「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・交差録 7
晴奈の話、第237話。
夢は「彼女」の独壇場。
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7.
ロウは夢を見ていた。
いつもの夢――川の中であの猫獣人、セイナと戦う夢である。
「……何だと?」
また、セイナが問い返してくる。そしていつも通りに、ロウの意志とは無関係にロウの口が何かを言う――はずだったが、何も言わない。
(……あれ?)
セイナがけげんな顔を向けてくる。試しに小さく、声を出してみた。
「……あ、あ」
「良く聞こえぬ。何と言った、お主?」
「あ、いや。……なあ、とりあえずココから上がらね?」
その言葉にセイナはきょとんとし、間を置いて笑い出した。
「……ぷ、くふ、ふはははっ。……相分かった、向こうの岸に戻るぞ」
思いもよらない反応に、逆にロウが戸惑った。
「お、おう」
二人ともずぶ濡れの状態で川岸に上がる。横にはセイナそっくりの顔で、心配そうに見つめている猫獣人がいる。
「あの、お姉さま。どうされたのです?」
「どうもこうもない。こいつがようやく目を覚ましたんだ」
(え……? 何だよ、コレ? 何でオレ、コイツと仲良く岸に上がってんだ?)
いつもと違う展開に、ロウはきょろきょろと辺りを見回す。
「どうした、ウィル」
「あ、いや、えっと、……何だコレ?」
「何だも何も、お主の夢では無いか」
「そうだけどよ、いや、そりゃ分かってんだけどよ。いや、でも、いつもはオレ、あの川に流されて……」
セイナは笑いながら、刀を納める。
「く、ふふっ。そう、いつもはな。ほら、あそこを見ろ」
セイナの指差した方を見て、ロウは我が目を疑った。
「お、おい!? あそこで流されてんの、オレじゃねーか!」
「そうとも。アレはキミに取り憑いていた『修羅』だ」
「修羅だと?」
セイナは髪を拭きながら、いつものいかめしい雰囲気とはまるで違う口調で説明する。
《キミはずっと、戦いに取り憑かれていた。戦うことが好きで、ずっとそればかり求めてた。
度を過ぎた欲求ってのは、誰かに利用されやすいもんだ。だから戦争で貧乏クジばっかり引かされて、最期にはああして溺死してしまった。
でも、悪いコトもたまには役に立つんだね――タイカさんがキミに、ある罰を与えていた。コレまでずーっと酒池肉林に溺れていた報いを与えるため、キミの記憶を封印してゴールドコーストにほっぽりだしたのさ》
拭き終わったセイナの髪が、バサバサとした油っ気の無い黒髪から、プラチナを思わせるふんわりとした銀髪に変わっている。尻尾も耳も、フサフサとした真っ白い毛並みだ。
続いてセイナは、ぐしょぐしょに濡れている道着を脱ぎ始めた。
《本来ならキミは、誰にも助けられないまま浮浪者になっていただろう。でもあのシスター、シルビアが助けてくれた。キミの身だけじゃなく、キミの性根もね。
今のキミは、ホントにいいヤツだ。……それだけに惜しいんだけどなぁ》
「惜しい……?」
道着を脱いだ下に、フワフワとしたベストとスラックスが着込まれていた。だが、濡れている様子はまったく無い。
セイナは目をつぶり、話を続ける。
《二つ、予言しよう。
一つ目、キミは今季のエリザリーグ、きっと優勝するよ。賞金も手に入るし、それで念願の孤児院も建てられる。
でもね、二つ目――》
目を開けたセイナの左目は、その髪と同じ銀色だった。右目はさっきと同じ、いや、さっきよりも深い、黒い瞳になっている。
「……お前、セイナじゃねーな」
《え、今気付いたの? く、ふふっ、……だからダメなんだ。もっと気を付けないといけないよ、ロウ。
気を付けなきゃ、皆を護れないからね》
「何だと? それは、どう言う意味……」
セイナ、いや、白猫はパチリとウインクして、その姿を消した。
《ああ、二つって言ってたけど、三つ目の予言。
キミはもうこの夢――『過去』を見るコトは無い。今のキミに見えているのは、『未来』だから》
「……!」
目を覚ますと、もう朝になっていた。
「あ……」
シルビアのベッドに、よだれが付いている。
「おっと、いけねっ」
ロウは慌ててシーツをはがし、洗濯籠に放り込んだ。
と、そこで子供たちと会う。
「あ、ロウさ……、お父さん、おはよー」
「ぅえ? おとうさん?」
ここでようやく、ロウは昨夜シルビアにプロポーズしたこと、そして子供たちに「自分が親になる」と宣言したことを思い出した。
「……お、おう。おはよう」
「おはよー、お父さん」
子供たちにそう呼ばれる度、尻尾の先がむずがゆくなる。
「……へへ、ああ、おはよう」
子供たちと連れ立って居間に向かうと、既にシルビアが朝食を用意してくれていた。
「おはよう、シルビア」
「おはようございます、……あなた」
「うへ、『あなた』かよぉ」
たまらず、ロウは尻尾をかき始めた。
「……おかしいですか?」
「おかしかねーけどよ、やっぱ照れる」
ロウにそう言われ、シルビアは顔を赤らめた。
「わたしもです。……もう、顔から火が出そう!」
しゃがみこみ、顔を覆ったシルビアに対し、ロウも座り込む。
「よろしく、な」
「……はい」
こんな風に甘い朝だったので、ロウはもう白猫の夢を忘れてしまっていた。
その、何か気がかりで、不安に満ちた夢を。
蒼天剣・交差録 終
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夢は「彼女」の独壇場。
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7.
