「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・接豪伝 3
神様たちの話、第213話。
はっきりと。
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3.
ずけずけと物を言いつつも、エリザは依然として、笑みを崩さない。その不敵な態度に怯みそうになり、シェロはなおも強情を張ろうとする。
「やっぱり裏があるんじゃないっスか! そんな話、俺が聞くと思うんスか?」
「聞くはずや。アンタやったら分かるはずやで、現状でアタシと話するのんが一番ええ策やっちゅうコトをな」
「そうは思いませんね」
「ほんならアンタの一番の策は何や? 正面切って豪族さんらと戦うて大勢犠牲を出して、ソイツらの焼け野原になった領土を乗っ取った上で、ボロボロの体のまま帝国さんらと連戦するコトか? 引き返して山を下って、恥も外聞も無く『やっぱアカンわ』『どうにもなりまへん』ちゅうてノルド王国に泣きつくコトか?
ソレともこのまんま困り果てて弱り切って軍団がグズグズになったところを、ハカラ王国の人らに討ち取られるコトか?」
「え、……え?」
想定しない状況に言及され、シェロは戸惑う。
「ハカラ王国が、俺たちを?」
「おかしな話とちゃうやろ? アンタらは武力集団や。ソレも、ドコの国にも属してへん上に、帝国軍と正面切って戦ったヤツらや。帝国に従属しとるこっちの偉いさんにとったら、豪族と何ら変わらへん輩やん? せやからドコもかしこも門前払いしてきはったし、豪族と戦わせようとしとるんや。
向こうの人にしてみたら、『同士討ちさせて共倒れしてくれたら儲けもんや』っちゅうトコやろな。よしんばどっちか生き残ったとしても、戦った後で弱っとるワケやし、倒すのんにさして苦労せんやろな」
「ぐっ……!」
エリザの言葉に、シェロは顔をしかめさせる。
「……結局、こっちの人間をアテにしようなんてのが、そもそもの間違いってコトっスね」
「そうなるな。西山間部の人らは帝国寄りやからな、帝国派やない人間は死のうが殺し合おうが、知ったこっちゃあらへんっちゅうコトや。
もし仮に、アンタらがまったくの無傷で豪族討伐を成功させたとしても、向こうは『ほんなら話聞こか』とはならんやろな。その時はまた何やかや言い訳こねるか、別の用事押し付けるか、どっちにしても結局は追い払うつもりやろ」
「くそ……ッ」
シェロの攻勢が止んだところで、エリザが畳み掛ける。
「言うとくけど、この状況で逃げるんも下の下の策やで。
そら上手いコト行かへんかったらちゃっちゃと見切り付けて次行こか、っちゅう考えもあるし、普通は悪い手やない。でも既にアンタら、ハカラ王国でええようにあしらわれた身やろ? となれば他の国かて、同じコトするやろな。『他の国で門前払いされたヤツになんで俺らが温情見せなアカン?』ちゅうてな。そもそも『余所者』やし、そんな輩をうっかり引き入れて、帝国に目ぇ付けられたらアホみたいやろ。間違い無く、誰もまともに相手せえへんわ。西山間部中あっちこっち行く先々でそんな扱いされて追い払われとったら、いずれはドコかで全員野垂れ死にするんは目に見えとるわ。
勿論言うまでも無いコトやろうけども、面倒見切れへんし一人で逃げてまお、っちゅうのんも無しやで」
「にっ、……逃げるワケ無いじゃないっスか」
「ほんならええんやけどな。後ろ見てみ」
言われて、シェロは素直に後ろを向く。
「……っ」
前述の通り、この小屋には応接間など無く、仕切りらしい壁や衝立も無い。そのため今までの会話はすべて、小屋にいた兵士たちに筒抜けになっており――。
(見てる。……すげー心配そうな目で)
「皆な、アンタがどうやって今のこの状況を打破してくれるか、期待しとんねん。アンタが突撃っちゅうたらしよるし、塩湖越えてもっと東に行こかっちゅうたら付いてくわ。地位も職も放り出してアンタに付いて来た身やさかい、ソレ以外に何もでけへんからや。皆、アンタの決定と、命令を待っとるんよ。もっぺん、はっきり言うとくで。今逃げるんは最悪の策や。今必要なんは、前に出る策やで。
そんなワケでや、シェロくん」
エリザはここで、笑みを顔から消した。
「どないする? アタシと手ぇ組むか? ソレともまだ自分一人で悩んで、どうにかでけんか考えるか?」
「……」
シェロはしばらく黙っていたが――やがて、「話、聞かせて下さい」と答えた。
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はっきりと。
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3.
