令の言葉に、ミェーチ将軍は「(うむ)」と大仰にうなずき、命令を伝えた。
「(全軍に伝えろ! 全軍前進し、敵軍と接触次第、攻撃するのだ!)」
「(了解!)」
伝令が散ったところで、シェロがミェーチ将軍に声を掛ける。
「(あの、一つよろしいですか?)」
「(どうした?)」
「(その……、早すぎると思いませんか?)」
「(何を言うのだ? 相手が攻めて来ようと言うのだ、対応は早ければ早い方が……)」
「(いえ、こちらの対応ではなく、相手の方がです)」
「(と言うと?)」
首をかしげるミェーチ将軍に、シェロが続ける。
「(帝国軍の沿岸方面監視基地は、ココから2日くらいかかる距離でしょう? 俺たちが使いの人間を殺してまだ、2日です。もしあの出来事を目撃したヤツが都合良く居合わせて、ソコから逃げ出して報告に向かったとしても、ソイツが基地に着くまでに2日です。ソコから帝国軍が攻めてくるのなら、さらに2日かかるはずですが……)」
「(う……うん? ここから2日、向こうから2日、……うむむむむ?)」
指折り数えるうちに顔を真っ赤にするミェーチ将軍を見て、シェロは話を諦める。
「(……いえ、もういいです)」
が、娘のリディアの方は父親と違って聡明らしく、まともに回答した。
「(シェロは、本来ならどんなに急いでも4日かかるのに、2日で攻めて来るのは時間的におかしい、と言ってるんです)」
「(ふ、ふむ? ……ふーむ、細かいことは吾輩にはピンと来ないが、シェロもお前もおかしいと言うのであれば、やはりおかしいのだろう。だが今、その思索はあまり役立ちはしないのではないか?)」
「(……ええ、そうですね。いくら理屈が合わないって言っても、現実に帝国軍が来てるワケですからね)」
と、リディアが恐る恐ると言った口ぶりでつぶやく。
「(まさかシェロとお父様が謀ったように、これも偽装だったりするのでは?)」
「(……ま、まさかぁ)」
不安をよそに――実際に、帝国軍はミェーチ軍団のすぐ近くまで迫っていることが確認され、それを受けてシェロとミェーチ将軍も本営に臨場した。
「(状況はどうなっておる?)」
尋ねたミェーチ将軍に、部下たちが異口同音に答える。
「(既に会敵し、戦闘が始まっております)」
「(現状では帝国軍側が優勢の模様です)」
「(帝国との衝突など当初から想定していたものではなく、兵士たちは明らかに混乱しております)」
「(それに加え、帝国に直接反旗を翻すような行為をしていることもあり、怯えている者が多数見られます)」
「(全面的に押される形勢となっており、前線は既に壊滅寸前です! 早急に立て直す策をご提示下さい!)」
詰め寄られ、ミェーチ将軍はシェロに目を向ける。
「(何か策はあるのか?)」
「(え、……えーと)」
シェロも口ごもるばかりで指示が出せず、互いに困った目を向け合うばかりである。
と――伝令が2名、慌てて本営に飛び込んで来る。
「(南よりクラム王国からの友軍が合流しました! 現在、帝国軍の左翼方向から攻撃を加えており、帝国側は退却を始めています!)」
「(な、なんと!?)」
「(北からもノルド王国からの友軍が到着! こちらは右翼方向から攻撃中です!)」
「(シェロ、これは一体……!?)」
目を白黒させつつ尋ねてきたミェーチ将軍に、シェロはどうにか声色を作って答える。
「(こ、……これはですね、俺とエリザ先生が2日前に相談を行い、こうするようにと言う作戦だったんです、多分、……いえ、間違い無くそう言う作戦です)」
「(おお、そうであったか! いや、やはりお前は素晴らしい策士であるな!)」
ミェーチ将軍が笑いながら、バンバンとシェロの肩を叩く。
「(まっ、まあ、……こ、こんなもんですよ、あは、あははは、……はは)」
自分でも今、何が起こっているのか全く把握できないでいたが――ともかくシェロは、自信有りげな風を装い、うそぶいておいた。
ミェーチ軍団と帝国軍との戦闘は、軍団を狙って西へ直進していた帝国軍が、その両翼からクラム王国軍とノルド王国軍による挟撃を受けた結果、呆気無く壊滅した。
その後、散り散りに逃げた帝国軍の残党もほとんどが各個撃破され、日が暮れる頃には、この戦いは軍団・両王国による連合軍の完全勝利と言う形で決着した。
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軍団の開戦。
