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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 12 ~ ウルフ・クライ・アゲイン ~ 13

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    ウエスタン小説、第13話。
    老いた俊英。

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    13.
     皆が局内に戻るとほぼ同時に、雨がしとしとと降り出した。
    「荒れそうだ。なんかゴロゴロ言ってるし」
    「そうね。それより、もう2時になるじゃない。いくらなんでものんびりしすぎたわね」
     エミルの言葉に、リロイは壁にかけられた時計を見て、「あー……」と声を漏らした。
    「流石に怒られるかなぁ」
    「うむ」
     と、階段からパディントン局長が降りてくる。
    「君が副局長でなければ、トイレ掃除の罰を命じるところだ」
    「いや、やっておくよ。待たせすぎたし、今回は全面的に僕が悪かった。それでジェフ、僕に聞きたいことって?」
    「分かるだろう?」
     局長はリロイに詰め寄り、握っていた新聞を掲げる。
    「ウィリス・ウォルトンの件だ。彼が脱獄して1ヶ月になるし、君なら既に脱獄したことや、その後の足取りについて情報収集していたはずだ。何故私に報告していない?」
    「それは買い被りすぎだし、都合が良すぎる」
     リロイはにこにこと笑みをたたえたまま、局長に答える。
    「僕も知ったのは今朝のことだ。電話だって電報だって、事件が起こってすぐ届くわけじゃないもの。人づてなんてもっと時間がかかるさ。
     彼については現在情報収集中だ。朝から知り合いに片っ端から声をかけて、行方を探らせてるところだ。分かり次第報告を入れる。それまでは気に留めず、コーヒーでも飲んで待っててくれ」
    「……」
     局長はそれ以上何も言わず、くるりと踵を返し、どかどかと苛立たしげな足音を立てながら、階段を上がっていった。
    「それで、副局長?」
    「ん?」
     エミルが小声で尋ねつつ、リロイが抱えていた新聞を指差す。
    「本当のところは?」
    「K州の知り合いから電話が入ったのは脱獄から2日後。で、それらしい2人を見たって情報を時系列順に並べたら、西の方へ向かってるってことが分かった。今は恐らくW州にいるってところかな」
    「何故教えなかったんです?」
     尋ねたアデルに、リロイはパチ、とウインクして返す。
    「あの調子だろ? 素直に言ったら彼一人で向かいかねない。さもなくばいつかのアーサーよろしく、兵隊を引き連れて全面戦争仕掛けるか、だ。
     若い頃ならそれでも何とか結果を出せた。彼の理性が感情を抑えつけ、知性が肉体を動かすことができたからだ。だけど今は、必ずしもそう言えない。感情が理性を追い払い、知性以外のものが肉体を動かしてる。それは今、彼が冷静さを失ってるからとか、そう言う問題じゃない。老いたからだ。
     人間、歳をとったら落ち着くべきさ。僕はそう言う主義だけど、ジェフはそうじゃない。いつでも、いつまでも、自分が探偵王だ、未来永劫そうであり続けるんだと過信している。そしてそれこそが、彼が老いた証拠だ。現実をちゃんと認識できてないんだよ」
    「まさか……」
     反論しかけたアデルをさえぎり、リロイはこう続ける。
    「誤解しないでほしい。彼の能力が衰えただなんて、僕はこれっぽっちも思っちゃいない。聡明であることは疑いようのない事実だし、とても精力的な男だ。一般の人間が思ってるような老い方は、彼はまったくしていない。
     ただし、『手綱』を除いては、と注釈を付けなきゃいけないけれど」
    「手綱?」
    「自制心と言い換えてもいい。歳を重ねると嫌でも偉くなっていくもんだから、どうしたって自制心が衰えていく。だって誰にも怒られないんだもの。誰からも怒られなきゃ、誰だって自分のやることに責任を持とうだなんて思わなくなるし、それじゃ手綱も緩むってもんさ。
     実際、君たち二人のどちらかでも、今、『そんなにカリカリして他人に他人に当たり散らしちゃいけません』って、ジェフを叱り飛ばせるかい? 子供を叱るママみたいに、彼のお尻を叩けるかい?」
    「……無理ですね」
    「確かにできないわね」
    「馬が手綱を受け付けなくなって暴走したら、乗ってる人間は大変な目に遭う。ジェフもこのままじゃ、きっと痛い目を見る。だから僕は教えなかったんだ」
     リロイはそこで猫をカミラに渡し、給湯室へと向かう。
    「もうちょっと色々話そっか。立ち話もなんだし、コーヒー淹れてくるよ。お菓子か何かある?」
    「あたしがクッキー持ってるわ」
     答えたエミルに、リロイは嬉しそうな笑みを返した。
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