DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 12 ~ ウルフ・クライ・アゲイン ~ 6
ウエスタン小説、第6話。
川辺にて。
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6.
指令を受けて半月後、ジェフたち5人はミシシッピ川のほとりに到着した。
「封鎖ランナー(北軍の封鎖線をかいくぐり、南軍に物資を供給する者たちの総称)の船だらけかと思ってたが、案外いないもんだな」
そんなことをつぶやくハワードに、リロイが答える。
「実際いるのはいるはずだけど、そんなのが堂々とここに浮かんでたら、すぐ北軍に拿捕されちゃうよ。やるならバレずにやらなきゃ。僕らみたいにさ」
「おしゃべりはそのへんでいいだろう」
はしゃぐリロイたちと違い、アーサーはいつも通りのむすっとした顔で、ジョナサンに尋ねる。
「南軍がどこを攻めて来るか見当は付くか、S?」
「私の見立てだが、あそこを攻めることはまず間違い無いだろう」
ジョナサンは神経質そうな仕草で眼鏡を直しつつ、北軍基地を指し示す。
「北軍が居座っている限りは、南軍によるミシシッピ川奪還など実現不可能だ。それを可能とするためには北軍をどうにかする必要がある。であれば当然、この周辺の拠点であるあの基地を攻略することになる。当然の帰結だ」
「うむ、実に論理的だ。Sらしいね」
ジェフはにこやかに微笑みながら、ジョナサンの肩をポン、と叩く。
「では次に考えるべきは、どうやって攻略するか、だ」
「それも見当は付いている。基地はミシシッピ川に面しており――封鎖ランナーを拿捕するための艦を泊めておくためだが――そのため、構造上の弱点が存在する」
「構造上の?」
尋ねたハワードに、ジョナサンは自分の足元を指差す。
「地盤の緩さだ。川岸はその水に晒されているために、常に地盤が柔らかい。そこに大きな建物を造れば、そう遠くない内に建物自身の重みで傾き、地盤ごと崩れ去ってしまう。時間の経過を待たずとも、川岸周辺へいくらか砲弾を撃ち込むなり、大量の火薬を爆発させるなりすれば、地盤の緩みは顕著になる。下手に陸から歩兵をけしかけるより、もっと甚大な被害を基地にもたらすことができるはずだ」
「と言うことは、敵は川から?」
「可能性は高い。が……」
ジョナサンは川上に顔を向けつつ、こう続ける。
「川には北軍艦がいる。のこのこと接近してくれば、即座に拿捕されるだろう。H、あの対岸から攻撃できるような兵器は存在するかね?」
「ふむ……」
ハワードは川の距離を指と目測とで測り、短くうなずく。
「ここから対岸まで半マイル(約800メートル)と言うところだな。M1857(ナポレオン砲)の有効射程距離はおおよそ1マイル弱だから、角度さえきちんと合わせれば十分届きうる」
「流石は『FLASH』の技術担当だ」
ジェフはにやりと笑い、口にくわえていた紙巻煙草でくい、と対岸を指し示した。
「となれば対岸で待ち構えた方が得策だろう。いくらなんでも、基地のある側から砲撃しようとするような向こう見ずは、南軍にだっていないだろうからな」
「他には考えられんのか? 大軍をけしかけての正面攻略だとか、地下や水中から侵入するとか」
アーサーの異論を、ジェフは肩をすくめつつ否定する。
「既に敗勢必至の南軍が、いまさら東部ではなく西部に、漫然(まんぜん)と大兵力を向けることは考えにくい。そんなことをすれば、東部戦線が総崩れになるだろう。かと言って寡兵(かへい)で攻めてどうにかなるような基地でもない。正面突破は無理がありすぎる。
緊急脱出用の地下道もあるにはあるが、勿論そこも兵士が守りを固めている。その守りを一つ一つ撃破して侵入するなど、よほど筋骨隆々とした猛者が一個中隊で押し寄せでもしない限りは有り得ん。川から泳いで侵入してきたとしても、陸に上る頃にはずぶ濡れだ。銃弾は一つ残らず使えなくなっているだろうし、残る武器はナイフ一本程度だろう。そんな装備で基地を陥とせるはずも無い。
結局、現実的に基地を陥落させるには、安全圏からの砲撃が一番だと言うことだ」
「ふむ……」
アーサーが納得した様子を見せたところで、ジェフが号令をかける。
「では諸君、対岸へ向かうとしよう」
「了解」
南軍の作戦を対岸からの砲撃と見定めた一行は、見当を付けた場所にそれとなく陣取り、敵の到着を待つことにした。
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川辺にて。
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指令を受けて半月後、ジェフたち5人はミシシッピ川のほとりに到着した。
