DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 12 ~ ウルフ・クライ・アゲイン ~ 2
ウエスタン小説、第2話。
脱獄犯。
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2.
「K州州立刑務所から囚人2名脱獄 全国に指名手配
先月K州の州立刑務所から囚人2名が脱獄していたことが、当局からの公表により明らかとなった。囚人の名前はウィリス・ウォルトン(41)とデイビッド・ヴェルヌ(28)。両者とも殺人や窃盗を繰り返していた凶悪犯であり、K州司法当局は事件発生当初から州軍とも連携し捜査に当たっていたが、事件発生から1ヶ月が経つもなお囚人らを確保できなかったため、連邦司法省に合衆国全域への指名手配を要請した。
司法省は行方を追うとともに両者へ12000ドルずつの懸賞金を課し、捜査協力および情報提供を募っている」
アデルは新聞から恐る恐る目線を上げ、パディントン局長の顔色をうかがう。
「局長、これって……」
「うむ」
パディントン局長は苦々しい顔でパイプをふかしつつ、小さくうなずいて返した。
「あの男が野に放たれてしまった、と言うことだ」
「でもK州州立刑務所って、西部でも有数のセキュリティだって話じゃ……」
「評判はどうあれ、現実はこうだ。よりにもよって、あの凶悪犯を逃してしまうとは!」
いつになく憔悴した顔をしている局長に、いつもは口の軽いアデルも、言葉を選びつつ応答する。
「やはり、追うんですか?」
「無論だ。あんな男を野放しにしていては、また大量の犠牲者が出る。悪を追う探偵だ、善良な合衆国国民の義務だ、などと言う以前に、私は一人の男として、奴を捕まえなければならないのだ」
「しかし……、相手は相当に狡猾な男ですよ? その上、一度逮捕されたことで、かなり用心深くなってるはずです。生半可なやり方じゃ、影を踏むこともできそうにないと思うんですが」
「私を誰だと思っているのかね?」
局長はうっすらとアデルをにらみつけ、こう返した。
「私は19世紀合衆国が誇る探偵王だ。どんな人間が相手だろうと、きっと捕らえてみせる。いや、実際に捕らえてきたのだ。今度だって、できないはずが無い」
「……ですよね! ええ、そうですとも」
局長の堅い意志を感じ取り、アデルは深々とうなずいて見せる。
「一度は捕まえた相手ですからね。局長のお力があれば、もういっぺんダリウスを捕まえるくらいのことは……」「なんだって!?」
が、局長はアデルの言葉をさえぎり、今度ははっきりとにらみつけて、怒鳴ってきた。
「誰があんな三下の話をしていたと言うのだ!? 私は徹頭徹尾、『ウルフ』の話をしているんだ! 寝ぼけたことを言っているんじゃあないッ!」
「……っ、きょ、局長?」
局長の思わぬ剣幕に、アデルは面食らう。と、相手もばつが悪かったらしく、すぐに穏やかな声色を作ってきた。
「いや、済まない。そうだな、確かに『ウルフ』ほどじゃあないが、ダリウスも狡猾な男だ。放って置くわけには行かん。すぐ行方を捜索しよう。リロイを呼んできてくれるかね、ネイサン?」
「あっ、ああ、はい、了解です」
アデルは慌てて立ち上がり、そそくさと局長の前から立ち去る。
一人残った局長は窓の外に目をやりながら、誰かに言い聞かせるかのようにつぶやいていた。
「奴の罪はあまりにも件数が多すぎて立証し切れなかった。であるが故に刑の確定ができず、あんな巨悪を2年も生かしてしまった。その結果がこれだ。
だが今度と言う今度は、奴の命運も尽きた。脱獄の罪が加わった以上、政府も奴のことを、呑気に放っておきやせんだろう。再逮捕し次第、今度こそ絞首台へ直行させるはずだ。……いや、私のあらゆる人脈を使ってでも、それは実行させる。でなければ君たちに安らぎも憩いの時も、永遠に訪れることはあるまい。
そうだろう? S、そしてH」
