「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・密議伝 3
神様たちの話、第220話。
愚痴吐く相伴。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
エリザにあしらわれたその晩、ハンはクーとともに夕食を取りながら、愚痴をこぼしていた。
「本当にあの人と来たら」
「まあまあ」
クーがなだめつつ、酒の入ったコップをハンに差し出すが、ハンは受け取らずに愚痴を続ける。
「結局、あの人は自分勝手なんだよ。自分の利益しか考えてないような人なんだ」
「わたくしは、そのようには存じません」
クーがかばうが、ハンは聞き入れようとしない。
「どこがだよ? いつも俺が苦労させられてるじゃないか」
「ではあなたは、シェロが風説を流布したあの事件について、エリザさんが何の苦労も苦心もされていないと? あなたの悪評を撤回・返上して下さったのは、一体どこのどなたなのかしら?」
指摘され、ハンは一転、ばつが悪そうな顔をする。
「……ん、ん。まあ、うん、それは確かにそうなんだが」
「でしょう? あなたがお考えになっている以上に、エリザさんはあなたのことを、いいえ、わたくしたちや他の皆さんのことを気にかけていらっしゃいます。
シェロのこともそうです。今回、エリザさんがわざわざ足を運び、シェロの元を訪ねましたけれど、この際に彼の名誉回復についてまでご説明差し上げたそうでしょう?」
「ああ、そう聞いてる」
「これが優しさでなくて、何だと仰るのです?
はっきり申せば、シェロ本人にその話をする必要性は、わたくしたちにはございません。既に隊を離れた彼がどのような艱難や辛苦に苛まれようと、最早関係が無いのですから。しかしエリザさんは、それを本人に伝えたのですよ? もし彼女が本当に利己的で、自分の利益と都合しか考えず、ただ周りに迷惑をかけるだけの存在であったならば、そんなことをなさるはずがございません。
そもそもエリザさんの優しさについては、あなたのお父様からもお伺いになっていたでしょう? これは決して、わたくし個人の勝手な思い込みなどではございませんわ」
「ああ、まあ、確かにそうだが、……うん?」
ハンはけげんな顔をし、クーに尋ねる。
「何故その話を知ってる? それは俺と親父が二人だけの時にした話のはずだが」
「あっ」
「……まさかとは思うが」
「い、いえ、そ、その」
「君はまさか、あの時……?」
「え、えーと……」
目をそらすクーの横に回り込み、ハンは詰問する。
「聞いてたんだな? そうか、『インビジブル』だな? 姿を消して、堂々と俺たちの前で盗み聞きしてたってわけか」
「あ、いえ、さようなつもりでは」
「何がさような、だよ? 自分に聞かされる予定の無い話を隠れて傍聴する行為が盗み聞きじゃなけりゃ、一体それは何だって言うんだ?」
「……も、申し訳ございません」
答えに窮し、クーは素直に頭を下げて謝った。
「はぁ……。いいよ、別に。聞かれて困るような話はしてないし、そもそも、するつもりも無かったからな。
だけどクー」
ハンはクーの肩に手をやり、きつい口調でたしなめた。
「次やったら、いくら君が相手でも、俺は本気で怒るぞ。君は俺のことを好き勝手にできる相手と見ているようだが、君がこんなはしたないことを繰り返すような子なら、俺は陛下のお膝元を離れてでも、君に二度と会わないようにするからな」
「はい……。本当に、反省しております。ごめんなさい、ハン」
もう一度ぺこっと頭を下げるとともに、クーは再度、コップを差し出した。
「お詫びの意味も込めて、一杯お飲みになって下さいまし。お注ぎいたしますから」
「ああ」
ハンはコップを受け取り、クーに酒を注いでもらう。
「さ、さ、どうぞ一献」
「まだ君は俺のことを侮っているみたいだが」
ハンは一杯になったコップを口元に持って行きつつ、こう続けた。
「俺が酒の1杯や2杯で前後不覚になって、これで説教を切り上げるだなんて思うなよ」
「ええ、重々承知しておりますわ」
「まったく……」
ハンは憮然とした顔で、ぐい、と酒をあおり――すとんと椅子に座り、そのまま仰向けになって眠ってしまった。
その寝顔を恐る恐る眺め、完全に寝入ったことを確認して、クーはぼそっとつぶやいた。
「……危ないところでしたわね。ハンのことですから、本当に負けん気を出して去りかねませんものね。今後は気を付けてお話しすることにいたしましょう」
