「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・密議伝 5
神様たちの話、第222話。
欠員。
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5.
ビートたちを座らせ、クーとマリアは改めて、イサコの相談に乗ることにした。
「でも確かに、班編成って4人が基本ですもんね。もうかれこれ2ヶ月は1名抜けたままですし、尉官にしてはきっちりしてませんね」
「同意見である。……それに、何と言うか、なんだ」
イサコは遠慮がちに、こう続けた。
「呼称は『班』であるとはいえど、事実上は隊長および副隊長の側近であり、遠征隊全隊を統括・指揮する中枢だ。そこに籍を置くことができれば、軍における地位も相当なものと見なされよう」
「そーですかねぇ?」
首を傾げるマリアに対し、ビートはイサコに同意する。
「有り得る話です。事実、僕たちは陛下やシモン将軍、エリザ先生と言った実力者に会え、気さくに話ができる立場にありますし。それは即ち、彼ら権力者に対して直接意見を申し立てることができると言うことでもあります。
もしトロコフ尉官がこの班に入るとなったら、事実上、遠征隊の中で隊長や副隊長に次ぐ地位を獲得することになるでしょうね」
「い、いや、私はそこまでのことは……」
「ハンやエリザさんご本人に仰らず、こうして迂遠な尋ね方をされているのですから、その目論見を多少なりともお持ちなのでしょう?」
クーに看破され、イサコは顔を真っ赤にする。
「う、……そ、その、正直に言えば、ちらりと頭をよぎった。あわよくば、……と」
「実際、どーなんでしょうね? トロコフ尉官がこっちに来るってことになりますもんね、班に入るってなったら」
「さようですわね。そのようになれば、国際的な問題が発生いたしますわね」
「ふむ……」
クーの返答を聞いて、なんとなく浮かれていたように見えたイサコは一転、明らかに消沈した様子を見せる。
「確かに――事実上、その支配から逃れたとは言え――帝国の人間を配下とすれば、帝国からの印象は一層悪くなるだろう。タイムズ陛下やシモン尉官は友好的に関係を取ろうと考えているのだし、その線は無いか」
「トロコフ尉官には残念かと存じますが、恐らくは。そもそもハンのお心積もりとしても、あなた方を自分の部下として扱おうとはなさらないのではないでしょうか。対等な関係をとお考えのようですもの」
「なるほど。確かに班に入れば、それは下に付くと言うことでもあるな。……今更彼を上司と仰ぐ形になったとしても、それは私も、恐らくは彼も、居心地が悪いだろう」
イサコは気まずそうな顔で、クーたちに深々と頭を下げた。
「済まないが、今の話は聞かなかったと言うことにしてくれないか? これがシモン尉官やエリザ先生に知れれば、恥ずかしくて城にいたたまれない」
「ええ、承知しておりますわ。わたくしたちはただ、お茶をご一緒しただけです」
「恩に着る」
もう一度ぺこりと頭を下げ、イサコは恥ずかしそうに笑った。
と、ここでマリアが誰ともなしに尋ねる。
「でも――トロコフ尉官の話を蒸し返すつもりじゃないですけど――実際のところ、欠員補充ってするんですかね? ずっと空きっぱなしって言うのも、なんか不安ですし」
「補充されるおつもりでしょう。『規律上』、4名編成と定められておりますもの」
クーの言葉で、一同の顔に笑みが浮かぶ。
「違いない。彼は守る男だからな」
「ですよねー」
「守らないはず無いですね、絶対」
クー自身もクスクスと笑いながら、私見を述べた。
「恐らくは今、選定なさっている最中と存じますわ。トロコフ尉官が仰った通り、遠征隊の中でも重要な位置にございますもの。軽々な判断を避け、じっくり吟味されていらっしゃるのでしょう」
「うむ」
「あ、それなら聞いてみたらどーでしょ?」
と、マリアが手を挙げる。
「素直に聞いてみるのが一番早いかもですよ。トロコフ尉官も気にしないですよね、もう」
「ああ」
「じゃ、お茶終わったらみんなで聞きに行きましょー」