ずけずけと物を言いつつも、エリザは依然として、笑みを崩さない。その不敵な態度に怯みそうになり、シェロはなおも強情を張ろうとする。
「やっぱり裏があるんじゃないっスか! そんな話、俺が聞くと思うんスか?」
「聞くはずや。アンタやったら分かるはずやで、現状でアタシと話するのんが一番ええ策やっちゅうコトをな」
「そうは思いませんね」
「ほんならアンタの一番の策は何や? 正面切って豪族さんらと戦うて大勢犠牲を出して、ソイツらの焼け野原になった領土を乗っ取った上で、ボロボロの体のまま帝国さんらと連戦するコトか? 引き返して山を下って、恥も外聞も無く『やっぱアカンわ』『どうにもなりまへん』ちゅうてノルド王国に泣きつくコトか?
ソレともこのまんま困り果てて弱り切って軍団がグズグズになったところを、ハカラ王国の人らに討ち取られるコトか?」
「え、……え?」
想定しない状況に言及され、シェロは戸惑う。
「ハカラ王国が、俺たちを?」
「おかしな話とちゃうやろ? アンタらは武力集団や。ソレも、ドコの国にも属してへん上に、帝国軍と正面切って戦ったヤツらや。帝国に従属しとるこっちの偉いさんにとったら、豪族と何ら変わらへん輩やん? せやからドコもかしこも門前払いしてきはったし、豪族と戦わせようとしとるんや。
向こうの人にしてみたら、『同士討ちさせて共倒れしてくれたら儲けもんや』っちゅうトコやろな。よしんばどっちか生き残ったとしても、戦った後で弱っとるワケやし、倒すのんにさして苦労せんやろな」
「ぐっ……!」
エリザの言葉に、シェロは顔をしかめさせる。
「……結局、こっちの人間をアテにしようなんてのが、そもそもの間違いってコトっスね」
「そうなるな。西山間部の人らは帝国寄りやからな、帝国派やない人間は死のうが殺し合おうが、知ったこっちゃあらへんっちゅうコトや。
もし仮に、アンタらがまったくの無傷で豪族討伐を成功させたとしても、向こうは『ほんなら話聞こか』とはならんやろな。その時はまた何やかや言い訳こねるか、別の用事押し付けるか、どっちにしても結局は追い払うつもりやろ」
「くそ……ッ」
シェロの攻勢が止んだところで、エリザが畳み掛ける。
「言うとくけど、この状況で逃げるんも下の下の策やで。
そら上手いコト行かへんかったらちゃっちゃと見切り付けて次行こか、っちゅう考えもあるし、普通は悪い手やない。でも既にアンタら、ハカラ王国でええようにあしらわれた身やろ? となれば他の国かて、同じコトするやろな。『他の国で門前払いされたヤツになんで俺らが温情見せなアカン?』ちゅうてな。そもそも『余所者』やし、そんな輩をうっかり引き入れて、帝国に目ぇ付けられたらアホみたいやろ。間違い無く、誰もまともに相手せえへんわ。西山間部中あっちこっち行く先々でそんな扱いされて追い払われとったら、いずれはドコかで全員野垂れ死にするんは目に見えとるわ。
勿論言うまでも無いコトやろうけども、面倒見切れへんし一人で逃げてまお、っちゅうのんも無しやで」
「にっ、……逃げるワケ無いじゃないっスか」
「ほんならええんやけどな。後ろ見てみ」
言われて、シェロは素直に後ろを向く。
「……っ」
前述の通り、この小屋には応接間など無く、仕切りらしい壁や衝立も無い。そのため今までの会話はすべて、小屋にいた兵士たちに筒抜けになっており――。
(見てる。……すげー心配そうな目で)
「皆な、アンタがどうやって今のこの状況を打破してくれるか、期待しとんねん。アンタが突撃っちゅうたらしよるし、塩湖越えてもっと東に行こかっちゅうたら付いてくわ。地位も職も放り出してアンタに付いて来た身やさかい、ソレ以外に何もでけへんからや。皆、アンタの決定と、命令を待っとるんよ。もっぺん、はっきり言うとくで。今逃げるんは最悪の策や。今必要なんは、前に出る策やで。
そんなワケでや、シェロくん」
エリザはここで、笑みを顔から消した。
「どないする? アタシと手ぇ組むか? ソレともまだ自分一人で悩んで、どうにかでけんか考えるか?」
「……」
シェロはしばらく黙っていたが――やがて、「話、聞かせて下さい」と答えた。
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第5部第1節の3話。
だいぶ昔、これに言及したことがあります。
見つけられる人は相当読み込んでます。
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