DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 12 ~ ウルフ・クライ・アゲイン ~ 3
ウエスタン小説、第3話。
ランチタイム。
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3.
「2階にもいなかったわよ。サムも見てないって」
「マジかー……」
エミルと共に探偵局の中をあちこち回ったものの、アデルはリロイ副局長を見付けられずにいた。
「となると局内にはまず、いないみたいだな。今日は確かに出勤だったよな?」
「ええ、朝見かけた記憶があるわ。って言うか、もうじきお昼ね」
「そうだな。腹減ったよ」
「じゃなくて」
エミルはアデルの頭を両手で挟み、ぐい、と横にある窓へ向けさせる。
「今日は快晴で風も穏やか。さむーいN州にしちゃ華氏74度(摂氏23度)の、とってもいいお天気。あんたが副局長みたいにひょうひょうとした、風流気取りのおじさんなら、こんな日に薄暗いカフェの中でコーヒーすすってるかしら?」
「……あー、なるほどな」
窓の向こうにはビル群と、そしてその隙間からチラチラと覗く、中央公園の青々とした木々が見えるのを確認し、アデルは頭を挟まれたままうなずいた。

エミルの推理に従い中央公園を探してみたところ、程無くアデルたちは、若い女性と一緒にベンチでのんびり談笑しているリロイ副局長の姿を発見した。
「やあ、ネイサン。それからエミルも。君たちもここでランチかい?」
片手で三毛猫を抱きかかえつつ、もう片方の手にホットドッグを持ったまま手を振り会釈するリロイに、アデルが説明する。
「あ、いや、そうじゃなくて、局長が呼んでます」
「ジェフが?」
そこでホットドッグを一口かじり、もぐもぐとほおを動かしながら、リロイは猫の下に敷いていた新聞を引っ張り出す。
「もぐ……、っとと、ごめんねセイナ、カーペット貸してよ、……っと。ああ、これこれ、この記事。ジェフの件って多分この、ウィリス・ウォルトンのことだろ?」
「あ、はい」
うなずいたアデルに、リロイはもう一口ホットドッグをぱくつきつつ、こう答えてくる。
「じゃ、あと1時間くらい待たせとこう。君たちもお昼食べなよ。あっちの方にホットドッグの屋台があるんだ。カミさんの知り合いがやってるとこでね、良かったら君たちも買ってあげてくれ」
「え、いや、あの……?」
面食らうアデルに、リロイはホットドッグの残りを平らげながら、ニヤッと笑って見せる。
「そんな悠長な、と思ってるだろうけど、まず第一、今はランチタイムだ。仕事の時間じゃない。ゆっくりご飯を食べてのんびり過ごす時間だ。だよね、カミラ」
「ねー」
女性と一緒に笑い合っているリロイを、アデルはどうにか説得しようと口を開く。
「いや、しかし……」「第二に、明日は娘の誕生日でね。この子にとってはお姉ちゃんの」
「そーそー」
女性がうなずいたところで、エミルも話の輪に加わってくる。
「って言うと、アシュリーの?」
「ううん、そのいっこ下のリンジー」
「ああ、4人姉妹だったっけ、あんたたち。じゃ、今日はお父さんとプレゼントの相談ってとこかしら」
「そーそー」
「そう言うわけだから、ネイサン。この『作戦会議』は、あと1時間は欲しいんだ」
臆面も無く返され、アデルは閉口する。
「い、いや……」
「そして第三――この理由を聞けば君も流石に納得するし、屋台に行ってホットドッグとコーヒーのセットを買おうって気になるだろう――ジェフはこの話題になると、途端にカッカしちゃうからさ。今は会わない方がいいってことだよ」
「局長が?」
思いもよらない言葉に、アデルは再び面食らった。
「いつもは沈着冷静、氷の如く冷えた明晰な頭脳で難事件に立ち向かう我らが大探偵、ジェフ・パディントン。だけど彼にとって『スカーレット・ウルフ』、即ちウィリス・ウォルトンは不倶戴天の仇敵なんだ。奴の名を聞いたが最後、その氷はあっと言うまに溶け、グツグツの熱湯と化してしまう。
どうせあいつは、君に『早く探して来い』だのなんだの、ギャンギャン怒鳴ってきたんじゃないかな?」
「あー、はい、確かに。怒鳴られました」
「だろう? そんなのとまともに話してちゃ折角のランチタイムが台無しだし、娘の誕生日プレゼントもおちおち買いに行けやしない。
以上の理由から、僕はあと1時間ここで時間を潰し、彼の頭が冷えてから話し合うことをお勧めする」
「……なるほど」
すっかり納得し、アデルは小さく頭を下げた。
「ホットドッグ買ってきます」
「お勧めはキャベツとカレーのトッピングだよ。千切りキャベツにイギリスから取り寄せたカレー粉をまぶしてあるんだってさ」
「ども」
と、エミルが手を挙げる。
「あたしのもお願い」
「おう」
そのまま素直に、アデルはホットドッグセットを2つ、買いに行った。
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ランチタイム。
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「2階にもいなかったわよ。サムも見てないって」
「マジかー……」
エミルと共に探偵局の中をあちこち回ったものの、アデルはリロイ副局長を見付けられずにいた。