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エリザとの密約から2日が経ち、完全な迎撃態勢が整ったところで、ミェーチ将軍の元に連絡が入った。
「(帝国軍が接近しております! どうやら先刻の件が伝わっているらしく、大軍が向かっております!)」
伝令の言葉に、ミェーチ将軍は「(うむ)」と大仰にうなずき、命令を伝えた。
「(全軍に伝えろ! 全軍前進し、敵軍と接触次第、攻撃するのだ!)」
「(了解!)」
伝令が散ったところで、シェロがミェーチ将軍に声を掛ける。
「(あの、一つよろしいですか?)」
「(どうした?)」
「(その……、早すぎると思いませんか?)」
「(何を言うのだ? 相手が攻めて来ようと言うのだ、対応は早ければ早い方が……)」
「(いえ、こちらの対応ではなく、相手の方がです)」
「(と言うと?)」
首をかしげるミェーチ将軍に、シェロが続ける。
「(帝国軍の沿岸方面監視基地は、ココから2日くらいかかる距離でしょう? 俺たちが使いの人間を殺してまだ、2日です。もしあの出来事を目撃したヤツが都合良く居合わせて、ソコから逃げ出して報告に向かったとしても、ソイツが基地に着くまでに2日です。ソコから帝国軍が攻めてくるのなら、さらに2日かかるはずですが……)」
「(う……うん? ここから2日、向こうから2日、……うむむむむ?)」
指折り数えるうちに顔を真っ赤にするミェーチ将軍を見て、シェロは話を諦める。
「(……いえ、もういいです)」
が、娘のリディアの方は父親と違って聡明らしく、まともに回答した。
「(シェロは、本来ならどんなに急いでも4日かかるのに、2日で攻めて来るのは時間的におかしい、と言ってるんです)」
「(ふ、ふむ? ……ふーむ、細かいことは吾輩にはピンと来ないが、シェロもお前もおかしいと言うのであれば、やはりおかしいのだろう。だが今、その思索はあまり役立ちはしないのではないか?)」
「(……ええ、そうですね。いくら理屈が合わないって言っても、現実に帝国軍が来てるワケですからね)」
と、リディアが恐る恐ると言った口ぶりでつぶやく。
「(まさかシェロとお父様が謀ったように、これも偽装だったりするのでは?)」
「(……ま、まさかぁ)」
不安をよそに――実際に、帝国軍はミェーチ軍団のすぐ近くまで迫っていることが確認され、それを受けてシェロとミェーチ将軍も本営に臨場した。
「(状況はどうなっておる?)」
尋ねたミェーチ将軍に、部下たちが異口同音に答える。
「(既に会敵し、戦闘が始まっております)」
「(現状では帝国軍側が優勢の模様です)」
「(帝国との衝突など当初から想定していたものではなく、兵士たちは明らかに混乱しております)」
「(それに加え、帝国に直接反旗を翻すような行為をしていることもあり、怯えている者が多数見られます)」
「(全面的に押される形勢となっており、前線は既に壊滅寸前です! 早急に立て直す策をご提示下さい!)」
詰め寄られ、ミェーチ将軍はシェロに目を向ける。
「(何か策はあるのか?)」
「(え、……えーと)」
シェロも口ごもるばかりで指示が出せず、互いに困った目を向け合うばかりである。
と――伝令が2名、慌てて本営に飛び込んで来る。
「(南よりクラム王国からの友軍が合流しました! 現在、帝国軍の左翼方向から攻撃を加えており、帝国側は退却を始めています!)」
「(な、なんと!?)」
「(北からもノルド王国からの友軍が到着! こちらは右翼方向から攻撃中です!)」
「(シェロ、これは一体……!?)」
目を白黒させつつ尋ねてきたミェーチ将軍に、シェロはどうにか声色を作って答える。
「(こ、……これはですね、俺とエリザ先生が2日前に相談を行い、こうするようにと言う作戦だったんです、多分、……いえ、間違い無くそう言う作戦です)」
「(おお、そうであったか! いや、やはりお前は素晴らしい策士であるな!)」
ミェーチ将軍が笑いながら、バンバンとシェロの肩を叩く。
「(まっ、まあ、……こ、こんなもんですよ、あは、あははは、……はは)」
自分でも今、何が起こっているのか全く把握できないでいたが――ともかくシェロは、自信有りげな風を装い、うそぶいておいた。
ミェーチ軍団と帝国軍との戦闘は、軍団を狙って西へ直進していた帝国軍が、その両翼からクラム王国軍とノルド王国軍による挟撃を受けた結果、呆気無く壊滅した。
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