マリアの提案に、全員が賛成した。
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ビートたちを座らせ、クーとマリアは改めて、イサコの相談に乗ることにした。
「でも確かに、班編成って4人が基本ですもんね。もうかれこれ2ヶ月は1名抜けたままですし、尉官にしてはきっちりしてませんね」
「同意見である。……それに、何と言うか、なんだ」
イサコは遠慮がちに、こう続けた。
「呼称は『班』であるとはいえど、事実上は隊長および副隊長の側近であり、遠征隊全隊を統括・指揮する中枢だ。そこに籍を置くことができれば、軍における地位も相当なものと見なされよう」
「そーですかねぇ?」
首を傾げるマリアに対し、ビートはイサコに同意する。
「有り得る話です。事実、僕たちは陛下やシモン将軍、エリザ先生と言った実力者に会え、気さくに話ができる立場にありますし。それは即ち、彼ら権力者に対して直接意見を申し立てることができると言うことでもあります。
もしトロコフ尉官がこの班に入るとなったら、事実上、遠征隊の中で隊長や副隊長に次ぐ地位を獲得することになるでしょうね」
「い、いや、私はそこまでのことは……」
「ハンやエリザさんご本人に仰らず、こうして迂遠な尋ね方をされているのですから、その目論見を多少なりともお持ちなのでしょう?」
クーに看破され、イサコは顔を真っ赤にする。
「う、……そ、その、正直に言えば、ちらりと頭をよぎった。あわよくば、……と」
「実際、どーなんでしょうね? トロコフ尉官がこっちに来るってことになりますもんね、班に入るってなったら」
「さようですわね。そのようになれば、国際的な問題が発生いたしますわね」
「ふむ……」
クーの返答を聞いて、なんとなく浮かれていたように見えたイサコは一転、明らかに消沈した様子を見せる。
「確かに――事実上、その支配から逃れたとは言え――帝国の人間を配下とすれば、帝国からの印象は一層悪くなるだろう。タイムズ陛下やシモン尉官は友好的に関係を取ろうと考えているのだし、その線は無いか」
「トロコフ尉官には残念かと存じますが、恐らくは。そもそもハンのお心積もりとしても、あなた方を自分の部下として扱おうとはなさらないのではないでしょうか。対等な関係をとお考えのようですもの」
「なるほど。確かに班に入れば、それは下に付くと言うことでもあるな。……今更彼を上司と仰ぐ形になったとしても、それは私も、恐らくは彼も、居心地が悪いだろう」
イサコは気まずそうな顔で、クーたちに深々と頭を下げた。
「済まないが、今の話は聞かなかったと言うことにしてくれないか? これがシモン尉官やエリザ先生に知れれば、恥ずかしくて城にいたたまれない」
「ええ、承知しておりますわ。わたくしたちはただ、お茶をご一緒しただけです」
「恩に着る」
もう一度ぺこりと頭を下げ、イサコは恥ずかしそうに笑った。
と、ここでマリアが誰ともなしに尋ねる。
「でも――トロコフ尉官の話を蒸し返すつもりじゃないですけど――実際のところ、欠員補充ってするんですかね? ずっと空きっぱなしって言うのも、なんか不安ですし」
「補充されるおつもりでしょう。『規律上』、4名編成と定められておりますもの」
クーの言葉で、一同の顔に笑みが浮かぶ。
「違いない。彼は守る男だからな」
「ですよねー」
「守らないはず無いですね、絶対」
クー自身もクスクスと笑いながら、私見を述べた。
「恐らくは今、選定なさっている最中と存じますわ。トロコフ尉官が仰った通り、遠征隊の中でも重要な位置にございますもの。軽々な判断を避け、じっくり吟味されていらっしゃるのでしょう」
「うむ」
「あ、それなら聞いてみたらどーでしょ?」
と、マリアが手を挙げる。
「素直に聞いてみるのが一番早いかもですよ。トロコフ尉官も気にしないですよね、もう」
「ああ」
「じゃ、お茶終わったらみんなで聞きに行きましょー」
マリアの提案に、全員が賛成した。
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