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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第4部

    琥珀暁・奸智伝 7

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    神様たちの話、第205話。
    "Knight" fall into "Night"。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
    「今の今まで、……と言うことは、帝国軍がここで行動に出ると?」
     ハンの問いに、エリザは「ソレや」とうなずく。
    「丁度今、向こうにとったら都合良く混乱しとるトコやないか。クラム王国を牛耳っとる強敵の遠征隊は内輪揉めの真っ最中やし、一方のノルド王国では、有力者のミェーチ将軍が離反して兵隊集めしとるし、や。加えて、さっきの『数』の予測通りに判断・行動しとるとするなら、帝国さんは――沿岸部のみんなと違て――ソレなりに情報の収集・分析能力があると見てええやろう。こっちの揉め事も十分把握しとるやろし、各勢力の兵力も割り出しとるはずや。
     ただ、クラム王国を叩くにも、ノルド王国を叩くにも、まだ予断の許さへん状況ではある。クラム王国はまだ1000引くいくらか残っとると見るやろし、ノルド王国かて、攻めとる最中にアタシらが、友好条約を口実にして助けに来たら、一巻の終わりや。
     ま、何やかや言うても、こう言う時は一番ちっこい敵から叩いていくんが常道や。しかもその敵は、クラム王国からもノルド王国からも白い目で見られとるヤツや。助けや援護なんか、絶対来るわけ無いっちゅうようなヤツなら、こっちが好き勝手に追い込んで叩きのめせるやろ、……と考えはるやろな。
     ちゅうワケで狙いは、ミェーチ将軍とシェロくんらの方になるやろな」
    「本当に……?」
    「アタシの見通しが信じられへんか?」
     いたずらっぽい目つきでそう尋ね返すエリザに、ハンは苦笑した。
    「信じますよ」



    「ちゅうワケでな、アンタらを『囮』、エサに使わせてもろたんよ。帝国軍が尻尾振って飛び付いてくるような、アタシらにとってめっちゃ都合ええエサにな」
    「な……」
     共通の敵である帝国をも手玉に取り、さらには間接的に、自分たちに危害を加えたことを仄めかすエリザの冷徹非道な言葉に、シェロは凍り付く。が、そんなシェロに構う様子も無く、エリザはこう続ける。
    「おかげで帝国さん、基地の防衛はスッカスカや。アンタらの軍勢200か300かを叩くために送った兵は、確実にソレを超える。基地内の半分以上の数や。となれば基地に残っとるヤツは半分以下っちゅう計算になる。
     その200いくらかを殲滅するために送ったんは、遠征隊のほぼ全員、600。今頃はもう、基地なんか影も形もあらへんやろな」
    「じゃ、……じゃあ、まさか、もしかして」
     シェロは額に汗を浮かべながら、恐る恐る尋ねる。
    「こっちに、異様に早く、帝国軍が来たのは……」
    「お、気付いとったか? せや、アタシらがうわさ流して仕掛けさせたんや。『軍団が使いの人間ボコボコにして監禁しよったで』ってな。ま、殺しとったんはちょと予想外やったけど」
    「なんてコトを……! 俺たちを、嵌(は)めたんですか!?」
     嘆くシェロに、エリザが「はっ」と笑い飛ばす。
    「アンタもアタシらを、いや、ハンくんを嵌めたやないの。お返しやん」
    「う……」
     と、そこでエリザが「ちょい待ってな」と断り、魔術頭巾を被る。
    「『リプライ』、……あーはいはい、ビートくんやね。聞こえとるよ。どないや? ……うん、……うん、……おぉ、よー頑張ったな。おつかれさん。ほな気ぃ付けて帰りや」
    「沿岸基地から、ですか」
     尋ねたシェロに、エリザは「せや」とうなずく。
    「作戦終了した言うてたわ。完全勝利やて」
    「そ、そうです、か」
     完全に手玉に取られていたことを悟り、シェロはもう、エリザを直視することができなくなっていた。
     と、エリザが立ち上がり、シェロのあごに手をやって、半ば無理矢理に顔を上げさせる。
    「コレでよお分かったやろ」
    「な……なにが、ですか?」
    「アタシを敵に回したらどうなるかが、や。
     今度また、アタシやハンくん、遠征隊の皆を傷付けるようなコトしてみいや。そん時は本気でオシオキしたるからな?」
    「あ……う……」
     底知れぬ恐怖を感じ、シェロはごくりと固唾を呑む。
    「あ、ソレからな」
     シェロのあごをつかんだまま、エリザは話を続ける。
    「アンタ、除隊な」
    「えっ、あ……え?」
    「アンタが自分の意志で勝手に抜けたのどうの言うても、ゼロさんトコでそんな言い訳、一切通用せえへんからな。アンタの扱いは『不名誉除隊』、はっきり言うたらクビ、懲戒免職や。
     よって今後一生、ゼロさんの管轄する土地には一歩たりとも足を踏み入れるコトは禁止や。ソレから遠征隊の管轄、つまりクラム王国も全域やし、ノルド王国との友好条約ん中にも犯罪者引き渡しの協定入れとるから、そっちも入れへんで。もしどっちかに踏み入っったら、問答無用で敵か賊やと見なす。アンタもう、首をはねられてもしゃあない前科者やでっちゅうコトや。
     せやからな」
     エリザはようやくシェロから手を放し、ニコニコと微笑みつつ、こう言い捨てて出て行った。
    「二度とアタシらの前に顔見せるんやないで。ええな?」
     後を追う形で、ロウも、マリアも出て行き、部屋にはシェロ一人が残された。
    「……は……はは……不名誉除隊か……俺がかよ……」
     シェロはそのばにうずくまり、頭を抱え、ついには慟哭した。
    「うぐ……ぐっ……くそ……くそっ……くそおっ……!」



     この日以降――シェロ・ナイトマンは、「ゼロの世界」における一切の名誉を失った。

    琥珀暁・奸智伝 終
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