「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・接豪伝 4
神様たちの話、第214話。
北の町での試食会。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
シェロとエリザが話し合ってから、一週間後――ハカラ王国領の北にある町、セベルゴルナ。
「さーさー海の幸の試食会だよ、どうぞ見てらっしゃい寄ってらっしゃい! 我らが『狐の女将さん』、エリザ・ゴールドマン先生直々にお越しいただいての大盤振る舞い! 美味しい料理が盛り沢山だよー!」
すっかりエリザの丁稚となった沿岸部の商人たちが、広場で大きな鍋を背にして横一列に並び、声を張り上げている。
その列の中心に立つエリザも、いつものようにニコニコと笑みをたたえながら、街行く者たちに声をかけていた。
「いらっしゃいませー、いらっしゃいませ! 本日はこちらへ卸しに来た沿岸部の各種食材の試食販売を行っております! エビ、イカ、カニにウニにカキ! 勿論お魚も一揃い、ぞろぞろぞろっと持って来とります! 本日はその試食も兼ねまして、大変美味しい料理を町の皆様へご提供いたします!」
この邦ではまず見られない、狐獣人エリザの見目麗しい容姿に加え、並べられた料理はどれもエリザの故郷風に作られており、瞬く間に町の者の注目を集める。
「なにこれ?」
「え、ウニって食えたの? あんなトゲトゲが?」
「うぇー……、なんかキモいよ? 本当にイカって食えんの?」
「……でも、なんか」
「おいしそー!」
「わかる」
あっと言う間に広場は人で埋まり、次々に料理が彼らに手渡されていく。
「……うっわぁ、なにこれ!?」
「え、これ、マジ美味いんだけど」
「沿岸部ってこんな美味いのあんのかよ!?」
「わたし、魚くらいしか無いって思ってた」
「うんうん」
一様に顔をほころばせ、料理に群がる人々を眺めて、エリザはさらに声を上げる。
「本日の試食会、どうぞ楽しんでって下さい! 料理が気に入った方には調理法もお教えしますよって、どうぞお気軽にお申し付け下さーい!」
「あ、知りたい知りたい!」
「教えて、女将さーん!」
試食会が始まって5分もしない内に、町中の人間が広場へと集まっていった。
と――この騒ぎを、遠巻きに眺める者たちがいた。
「あれは何をやってるんだ?」
「聞いたところによると、沿岸部に来た異邦人が料理を振る舞ってるそうです」
「異邦人?」
町の者たちと明らかに出で立ちの違う、野趣溢れる身なりをした彼らも、恐る恐る広場に近付いて行く。
「……っ!」
が、広場にいた町民たちが彼らに気付いた途端、それまでの喧騒が嘘のように静まる。
「ご……豪族、豪族だーッ!」
「豪族が出たぞ!」
「うわっ、わっ……」
一瞬で場が冷え切り、エリザもそこで、宣伝の声を潜めた。
「さーいらっしゃいませ、いらっしゃ……、っとと。
あらあら、どないしはったんですか皆さん? なんやバケモノでも見たような顔、ずらーっと並べはって」
「お、女将さん! ご、豪族ですよ、豪族!」
町の者にそう返されるが、エリザはきょとんとした表情を作り、とぼけて見せる。
「ごーぞく? はて、何でっしゃろ。まあともかく、そちらの方もお腹空いてはるみたいやし、どうぞこっち来て、アタシのご飯食べてって下さい」
「ちょっ、エリザさん、まずいんじゃないっスか」
「えーからえーから」
護衛のロウをひょいと避け、エリザは料理の乗った皿と酒の入ったコップを両手に持ち、豪族たちへと近付く。
「はい、どうぞ」
「い……いや……」
相手もこんな対応をされるとは思っていなかったらしく、明らかに戸惑っている。
「……う、受け取れるか!」
と、一人が声を荒げ、エリザに剣を向けた。
「我々はどこにも与せぬ立場にある! 飯を恵んでもらうなど、あってなるものか!」
「そないカタくならんと」
対するエリザは、ニコニコと笑みを浮かべて近付く。
「ほーら見て下さーい、むっちゃ美味しいですよー……?」
優しい声色で招きつつ、エリザはぎゅっと、両腕を狭めさせた。途端に剣を向けていた男の視線が、エリザの顔から、ざっくりと空いたドレスの胸元へと落ちる。
「あっ……その……おっ……ぱああぁ……」
「立場とか誇りとか、そんな堅苦しいお話、こんな往来でせんでもええですやないの。ちょとご飯とお酒、お呼ばれするだけですやん?」
「……あー……その……まあ、ど、どど、どうしても、と、言うのなら、その、食わんで、やらんことは、な、無いと言うか、う、うん、まあ、うん」
強情も10秒ともたず、男はエリザの豊かな胸を凝視したまま剣を収め、カチコチとした仕草で皿とコップを受け取った。
