「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・姫惑伝 1
神様たちの話、第224話。
クーのかんしゃく。
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1.
沿岸部が平定された直後、ゼロからの命令に伴い、遠征隊の半数が本土へ帰還することが許可された。そして同時に、交代および補充要員として、本土から兵士が送られることも決定されていた。
だが、決定してすぐに人員が送られてくる、とは行かなかった。何故なら――。
「わーぉ。カッチコチですねぇ」
「さようですわね」
北の邦唯一の不凍港と言われるグリーンプールでさえも凍りついてしまう厳寒期が到来し、港が使用不可能となっていたためである。
すっかり凍りつき、雪がこんもり乗った海を見下ろし、マリアがため息をつく。
「これじゃ、しばらく船動かせそうにないですねー」
「そのようですわね。港にあった船は全て、船渠(せんきょ)に収められたと伺っております。わたくしたちが乗ってきた船も、あちらに収まっているそうです」
そう言って、クーは港の端にある大きな建物を指し示す。
「でっかいですね」
「元は帝国沿岸方面軍が使用していた臨海基地だったそうですが、現在は王国が管理しているそうです。設備も王国のものより随分よろしいそうですよ」
「へぇ~」
それを聞いて、マリアは興味深そうな目を船渠へ向ける。
「覗いてみません?」
「ええ、よろしくてよ」
クーも二つ返事でうなずき、二人は船渠を訪ねることにした。
中に入ったところで、二人の目に巨大な影が映る。
「あ、陸に揚げてるんですねー」
遠征隊の船が陸揚げされ、船底の板が張り替えられているのを見て、マリアがうなる。
「うーん、海に浮かんでる時はそんなに思ってなかったですけど、こうして全体見てみると、やっぱでっかいんですねぇ」
「600人が一度に乗船していたのですもの。一つの村と同規模と考えれば……」
「あー、確かにそーですねぇ」
他愛もないことを話しながら近付こうとした二人を、作業員が止める。
「おい、危ないぞ!」
「あら、失礼いたしました」
「お前ら部外者だろ? 勝手に入って来るなよ」
つっけんどんに追い払おうとする作業員に、クーはつい、言い返してしまう。
「わたくし、視察に参りましたの。訪ねずにお邪魔したことは謝罪いたします。今からでも許可をいただけるかしら?」
「ああん? 何様だよ、お前? ちんちくりんが偉そうにしやがって」
「ち、ちんっ?」
作業員の暴言に、クーは顔を真っ赤にして怒り出す。
「あなた、わたくしをご存知無いのかしら?」
「知るか。とっとと出てけ、クソガキ」
「まあ!」
思わず、クーは魔杖を手にしかけたが――。
「ダメですって」
柄を握った右手を、マリアが押し止める。
「ごめんなさーい。すぐ出て行きますから。お邪魔しましたー」
マリアはクーの手を引いたまま、ぺこっと頭を下げ、くるりと踵を返して、そのまま立ち去った。
「何故ですの、マリア!?」
船渠を出たところで、クーは声を荒げてマリアに突っかかった。
「あんな無礼をされて、何故わたくしが謝って引き下がらなければならないのです!?」
「や、あたしたちの方が悪いじゃないですか、今のは」
「一体何が問題だと仰るのです!?」
「勝手に入って、勝手に危ないトコ近付いたら、いい人なら誰だって止めますよ?」
「あんな態度を執る人間のどこがいい人なのです!?」
「あのですね、クーちゃん」
マリアはぺちん、とクーの額に平手を置く。
「うにゃっ!? な、何をなさいますの!?」
「あっちっちですねぇ。アタマ冷やしましょ?」
「冷静ですわ!」
「ワガママ言いっぱなしの人を冷静沈着って言いませんよ。今日はもう帰りましょ?」
「こ、この無礼者……ッ」
頭の中が怒りで沸き立ち、クーは右手を挙げた。
「クーちゃん」
が、マリアはいつもどおりの様子で、その右手を両手で抑える。
「今日はもう、大人しく、お城に帰りましょう。これ以上騒いだら、尉官にもエリザさんにも迷惑かけますから」
「はっ、放しなさ……っ」
言いかけて、クーは言葉を詰まらせた。マリアがいつになく、真剣な目で自分を見つめていたからである。
「もう一度言いますよ。帰りましょう」
「……はい」
視線に射抜かれ、クーの怒りは一瞬で萎える。
素直に従い、クーとマリアはそのまま、無言で城へと戻った。
