「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・密議伝 6
神様たちの話、第223話。
雲上の不穏。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「その件は検討中だ。詳細が確定し次第、周知する」
マリアの予想通り、ハンはいつにも増して真っ青な顔をしながらも、質問に答えた。が、クーは納得しない。
「単に人員を補充するだけであるならともかく、この件はマリアとビートの職務に、密接に関わるものでしょう? 本人たちにも直前まで、全く何も知らせないと仰るのかしら」
「む……」
クーに詰め寄られ、ハンは黙り込む。その様子を見て、ビートが尋ねてくる。
「何か話せない事情がある、と言うことでしょうか?」
「端的に言えばそうだ。いや、正確に言うならば、話そうにもまとまった情報が無いんだ」
「情報が無い、と言うのは?」
「まず、現地における人事権は俺とエリザさんにあるが、班員補充の件は俺より上の人間が管轄している。そのため俺もエリザさんも、この件に関しては現状でまだ、何の情報も通達されていない」
「上層部から、班員補充はこの邦にいる人間から行わない、と通達があったと?」
尋ねたビートに、ハンは小さくうなずいて返す。
「そうだ。俺もエリザさんも、当初はその線で話を進めようとしていたんだが、陛下からこの件に関して、『こちらで人員を用意し、遠征隊の交代要員とともに派遣するつもりだ』と連絡があったんだ」
「お父様から?」
そう返したクーに、ハンが釘を刺す。
「一応言っておくが、クー。この件について陛下に質問しないでくれ」
「何故ですの?」
「陛下ご自身から、『この件は詳細がまとまるまで内密に進める』と仰られたからだ。君がこの件について聞けば、もう内密の話じゃなくなる。陛下の機嫌をわざわざ損ねさせるようなことはしてもらいたくないし、君だってしたくないだろう?」
「ええ、さようですわね。でも、普段のお父様らしからぬご様子ですわ」
納得する様子を見せず、クーが聞き返す。
「シェロの一件が関係しているのかしら?」
「その可能性は大いにある。シェロにされたように、次の班員も裏切ったり無許可離隊したりなんかしたら、陛下はより深く御心を傷められるだろうし、何より軍の規律に大きなヒビが入る」
「お父様やシモン将軍が直々にご指名なさった方が立て続けにそんな不調法をいたせば、面目が立ちませんものね」
「そうだ。それに、もしも裏切るだとかそんな行為を絶対に起こさないような人間だとしても、どうあれその人間は、『陛下直々のご指名』を受けるんだからな。人選は細心の注意を払ってしかるべきだろう」
「もし本当にさような思惑をお持ちなら、いっそハンにこちらで選出・指名させればよろしいのに」
クーの意見に、ハンは青い顔をしかめさせる。
「それもそれで角が立つだろう。ただでさえ、現地でなし崩し的に交戦したり独断専行があったりと、陛下の思惑や意向にそぐわない出来事が度々起こってるんだ。その最中に俺が、遠征隊やこっちの誰かの中から、新たに班員を補充したと報告すれば……」
「ますます独断専行が強まった、と疑われても仕方ございませんわね。となれば、この人事に関して異議申し立てなど、到底いたせませんわね」
「そう言うことだ。俺としても、この件に関してはこのまま待つしか手立ては無い」
「尉官は本当に、何にも知らされてないんですか?」
尋ねたマリアに、ハンは首を横に振る。
「全く、だ。選抜しているであろう人間の人数すら聞かされてない。恐らく俺のところには、結論だけ伝えられるんだろう。『この人物を班員にせよ』と」
「何と言うか……、強引な話ですね」
ビートのつぶやきに、クーが大きくうなずく。
「さようですわね。まったく、お父様らしくございませんわ。一体どうなさったのかしら」
「実は陛下からその通達があった後に、親父から極秘ってことで連絡が入ったんだが」
そう返しつつ、ハンは困った表情を浮かべた。
「どうやら陛下は、疑心暗鬼の傾向が強まってきているらしい。
1年半前、陛下がエリザさんのことを酷評されたことがあったが、あれもまだ、内々での話だったし、公然と非難されたわけじゃない。だが最近では――流石に名指しではないとのことだが――公の場でエリザさんや遠征隊、そして俺のことに関しても、それとなくながら非難するような発言が目立ち始めた、と」
「まあ!」
これを聞いて、クーが嘆く。
「ではお父様は、遠征隊の活動に反対していらっしゃるの?」
「現状ではまだそこまで言及されてはいないそうだが、多少なりともその思いはあるかも知れない。となれば、もしかしたらそう遠くない内に、遠征の中止が命じられる可能性もある。
これは再度、エリザさんにも厳重注意しようと思っていることだが――どうか皆、今後はより一層、勝手な行動を控えるように注意してほしい。これ以上陛下のご機嫌を損ね、本格的に反対されるようなことがあれば、俺たちの任務はそこで終わってしまう。折角築いたこの邦との関係も、そこで断ち切れてしまうだろう」
真剣な顔で周知するハンに、一同は黙ってうなずくしか無かった。
琥珀暁・密議伝 終
