DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 12 ~ ウルフ・クライ・アゲイン ~ 12
ウエスタン小説、第12話。
閃光は闇に消えて。
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12.
朝を迎え、ジェフとアーサーは北軍基地へ向かい、昨晩起こっていたことを基地司令に説明し、保護とリロイの治療、そして拿捕したウィリスの拘束を願い出た。
基地司令は目を白黒させてはいたものの、基地襲撃を未然に防いだジェフたちに感謝の意を表し、全面的に聞き入れてくれた。
こうしてミシシッピ川防衛指令は2名の犠牲者を出しながらも、どうにか達成されたのだが――。
「残念ながら『FLASH』は解散だ」
ミシシッピ川での一件から1ヶ月後、ジェフたちの上司である高官からそう言い渡され、ジェフはかぶりを振った。
「仕方ありませんな。隠密部隊が素性をさらしてしまったわけですからな」
「それもあるが、存続できない理由は他にある。重要なメンバーが2人、いや、3人も欠けてしまったことだ。君たち2人だけでは、到底今までのような活動は不可能だ」
「ボス、Lはまだ生きています」
口を挟むアーサーに、高官はうっとうしそうにうなずく。
「そんなことは分かっている。だがすぐに復帰できるような容態でもあるまい?」
「それは……」
「ともかく、死んだ2名も含め、君たち5名は代えがたい人材だったのだ。簡単に補充できるようなものではない。故に部隊の存続はできんのだ。異論は受け付けんぞ」
「あるいは、存続を許されなかったと? 我々の落ち度があるとは言え、いつも及び腰の上層部にしては、判断が妙に早い。『ケチを付ける機会があればいつでも潰す用意はしていた』、とでも言いたげなタイミングですからな」
ジェフが探りを入れてきたが、高官はジロリとジェフを見るだけで、何も答えない。
「何か政治的な理由でも? 例えば、秘密を知った我々が居座ったままでは困る者がいる、とか? あるいは将来的に、秘密を握られるかも知れない、と?」
続けて尋ねたジェフに、高官はため息をつき、閉じていた口を開いた。
「そんなところだ。詳しい理由は話せないし、今後はこの『FLASH』も、そもそも存在しなかったものとして生きてくれ」
「ふむ、そうですか」
それを聞いて、ジェフは肩のワッペンをはがし、高官の前にぽい、と投げた。
「それならこのジェフ・フォックス・パディントンがこの場にいたことも、記録や記憶から永遠に抹消しておいた方がよろしいでしょう。
私はこれっきりで失礼します。お見送りは結構」
「うむ」
そのまま出て行くジェフの後ろ姿を見送ったところで、アーサーが口を開く。
「私はもう少しばかり残ることにします。Lが、……いや、リロイが心配ですからな」
「了承した」
「……で、結局僕は終戦まで、病院で過ごしてたんだ。ウォルトンから受けた傷が化膿しちゃってさ、いやもう痛いわ熱は出るわで」
「あたしそれ100回聞いた」
リロイ副局長の話を聞き終え、カミラが口を尖らせる。
「ちょっと寒くなったり雨降ったりママから用事頼まれたりしたら『あー肩の傷がー』っつって言い訳して、ぐーたらしてんじゃん」
「もうトシなんだし、仕方無いさ」
そう返し、ニコニコ笑っているリロイに、アデルが「あの」と声をかける。
「その話だと、ウォルトンは拿捕されたことになりますよね」
「そうだよ」
「そんなら何故その後、ウォルトンは野に放たれたんです?」
「当時は犯罪者じゃなく、ただの下士官だったからさ。戦争が終われば捕虜は放逐されるのが当然だ」
「あ、なるほど」
「彼が戦争以外で、初めて殺人を犯したのは1868年のことだ。そこから以降、裏が取れた分だけで14件、殺人や強盗と言った重犯罪を犯している。あの大閣下氏を除けば、彼こそ合衆国を代表する犯罪王、最も憎むべき悪漢だ」
「そんな犯罪王が、何故2年も生かされていたの? そこまでのワルなら、とっくに縛り首になってるはずじゃ?」
「それもまた、犯罪王たる所以だね」
リロイは猫の頭を撫でながら、ため息をつく。
「さっきも言った通り、立証できたのは現時点で14件だけど、彼にはその3倍の嫌疑がかかってるんだよ。合衆国は一応、曲がりなりにも正義を掲げる国だ。真偽をはっきりさせないうちに無理矢理死刑にだなんて、それじゃ私刑(リンチ)になっちゃうし、建前上は許されない。それでもジェフはあっちこっちの人脈を使って、何が何でもウォルトンに刑を科そうと画策していたんだけど、残念ながら力及ばず、……と言うわけさ」
リロイは猫を抱えてひょいと立ち上がり、皆に声をかける。
「妙に曇ってきた。天気が悪くなりそうだ。ここで雨に濡れちゃ折角のピクニックが台無しだし、局に戻ろう。カミラも来るかい? 僕がコーヒーを入れるよ」
「行く行く。まだプレゼントの話まとまってないし」
