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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・交差録 6

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    晴奈の話、第236話。
    慌てる二人、舞い上がる二人。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     ロウはためらいがちに、ある質問をぶつけてみた。
    「……あのさ、ナラサキさん。ちょっと聞いていいか?」
    「うん?」
    「家族って、何だろうな?」
    「うーん、難しい質問だなぁ。僕も実質、8年ほどしか家族と一緒にいられなかったからね。
     そう言えば聞いたよ、君の話も。今、教会で暮らしてるんだってね」
    「ああ。そこには子供たち5人と、シスターがいるんだ」
    「ふむ。君は、その子たちを護りたいと思っているのかい?」
    「ああ。一緒に暮らしてからずっと、そう思ってる」
    「そうだなぁ……、それが、家族ってことじゃないのかな」
    「家族、か……」
     ロウはうつむき、じっと自分の手を見る。
    「何か迷っているようだけど、僕から助言できるのは一つだけだ。
     本当に護りたいものは、堅い決心と覚悟で守らなくちゃならない。己の身を犠牲にしてでも護らなきゃ、きっと後悔することになるからね。
     僕自身、その大事な家族を10年前護れなかったんだ。だからこの10年間、ずっと後悔し続けている。君には、いや、護るものがある人間には、そんな思いをしてほしくない」
     楢崎の言葉で、ロウの心の中で一つ、ある決意が固まった。
    「……ありがとよ、ナラサキさん。オレ、ちょっと頑張ってみるわ。それじゃ、今日はこれで」
    「ああ。また会おう、ウィアード君」



     西の空がほんのり金色になり始めた頃、ロウは教会に帰って来た。
    「あ、ロウさんお帰りなさーい」
     教会の前を掃除していたアズサが出迎える。
    「おう、ただいま」
     自然に挨拶したつもりだったが、アズサはきょとんとしている。
    「どしたの? 顔、カッチカチよ?」
    「え」
     アズサに突っ込まれ、慌てて顔をパチパチと叩く。
    「はは、何でだろな、ははは」
    「何かあった? って言うか、何かするの?」
    「う」
     自分の半分も生きていないような少女に内心を読まれ、ロウは狼狽する。
    「あ、ははっははは、……ふう」
    「ロウさん、深呼吸、深呼吸」
    「お、おう。……すーはー」
    「大丈夫?」
    「い、いや、大丈夫大丈夫、ぜんっぜん大丈夫」
    「……がんばってね」
     勘のいいアズサは、これからロウがやろうとしていることを見抜いたらしい。ロウの背中をポンポン叩き、応援してくれた。

     居間に入ったところで、シルビアが声をかけてきた。
    「おかえりなさい、ロウさん。ご飯、もうすぐできますからね」
    「お、おう。……あのさ、シルビア」
     キッチンに向かいかけたところで、シルビアが振り返った。
    「はい?」
    「……その、えーと」
    「どうしたんです?」
    「……いや、そのな、えっと」「シスター、大変! お鍋から泡ふいてるっ!」
     キッチンからビートの声がする。
    「あら、大変! ……ごめんなさいね、もう少し後で」
    「お、おう」
     慌ててキッチンへ向かうシルビアを見送り、ロウは両手で顔を覆った。
    「うー……」
     どこからか現れたチノが、椅子を持ってきてくれた。
    「ロウさん、だいじょうぶ?」
    「……おう」
     チノが持ってきてくれた椅子に腰掛け、ロウはもう一度深呼吸をした。
     程なく夕食の時間になり、ロウとシルビア、子供たちの7人は並んでテーブルに着く。
    「いただきまー……」「あ、ちょっと待った!」
     夕食の挨拶をしようとしたところで、ロウがそれを止めた。
    「……なんです? お行儀が悪いですよ、ロウさん」
    「あ、あのさ」
     ロウは顔を真っ赤にして立ち上がった。
    「その、皆に聞いて欲しいコトがあるんだ。
     ……その、な。こうしてオレたち、ずっと一緒に暮らしてるけどさ。オレ、実を言うとずっと前から、その、……お前らのコト、家族だと思ってる」
    「ボクもおもってるよー」「しっ」「むぎゅう」
     ロウに同意したトレノを、レヴィが口を押さえて引き下がらせた。
    「……そ、そんでな、うん。本当にさ、ならねえか? その、本当の家族、に」
    「……え?」
     シルビアがきょとんとした顔をする。
    「それはつまり、どう言う意味なのですか?」
    「オレがさ、こいつらの父さんになるってコトだよ。それでさ、シルビア」
     ロウはシルビアの両肩に手を置き、その目をじっと見つめた。
    「は、はい」
    「お前には、母さんになってほしいんだ」
    「え、ええ。構いませんけれど」「シスター。そこで簡単にうなずいちゃダメじゃん」
     アズサがため息混じりに突っ込んだ。
    「それ、プロポーズだよ」
    「あ、そうですね、そう言われ、……れええええええぇっ!?」
     一瞬でシルビアの顔が、長耳の先まで真っ赤に染まった。
    「ダメか?」
    「うえ、あ、え、……えええぇぇ?」
     軽い混乱状態で、シルビアの口からは妙な声ばかり漏れる。
    「あ、あのっ、ちょ、ちょっと、あの、その、……わたしは、その」
    「ダメなのか?」
    「だだだだダメじゃありません!」
     シルビアは真っ赤な顔を、ブルブルと横に振った。その弾みでいつも頭にかけていた尼僧帽が床に落ち、彼女の長い銀髪があらわになった。
    「いいのか?」
    「いいです、はいっ、もちろんですぅっ!」
     そこで感極まったらしい。シルビアはロウに寄りかかるようにして失神した。



    「……はっ」
     シルビアが目を覚ましたのは、深夜すぎになってからだった。
    「あら、わたし……」
     一瞬、なぜ自分がベッドにいるのか分からなかった。
    「すぴー……」
     が、横で椅子に腰かけながらベッドに突っ伏しているロウを見て、自分が倒れた原因を思い出した。どうやら倒れたシルビアを、ベッドまで運んで看病してくれたらしい。
    「……そ、そうだったわ。わたし、ロウさんに」
     ロウにかけられた言葉を思い出し、シルビアはまた真っ赤になる。
    「ぐー……」
     自分のベッドに顔を埋めたまま眠るロウの後頭部を見て、シルビアは突然涙を流した。
    (この人が来てくれてからずっと、わたしは幸せ一杯ね)
    「……くかー」
     シルビアはロウの狼耳を撫でながら、ぽつりとつぶやいた。
    「よろしくお願いします、……あなた」

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    2016.06.03 修正
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    NoTitle 

    宗教の違いやら、持って生まれた性分やら。
    ウィル君の業は深すぎますね。

    NoTitle 

    愛する二人を宗教が引き裂くのか!

    ウィルバーくんどこまでついてないやつなんだ。
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