「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・錯綜録 1
晴奈の話、第238話。
黒服3人の共通点。
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1.
晴奈がシリンの試合を観戦し、ロウと出会い、ロウが三節棍を購入し、楢崎と語り合い、そしてシルビアにプロポーズしているこの間。
ゴールドコーストで一つの事件が、静かに起こっていた。
その事件が起きる数週間前、朱海の店「赤虎亭」で起こった出来事。
「……ふーん」
朱海が黄色く塗られた金庫の中を覗き込み、いくつかの書類を見比べている。
「それは何ですの?」
仕込みの途中だったフォルナが、手を拭きつつ朱海の背後に立った。
「っ!」
朱海は慌てて書類を金庫にしまい、その弾みで指を挟んでしまった。
「うわっちちち! ……おいおいフォルナ、こっち来る時は声かけてくれよ、コイツは重要機密なんだからさ」
「あ、すみません、つい」
「……見ちった?」
朱海は挟んだ指をさすりながら、目線をわずかにそらして尋ねる。
「え? えっと、人の名前が書いてありましたわよね? ジュリア・スピリットとか、バート・キャロルとか」
「うあー、見ちまったか」
朱海は困った顔をして、煙草をくわえる。火を点けようとマッチを持ったが、厨房の中なのでフォルナが取り上げる。
「ここは禁煙、でしょう?」
「はは、自分で言っといて、ついやっちまう。
まあ、見ちまったもんはしゃーないな。今のはな、金火公安の極秘資料だ。ある筋からもらったんだけど、ちょっと気になるコトがあったからな」
「気になること、ですか?」
「ああ。……ほら、ちょっと前に来たエランってヤツ。アイツがアタシから買ったの、何だと思う?」
フォルナは手を拭いていたタオルをくるくると手に巻きつけながら、予想してみる。
「うーん……、非常におどおどしていらしたので、よほど人目をはばかるものを?」
「ま、いい線行ってる」
朱海はもう一度金庫を開け、先ほど見ていた資料ともう一つ、茶色い封筒を取り出してフォルナに見せた。
「ホレ、これだよ。ここ数年、このゴールドコーストで行方不明になったって言う闘技場参加者のリストだ。チェイサー商会からもらった」
「チェイサー商会から? つまり、ピースさんとボーダさんがマネジメントしていらした方たち、と言うことでしょうか?」
「そう、その通り。他にもピースの同業者からも、同じようなリストを手に入れてる。
ま、闘技場でそこそこ活躍してたけどやっぱり辛くなって辞めちまう、ってヤツは結構いるし、黙って消えちまうのも少なくない。そんでも、ここ数年妙にその数が多いんだ。しかも、割と好調だったってのに消えちまったヤツもいる。
ピースも不思議がってたよ、『キングにも勝てる勢いだったのに、いきなり雲隠れするなんてなぁ』ってな」
今度は、先ほどフォルナに隠した名簿を見せる。
「で、誘拐事件の可能性もあるってコトで、金火公安は極秘で捜査チームを結成し、真相究明に乗り出した。
金火公安・九尾闘技場失踪事件対策チーム。エランってヤツはそのチームの一員なんだ」
「あら、本当ですわね。エラン・ライト……、19歳なのですか?」
「らしいぜ。その若さで金火公安に入局してるってんだから、エリートっちゃエリートだな」
「へぇ……」
フォルナはその極秘資料を一通り読み、「あら?」と声を上げた。
「どした?」
「このフェリオと言う方、お会いしたことがありますわ」
「へぇ、ドコで?」
「セイナと闘技場に行った際、声をかけられました。セイナのファンだそうですわ」
「闘技場にいたってコトは、任務中だろ? 軽いヤツだなぁ。……そう言や、楢崎先生がウチに来た時もこのバートってヤツ、しれっと一緒にメシ食ってたな」
朱海は呆れた顔をしながら、資料を封筒にしまった。
「新米小僧にサボリ魔、図々しいおっさん、……このチーム大丈夫かぁ?」
彼らの噂話をしつつ、朱海とフォルナは仕込みを済ませ、店を開けた。そしてすぐに、客が一人入ってきた。
「いらっしゃいませ。……あら、エランさん」
「こ、こんにちは。あの、今日もご飯、食べに来ました」
エランは帽子を被ったまま、ぺこりと頭を下げた。そこに朱海が声をかける。
「おう、いらっしゃい。今日はメシだけか?」
「あ、はい。今日は資料整理だけなので」
「そっか。ま、大変だな」
エランは2ヶ月前情報を買いに来て以来、頻繁に通うようになっていた。朱海の料理が気に入ったのと、もう一つ――。
「あ、あの、フォルナさん。今日のお勧めは何ですか?」
どうやら、フォルナがお目当てらしい。来る度に、同じ質問をフォルナにしてくるのだ。
「そうですわね……、今日は焼魚定食かしら。いい鰆が入りましたから」
「じゃ、あの、それお願いします」
「はい、かしこまりました」
フォルナもエランの態度から、その想いに気が付いてはいる。
「あの、フォルナさん。その、ちょっと聞いてもいいですか?」
「はい、何でしょう?」
「えっと、その、今度、いつ休みですか?」
「えーと……、すみません、エランさん。わたくし、お休み取る気はしばらくございませんの」
が、フォルナはエランのことは、別に好きでも嫌いでも無い。エランの誘いをさらっとかわしてしまう。
「あ、……そ、そうですか。……あ、お仕事頑張ってください」
「はい」
にっこりと会釈し、フォルナは厨房に戻った。
(はっは、ちっと可哀相だなー)
二人の会話を聞いていた朱海は、エランのことを少し不憫に思ってしまった。
