「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・錯綜録 2
晴奈の話、第239話。
年増二人のカップリング作戦。
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2.
ある日。朱海は突然、フォルナに休みを取らせた。
「フォルナ、アンタしばらく休んでないだろ? 今日は小鈴に手伝ってもらうから、遊んでおいで」
「え、でも……」
「たまにゃ、ゆっくり羽を伸ばしな。ここんとこずーっと働き詰めだったろ?」
「……では、お言葉に甘えて」
フォルナは着かけていた割烹着を脱ぎ、厨房に入っていた小鈴に頭を下げた。
「よろしくお願いします、コスズさん」
「ん、任せといてー」
フォルナは2階に上がり、晴奈に声をかける。
「セイナ、わたくし今日お休みをいただきました。良ければ一緒に、お買い物でもなさいませんこと?」
「あー、そうしたいのは山々なのだが」
晴奈は残念そうな顔をして、腰に差した刀をポンと叩く。
「今日は試合がある。すまぬな、フォルナ」
「あ、いえ。……では、わたくし一人で遊んでまいりますわ」
フォルナは多少がっかりしたが、それでも久々の休日である。お気に入りの赤いルーズ帽をかぶり、いそいそと出かけていった。
「……よーし。まずは第一段階突破だな」
「どーなるコトやら」
フォルナが出たことを確認し、朱海と小鈴はニヤリとほくそ笑んだ。
「ま、後はあの小僧次第だけどな」
「あっちにはもう伝えてんの?」
「もちろん。あの子が行きそうな店は全部伝えてある。帽子屋に小物店、雑貨屋、その他諸々。ま、いつもウチをご愛顧いただいてるサービスってコトでな」
朱海たちの思惑など知らない晴奈は、「二人して何をコソコソと……?」と首をかしげながら闘技場へ向かった。
一人で街へ出たものの、フォルナはあまり楽しくない。
「はぁ……」
これまではフォルナの事情を考え、二人で出かけるようにしていた。
だが故郷を離れてから既に半年以上が経っているからか、追っ手の姿はこれまで一度も見たことは無い。念のために帽子もかぶっているため(最近ではファッションと化しているが)、自分の正体が気付かれる可能性は低く、現在彼女に危機が迫ることは無い。
だから一人で出歩いても問題は無いのだが、話し相手がいないと多少物足りない。
「こんな日に、お休みにしなくても……」
若干残念に思いながらも、フォルナはお気に入りの店をブラブラと渡り歩いていた。と、可愛い黄色のニット帽を見つけ、思わず声を上げる。
「まあ! ねえセイナ、見て、……と、いなかったわね」
反射的に声をかけてしまい、フォルナは少し赤面する。と――。
「あ、あの、可愛いと思いますよ」
「えっ?」
突然後ろから、声をかけられる。驚いて振り向くと、そこにはあの頼りなさげな「狐」の青年――スーツや中折れ帽がかもし出す雰囲気は青年と言えなくも無いが、その顔はどうとらえても少年に見える――が立っていた。
「あら、エラン?」
「はは、き、奇遇ですね。街を歩いてたら、その、フォルナさんの姿を見かけたので」
勘のいいフォルナは、そのたどたどしい口調からピンと来た。
「……アケミさんから伺ったのかしら?」
「えっ? い、いや、違いますよ。偶然です、偶然」
「そうかしら?」
フォルナはひょい、とエランの懐から見えていた紙を取り上げる。
「あっ」
「『フォルナは帽子が大好きだから、きっと帽子屋の周辺にいるはずだ。そこで偶然を装って声をかければ……』、と。これは予言書かしら?」
「……うぅ」
エランは背を向け、がっくりと肩を落とした。
「もうダメだぁ……。何でこう、ドジばっかり踏むんかなぁ」
「あの、エラン?」
「こんなんやから母さまに『アンタもうちょっと、ええとこで鍛えてもらわなあきませんなぁ』とか怒られるんや……」
「エラン、どうされましたの?」
「職場でも『へたれのお坊ちゃん』ってバカにされとるし……」「エラン!」
うつむきがちにブツブツと嘆くエランに苛立ち、フォルナは思わず声を荒げた。
「ひゃっ、はいぃ!?」
「店先でそんな風に重たく振舞われては、お店の迷惑になりますわ。ともかく、どこかで落ち着きませんこと?」
「え……」
「わたくしとご一緒したいのでしょう? それともこのままずっと、店先でご迷惑かけるおつもりかしら?」
エランは慌てて背筋を伸ばし、ブルブルと首を振った。
「いえいえいえいえ、ご一緒したいですっ!」
「では、ついてらっしゃい」
フォルナの方が2つ下のはずだが、その口調はまるで姉が弟を諭すようだった。