「封鎖ランナー(北軍の封鎖線をかいくぐり、南軍に物資を供給する者たちの総称)の船だらけかと思ってたが、案外いないもんだな」
そんなことをつぶやくハワードに、リロイが答える。
「実際いるのはいるはずだけど、そんなのが堂々とここに浮かんでたら、すぐ北軍に拿捕されちゃうよ。やるならバレずにやらなきゃ。僕らみたいにさ」
「おしゃべりはそのへんでいいだろう」
はしゃぐリロイたちと違い、アーサーはいつも通りのむすっとした顔で、ジョナサンに尋ねる。
「南軍がどこを攻めて来るか見当は付くか、S?」
「私の見立てだが、あそこを攻めることはまず間違い無いだろう」
ジョナサンは神経質そうな仕草で眼鏡を直しつつ、北軍基地を指し示す。
「北軍が居座っている限りは、南軍によるミシシッピ川奪還など実現不可能だ。それを可能とするためには北軍をどうにかする必要がある。であれば当然、この周辺の拠点であるあの基地を攻略することになる。当然の帰結だ」
「うむ、実に論理的だ。Sらしいね」
ジェフはにこやかに微笑みながら、ジョナサンの肩をポン、と叩く。
「では次に考えるべきは、どうやって攻略するか、だ」
「それも見当は付いている。基地はミシシッピ川に面しており――封鎖ランナーを拿捕するための艦を泊めておくためだが――そのため、構造上の弱点が存在する」
「構造上の?」
尋ねたハワードに、ジョナサンは自分の足元を指差す。
「地盤の緩さだ。川岸はその水に晒されているために、常に地盤が柔らかい。そこに大きな建物を造れば、そう遠くない内に建物自身の重みで傾き、地盤ごと崩れ去ってしまう。時間の経過を待たずとも、川岸周辺へいくらか砲弾を撃ち込むなり、大量の火薬を爆発させるなりすれば、地盤の緩みは顕著になる。下手に陸から歩兵をけしかけるより、もっと甚大な被害を基地にもたらすことができるはずだ」
「と言うことは、敵は川から?」
「可能性は高い。が……」
ジョナサンは川上に顔を向けつつ、こう続ける。
「川には北軍艦がいる。のこのこと接近してくれば、即座に拿捕されるだろう。H、あの対岸から攻撃できるような兵器は存在するかね?」
「ふむ……」
ハワードは川の距離を指と目測とで測り、短くうなずく。
「ここから対岸まで半マイル(約800メートル)と言うところだな。M1857(ナポレオン砲)の有効射程距離はおおよそ1マイル弱だから、角度さえきちんと合わせれば十分届きうる」
「流石は『FLASH』の技術担当だ」
ジェフはにやりと笑い、口にくわえていた紙巻煙草でくい、と対岸を指し示した。
「となれば対岸で待ち構えた方が得策だろう。いくらなんでも、基地のある側から砲撃しようとするような向こう見ずは、南軍にだっていないだろうからな」
「他には考えられんのか? 大軍をけしかけての正面攻略だとか、地下や水中から侵入するとか」
アーサーの異論を、ジェフは肩をすくめつつ否定する。
「既に敗勢必至の南軍が、いまさら東部ではなく西部に、漫然(まんぜん)と大兵力を向けることは考えにくい。そんなことをすれば、東部戦線が総崩れになるだろう。かと言って寡兵(かへい)で攻めてどうにかなるような基地でもない。正面突破は無理がありすぎる。
緊急脱出用の地下道もあるにはあるが、勿論そこも兵士が守りを固めている。その守りを一つ一つ撃破して侵入するなど、よほど筋骨隆々とした猛者が一個中隊で押し寄せでもしない限りは有り得ん。川から泳いで侵入してきたとしても、陸に上る頃にはずぶ濡れだ。銃弾は一つ残らず使えなくなっているだろうし、残る武器はナイフ一本程度だろう。そんな装備で基地を陥とせるはずも無い。
結局、現実的に基地を陥落させるには、安全圏からの砲撃が一番だと言うことだ」
「ふむ……」
アーサーが納得した様子を見せたところで、ジェフが号令をかける。
「では諸君、対岸へ向かうとしよう」
「了解」
南軍の作戦を対岸からの砲撃と見定めた一行は、見当を付けた場所にそれとなく陣取り、敵の到着を待つことにした。
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西部開拓時代の南部貴族社会を描いた名作、「風と共に去りぬ」でも、
登場人物の一人、レット・バトラーは封鎖ランナーで財を成した男として描かれています。
鬱展開のやたら多い、全体的に物悲しい作品なので、
正直に言えば、僕はあんまり好きじゃありません。
西部劇のテイストを期待して読むと、めっちゃ凹みますよ。
西部開拓時代の南部貴族社会を描いた名作、「風と共に去りぬ」でも、
登場人物の一人、レット・バトラーは封鎖ランナーで財を成した男として描かれています。
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