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北の町での試食会。
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シェロとエリザが話し合ってから、一週間後――ハカラ王国領の北にある町、セベルゴルナ。
「さーさー海の幸の試食会だよ、どうぞ見てらっしゃい寄ってらっしゃい! 我らが『狐の女将さん』、エリザ・ゴールドマン先生直々にお越しいただいての大盤振る舞い! 美味しい料理が盛り沢山だよー!」
すっかりエリザの丁稚となった沿岸部の商人たちが、広場で大きな鍋を背にして横一列に並び、声を張り上げている。
その列の中心に立つエリザも、いつものようにニコニコと笑みをたたえながら、街行く者たちに声をかけていた。
「いらっしゃいませー、いらっしゃいませ! 本日はこちらへ卸しに来た沿岸部の各種食材の試食販売を行っております! エビ、イカ、カニにウニにカキ! 勿論お魚も一揃い、ぞろぞろぞろっと持って来とります! 本日はその試食も兼ねまして、大変美味しい料理を町の皆様へご提供いたします!」
この邦ではまず見られない、狐獣人エリザの見目麗しい容姿に加え、並べられた料理はどれもエリザの故郷風に作られており、瞬く間に町の者の注目を集める。
「なにこれ?」
「え、ウニって食えたの? あんなトゲトゲが?」
「うぇー……、なんかキモいよ? 本当にイカって食えんの?」
「……でも、なんか」
「おいしそー!」
「わかる」
あっと言う間に広場は人で埋まり、次々に料理が彼らに手渡されていく。
「……うっわぁ、なにこれ!?」
「え、これ、マジ美味いんだけど」
「沿岸部ってこんな美味いのあんのかよ!?」
「わたし、魚くらいしか無いって思ってた」
「うんうん」
一様に顔をほころばせ、料理に群がる人々を眺めて、エリザはさらに声を上げる。
「本日の試食会、どうぞ楽しんでって下さい! 料理が気に入った方には調理法もお教えしますよって、どうぞお気軽にお申し付け下さーい!」
「あ、知りたい知りたい!」
「教えて、女将さーん!」
試食会が始まって5分もしない内に、町中の人間が広場へと集まっていった。
と――この騒ぎを、遠巻きに眺める者たちがいた。
「あれは何をやってるんだ?」
「聞いたところによると、沿岸部に来た異邦人が料理を振る舞ってるそうです」
「異邦人?」
町の者たちと明らかに出で立ちの違う、野趣溢れる身なりをした彼らも、恐る恐る広場に近付いて行く。
「……っ!」
が、広場にいた町民たちが彼らに気付いた途端、それまでの喧騒が嘘のように静まる。
「ご……豪族、豪族だーッ!」
「豪族が出たぞ!」
「うわっ、わっ……」
一瞬で場が冷え切り、エリザもそこで、宣伝の声を潜めた。
「さーいらっしゃいませ、いらっしゃ……、っとと。
あらあら、どないしはったんですか皆さん? なんやバケモノでも見たような顔、ずらーっと並べはって」
「お、女将さん! ご、豪族ですよ、豪族!」
町の者にそう返されるが、エリザはきょとんとした表情を作り、とぼけて見せる。
「ごーぞく? はて、何でっしゃろ。まあともかく、そちらの方もお腹空いてはるみたいやし、どうぞこっち来て、アタシのご飯食べてって下さい」
「ちょっ、エリザさん、まずいんじゃないっスか」
「えーからえーから」
護衛のロウをひょいと避け、エリザは料理の乗った皿と酒の入ったコップを両手に持ち、豪族たちへと近付く。
「はい、どうぞ」
「い……いや……」
相手もこんな対応をされるとは思っていなかったらしく、明らかに戸惑っている。
「……う、受け取れるか!」
と、一人が声を荒げ、エリザに剣を向けた。
「我々はどこにも与せぬ立場にある! 飯を恵んでもらうなど、あってなるものか!」
「そないカタくならんと」
対するエリザは、ニコニコと笑みを浮かべて近付く。
「ほーら見て下さーい、むっちゃ美味しいですよー……?」
優しい声色で招きつつ、エリザはぎゅっと、両腕を狭めさせた。途端に剣を向けていた男の視線が、エリザの顔から、ざっくりと空いたドレスの胸元へと落ちる。
「あっ……その……おっ……ぱああぁ……」
「立場とか誇りとか、そんな堅苦しいお話、こんな往来でせんでもええですやないの。ちょとご飯とお酒、お呼ばれするだけですやん?」
「……あー……その……まあ、ど、どど、どうしても、と、言うのなら、その、食わんで、やらんことは、な、無いと言うか、う、うん、まあ、うん」
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