DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 12 ~ ウルフ・クライ・アゲイン ~ 5
ウエスタン小説、第5話。
北軍極秘作戦。
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5.
南北戦争は1861年4月の南軍によるサウスカロライナ州襲撃の成功と、同年7月の北軍によるヴァージニア州襲撃の失敗と言う、資金や兵力など様々な面で優位を誇っていたはずの北軍が、強い結束で団結した南軍に連敗を喫すると言う、北軍の無様を晒す形で幕を開けた。
だが北軍もただ右往左往していたわけでは無く、政治面からも攻勢を仕掛けていた。旧大陸諸国とアメリカ連合国との貿易を断ち切り、食糧と軍事物資の輸入・供給を阻止するべく、合衆国政府と連携しての大規模な海上封鎖(Union Blockade)を行うことで収入源と補給線を断とうと試みていたのである。
加えて連合国内にはテキサス州やアーカンソー州などの豊富な食糧産出地に加え、ミシシッピ川を通じてメキシコ以南の国々へ向かう貿易航路が存在していたのだが、これも1863年、北軍がビクスバーグ方面作戦の成功によってミシシッピ川を奪取することにより、交通の分断に成功した。
これらの試みが功を奏し、この1864年の時点で既に、連合国内では継戦能力に重大な影響が出るほどの経済危機と食糧難が発生しており、長期間に及んだこの内戦にもようやく、終わりが見え始めていた。
「貴官らの活躍により、海上封鎖の妨害は阻止された。別の諜報班からも、既に南軍は新型戦艦による妨害作戦を放棄したとの報告が寄せられている。よくやってくれた」
ジェフたち5人に直接指示を送るこの高官も、いつもよりどことなく嬉しそうな、ほっとしたような表情を浮かべ、彼らを労っていた。
「……だが」
と、その安堵の表情に陰が差す。
「一方で、南軍がふたたびミシシッピ川を奪還し、西部地域との交通を回復させようとしているとの情報も入手している。これがもし実現すれば、折角の封鎖作戦が振り出しに戻ってしまう。それに……」
「それに?」
尋ねたジェフに、高官はためらいがちにこう続けた。
「……現時点ではまだ内々で交わした話でしか無く、どこにも公表していない。恐らくは大統領閣下も存じていない内容だろう。よって、貴官らにはあまり、みだりに話せることではないのだが、……そう言うわけだから、今からする話は、ここだけの話としてほしい。私が言ったとは、くれぐれも漏らさないように」
「了解です」
ジェフが敬礼し、続きを促す。
「それで、その内々の話とは?」
「うむ。実は総司令官が、今後の戦線の堅持と積極的拡大を主張しているのだ」
「なるほど」
リロイがうなずき、話を継ぐ。
「つまり南軍の継戦能力低下を知った総司令閣下が、このまま力押しでの物量作戦を仕掛け、南軍を押し潰そうとしていると言うことですか」
「概ね、そうだ。だがこの作戦も、相手が弱体化していてこそだ。もしこのタイミングでミシシッピ川を奪還され、継戦能力が回復でもしようものなら、この積極的作戦は破綻するだろう」
「相手が兵糧攻めで倒れてくれることを願っての作戦ですからな。倒れてくれなければどうしようもありますまい」
「そう言うことだ」
アーサーの言葉に深くうなずき、高官は5人を一瞥(いちべつ)する。
「何としてでも、南軍にミシシッピ川を奪い返されるわけには行かん。だが一方で――情勢は我々に大きく傾いているとは言え――まだ予断を許さない情況であるし、西部へ余計な兵力を割くことも、可能ならば避けたい。
よって貴官らに命ずる。ただちにM州へ向かい、南軍を阻止するべく工作するように」
「拝命いたしました」
ジェフたちは揃って敬礼し、くるりと踵を返して、高官の前から立ち去った。
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北軍極秘作戦。
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南北戦争は1861年4月の南軍によるサウスカロライナ州襲撃の成功と、同年7月の北軍によるヴァージニア州襲撃の失敗と言う、資金や兵力など様々な面で優位を誇っていたはずの北軍が、強い結束で団結した南軍に連敗を喫すると言う、北軍の無様を晒す形で幕を開けた。
だが北軍もただ右往左往していたわけでは無く、政治面からも攻勢を仕掛けていた。旧大陸諸国とアメリカ連合国との貿易を断ち切り、食糧と軍事物資の輸入・供給を阻止するべく、合衆国政府と連携しての大規模な海上封鎖(Union Blockade)を行うことで収入源と補給線を断とうと試みていたのである。
加えて連合国内にはテキサス州やアーカンソー州などの豊富な食糧産出地に加え、ミシシッピ川を通じてメキシコ以南の国々へ向かう貿易航路が存在していたのだが、これも1863年、北軍がビクスバーグ方面作戦の成功によってミシシッピ川を奪取することにより、交通の分断に成功した。
これらの試みが功を奏し、この1864年の時点で既に、連合国内では継戦能力に重大な影響が出るほどの経済危機と食糧難が発生しており、長期間に及んだこの内戦にもようやく、終わりが見え始めていた。
「貴官らの活躍により、海上封鎖の妨害は阻止された。別の諜報班からも、既に南軍は新型戦艦による妨害作戦を放棄したとの報告が寄せられている。よくやってくれた」
ジェフたち5人に直接指示を送るこの高官も、いつもよりどことなく嬉しそうな、ほっとしたような表情を浮かべ、彼らを労っていた。
「……だが」
と、その安堵の表情に陰が差す。
「一方で、南軍がふたたびミシシッピ川を奪還し、西部地域との交通を回復させようとしているとの情報も入手している。これがもし実現すれば、折角の封鎖作戦が振り出しに戻ってしまう。それに……」
「それに?」
尋ねたジェフに、高官はためらいがちにこう続けた。
「……現時点ではまだ内々で交わした話でしか無く、どこにも公表していない。恐らくは大統領閣下も存じていない内容だろう。よって、貴官らにはあまり、みだりに話せることではないのだが、……そう言うわけだから、今からする話は、ここだけの話としてほしい。私が言ったとは、くれぐれも漏らさないように」
「了解です」
ジェフが敬礼し、続きを促す。
「それで、その内々の話とは?」
「うむ。実は総司令官が、今後の戦線の堅持と積極的拡大を主張しているのだ」
「なるほど」
リロイがうなずき、話を継ぐ。
「つまり南軍の継戦能力低下を知った総司令閣下が、このまま力押しでの物量作戦を仕掛け、南軍を押し潰そうとしていると言うことですか」
「概ね、そうだ。だがこの作戦も、相手が弱体化していてこそだ。もしこのタイミングでミシシッピ川を奪還され、継戦能力が回復でもしようものなら、この積極的作戦は破綻するだろう」
「相手が兵糧攻めで倒れてくれることを願っての作戦ですからな。倒れてくれなければどうしようもありますまい」
「そう言うことだ」
アーサーの言葉に深くうなずき、高官は5人を一瞥(いちべつ)する。
「何としてでも、南軍にミシシッピ川を奪い返されるわけには行かん。だが一方で――情勢は我々に大きく傾いているとは言え――まだ予断を許さない情況であるし、西部へ余計な兵力を割くことも、可能ならば避けたい。
よって貴官らに命ずる。ただちにM州へ向かい、南軍を阻止するべく工作するように」
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