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脱獄犯。
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「K州州立刑務所から囚人2名脱獄 全国に指名手配
先月K州の州立刑務所から囚人2名が脱獄していたことが、当局からの公表により明らかとなった。囚人の名前はウィリス・ウォルトン(41)とデイビッド・ヴェルヌ(28)。両者とも殺人や窃盗を繰り返していた凶悪犯であり、K州司法当局は事件発生当初から州軍とも連携し捜査に当たっていたが、事件発生から1ヶ月が経つもなお囚人らを確保できなかったため、連邦司法省に合衆国全域への指名手配を要請した。
司法省は行方を追うとともに両者へ12000ドルずつの懸賞金を課し、捜査協力および情報提供を募っている」
アデルは新聞から恐る恐る目線を上げ、パディントン局長の顔色をうかがう。
「局長、これって……」
「うむ」
パディントン局長は苦々しい顔でパイプをふかしつつ、小さくうなずいて返した。
「あの男が野に放たれてしまった、と言うことだ」
「でもK州州立刑務所って、西部でも有数のセキュリティだって話じゃ……」
「評判はどうあれ、現実はこうだ。よりにもよって、あの凶悪犯を逃してしまうとは!」
いつになく憔悴した顔をしている局長に、いつもは口の軽いアデルも、言葉を選びつつ応答する。
「やはり、追うんですか?」
「無論だ。あんな男を野放しにしていては、また大量の犠牲者が出る。悪を追う探偵だ、善良な合衆国国民の義務だ、などと言う以前に、私は一人の男として、奴を捕まえなければならないのだ」
「しかし……、相手は相当に狡猾な男ですよ? その上、一度逮捕されたことで、かなり用心深くなってるはずです。生半可なやり方じゃ、影を踏むこともできそうにないと思うんですが」
「私を誰だと思っているのかね?」
局長はうっすらとアデルをにらみつけ、こう返した。
「私は19世紀合衆国が誇る探偵王だ。どんな人間が相手だろうと、きっと捕らえてみせる。いや、実際に捕らえてきたのだ。今度だって、できないはずが無い」
「……ですよね! ええ、そうですとも」
局長の堅い意志を感じ取り、アデルは深々とうなずいて見せる。
「一度は捕まえた相手ですからね。局長のお力があれば、もういっぺんダリウスを捕まえるくらいのことは……」「なんだって!?」
が、局長はアデルの言葉をさえぎり、今度ははっきりとにらみつけて、怒鳴ってきた。
「誰があんな三下の話をしていたと言うのだ!? 私は徹頭徹尾、『ウルフ』の話をしているんだ! 寝ぼけたことを言っているんじゃあないッ!」
「……っ、きょ、局長?」
局長の思わぬ剣幕に、アデルは面食らう。と、相手もばつが悪かったらしく、すぐに穏やかな声色を作ってきた。
「いや、済まない。そうだな、確かに『ウルフ』ほどじゃあないが、ダリウスも狡猾な男だ。放って置くわけには行かん。すぐ行方を捜索しよう。リロイを呼んできてくれるかね、ネイサン?」
「あっ、ああ、はい、了解です」
アデルは慌てて立ち上がり、そそくさと局長の前から立ち去る。
一人残った局長は窓の外に目をやりながら、誰かに言い聞かせるかのようにつぶやいていた。
「奴の罪はあまりにも件数が多すぎて立証し切れなかった。であるが故に刑の確定ができず、あんな巨悪を2年も生かしてしまった。その結果がこれだ。
だが今度と言う今度は、奴の命運も尽きた。脱獄の罪が加わった以上、政府も奴のことを、呑気に放っておきやせんだろう。再逮捕し次第、今度こそ絞首台へ直行させるはずだ。……いや、私のあらゆる人脈を使ってでも、それは実行させる。でなければ君たちに安らぎも憩いの時も、永遠に訪れることはあるまい。
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