「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・接豪伝 1
神様たちの話、第211話。
流れ者たちの苦悩。
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1.
沿岸部における一連の事件が終息した後、ミェーチ軍団は北へと進み、山を登った。この邦では「西山間部」と呼ばれている地域である。
沿岸部がユーグ王国とノルド王国とで分割統治されていたように、この地域もまた、皇帝レン・ジーンの支配下に置かれた5つの国によって統治されている。ノルド王の庇護(ひご)を失い、野に下ることとなったミェーチは、新たな安堵の地を求めるべく、それらの国を訪ねることにした。
ところが――。
「レイス王国からは一言だけ、『接見を堅く拒否する』と。ハカラ王国以外の3ヶ国もほぼ同様の返事が来ました」
「むむむ……」
野に下ったとは言え、かつて沿岸部で功を成し名を遂げた名将ミェーチが、相当な兵力を擁する軍団を率いて遡上してきたのである。いずれの国も、彼らを「帝国に対する脅威」と見なしたらしく、軒並み門前払いしてきたのだ。
「では、ハカラ王国からは? そちらには確か、シェロが向かっておったな?」
「はい。間も無く戻られるかと」
「うむっ」
流浪の日々を共に過ごすうちに、ミェーチはすっかりシェロのことを気に入っており、それにならう形で、軍団内の者たちもシェロのことを重要人物、ミェーチに次ぐ重鎮として扱っていた。
「彼奴であれば、他より多少なりとも良い返事を持って来るはずであろう」
「我らも期待しております」
と、そこへ丁度、話に上ったシェロが戻って来る。
「ただいま戻りました」
「おお、シェロ! ご苦労であった。して、相手の返事は?」
「それがですね……」
シェロは苦い顔をしつつ、その内容を伝えた。
「まず、『当方の要請を受諾・完遂すれば、安堵を約束できるよう取り次ぐ準備がある』と」
「おお! でかしたぞ、シェロ! やはりお主はやり手であるな」
「あ、と。条件があるんです、条件が」
「む、そうであるか」
ミェーチの称賛をさえぎり、シェロは話を続ける。
「その条件と言うのが、『ハカラ王国北部に居座る豪族たちを討伐せよ』と。その成果が確認でき次第、国王との謁見を取り次げるよう手配することを検討すると言っていました」
「……ふむ」
途端に、ミェーチも表情を堅くした。
「それはまた、難題であるな」
「あの」
シェロが手を挙げ、質問する。
「『豪族』と言うのは?」
「ふむ、異邦人のお主が知らぬのも当然であるな。豪族と言うのは、一言で言えば帝国にとって『存在してはならぬ者たち』のことだ。
帝国が全土を統一したと宣言したのが20年ほど昔のことであるが、そう宣言したからには敵対勢力なる者は一人たりとも、この邦にいてはならぬわけである。ところが帝国に与せず、己の領土を主張する者たちが数年前より山間部各地に現れ、実力行使により町や村を占拠しておる。彼らを放置することは事実上、皇帝の言葉や威光、ひいては権威をないがしろにすることになる。帝国民にとってそれは反逆罪にも等しい、極めて許されざる行為だ。
であるからして、帝国と、そしてその属国の者は、挙って豪族討伐を推し進めているのだが……」
「だが?」
「これもまた一言で言えば、手強いのだ。我輩もうわさで聞いた程度でしかないが、彼奴らは帝国本軍とやり合い、返り討ちにしたことも何度かあるのだとか。負けたにしても、単純に逃亡・撤退するばかりで、殲滅にはほとんど至らんらしい。真正面からの攻勢は、現状でほとんど成果を挙げておらんようだ。かと言ってカネや地位などで懐柔し、軍門に加えようと画策しても、耳を貸さぬと言う。
まったく帝国にとっては、腹立たしいことこの上無き奴らと言うわけだ」
「なるほど」
話を聞き、シェロはうなずく。
「であれば、彼らを本当に潰すことができれば、こちらでの信用を得られると言うわけですね」
「しかしシェロ」
だが、ミェーチは乗り気では無いらしい。
「我々は元々、帝国と敵対するつもりで軍団を興したわけであるし、事実、帝国軍と戦闘も行い、撃破もしている。その我らが同じ反帝国の豪族たちを討つことに、安堵以上の意義があるのか?」
「う……それは」
言葉に詰まるシェロに、ミェーチが畳み掛ける。
「我々の本懐を忘れ、目先を追うことだけはしてくれるな、シェロ。他ならぬお主自身が、それで相当に痛い目を見たはずであろう?」
「は、はい」
返す言葉も無く、シェロはうなずくしかなかった。
と――そこへ、リディアが飛び込んで来た。
「あの、よろしいですか?」
「うん?」
「シェロ、あなたにまたお客さんです。また」
「また? ……って、……まさかまた?」
「ええ。また、あの人が」
「……なんで今更?」
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流れ者たちの苦悩。
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1.
