DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 12 ~ ウルフ・クライ・アゲイン ~ 7
ウエスタン小説、第7話。
勝利の思考法。
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7.
到着から2日経つも依然として南軍らしき姿は確認できず、5人は小屋の中で暇を持て余していた。
「まあ、そりゃ確かに『これから攻めるからよろしく』なんて宣言する工作員なんていないけどさ」
「いてたまるか」
「このままボーッと待ってるってのも、なんだかなぁって」
「いいじゃあないか。来ないってことは、南軍が諦めたってことだ。……レイズ」
「無理だ。降りる」
トランプと、チップ代わりの煙草をぽいっとテーブルに投げ、ジョナサンは天井を仰ぐ。
「もう素寒貧だ。全部取られてしまった」
「今日の軍資金は、だろ?」
対面のハワードがニヤニヤと笑っているが、ジョナサンは視線を合わせず、天井を仰いだまま答える。
「私は賭けであっても節度を持って臨んでいるからな」
「ヘッ、敬虔なことで。俺には理解できんな」
「君は放蕩(ほうとう)すぎるくらいだと、私も思うがね。私はSの意見を支持する」
アーサーがジョナサンの肩を持つ一方で、リロイはハワードに同意する。
「僕はHと同意見だなぁ。遊びは本気でやらなきゃ、勝っても楽しくないよ」
「ふむ、2対2か。F、君は?」
アーサーに尋ねられ、かき集めた煙草と小銭を数えていたジェフは、ニヤッと笑って返す。
「私は常に勝てる思考を選ぶだけさ。向こう見ずな本気派がいるなら思索派になるし、踏み出そうとしない慎重派がいるなら積極派になる」
これを聞いて、4人は揃って呆れた顔をした。
「まったく、君って奴は」
「名は体を表すと言うが……」
「本当、君は『狐』だよね」
「『狐』どころかコウモリだよな、あんたは」
軽くなじられるものの、ジェフはまったく気に留めていない様子で、煙草をふかしていた。

と――突然、小屋の外からパン、パンと何かが炸裂するような音が響いてきた。
「……なんだ!?」
「銃声……!?」
ジェフを除く4人は外を確かめようと、一斉に席を立つ。が――。
「待ちたまえ、諸君!」
ただ一人、ジェフだけはそれを制止する。
「なんだ!?」
苛立たしげに聞き返すアーサーに、ジェフはついさっきまで見せていたような飄々としたものではない、鋭い目つきを向けてきた。
「言ったろう、私は常に勝てる思考を選択すると。
諸君、そもそもこんな夜中に突然大きな音を立てて、それが陽動だとは思わないのかね?」
「可能性はある。だがどちらにしても確認せねば……」
「A、君がたしなむ東洋の兵法書、『ミリタリープラン36』にあるだろう? 『声東撃西』、即ち攻撃目標と異なる箇所で陽動を起こし、敵の注意をそちらに引き付けておき、手薄になった攻撃目標を攻め落とす作戦だ。
この十数秒を省みてみたまえ、我々が騒いでいるこの間に、続けて銃声が鳴り響いたかね?」
「……あ」
4人は耳を澄ませるが、銃声は聞こえて来ない。
「では、今のは?」
「銃声であることは間違い無いだろう。音からしてM1860エンフィールドのものだ。だがそれ自体は基地を攻略せんと発せられたものでないことは明白だ。ミニエー弾2発で陥落するような基地など、ありはしないからな」
「そりゃそうだ」
「となればこれが陽動であることは、わざわざ小屋の外に出て確認せずとも自明だと言うことだ。そしてまもなく北軍が警戒態勢に入り、あちこちに火を灯すだろう」
ジェフの言葉を受け、窓に近かったリロイが外を確認する。
「君の言う通りだ。大急ぎで灯りを点けてる」
「片田舎でひたすら暴れ回るのが精一杯の兵卒たちに、陽動などと言う高等戦術は見抜けまい。単純に襲撃と判断し、間も無く周辺へ散らばるだろう。A、兵士が陸へ散れば、どこが手薄になる?」
「川に面した部分だろう。……ふむ」
アーサーはもう一度窓際に目をやり、ジェフに向き直る。
「となれば、当初想定していた襲撃作戦が行われる可能性は非常に高いわけだ」
「そう言うことだ。であれば即ち、この周辺に南軍が潜んでいることになる。
そこで今、君たちがさっきやりかけたように、浮足立って小屋の外に飛び出し、その姿を晒せば、一体どうなる?」
「……南軍と鉢合わせ、か。ここで戦えば多勢に無勢、我々の命はまず無かろう」
「そう、それは負ける思考だ。だが――三度言うが――私は勝てる思考を選ぶ。
北軍が基地の外に散れば、南軍は陽動が成功したと確信するだろう。そして対岸からの攻撃を仕掛けるはずだ。そして対岸に届きうる攻撃となれば、M1857による砲撃以外に方法は無い。
一方で、M1857はただ砲身を相手に向ければ当たってくれるような代物ではない。適切量の火薬と砲弾を込め、熟練者がしっかりと角度を測った上で発射しなければ、命中することはまず無い。となれば今まさに、南軍の工作員は川岸でその準備をしているはずだ。
そこで、H。火種を用いずに黒色火薬を発火させる方法はあるかね?」
「今夜は快晴、カラッカラの空気だ。弾を撃ち込むだけでも簡単にドカンと行くだろう」
「うむ。そしてその黒色火薬は当然、M1857の周囲に山積みになっているはずだ」
ハワードの回答に、アーサーも、ジェフも、ニヤリと笑う。
「なるほど、そいつを遠くから狙ってやれば……」
「そう言うことだ。では諸君、捜索開始だ」
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勝利の思考法。
