「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第4部
琥珀暁・平岸伝 4
神様たちの話、第209話。
多大な犠牲の、教訓と報恩。
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4.
「はあ……はあ……」
長い夜を過ごし、ようやく東の崖の向こう、水平線からうっすらと光が差した頃になって、状況は沈静化した。
「ゼロだ。全隊、状況報告を」
どうにか息を整えながら、血まみれになったゼロが、状況を確認する。
《アンドレス班、2名死亡。残ったのは俺とギルだけだ。どっちもケガしてる》
《エリア班、1名死亡。班長死亡につき、ウーゴが伝えています》
《シモン班だ。何とか生き残ったが、マウロが腕を食い千切られて重体。止血はしたが、クロスセントラルまで持つかどうか……》
各班から状況が伝えられるが、どこからも全員無事だと言う報告は無い。
「分かった。ありがとう。全員、僕のところに集合。今から光球を飛ばすから、そこに集まってくれ」
空に向かって光の球を打ち上げたところで、ゼロはその場にうずくまった。
「……ひどいな」
血が固まり、赤茶けた色に染まったひげを撫でながら、ゼロは周囲を見渡す。
「ダニー、ヘス、……それから、セザも。僕のところは、全滅か……」
ゼロの周囲には、その3人の無残な死体が散らばっていた。
この戦いから奇跡的に生還したゼロは、周囲の強い説得を受け、以後の臨場を行わないと宣言した。また、戦死した者たちの家族については、ゼロが生涯厚遇することを約束した。
勿論、この戦いにより死亡したセザについても、死の直前までゼロを守り抜いたその忠義に敬意を評し、ゼロ直々に「ナイトマン(Knightman)」の姓を贈ると共に、その息子であるシェロについても、後に創設される軍において比較的優先・優遇されるように取り図られた。
「ま、そんなトコやね。言うたらハンくんの班に入れられたんも、将来の出世を約束するって言うたようなもんやし。……何やな?」
ハンが渋い顔をしているのに気付き、エリザがいぶかしげな目を向ける。
「俺自身は特に優遇したとか、ひいきしたと言う認識はありませんよ」
「ソレ、本気で言うてる?」
ハンの言葉を聞くなり、エリザは一転してニヤリと笑みを返し、皮肉を添える。
「しょっちゅうゼロさんやらゲートとかの将軍やらと親密にオハナシする機会あって、『自分らは優遇なんかされてまへんで』て? 他の子らが聞いたらどんな顔しはるやろな」
「む……」
ばつの悪そうな顔をするハンを見据えたまま、エリザは話を続ける。
「アタシな、今回のコトも、ソコにいっこ原因あるんちゃうか思とるんよ」
「と言うと?」
「言うたら、ちっちゃい頃から人生決まってしもてたようなもんやん? ゼロさんに目ぇかけられとって、軍の偉いさんと話そう思たらいつでも話せる立ち位置で。その上遠征っちゅう特殊任務にも、アンタと並んで一番に声掛けられたワケやし。
こら『自分で人生切り開いたる』って意気込んどる若い子にとったら、一から十までうっとうしくてたまらんやろ?」
「確かに……そう言えるかも知れませんね」
「しかもちょっとでも自分のやりたいコトしようもんなら、やいやい文句言われて殴られるしな。アンタやったらどうやねんな? 自分のやりたいコトちっともやらしてもらえず、『俺の命令聞け』て殴られて懲罰房やで? どう思う?」
「本当に、その件は、反省してますから」
顔をしかめさせたハンからクーへと視線を移し、エリザはニヤニヤと笑みを向ける。
「ま、この子がそう言うアホやらかしそうになった時は、ちゃんと止めたり、じっくりお話したりしいや」
「ええ、承知しておりますわ」
「なんでクーに……」
つぶやくハンに、エリザがもう一度目を向ける。
「ソレも分からんか?」
「どうせ彼女が将来的に、俺の側に付くものと思ってるんでしょう?」
「ならへん未来は無いやろ。なー、クーちゃん?」
「ええ、それ以外の未来はございませんわね」
笑い合う二人に、ハンは殊更苦い顔をする。
「たった今、人生観を云々したばかりでしょう。俺は俺の相手くらい、自分で探しますよ」
「さがす?」
エリザとクーが同時にそう返し、また揃って笑い出した。
「休みの日に訪ねて来たんはドコやねんな」
「この未来は変更不可能ですわよ」
「くっ……」
ハンはそれ以上、何も言わなくなった。