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年増二人のカップリング作戦。
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ある日。朱海は突然、フォルナに休みを取らせた。
「フォルナ、アンタしばらく休んでないだろ? 今日は小鈴に手伝ってもらうから、遊んでおいで」
「え、でも……」
「たまにゃ、ゆっくり羽を伸ばしな。ここんとこずーっと働き詰めだったろ?」
「……では、お言葉に甘えて」
フォルナは着かけていた割烹着を脱ぎ、厨房に入っていた小鈴に頭を下げた。
「よろしくお願いします、コスズさん」
「ん、任せといてー」
フォルナは2階に上がり、晴奈に声をかける。
「セイナ、わたくし今日お休みをいただきました。良ければ一緒に、お買い物でもなさいませんこと?」
「あー、そうしたいのは山々なのだが」
晴奈は残念そうな顔をして、腰に差した刀をポンと叩く。
「今日は試合がある。すまぬな、フォルナ」
「あ、いえ。……では、わたくし一人で遊んでまいりますわ」
フォルナは多少がっかりしたが、それでも久々の休日である。お気に入りの赤いルーズ帽をかぶり、いそいそと出かけていった。
「……よーし。まずは第一段階突破だな」
「どーなるコトやら」
フォルナが出たことを確認し、朱海と小鈴はニヤリとほくそ笑んだ。
「ま、後はあの小僧次第だけどな」
「あっちにはもう伝えてんの?」
「もちろん。あの子が行きそうな店は全部伝えてある。帽子屋に小物店、雑貨屋、その他諸々。ま、いつもウチをご愛顧いただいてるサービスってコトでな」
朱海たちの思惑など知らない晴奈は、「二人して何をコソコソと……?」と首をかしげながら闘技場へ向かった。
一人で街へ出たものの、フォルナはあまり楽しくない。
「はぁ……」
これまではフォルナの事情を考え、二人で出かけるようにしていた。
だが故郷を離れてから既に半年以上が経っているからか、追っ手の姿はこれまで一度も見たことは無い。念のために帽子もかぶっているため(最近ではファッションと化しているが)、自分の正体が気付かれる可能性は低く、現在彼女に危機が迫ることは無い。
だから一人で出歩いても問題は無いのだが、話し相手がいないと多少物足りない。
「こんな日に、お休みにしなくても……」
若干残念に思いながらも、フォルナはお気に入りの店をブラブラと渡り歩いていた。と、可愛い黄色のニット帽を見つけ、思わず声を上げる。
「まあ! ねえセイナ、見て、……と、いなかったわね」
反射的に声をかけてしまい、フォルナは少し赤面する。と――。
「あ、あの、可愛いと思いますよ」
「えっ?」
突然後ろから、声をかけられる。驚いて振り向くと、そこにはあの頼りなさげな「狐」の青年――スーツや中折れ帽がかもし出す雰囲気は青年と言えなくも無いが、その顔はどうとらえても少年に見える――が立っていた。
「あら、エラン?」
「はは、き、奇遇ですね。街を歩いてたら、その、フォルナさんの姿を見かけたので」
勘のいいフォルナは、そのたどたどしい口調からピンと来た。
「……アケミさんから伺ったのかしら?」
「えっ? い、いや、違いますよ。偶然です、偶然」
「そうかしら?」
フォルナはひょい、とエランの懐から見えていた紙を取り上げる。
「あっ」
「『フォルナは帽子が大好きだから、きっと帽子屋の周辺にいるはずだ。そこで偶然を装って声をかければ……』、と。これは予言書かしら?」
「……うぅ」
エランは背を向け、がっくりと肩を落とした。
「もうダメだぁ……。何でこう、ドジばっかり踏むんかなぁ」
「あの、エラン?」
「こんなんやから母さまに『アンタもうちょっと、ええとこで鍛えてもらわなあきませんなぁ』とか怒られるんや……」
「エラン、どうされましたの?」
「職場でも『へたれのお坊ちゃん』ってバカにされとるし……」「エラン!」
うつむきがちにブツブツと嘆くエランに苛立ち、フォルナは思わず声を荒げた。
「ひゃっ、はいぃ!?」
「店先でそんな風に重たく振舞われては、お店の迷惑になりますわ。ともかく、どこかで落ち着きませんこと?」
「え……」
「わたくしとご一緒したいのでしょう? それともこのままずっと、店先でご迷惑かけるおつもりかしら?」
エランは慌てて背筋を伸ばし、ブルブルと首を振った。
「いえいえいえいえ、ご一緒したいですっ!」
「では、ついてらっしゃい」
フォルナの方が2つ下のはずだが、その口調はまるで姉が弟を諭すようだった。
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