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閃光は闇に消えて。
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朝を迎え、ジェフとアーサーは北軍基地へ向かい、昨晩起こっていたことを基地司令に説明し、保護とリロイの治療、そして拿捕したウィリスの拘束を願い出た。
基地司令は目を白黒させてはいたものの、基地襲撃を未然に防いだジェフたちに感謝の意を表し、全面的に聞き入れてくれた。
こうしてミシシッピ川防衛指令は2名の犠牲者を出しながらも、どうにか達成されたのだが――。
「残念ながら『FLASH』は解散だ」
ミシシッピ川での一件から1ヶ月後、ジェフたちの上司である高官からそう言い渡され、ジェフはかぶりを振った。
「仕方ありませんな。隠密部隊が素性をさらしてしまったわけですからな」
「それもあるが、存続できない理由は他にある。重要なメンバーが2人、いや、3人も欠けてしまったことだ。君たち2人だけでは、到底今までのような活動は不可能だ」
「ボス、Lはまだ生きています」
口を挟むアーサーに、高官はうっとうしそうにうなずく。
「そんなことは分かっている。だがすぐに復帰できるような容態でもあるまい?」
「それは……」
「ともかく、死んだ2名も含め、君たち5名は代えがたい人材だったのだ。簡単に補充できるようなものではない。故に部隊の存続はできんのだ。異論は受け付けんぞ」
「あるいは、存続を許されなかったと? 我々の落ち度があるとは言え、いつも及び腰の上層部にしては、判断が妙に早い。『ケチを付ける機会があればいつでも潰す用意はしていた』、とでも言いたげなタイミングですからな」
ジェフが探りを入れてきたが、高官はジロリとジェフを見るだけで、何も答えない。
「何か政治的な理由でも? 例えば、秘密を知った我々が居座ったままでは困る者がいる、とか? あるいは将来的に、秘密を握られるかも知れない、と?」
続けて尋ねたジェフに、高官はため息をつき、閉じていた口を開いた。
「そんなところだ。詳しい理由は話せないし、今後はこの『FLASH』も、そもそも存在しなかったものとして生きてくれ」
「ふむ、そうですか」
それを聞いて、ジェフは肩のワッペンをはがし、高官の前にぽい、と投げた。
「それならこのジェフ・フォックス・パディントンがこの場にいたことも、記録や記憶から永遠に抹消しておいた方がよろしいでしょう。
私はこれっきりで失礼します。お見送りは結構」
「うむ」
そのまま出て行くジェフの後ろ姿を見送ったところで、アーサーが口を開く。
「私はもう少しばかり残ることにします。Lが、……いや、リロイが心配ですからな」
「了承した」
「……で、結局僕は終戦まで、病院で過ごしてたんだ。ウォルトンから受けた傷が化膿しちゃってさ、いやもう痛いわ熱は出るわで」
「あたしそれ100回聞いた」
リロイ副局長の話を聞き終え、カミラが口を尖らせる。
「ちょっと寒くなったり雨降ったりママから用事頼まれたりしたら『あー肩の傷がー』っつって言い訳して、ぐーたらしてんじゃん」
「もうトシなんだし、仕方無いさ」
そう返し、ニコニコ笑っているリロイに、アデルが「あの」と声をかける。
「その話だと、ウォルトンは拿捕されたことになりますよね」
「そうだよ」
「そんなら何故その後、ウォルトンは野に放たれたんです?」
「当時は犯罪者じゃなく、ただの下士官だったからさ。戦争が終われば捕虜は放逐されるのが当然だ」
「あ、なるほど」
「彼が戦争以外で、初めて殺人を犯したのは1868年のことだ。そこから以降、裏が取れた分だけで14件、殺人や強盗と言った重犯罪を犯している。あの大閣下氏を除けば、彼こそ合衆国を代表する犯罪王、最も憎むべき悪漢だ」
「そんな犯罪王が、何故2年も生かされていたの? そこまでのワルなら、とっくに縛り首になってるはずじゃ?」
「それもまた、犯罪王たる所以だね」
リロイは猫の頭を撫でながら、ため息をつく。
「さっきも言った通り、立証できたのは現時点で14件だけど、彼にはその3倍の嫌疑がかかってるんだよ。合衆国は一応、曲がりなりにも正義を掲げる国だ。真偽をはっきりさせないうちに無理矢理死刑にだなんて、それじゃ私刑(リンチ)になっちゃうし、建前上は許されない。それでもジェフはあっちこっちの人脈を使って、何が何でもウォルトンに刑を科そうと画策していたんだけど、残念ながら力及ばず、……と言うわけさ」
リロイは猫を抱えてひょいと立ち上がり、皆に声をかける。
「妙に曇ってきた。天気が悪くなりそうだ。ここで雨に濡れちゃ折角のピクニックが台無しだし、局に戻ろう。カミラも来るかい? 僕がコーヒーを入れるよ」
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