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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第5部

    琥珀暁・密議伝 1

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    神様たちの話、第218話。
    三者同盟。

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    1.
     西山間部にて豪族及びミェーチ軍団と接触し、協力関係を築くことに成功した遠征隊だったが、「協力」の詳しい内容を協議する場において、エリザはまず、こう切り出した。
    「この関係は当面、秘密にするっちゅうコトで行きましょ。お互いに、知らぬ存ぜぬ誰やソレっちゅうコトで」
    「何故だ?」
     強面のミェーチとダリノワ王に挟まれるように尋ねられるが、エリザはニコニコと笑みをたたえながら答える。
    「相手に『敵』は3つやと思わせとくんですわ。
     コレが1つ、全部同じ勢力やっちゅうんなら、ドコをどう突いても1つなんやから、相手への打撃を与えたと考えはります。せやけどもコレが3つやと思とったら? 1つを攻撃しても、残り2つがその隙に攻めてきよるかも分からん。相手にとったら軽々に動けへんような状況になるワケですわ。
     反面、こっちは3つの勢力をお互いに都合のええように動かせる。身動きのでけん相手を引っ掻き回せるワケですな」
    「覚えがあるな」
     苦々しい表情を浮かべつつ、ミェーチがうなる。
    「女史はその手で沿岸方面軍をたばかり、我々に襲いかかる彼奴らを容易く撃破したと、シェロから聞き及んでおるぞ」
    「ええ。その効果は十分ご存知いただけとるコトやと思います」
     ミェーチの皮肉めいた非難をさらりといなし、エリザは話を続ける。
    「ちゅうワケで、この関係は秘密です。通じとるコト自体もできればココにおるアタシらと、家臣や幹部陣までで。下の者には内緒にしとって下さい。アタシの方――遠征隊陣営にも、アタシの他にはタイムズ殿下とシモン隊長の二人しか知らんように計ってますし。今回の話し合い自体も、来たんはアタシと商売関係の護衛さん何人かくらいですし」
    「わしを慕う民をあざむけと言うのか?」
     不満そうにするダリノワ王に、エリザはぺちん、と両手を胸の前で合わせて頼む。
    「コレは必須です。いくら箝口令(かんこうれい:特定の情報を外部に漏らさないよう命令すること)を敷こうとも、秘密を知ってしもたら、知らん子に言いたくなってまうんが人間ですしな。
     仮にこの『密約』が漏れ、帝国側にアタシらの連携が漏れたら、向こうさんは間違い無く、この3つの中で最も攻めやすく、最も弱小な軍勢を潰しにかかります。ソレがドレやっちゅうコトは、言わんでも分かりますな?」
    「む……」「ぬぬ……」
     エリザの言葉に、ミェーチとダリノワ王は互いに顔を見合わせる。
    「はっきり言いはしまいが、確かにどちらかになるであろう」
    「然り。遠征隊は沿岸部におり、数も力量も我々とは比較にならぬ。……と考えれば、少しばかり女史らに都合の良い約定ではないのか、これは?」
     ミェーチに再度にらまれるが、エリザは依然として笑みを崩さない。
    「その点は認めるところです。はっきり言うたら、仮に帝国さんが全力出してお二人の軍勢を壊滅させたとて、アタシらには西山間部の拠点を失う以上の被害はありまへんからな。
     ソレを十分に踏まえて、お二方への取引はかなり盛らせてもらおうと思てます。まず糧食に関しては」
    「糧食?」
     食べ物と聞き、ミェーチが虎耳をぴくんと震わせる。
    「抱えとる人間1人につき、主食としてお芋さんを大袋で2つ、ソレから何かしらのおかず1袋分を月に一度送ります。味は保証しますで」
    「うむっ」
     一点、顔をほころばせるミェーチに対し、ダリノワ王はしかめっ面を浮かべている。
    「わしは『虎』ではないからな。飯の味などどうでも良い。他には?」
    「美味しいもん食べへんと力出ませんで。ま、ええですわ。2番目は教育、技術指導です」
    「なんだと?」
     ダリノワ王は顔を真っ赤にし、立ち上がる。
    「貴様らがわしらに教えを垂れると? 馬鹿にしておるのか?」
    「教えるっちゅうても読み書き計算とか、そんなコドモ相手の話やありまへん。や、ウチらの文字や言葉くらいは教えな意思伝達がめんどくさいですから、ソコはある程度はしますけどもな、ソレよりもっと重要な知識がありますやろ?」
     そう返して、エリザは自分の左掌の上に、ぽん、と火を浮かべる。
    「ぬっ!? それは……」
    「そう、魔術ですわ。今までにも、帝国軍が魔術を使たっちゅう話はドコからも聞いてまへんし――そらまあ、魔術はウチら独自の知識、専売特許みたいなもんですからな――コレがあるのと無いのとでは、兵力が桁違いになりますやろな。
     ソレともこんなワケ分からんもんはいらへん、我々はあくまで素手で戦って勝つことが理想や、ソレが誇りなんやと言うんであれば、この条件は無しでも構いませんけども」
    「うぬぬぬ……」
     ダリノワ王はくる、と背を向け、すぐにもう一度、くる、と振り向き、座り直した。
    「誇りは確かにあるが、……しかし、現状でわしらが不利であることは十分に承知しておるつもりであるし、その不利を覆さぬ限り、綺麗事をべらべらと立て並べたとて、滑稽なだけだ。わしは実利を取る。是非教えを請いたい」
    「吾輩も右に同じである。誇りだ、理想だなどと言うものは、勝ってから定めれば良いのだ。それよりもまず我々が求めているのは、帝国に勝利できる力なのだ」
    「ご同意いただけて何よりですわ」
     その後も資金の提供や軍団の居留地、そして今後の戦略展開など数点を話し合い、三者同盟は正式に成立された。
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