「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・密議伝 2
神様たちの話、第219話。
救いの手か、操る糸か。
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2.
「不満です」
協議の内容を聞かされたハンは、エリザに不機嫌そうな目を向けた。
「ナニが気に入らんねんな? アンタいっつも眉間にぎゅーってシワ寄せて。そんなツラしとったら、早よ老けるで」
そう返しつつ、エリザはハンの眉間にちょんと指を置く。それをやんわりとながらも払い除け、ハンは口を開く。
「余計なお世話です。ともかくこの協議内容に関して、俺は異議を申し立てます」
「言うてみ」
「あからさまに不平等でしょう? この取り決めには糧食や資金、技術提供の条項はあっても、戦力および兵員の提供・貸与に関する条項が無いじゃないですか」
「せやな。そもそもが密約、対外的には秘密にするっちゅう話やからな。こっちがゾロゾロ登ってきて大々的に駐留しとったら帝国さんにバレてまうし。せやから人員の、正確に言うたら兵士さんの派遣はナシや」
「ええ、その理由については納得しています。しかし実質的に、これは向こうで何人犠牲になろうが、我々は一切手を貸さないと言うことでしょう? その代わりとなる、資金や物資の提供と言う約定は確かにありますが、これらは沿岸部で手に入れたカネやモノを渡しているだけで、我々の資産や身を切り詰めるようなものでは無いはずです。
結局この同盟は、我々のみが得をし、相手にのみ苦痛や労苦を課すようなものに思えてなりません。到底、公平な取引ではないでしょう」
「せやからある程度の補償が付くんやん。ご飯代もお勉強代もタダな上に、おカネまであげるんやで?」
「その条件だって、こちら側から押し付けたようなものでしょう? 何から何まで一方的なやり口じゃないですか。俺は納得できません」
頑なな態度を崩さないハンに、エリザも斜に構えたまま、やり返す。
「ほんなら納得行くよう、アンタが交渉に行くか? どないなるか、目に見えてるけど」
「うっ」
「四角四面で融通の利かん、強情っぱりのアンタが同じような性格のミェーチさんやダリノワさんとやいやい話したら、最後は3人取っ組み合いの大ゲンカになって終いやろな。協力どころか敵が増えるだけやな。そらぁ平和でよろしいわ」
「……反論できないのが情けないです」
憮然とした顔をし、ようやく口を閉じたハンに、エリザはニコニコと笑みを向ける。
「心配せんでも、悪いようにはせんて。アタシかて、向こうにただただ辛い思いばっかりさせるんはええ気分とちゃうからな。とりあえず今考えてるんは、向こうさんが安堵した後で落ち着いて生活始めたところで、きちんとした『取引』がでけるよう、手ぇ貸したろうかって感じやね」
「と言うと?」
「例えば沿岸部でもお野菜作ったり家畜さん育てたりしとるけど、西山間部はこっちの何倍も規模が大きいんよ。向こうの方が寒いし、育ちにくいんちゃうかと思っとったけど、どうも土の質やら何やら、色々あるみたいでな。ほんで向こうさんにその辺手掛けてもろて、でけたもん買い取ったら、ええ商売になりそうやなって」
「それじゃ結局、不利益を被らせるのも利益を与えられるのも、エリザさんの都合ってことでしょう? 向こうに自由行動の機会を与えないのは、隷属と一緒じゃないですか」
どうにか非難するも、これもまた、エリザには事も無げに返されてしまう。
「『例えば』っちゅうてるやんか。今のは一つの案や。向こうから『これしたい』て言い出さはったら、ソレはソレでアタシはきちんとお話するで。勿論、お話した上で、商売になるかどうかも相談させてもらうけどな」
「どうあってもエリザさんが絡んでくるんでしょう? ですからそれは結局、誘導して相手を縛り付けることだと言っているんです」
「ほんなら何や? ちょっとも絡まんと、勝手に相手に利益出させえっちゅうんか? そんなんでけるんやったら、ハナから同盟や援助やって話にならんやんか。『困ったコトあんねん』て悩んだはって、『おー大変やなーほな頑張りやー』って突き放したら、話が勝手に解決するんか? ソレで解決せえへんから手ぇ貸そか、貸してもらおか、相談しよかっちゅう話になるんやないんか?」
「いや、それは……」
「相談する以上、互いに相手の言うコト聞かんかったら、ソレこそ話にならんやろ? ほんなら話聞いたら、結局は多かれ少なかれ、影響されるっちゅうコトやんか。ソレが道理やろ? ソレともアンタは一言も言葉を交わさず、解決策を提示でけるっちゅうんか? どないやな?」
「それは……その……」
「自分の感情に任せて、理屈の通らん無茶を言うたらアカン。アンタもええ歳した大人やねんから、考えてモノ言いよし」
「うぐぐ……」
散々に言葉尻で小突き回され、ハンはそれ以上の抗議を諦めた。