ロウは夢を見ていた。
いつもの夢――川の中であの猫獣人、セイナと戦う夢である。
「……何だと?」
また、セイナが問い返してくる。そしていつも通りに、ロウの意志とは無関係にロウの口が何かを言う――はずだったが、何も言わない。
(……あれ?)
セイナがけげんな顔を向けてくる。試しに小さく、声を出してみた。
「……あ、あ」
「良く聞こえぬ。何と言った、お主?」
「あ、いや。……なあ、とりあえずココから上がらね?」
その言葉にセイナはきょとんとし、間を置いて笑い出した。
「……ぷ、くふ、ふはははっ。……相分かった、向こうの岸に戻るぞ」
思いもよらない反応に、逆にロウが戸惑った。
「お、おう」
二人ともずぶ濡れの状態で川岸に上がる。横にはセイナそっくりの顔で、心配そうに見つめている猫獣人がいる。
「あの、お姉さま。どうされたのです?」
「どうもこうもない。こいつがようやく目を覚ましたんだ」
(え……? 何だよ、コレ? 何でオレ、コイツと仲良く岸に上がってんだ?)
いつもと違う展開に、ロウはきょろきょろと辺りを見回す。
「どうした、ウィル」
「あ、いや、えっと、……何だコレ?」
「何だも何も、お主の夢では無いか」
「そうだけどよ、いや、そりゃ分かってんだけどよ。いや、でも、いつもはオレ、あの川に流されて……」
セイナは笑いながら、刀を納める。
「く、ふふっ。そう、いつもはな。ほら、あそこを見ろ」
セイナの指差した方を見て、ロウは我が目を疑った。
「お、おい!? あそこで流されてんの、オレじゃねーか!」
「そうとも。アレはキミに取り憑いていた『修羅』だ」
「修羅だと?」
セイナは髪を拭きながら、いつものいかめしい雰囲気とはまるで違う口調で説明する。
《キミはずっと、戦いに取り憑かれていた。戦うことが好きで、ずっとそればかり求めてた。
度を過ぎた欲求ってのは、誰かに利用されやすいもんだ。だから戦争で貧乏クジばっかり引かされて、最期にはああして溺死してしまった。
でも、悪いコトもたまには役に立つんだね――タイカさんがキミに、ある罰を与えていた。コレまでずーっと酒池肉林に溺れていた報いを与えるため、キミの記憶を封印してゴールドコーストにほっぽりだしたのさ》
拭き終わったセイナの髪が、バサバサとした油っ気の無い黒髪から、プラチナを思わせるふんわりとした銀髪に変わっている。尻尾も耳も、フサフサとした真っ白い毛並みだ。
続いてセイナは、ぐしょぐしょに濡れている道着を脱ぎ始めた。
《本来ならキミは、誰にも助けられないまま浮浪者になっていただろう。でもあのシスター、シルビアが助けてくれた。キミの身だけじゃなく、キミの性根もね。
今のキミは、ホントにいいヤツだ。……それだけに惜しいんだけどなぁ》
「惜しい……?」
道着を脱いだ下に、フワフワとしたベストとスラックスが着込まれていた。だが、濡れている様子はまったく無い。
セイナは目をつぶり、話を続ける。
《二つ、予言しよう。
一つ目、キミは今季のエリザリーグ、きっと優勝するよ。賞金も手に入るし、それで念願の孤児院も建てられる。
でもね、二つ目――》
目を開けたセイナの左目は、その髪と同じ銀色だった。右目はさっきと同じ、いや、さっきよりも深い、黒い瞳になっている。
「……お前、セイナじゃねーな」
《え、今気付いたの? く、ふふっ、……だからダメなんだ。もっと気を付けないといけないよ、ロウ。
気を付けなきゃ、皆を護れないからね》
「何だと? それは、どう言う意味……」
セイナ、いや、白猫はパチリとウインクして、その姿を消した。
《ああ、二つって言ってたけど、三つ目の予言。
キミはもうこの夢――『過去』を見るコトは無い。今のキミに見えているのは、『未来』だから》
「……!」
目を覚ますと、もう朝になっていた。
「あ……」
シルビアのベッドに、よだれが付いている。
「おっと、いけねっ」
ロウは慌ててシーツをはがし、洗濯籠に放り込んだ。
と、そこで子供たちと会う。
「あ、ロウさ……、お父さん、おはよー」
「ぅえ? おとうさん?」
ここでようやく、ロウは昨夜シルビアにプロポーズしたこと、そして子供たちに「自分が親になる」と宣言したことを思い出した。
「……お、おう。おはよう」
「おはよー、お父さん」
子供たちにそう呼ばれる度、尻尾の先がむずがゆくなる。
「……へへ、ああ、おはよう」
子供たちと連れ立って居間に向かうと、既にシルビアが朝食を用意してくれていた。
「おはよう、シルビア」
「おはようございます、……あなた」
「うへ、『あなた』かよぉ」
たまらず、ロウは尻尾をかき始めた。
「……おかしいですか?」
「おかしかねーけどよ、やっぱ照れる」
ロウにそう言われ、シルビアは顔を赤らめた。
「わたしもです。……もう、顔から火が出そう!」
しゃがみこみ、顔を覆ったシルビアに対し、ロウも座り込む。
「よろしく、な」
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こんな風に甘い朝だったので、ロウはもう白猫の夢を忘れてしまっていた。
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今回はロウによるロウのためのお話でしたね。
夢オチ!!なんてことじゃなくて良かったです。おめでとう!!
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NoTitle
ある意味夢オチかも。