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雲上の不穏。
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「その件は検討中だ。詳細が確定し次第、周知する」
マリアの予想通り、ハンはいつにも増して真っ青な顔をしながらも、質問に答えた。が、クーは納得しない。
「単に人員を補充するだけであるならともかく、この件はマリアとビートの職務に、密接に関わるものでしょう? 本人たちにも直前まで、全く何も知らせないと仰るのかしら」
「む……」
クーに詰め寄られ、ハンは黙り込む。その様子を見て、ビートが尋ねてくる。
「何か話せない事情がある、と言うことでしょうか?」
「端的に言えばそうだ。いや、正確に言うならば、話そうにもまとまった情報が無いんだ」
「情報が無い、と言うのは?」
「まず、現地における人事権は俺とエリザさんにあるが、班員補充の件は俺より上の人間が管轄している。そのため俺もエリザさんも、この件に関しては現状でまだ、何の情報も通達されていない」
「上層部から、班員補充はこの邦にいる人間から行わない、と通達があったと?」
尋ねたビートに、ハンは小さくうなずいて返す。
「そうだ。俺もエリザさんも、当初はその線で話を進めようとしていたんだが、陛下からこの件に関して、『こちらで人員を用意し、遠征隊の交代要員とともに派遣するつもりだ』と連絡があったんだ」
「お父様から?」
そう返したクーに、ハンが釘を刺す。
「一応言っておくが、クー。この件について陛下に質問しないでくれ」
「何故ですの?」
「陛下ご自身から、『この件は詳細がまとまるまで内密に進める』と仰られたからだ。君がこの件について聞けば、もう内密の話じゃなくなる。陛下の機嫌をわざわざ損ねさせるようなことはしてもらいたくないし、君だってしたくないだろう?」
「ええ、さようですわね。でも、普段のお父様らしからぬご様子ですわ」
納得する様子を見せず、クーが聞き返す。
「シェロの一件が関係しているのかしら?」
「その可能性は大いにある。シェロにされたように、次の班員も裏切ったり無許可離隊したりなんかしたら、陛下はより深く御心を傷められるだろうし、何より軍の規律に大きなヒビが入る」
「お父様やシモン将軍が直々にご指名なさった方が立て続けにそんな不調法をいたせば、面目が立ちませんものね」
「そうだ。それに、もしも裏切るだとかそんな行為を絶対に起こさないような人間だとしても、どうあれその人間は、『陛下直々のご指名』を受けるんだからな。人選は細心の注意を払ってしかるべきだろう」
「もし本当にさような思惑をお持ちなら、いっそハンにこちらで選出・指名させればよろしいのに」
クーの意見に、ハンは青い顔をしかめさせる。
「それもそれで角が立つだろう。ただでさえ、現地でなし崩し的に交戦したり独断専行があったりと、陛下の思惑や意向にそぐわない出来事が度々起こってるんだ。その最中に俺が、遠征隊やこっちの誰かの中から、新たに班員を補充したと報告すれば……」
「ますます独断専行が強まった、と疑われても仕方ございませんわね。となれば、この人事に関して異議申し立てなど、到底いたせませんわね」
「そう言うことだ。俺としても、この件に関してはこのまま待つしか手立ては無い」
「尉官は本当に、何にも知らされてないんですか?」
尋ねたマリアに、ハンは首を横に振る。
「全く、だ。選抜しているであろう人間の人数すら聞かされてない。恐らく俺のところには、結論だけ伝えられるんだろう。『この人物を班員にせよ』と」
「何と言うか……、強引な話ですね」
ビートのつぶやきに、クーが大きくうなずく。
「さようですわね。まったく、お父様らしくございませんわ。一体どうなさったのかしら」
「実は陛下からその通達があった後に、親父から極秘ってことで連絡が入ったんだが」
そう返しつつ、ハンは困った表情を浮かべた。
「どうやら陛下は、疑心暗鬼の傾向が強まってきているらしい。
1年半前、陛下がエリザさんのことを酷評されたことがあったが、あれもまだ、内々での話だったし、公然と非難されたわけじゃない。だが最近では――流石に名指しではないとのことだが――公の場でエリザさんや遠征隊、そして俺のことに関しても、それとなくながら非難するような発言が目立ち始めた、と」
「まあ!」
これを聞いて、クーが嘆く。
「ではお父様は、遠征隊の活動に反対していらっしゃるの?」
「現状ではまだそこまで言及されてはいないそうだが、多少なりともその思いはあるかも知れない。となれば、もしかしたらそう遠くない内に、遠征の中止が命じられる可能性もある。
これは再度、エリザさんにも厳重注意しようと思っていることだが――どうか皆、今後はより一層、勝手な行動を控えるように注意してほしい。これ以上陛下のご機嫌を損ね、本格的に反対されるようなことがあれば、俺たちの任務はそこで終わってしまう。折角築いたこの邦との関係も、そこで断ち切れてしまうだろう」
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