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クーのかんしゃく。
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沿岸部が平定された直後、ゼロからの命令に伴い、遠征隊の半数が本土へ帰還することが許可された。そして同時に、交代および補充要員として、本土から兵士が送られることも決定されていた。
だが、決定してすぐに人員が送られてくる、とは行かなかった。何故なら――。
「わーぉ。カッチコチですねぇ」
「さようですわね」
北の邦唯一の不凍港と言われるグリーンプールでさえも凍りついてしまう厳寒期が到来し、港が使用不可能となっていたためである。
すっかり凍りつき、雪がこんもり乗った海を見下ろし、マリアがため息をつく。
「これじゃ、しばらく船動かせそうにないですねー」
「そのようですわね。港にあった船は全て、船渠(せんきょ)に収められたと伺っております。わたくしたちが乗ってきた船も、あちらに収まっているそうです」
そう言って、クーは港の端にある大きな建物を指し示す。
「でっかいですね」
「元は帝国沿岸方面軍が使用していた臨海基地だったそうですが、現在は王国が管理しているそうです。設備も王国のものより随分よろしいそうですよ」
「へぇ~」
それを聞いて、マリアは興味深そうな目を船渠へ向ける。
「覗いてみません?」
「ええ、よろしくてよ」
クーも二つ返事でうなずき、二人は船渠を訪ねることにした。
中に入ったところで、二人の目に巨大な影が映る。
「あ、陸に揚げてるんですねー」
遠征隊の船が陸揚げされ、船底の板が張り替えられているのを見て、マリアがうなる。
「うーん、海に浮かんでる時はそんなに思ってなかったですけど、こうして全体見てみると、やっぱでっかいんですねぇ」
「600人が一度に乗船していたのですもの。一つの村と同規模と考えれば……」
「あー、確かにそーですねぇ」
他愛もないことを話しながら近付こうとした二人を、作業員が止める。
「おい、危ないぞ!」
「あら、失礼いたしました」
「お前ら部外者だろ? 勝手に入って来るなよ」
つっけんどんに追い払おうとする作業員に、クーはつい、言い返してしまう。
「わたくし、視察に参りましたの。訪ねずにお邪魔したことは謝罪いたします。今からでも許可をいただけるかしら?」
「ああん? 何様だよ、お前? ちんちくりんが偉そうにしやがって」
「ち、ちんっ?」
作業員の暴言に、クーは顔を真っ赤にして怒り出す。
「あなた、わたくしをご存知無いのかしら?」
「知るか。とっとと出てけ、クソガキ」
「まあ!」
思わず、クーは魔杖を手にしかけたが――。
「ダメですって」
柄を握った右手を、マリアが押し止める。
「ごめんなさーい。すぐ出て行きますから。お邪魔しましたー」
マリアはクーの手を引いたまま、ぺこっと頭を下げ、くるりと踵を返して、そのまま立ち去った。
「何故ですの、マリア!?」
船渠を出たところで、クーは声を荒げてマリアに突っかかった。
「あんな無礼をされて、何故わたくしが謝って引き下がらなければならないのです!?」
「や、あたしたちの方が悪いじゃないですか、今のは」
「一体何が問題だと仰るのです!?」
「勝手に入って、勝手に危ないトコ近付いたら、いい人なら誰だって止めますよ?」
「あんな態度を執る人間のどこがいい人なのです!?」
「あのですね、クーちゃん」
マリアはぺちん、とクーの額に平手を置く。
「うにゃっ!? な、何をなさいますの!?」
「あっちっちですねぇ。アタマ冷やしましょ?」
「冷静ですわ!」
「ワガママ言いっぱなしの人を冷静沈着って言いませんよ。今日はもう帰りましょ?」
「こ、この無礼者……ッ」
頭の中が怒りで沸き立ち、クーは右手を挙げた。
「クーちゃん」
が、マリアはいつもどおりの様子で、その右手を両手で抑える。
「今日はもう、大人しく、お城に帰りましょう。これ以上騒いだら、尉官にもエリザさんにも迷惑かけますから」
「はっ、放しなさ……っ」
言いかけて、クーは言葉を詰まらせた。マリアがいつになく、真剣な目で自分を見つめていたからである。
「もう一度言いますよ。帰りましょう」
「……はい」
視線に射抜かれ、クーの怒りは一瞬で萎える。
素直に従い、クーとマリアはそのまま、無言で城へと戻った。
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