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黒服3人の共通点。
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晴奈がシリンの試合を観戦し、ロウと出会い、ロウが三節棍を購入し、楢崎と語り合い、そしてシルビアにプロポーズしているこの間。
ゴールドコーストで一つの事件が、静かに起こっていた。
その事件が起きる数週間前、朱海の店「赤虎亭」で起こった出来事。
「……ふーん」
朱海が黄色く塗られた金庫の中を覗き込み、いくつかの書類を見比べている。
「それは何ですの?」
仕込みの途中だったフォルナが、手を拭きつつ朱海の背後に立った。
「っ!」
朱海は慌てて書類を金庫にしまい、その弾みで指を挟んでしまった。
「うわっちちち! ……おいおいフォルナ、こっち来る時は声かけてくれよ、コイツは重要機密なんだからさ」
「あ、すみません、つい」
「……見ちった?」
朱海は挟んだ指をさすりながら、目線をわずかにそらして尋ねる。
「え? えっと、人の名前が書いてありましたわよね? ジュリア・スピリットとか、バート・キャロルとか」
「うあー、見ちまったか」
朱海は困った顔をして、煙草をくわえる。火を点けようとマッチを持ったが、厨房の中なのでフォルナが取り上げる。
「ここは禁煙、でしょう?」
「はは、自分で言っといて、ついやっちまう。
まあ、見ちまったもんはしゃーないな。今のはな、金火公安の極秘資料だ。ある筋からもらったんだけど、ちょっと気になるコトがあったからな」
「気になること、ですか?」
「ああ。……ほら、ちょっと前に来たエランってヤツ。アイツがアタシから買ったの、何だと思う?」
フォルナは手を拭いていたタオルをくるくると手に巻きつけながら、予想してみる。
「うーん……、非常におどおどしていらしたので、よほど人目をはばかるものを?」
「ま、いい線行ってる」
朱海はもう一度金庫を開け、先ほど見ていた資料ともう一つ、茶色い封筒を取り出してフォルナに見せた。
「ホレ、これだよ。ここ数年、このゴールドコーストで行方不明になったって言う闘技場参加者のリストだ。チェイサー商会からもらった」
「チェイサー商会から? つまり、ピースさんとボーダさんがマネジメントしていらした方たち、と言うことでしょうか?」
「そう、その通り。他にもピースの同業者からも、同じようなリストを手に入れてる。
ま、闘技場でそこそこ活躍してたけどやっぱり辛くなって辞めちまう、ってヤツは結構いるし、黙って消えちまうのも少なくない。そんでも、ここ数年妙にその数が多いんだ。しかも、割と好調だったってのに消えちまったヤツもいる。
ピースも不思議がってたよ、『キングにも勝てる勢いだったのに、いきなり雲隠れするなんてなぁ』ってな」
今度は、先ほどフォルナに隠した名簿を見せる。
「で、誘拐事件の可能性もあるってコトで、金火公安は極秘で捜査チームを結成し、真相究明に乗り出した。
金火公安・九尾闘技場失踪事件対策チーム。エランってヤツはそのチームの一員なんだ」
「あら、本当ですわね。エラン・ライト……、19歳なのですか?」
「らしいぜ。その若さで金火公安に入局してるってんだから、エリートっちゃエリートだな」
「へぇ……」
フォルナはその極秘資料を一通り読み、「あら?」と声を上げた。
「どした?」
「このフェリオと言う方、お会いしたことがありますわ」
「へぇ、ドコで?」
「セイナと闘技場に行った際、声をかけられました。セイナのファンだそうですわ」
「闘技場にいたってコトは、任務中だろ? 軽いヤツだなぁ。……そう言や、楢崎先生がウチに来た時もこのバートってヤツ、しれっと一緒にメシ食ってたな」
朱海は呆れた顔をしながら、資料を封筒にしまった。
「新米小僧にサボリ魔、図々しいおっさん、……このチーム大丈夫かぁ?」
彼らの噂話をしつつ、朱海とフォルナは仕込みを済ませ、店を開けた。そしてすぐに、客が一人入ってきた。
「いらっしゃいませ。……あら、エランさん」
「こ、こんにちは。あの、今日もご飯、食べに来ました」
エランは帽子を被ったまま、ぺこりと頭を下げた。そこに朱海が声をかける。
「おう、いらっしゃい。今日はメシだけか?」
「あ、はい。今日は資料整理だけなので」
「そっか。ま、大変だな」
エランは2ヶ月前情報を買いに来て以来、頻繁に通うようになっていた。朱海の料理が気に入ったのと、もう一つ――。
「あ、あの、フォルナさん。今日のお勧めは何ですか?」
どうやら、フォルナがお目当てらしい。来る度に、同じ質問をフォルナにしてくるのだ。
「そうですわね……、今日は焼魚定食かしら。いい鰆が入りましたから」
「じゃ、あの、それお願いします」
「はい、かしこまりました」
フォルナもエランの態度から、その想いに気が付いてはいる。
「あの、フォルナさん。その、ちょっと聞いてもいいですか?」
「はい、何でしょう?」
「えっと、その、今度、いつ休みですか?」
「えーと……、すみません、エランさん。わたくし、お休み取る気はしばらくございませんの」
が、フォルナはエランのことは、別に好きでも嫌いでも無い。エランの誘いをさらっとかわしてしまう。
「あ、……そ、そうですか。……あ、お仕事頑張ってください」
「はい」
にっこりと会釈し、フォルナは厨房に戻った。
(はっは、ちっと可哀相だなー)
二人の会話を聞いていた朱海は、エランのことを少し不憫に思ってしまった。
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