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救いの手か、操る糸か。
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「不満です」
協議の内容を聞かされたハンは、エリザに不機嫌そうな目を向けた。
「ナニが気に入らんねんな? アンタいっつも眉間にぎゅーってシワ寄せて。そんなツラしとったら、早よ老けるで」
そう返しつつ、エリザはハンの眉間にちょんと指を置く。それをやんわりとながらも払い除け、ハンは口を開く。
「余計なお世話です。ともかくこの協議内容に関して、俺は異議を申し立てます」
「言うてみ」
「あからさまに不平等でしょう? この取り決めには糧食や資金、技術提供の条項はあっても、戦力および兵員の提供・貸与に関する条項が無いじゃないですか」
「せやな。そもそもが密約、対外的には秘密にするっちゅう話やからな。こっちがゾロゾロ登ってきて大々的に駐留しとったら帝国さんにバレてまうし。せやから人員の、正確に言うたら兵士さんの派遣はナシや」
「ええ、その理由については納得しています。しかし実質的に、これは向こうで何人犠牲になろうが、我々は一切手を貸さないと言うことでしょう? その代わりとなる、資金や物資の提供と言う約定は確かにありますが、これらは沿岸部で手に入れたカネやモノを渡しているだけで、我々の資産や身を切り詰めるようなものでは無いはずです。
結局この同盟は、我々のみが得をし、相手にのみ苦痛や労苦を課すようなものに思えてなりません。到底、公平な取引ではないでしょう」
「せやからある程度の補償が付くんやん。ご飯代もお勉強代もタダな上に、おカネまであげるんやで?」
「その条件だって、こちら側から押し付けたようなものでしょう? 何から何まで一方的なやり口じゃないですか。俺は納得できません」
頑なな態度を崩さないハンに、エリザも斜に構えたまま、やり返す。
「ほんなら納得行くよう、アンタが交渉に行くか? どないなるか、目に見えてるけど」
「うっ」
「四角四面で融通の利かん、強情っぱりのアンタが同じような性格のミェーチさんやダリノワさんとやいやい話したら、最後は3人取っ組み合いの大ゲンカになって終いやろな。協力どころか敵が増えるだけやな。そらぁ平和でよろしいわ」
「……反論できないのが情けないです」
憮然とした顔をし、ようやく口を閉じたハンに、エリザはニコニコと笑みを向ける。
「心配せんでも、悪いようにはせんて。アタシかて、向こうにただただ辛い思いばっかりさせるんはええ気分とちゃうからな。とりあえず今考えてるんは、向こうさんが安堵した後で落ち着いて生活始めたところで、きちんとした『取引』がでけるよう、手ぇ貸したろうかって感じやね」
「と言うと?」
「例えば沿岸部でもお野菜作ったり家畜さん育てたりしとるけど、西山間部はこっちの何倍も規模が大きいんよ。向こうの方が寒いし、育ちにくいんちゃうかと思っとったけど、どうも土の質やら何やら、色々あるみたいでな。ほんで向こうさんにその辺手掛けてもろて、でけたもん買い取ったら、ええ商売になりそうやなって」
「それじゃ結局、不利益を被らせるのも利益を与えられるのも、エリザさんの都合ってことでしょう? 向こうに自由行動の機会を与えないのは、隷属と一緒じゃないですか」
どうにか非難するも、これもまた、エリザには事も無げに返されてしまう。
「『例えば』っちゅうてるやんか。今のは一つの案や。向こうから『これしたい』て言い出さはったら、ソレはソレでアタシはきちんとお話するで。勿論、お話した上で、商売になるかどうかも相談させてもらうけどな」
「どうあってもエリザさんが絡んでくるんでしょう? ですからそれは結局、誘導して相手を縛り付けることだと言っているんです」
「ほんなら何や? ちょっとも絡まんと、勝手に相手に利益出させえっちゅうんか? そんなんでけるんやったら、ハナから同盟や援助やって話にならんやんか。『困ったコトあんねん』て悩んだはって、『おー大変やなーほな頑張りやー』って突き放したら、話が勝手に解決するんか? ソレで解決せえへんから手ぇ貸そか、貸してもらおか、相談しよかっちゅう話になるんやないんか?」
「いや、それは……」
「相談する以上、互いに相手の言うコト聞かんかったら、ソレこそ話にならんやろ? ほんなら話聞いたら、結局は多かれ少なかれ、影響されるっちゅうコトやんか。ソレが道理やろ? ソレともアンタは一言も言葉を交わさず、解決策を提示でけるっちゅうんか? どないやな?」
「それは……その……」
「自分の感情に任せて、理屈の通らん無茶を言うたらアカン。アンタもええ歳した大人やねんから、考えてモノ言いよし」
「うぐぐ……」
散々に言葉尻で小突き回され、ハンはそれ以上の抗議を諦めた。
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