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到着から2日経つも依然として南軍らしき姿は確認できず、5人は小屋の中で暇を持て余していた。
「まあ、そりゃ確かに『これから攻めるからよろしく』なんて宣言する工作員なんていないけどさ」
「いてたまるか」
「このままボーッと待ってるってのも、なんだかなぁって」
「いいじゃあないか。来ないってことは、南軍が諦めたってことだ。……レイズ」
「無理だ。降りる」
トランプと、チップ代わりの煙草をぽいっとテーブルに投げ、ジョナサンは天井を仰ぐ。
「もう素寒貧だ。全部取られてしまった」
「今日の軍資金は、だろ?」
対面のハワードがニヤニヤと笑っているが、ジョナサンは視線を合わせず、天井を仰いだまま答える。
「私は賭けであっても節度を持って臨んでいるからな」
「ヘッ、敬虔なことで。俺には理解できんな」
「君は放蕩(ほうとう)すぎるくらいだと、私も思うがね。私はSの意見を支持する」
アーサーがジョナサンの肩を持つ一方で、リロイはハワードに同意する。
「僕はHと同意見だなぁ。遊びは本気でやらなきゃ、勝っても楽しくないよ」
「ふむ、2対2か。F、君は?」
アーサーに尋ねられ、かき集めた煙草と小銭を数えていたジェフは、ニヤッと笑って返す。
「私は常に勝てる思考を選ぶだけさ。向こう見ずな本気派がいるなら思索派になるし、踏み出そうとしない慎重派がいるなら積極派になる」
これを聞いて、4人は揃って呆れた顔をした。
「まったく、君って奴は」
「名は体を表すと言うが……」
「本当、君は『狐』だよね」
「『狐』どころかコウモリだよな、あんたは」
軽くなじられるものの、ジェフはまったく気に留めていない様子で、煙草をふかしていた。

と――突然、小屋の外からパン、パンと何かが炸裂するような音が響いてきた。
「……なんだ!?」
「銃声……!?」
ジェフを除く4人は外を確かめようと、一斉に席を立つ。が――。
「待ちたまえ、諸君!」
ただ一人、ジェフだけはそれを制止する。
「なんだ!?」
苛立たしげに聞き返すアーサーに、ジェフはついさっきまで見せていたような飄々としたものではない、鋭い目つきを向けてきた。
「言ったろう、私は常に勝てる思考を選択すると。
諸君、そもそもこんな夜中に突然大きな音を立てて、それが陽動だとは思わないのかね?」
「可能性はある。だがどちらにしても確認せねば……」
「A、君がたしなむ東洋の兵法書、『ミリタリープラン36』にあるだろう? 『声東撃西』、即ち攻撃目標と異なる箇所で陽動を起こし、敵の注意をそちらに引き付けておき、手薄になった攻撃目標を攻め落とす作戦だ。
この十数秒を省みてみたまえ、我々が騒いでいるこの間に、続けて銃声が鳴り響いたかね?」
「……あ」
4人は耳を澄ませるが、銃声は聞こえて来ない。
「では、今のは?」
「銃声であることは間違い無いだろう。音からしてM1860エンフィールドのものだ。だがそれ自体は基地を攻略せんと発せられたものでないことは明白だ。ミニエー弾2発で陥落するような基地など、ありはしないからな」
「そりゃそうだ」
「となればこれが陽動であることは、わざわざ小屋の外に出て確認せずとも自明だと言うことだ。そしてまもなく北軍が警戒態勢に入り、あちこちに火を灯すだろう」
ジェフの言葉を受け、窓に近かったリロイが外を確認する。
「君の言う通りだ。大急ぎで灯りを点けてる」
「片田舎でひたすら暴れ回るのが精一杯の兵卒たちに、陽動などと言う高等戦術は見抜けまい。単純に襲撃と判断し、間も無く周辺へ散らばるだろう。A、兵士が陸へ散れば、どこが手薄になる?」
「川に面した部分だろう。……ふむ」
アーサーはもう一度窓際に目をやり、ジェフに向き直る。
「となれば、当初想定していた襲撃作戦が行われる可能性は非常に高いわけだ」
「そう言うことだ。であれば即ち、この周辺に南軍が潜んでいることになる。
そこで今、君たちがさっきやりかけたように、浮足立って小屋の外に飛び出し、その姿を晒せば、一体どうなる?」
「……南軍と鉢合わせ、か。ここで戦えば多勢に無勢、我々の命はまず無かろう」
「そう、それは負ける思考だ。だが――三度言うが――私は勝てる思考を選ぶ。
北軍が基地の外に散れば、南軍は陽動が成功したと確信するだろう。そして対岸からの攻撃を仕掛けるはずだ。そして対岸に届きうる攻撃となれば、M1857による砲撃以外に方法は無い。
一方で、M1857はただ砲身を相手に向ければ当たってくれるような代物ではない。適切量の火薬と砲弾を込め、熟練者がしっかりと角度を測った上で発射しなければ、命中することはまず無い。となれば今まさに、南軍の工作員は川岸でその準備をしているはずだ。
そこで、H。火種を用いずに黒色火薬を発火させる方法はあるかね?」
「今夜は快晴、カラッカラの空気だ。弾を撃ち込むだけでも簡単にドカンと行くだろう」
「うむ。そしてその黒色火薬は当然、M1857の周囲に山積みになっているはずだ」
ハワードの回答に、アーサーも、ジェフも、ニヤリと笑う。
「なるほど、そいつを遠くから狙ってやれば……」
「そう言うことだ。では諸君、捜索開始だ」
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ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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