@au_ringさんをフォロー
愚痴吐く相伴。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
エリザにあしらわれたその晩、ハンはクーとともに夕食を取りながら、愚痴をこぼしていた。
「本当にあの人と来たら」
「まあまあ」
クーがなだめつつ、酒の入ったコップをハンに差し出すが、ハンは受け取らずに愚痴を続ける。
「結局、あの人は自分勝手なんだよ。自分の利益しか考えてないような人なんだ」
「わたくしは、そのようには存じません」
クーがかばうが、ハンは聞き入れようとしない。
「どこがだよ? いつも俺が苦労させられてるじゃないか」
「ではあなたは、シェロが風説を流布したあの事件について、エリザさんが何の苦労も苦心もされていないと? あなたの悪評を撤回・返上して下さったのは、一体どこのどなたなのかしら?」
指摘され、ハンは一転、ばつが悪そうな顔をする。
「……ん、ん。まあ、うん、それは確かにそうなんだが」
「でしょう? あなたがお考えになっている以上に、エリザさんはあなたのことを、いいえ、わたくしたちや他の皆さんのことを気にかけていらっしゃいます。
シェロのこともそうです。今回、エリザさんがわざわざ足を運び、シェロの元を訪ねましたけれど、この際に彼の名誉回復についてまでご説明差し上げたそうでしょう?」
「ああ、そう聞いてる」
「これが優しさでなくて、何だと仰るのです?
はっきり申せば、シェロ本人にその話をする必要性は、わたくしたちにはございません。既に隊を離れた彼がどのような艱難や辛苦に苛まれようと、最早関係が無いのですから。しかしエリザさんは、それを本人に伝えたのですよ? もし彼女が本当に利己的で、自分の利益と都合しか考えず、ただ周りに迷惑をかけるだけの存在であったならば、そんなことをなさるはずがございません。
そもそもエリザさんの優しさについては、あなたのお父様からもお伺いになっていたでしょう? これは決して、わたくし個人の勝手な思い込みなどではございませんわ」
「ああ、まあ、確かにそうだが、……うん?」
ハンはけげんな顔をし、クーに尋ねる。
「何故その話を知ってる? それは俺と親父が二人だけの時にした話のはずだが」
「あっ」
「……まさかとは思うが」
「い、いえ、そ、その」
「君はまさか、あの時……?」
「え、えーと……」
目をそらすクーの横に回り込み、ハンは詰問する。
「聞いてたんだな? そうか、『インビジブル』だな? 姿を消して、堂々と俺たちの前で盗み聞きしてたってわけか」
「あ、いえ、さようなつもりでは」
「何がさような、だよ? 自分に聞かされる予定の無い話を隠れて傍聴する行為が盗み聞きじゃなけりゃ、一体それは何だって言うんだ?」
「……も、申し訳ございません」
答えに窮し、クーは素直に頭を下げて謝った。
「はぁ……。いいよ、別に。聞かれて困るような話はしてないし、そもそも、するつもりも無かったからな。
だけどクー」
ハンはクーの肩に手をやり、きつい口調でたしなめた。
「次やったら、いくら君が相手でも、俺は本気で怒るぞ。君は俺のことを好き勝手にできる相手と見ているようだが、君がこんなはしたないことを繰り返すような子なら、俺は陛下のお膝元を離れてでも、君に二度と会わないようにするからな」
「はい……。本当に、反省しております。ごめんなさい、ハン」
もう一度ぺこっと頭を下げるとともに、クーは再度、コップを差し出した。
「お詫びの意味も込めて、一杯お飲みになって下さいまし。お注ぎいたしますから」
「ああ」
ハンはコップを受け取り、クーに酒を注いでもらう。
「さ、さ、どうぞ一献」
「まだ君は俺のことを侮っているみたいだが」
ハンは一杯になったコップを口元に持って行きつつ、こう続けた。
「俺が酒の1杯や2杯で前後不覚になって、これで説教を切り上げるだなんて思うなよ」
「ええ、重々承知しておりますわ」
「まったく……」
ハンは憮然とした顔で、ぐい、と酒をあおり――すとんと椅子に座り、そのまま仰向けになって眠ってしまった。
その寝顔を恐る恐る眺め、完全に寝入ったことを確認して、クーはぼそっとつぶやいた。
「……危ないところでしたわね。ハンのことですから、本当に負けん気を出して去りかねませんものね。今後は気を付けてお話しすることにいたしましょう」
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~