「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・接豪伝 5
神様たちの話、第215話。
食は万里を超える。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
エリザが豪族たちを試食会へと招き入れたことで、最初は戦々恐々とした表情を並べていた町民だったが――。
「そーれっ、一気! 一気!」
「うぉっしゃあ! んぐ、ぐっ、ぐっ……、ぷはーっ!」
「いよっ、いい飲みっぷり!」
料理と酒をいくらか胃に流し込まれたところで、豪族たちの険もどこかへ吹き飛んでしまい、両者はすっかり意気投合していた。
「いやぁ、女将さんのぉ、言う通りですねぇ~! 最初は怖い人たちと思ってましたけどぉ、こうして話してみたらぁ、楽しい人たちじゃないですかぁ~!」
「ヒック、いや、何と言うか、……ヒック、我々も警戒しすぎたし、ヒック、警戒させすぎたかも、ヒック、すまなかった、……ヒック」
肩を組み合い、赤ら顔を並べている町民らと豪族たちの前に、エリザがニコニコ笑いながら近寄って来る。
「あらあら、すっかり出来上がってはりますな。どないです、もう一杯?」
「うー、いや、もう結構れす」
「我々も、これ以上呑んでは、ヒック、あの、実は、……ヒック、我々は、近隣の町村の、ヒック、偵察に、その、差し障る、ヒック、内緒、うー……」
豪族が漏らしたその一言に、エリザの口元がわずかに歪む。
「あら、お仕事中でした? そらえらい不調法してしまいましたな。起きれます?」
「……うー……んぐ……んがっ……んごご……」
「あららら、寝てしまいましたな」
エリザはくる、と振り返り、ロウと丁稚たちに声を掛ける。
「ロウくん、イワンくん、ユーリくん、ちょとこっち来てー。この人、アタシらの宿に運んで寝かしたり」
「うっス」
すっかり酔い潰れてしまった豪族三人が目を覚ましたのは、夜も遅くになってからだった。
「……ん……ん?」
「ふがっ……?」
「……ここは?」
真っ暗な部屋の中でまごついているところに、戸の向こうからすっと灯りの光が差し込む。
「目ぇ覚めはりました?」
「んっ? ……あっ、えーと、女将さん?」
「はいどーも」
灯りを手にしつつ、部屋の中に入ってきたエリザに、豪族たちは揃って頭を下げる。
「すっかり世話になってしまったようだ。かたじけない」
「いえいえ、お構いなく。ところでお腹空いてはります?」
そう問われた途端、三人の腹が同時にぐう、と鳴る。
「む……恥ずかしながら」
「そう思いましてな、晩ご飯も用意しとります。こちらにどうぞー」
エリザに導かれるまま、三人は部屋を出て、食堂に向かう。
と、そこには中年の虎獣人と若い短耳が2人、並んで座っていた。
「……む?」
豪族たちがいぶかしんでいると、その二人は立ち上がり、揃って会釈した。
「突然の訪問、失礼仕る。吾輩はエリコ・ミェーチ、ミェーチ軍団団長である。こちらは副団長のシェロ・ナイトマンだ」
「よろしく」
「は……はあ」
きょとんとしている豪族たちに、エリザがやんわりと声を掛ける。
「すぐご飯持って来ますよって、さ、お席にどうぞ」
「う、うむ」
促されるまま席に着き、豪族たちはシェロたちの対面に座る。と、すぐさまミェーチが立ち上がり、話を切り出そうとした。
「単刀直入に申し上げる! 是非我々と……」「こーらっ」
が、厨房に向かおうとしていたエリザが引き返し、ミェーチをたしなめた。
「今からご飯やお酒やっちゅうトコで、何を堅い話しようとしてはるんですか。そんなんは終わってからのんびりしはりなさい」
「おっ、おう? う、うむ、失敬した」
出鼻をくじかれ、ミェーチはそのまま、すとんと椅子に腰を下ろした。
「あー、と、まあ、女将殿にそう言われてしまっては仕方あるまい。話を変えよう。今宵の席では吾輩の娘も厨房に立っておるでな、是非ご賞味くだされ」
「はあ」
両者とも、何の毒気もアクも帯びなくなったところで、丁稚たちが料理を運んできた。
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食は万里を超える。
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5.