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多大な犠牲の、教訓と報恩。
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「はあ……はあ……」
長い夜を過ごし、ようやく東の崖の向こう、水平線からうっすらと光が差した頃になって、状況は沈静化した。
「ゼロだ。全隊、状況報告を」
どうにか息を整えながら、血まみれになったゼロが、状況を確認する。
《アンドレス班、2名死亡。残ったのは俺とギルだけだ。どっちもケガしてる》
《エリア班、1名死亡。班長死亡につき、ウーゴが伝えています》
《シモン班だ。何とか生き残ったが、マウロが腕を食い千切られて重体。止血はしたが、クロスセントラルまで持つかどうか……》
各班から状況が伝えられるが、どこからも全員無事だと言う報告は無い。
「分かった。ありがとう。全員、僕のところに集合。今から光球を飛ばすから、そこに集まってくれ」
空に向かって光の球を打ち上げたところで、ゼロはその場にうずくまった。
「……ひどいな」
血が固まり、赤茶けた色に染まったひげを撫でながら、ゼロは周囲を見渡す。
「ダニー、ヘス、……それから、セザも。僕のところは、全滅か……」
ゼロの周囲には、その3人の無残な死体が散らばっていた。
この戦いから奇跡的に生還したゼロは、周囲の強い説得を受け、以後の臨場を行わないと宣言した。また、戦死した者たちの家族については、ゼロが生涯厚遇することを約束した。
勿論、この戦いにより死亡したセザについても、死の直前までゼロを守り抜いたその忠義に敬意を評し、ゼロ直々に「ナイトマン(Knightman)」の姓を贈ると共に、その息子であるシェロについても、後に創設される軍において比較的優先・優遇されるように取り図られた。
「ま、そんなトコやね。言うたらハンくんの班に入れられたんも、将来の出世を約束するって言うたようなもんやし。……何やな?」
ハンが渋い顔をしているのに気付き、エリザがいぶかしげな目を向ける。
「俺自身は特に優遇したとか、ひいきしたと言う認識はありませんよ」
「ソレ、本気で言うてる?」
ハンの言葉を聞くなり、エリザは一転してニヤリと笑みを返し、皮肉を添える。
「しょっちゅうゼロさんやらゲートとかの将軍やらと親密にオハナシする機会あって、『自分らは優遇なんかされてまへんで』て? 他の子らが聞いたらどんな顔しはるやろな」
「む……」
ばつの悪そうな顔をするハンを見据えたまま、エリザは話を続ける。
「アタシな、今回のコトも、ソコにいっこ原因あるんちゃうか思とるんよ」
「と言うと?」
「言うたら、ちっちゃい頃から人生決まってしもてたようなもんやん? ゼロさんに目ぇかけられとって、軍の偉いさんと話そう思たらいつでも話せる立ち位置で。その上遠征っちゅう特殊任務にも、アンタと並んで一番に声掛けられたワケやし。
こら『自分で人生切り開いたる』って意気込んどる若い子にとったら、一から十までうっとうしくてたまらんやろ?」
「確かに……そう言えるかも知れませんね」
「しかもちょっとでも自分のやりたいコトしようもんなら、やいやい文句言われて殴られるしな。アンタやったらどうやねんな? 自分のやりたいコトちっともやらしてもらえず、『俺の命令聞け』て殴られて懲罰房やで? どう思う?」
「本当に、その件は、反省してますから」
顔をしかめさせたハンからクーへと視線を移し、エリザはニヤニヤと笑みを向ける。
「ま、この子がそう言うアホやらかしそうになった時は、ちゃんと止めたり、じっくりお話したりしいや」
「ええ、承知しておりますわ」
「なんでクーに……」
つぶやくハンに、エリザがもう一度目を向ける。
「ソレも分からんか?」
「どうせ彼女が将来的に、俺の側に付くものと思ってるんでしょう?」
「ならへん未来は無いやろ。なー、クーちゃん?」
「ええ、それ以外の未来はございませんわね」
笑い合う二人に、ハンは殊更苦い顔をする。
「たった今、人生観を云々したばかりでしょう。俺は俺の相手くらい、自分で探しますよ」
「さがす?」
エリザとクーが同時にそう返し、また揃って笑い出した。
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「くっ……」
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