「となると局内にはまず、いないみたいだな。今日は確かに出勤だったよな?」
「ええ、朝見かけた記憶があるわ。って言うか、もうじきお昼ね」
「そうだな。腹減ったよ」
「じゃなくて」
エミルはアデルの頭を両手で挟み、ぐい、と横にある窓へ向けさせる。
「今日は快晴で風も穏やか。さむーいN州にしちゃ華氏74度(摂氏23度)の、とってもいいお天気。あんたが副局長みたいにひょうひょうとした、風流気取りのおじさんなら、こんな日に薄暗いカフェの中でコーヒーすすってるかしら?」
「……あー、なるほどな」
窓の向こうにはビル群と、そしてその隙間からチラチラと覗く、中央公園の青々とした木々が見えるのを確認し、アデルは頭を挟まれたままうなずいた。

エミルの推理に従い中央公園を探してみたところ、程無くアデルたちは、若い女性と一緒にベンチでのんびり談笑しているリロイ副局長の姿を発見した。
「やあ、ネイサン。それからエミルも。君たちもここでランチかい?」
片手で三毛猫を抱きかかえつつ、もう片方の手にホットドッグを持ったまま手を振り会釈するリロイに、アデルが説明する。
「あ、いや、そうじゃなくて、局長が呼んでます」
「ジェフが?」
そこでホットドッグを一口かじり、もぐもぐとほおを動かしながら、リロイは猫の下に敷いていた新聞を引っ張り出す。
「もぐ……、っとと、ごめんねセイナ、カーペット貸してよ、……っと。ああ、これこれ、この記事。ジェフの件って多分この、ウィリス・ウォルトンのことだろ?」
「あ、はい」
うなずいたアデルに、リロイはもう一口ホットドッグをぱくつきつつ、こう答えてくる。
「じゃ、あと1時間くらい待たせとこう。君たちもお昼食べなよ。あっちの方にホットドッグの屋台があるんだ。カミさんの知り合いがやってるとこでね、良かったら君たちも買ってあげてくれ」
「え、いや、あの……?」
面食らうアデルに、リロイはホットドッグの残りを平らげながら、ニヤッと笑って見せる。
「そんな悠長な、と思ってるだろうけど、まず第一、今はランチタイムだ。仕事の時間じゃない。ゆっくりご飯を食べてのんびり過ごす時間だ。だよね、カミラ」
「ねー」
女性と一緒に笑い合っているリロイを、アデルはどうにか説得しようと口を開く。
「いや、しかし……」「第二に、明日は娘の誕生日でね。この子にとってはお姉ちゃんの」
「そーそー」
女性がうなずいたところで、エミルも話の輪に加わってくる。
「って言うと、アシュリーの?」
「ううん、そのいっこ下のリンジー」
「ああ、4人姉妹だったっけ、あんたたち。じゃ、今日はお父さんとプレゼントの相談ってとこかしら」
「そーそー」
「そう言うわけだから、ネイサン。この『作戦会議』は、あと1時間は欲しいんだ」
臆面も無く返され、アデルは閉口する。
「い、いや……」
「そして第三――この理由を聞けば君も流石に納得するし、屋台に行ってホットドッグとコーヒーのセットを買おうって気になるだろう――ジェフはこの話題になると、途端にカッカしちゃうからさ。今は会わない方がいいってことだよ」
「局長が?」
思いもよらない言葉に、アデルは再び面食らった。
「いつもは沈着冷静、氷の如く冷えた明晰な頭脳で難事件に立ち向かう我らが大探偵、ジェフ・パディントン。だけど彼にとって『スカーレット・ウルフ』、即ちウィリス・ウォルトンは不倶戴天の仇敵なんだ。奴の名を聞いたが最後、その氷はあっと言うまに溶け、グツグツの熱湯と化してしまう。
どうせあいつは、君に『早く探して来い』だのなんだの、ギャンギャン怒鳴ってきたんじゃないかな?」
「あー、はい、確かに。怒鳴られました」
「だろう? そんなのとまともに話してちゃ折角のランチタイムが台無しだし、娘の誕生日プレゼントもおちおち買いに行けやしない。
以上の理由から、僕はあと1時間ここで時間を潰し、彼の頭が冷えてから話し合うことをお勧めする」
「……なるほど」
すっかり納得し、アデルは小さく頭を下げた。
「ホットドッグ買ってきます」
「お勧めはキャベツとカレーのトッピングだよ。千切りキャベツにイギリスから取り寄せたカレー粉をまぶしてあるんだってさ」
「ども」
と、エミルが手を挙げる。
「あたしのもお願い」
「おう」
そのまま素直に、アデルはホットドッグセットを2つ、買いに行った。
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ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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このカレードッグはマジでおすすめです。
僕の母の考案ですが、これは本気で美味い。
使うカレー粉はC&Bじゃないですが。
ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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このカレードッグはマジでおすすめです。
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