沿岸部における一連の事件が終息した後、ミェーチ軍団は北へと進み、山を登った。この邦では「西山間部」と呼ばれている地域である。
沿岸部がユーグ王国とノルド王国とで分割統治されていたように、この地域もまた、皇帝レン・ジーンの支配下に置かれた5つの国によって統治されている。ノルド王の庇護(ひご)を失い、野に下ることとなったミェーチは、新たな安堵の地を求めるべく、それらの国を訪ねることにした。
ところが――。
「レイス王国からは一言だけ、『接見を堅く拒否する』と。ハカラ王国以外の3ヶ国もほぼ同様の返事が来ました」
「むむむ……」
野に下ったとは言え、かつて沿岸部で功を成し名を遂げた名将ミェーチが、相当な兵力を擁する軍団を率いて遡上してきたのである。いずれの国も、彼らを「帝国に対する脅威」と見なしたらしく、軒並み門前払いしてきたのだ。
「では、ハカラ王国からは? そちらには確か、シェロが向かっておったな?」
「はい。間も無く戻られるかと」
「うむっ」
流浪の日々を共に過ごすうちに、ミェーチはすっかりシェロのことを気に入っており、それにならう形で、軍団内の者たちもシェロのことを重要人物、ミェーチに次ぐ重鎮として扱っていた。
「彼奴であれば、他より多少なりとも良い返事を持って来るはずであろう」
「我らも期待しております」
と、そこへ丁度、話に上ったシェロが戻って来る。
「ただいま戻りました」
「おお、シェロ! ご苦労であった。して、相手の返事は?」
「それがですね……」
シェロは苦い顔をしつつ、その内容を伝えた。
「まず、『当方の要請を受諾・完遂すれば、安堵を約束できるよう取り次ぐ準備がある』と」
「おお! でかしたぞ、シェロ! やはりお主はやり手であるな」
「あ、と。条件があるんです、条件が」
「む、そうであるか」
ミェーチの称賛をさえぎり、シェロは話を続ける。
「その条件と言うのが、『ハカラ王国北部に居座る豪族たちを討伐せよ』と。その成果が確認でき次第、国王との謁見を取り次げるよう手配することを検討すると言っていました」
「……ふむ」
途端に、ミェーチも表情を堅くした。
「それはまた、難題であるな」
「あの」
シェロが手を挙げ、質問する。
「『豪族』と言うのは?」
「ふむ、異邦人のお主が知らぬのも当然であるな。豪族と言うのは、一言で言えば帝国にとって『存在してはならぬ者たち』のことだ。
帝国が全土を統一したと宣言したのが20年ほど昔のことであるが、そう宣言したからには敵対勢力なる者は一人たりとも、この邦にいてはならぬわけである。ところが帝国に与せず、己の領土を主張する者たちが数年前より山間部各地に現れ、実力行使により町や村を占拠しておる。彼らを放置することは事実上、皇帝の言葉や威光、ひいては権威をないがしろにすることになる。帝国民にとってそれは反逆罪にも等しい、極めて許されざる行為だ。
であるからして、帝国と、そしてその属国の者は、挙って豪族討伐を推し進めているのだが……」
「だが?」
「これもまた一言で言えば、手強いのだ。我輩もうわさで聞いた程度でしかないが、彼奴らは帝国本軍とやり合い、返り討ちにしたことも何度かあるのだとか。負けたにしても、単純に逃亡・撤退するばかりで、殲滅にはほとんど至らんらしい。真正面からの攻勢は、現状でほとんど成果を挙げておらんようだ。かと言ってカネや地位などで懐柔し、軍門に加えようと画策しても、耳を貸さぬと言う。
まったく帝国にとっては、腹立たしいことこの上無き奴らと言うわけだ」
「なるほど」
話を聞き、シェロはうなずく。
「であれば、彼らを本当に潰すことができれば、こちらでの信用を得られると言うわけですね」
「しかしシェロ」
だが、ミェーチは乗り気では無いらしい。
「我々は元々、帝国と敵対するつもりで軍団を興したわけであるし、事実、帝国軍と戦闘も行い、撃破もしている。その我らが同じ反帝国の豪族たちを討つことに、安堵以上の意義があるのか?」
「う……それは」
言葉に詰まるシェロに、ミェーチが畳み掛ける。
「我々の本懐を忘れ、目先を追うことだけはしてくれるな、シェロ。他ならぬお主自身が、それで相当に痛い目を見たはずであろう?」
「は、はい」
返す言葉も無く、シェロはうなずくしかなかった。
と――そこへ、リディアが飛び込んで来た。
「あの、よろしいですか?」
「うん?」
「シェロ、あなたにまたお客さんです。また」
「また? ……って、……まさかまた?」
「ええ。また、あの人が」
「……なんで今更?」
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第5部の開始です。
今回も最初から最後まであの人が暴れまくります。
多少の横槍は入りますが。
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今回も最初から最後まであの人が暴れまくります。
多少の横槍は入りますが。



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