エリザが豪族たちを試食会へと招き入れたことで、最初は戦々恐々とした表情を並べていた町民だったが――。
「そーれっ、一気! 一気!」
「うぉっしゃあ! んぐ、ぐっ、ぐっ……、ぷはーっ!」
「いよっ、いい飲みっぷり!」
料理と酒をいくらか胃に流し込まれたところで、豪族たちの険もどこかへ吹き飛んでしまい、両者はすっかり意気投合していた。
「いやぁ、女将さんのぉ、言う通りですねぇ~! 最初は怖い人たちと思ってましたけどぉ、こうして話してみたらぁ、楽しい人たちじゃないですかぁ~!」
「ヒック、いや、何と言うか、……ヒック、我々も警戒しすぎたし、ヒック、警戒させすぎたかも、ヒック、すまなかった、……ヒック」
肩を組み合い、赤ら顔を並べている町民らと豪族たちの前に、エリザがニコニコ笑いながら近寄って来る。
「あらあら、すっかり出来上がってはりますな。どないです、もう一杯?」
「うー、いや、もう結構れす」
「我々も、これ以上呑んでは、ヒック、あの、実は、……ヒック、我々は、近隣の町村の、ヒック、偵察に、その、差し障る、ヒック、内緒、うー……」
豪族が漏らしたその一言に、エリザの口元がわずかに歪む。
「あら、お仕事中でした? そらえらい不調法してしまいましたな。起きれます?」
「……うー……んぐ……んがっ……んごご……」
「あららら、寝てしまいましたな」
エリザはくる、と振り返り、ロウと丁稚たちに声を掛ける。
「ロウくん、イワンくん、ユーリくん、ちょとこっち来てー。この人、アタシらの宿に運んで寝かしたり」
「うっス」
すっかり酔い潰れてしまった豪族三人が目を覚ましたのは、夜も遅くになってからだった。
「……ん……ん?」
「ふがっ……?」
「……ここは?」
真っ暗な部屋の中でまごついているところに、戸の向こうからすっと灯りの光が差し込む。
「目ぇ覚めはりました?」
「んっ? ……あっ、えーと、女将さん?」
「はいどーも」
灯りを手にしつつ、部屋の中に入ってきたエリザに、豪族たちは揃って頭を下げる。
「すっかり世話になってしまったようだ。かたじけない」
「いえいえ、お構いなく。ところでお腹空いてはります?」
そう問われた途端、三人の腹が同時にぐう、と鳴る。
「む……恥ずかしながら」
「そう思いましてな、晩ご飯も用意しとります。こちらにどうぞー」
エリザに導かれるまま、三人は部屋を出て、食堂に向かう。
と、そこには中年の虎獣人と若い短耳が2人、並んで座っていた。
「……む?」
豪族たちがいぶかしんでいると、その二人は立ち上がり、揃って会釈した。
「突然の訪問、失礼仕る。吾輩はエリコ・ミェーチ、ミェーチ軍団団長である。こちらは副団長のシェロ・ナイトマンだ」
「よろしく」
「は……はあ」
きょとんとしている豪族たちに、エリザがやんわりと声を掛ける。
「すぐご飯持って来ますよって、さ、お席にどうぞ」
「う、うむ」
促されるまま席に着き、豪族たちはシェロたちの対面に座る。と、すぐさまミェーチが立ち上がり、話を切り出そうとした。
「単刀直入に申し上げる! 是非我々と……」「こーらっ」
が、厨房に向かおうとしていたエリザが引き返し、ミェーチをたしなめた。
「今からご飯やお酒やっちゅうトコで、何を堅い話しようとしてはるんですか。そんなんは終わってからのんびりしはりなさい」
「おっ、おう? う、うむ、失敬した」
出鼻をくじかれ、ミェーチはそのまま、すとんと椅子に腰を下ろした。
「あー、と、まあ、女将殿にそう言われてしまっては仕方あるまい。話を変えよう。今宵の席では吾輩の娘も厨房に立っておるでな、是非ご賞味くだされ」
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